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2回目の人生
第36話 記憶の告白
医者の元に担ぎ込まれたオデットは先ずは病衣に着替えをし、髪は布でグルグルにまかれてまるで本で見たターバンを巻いた異国人。
飲み込むことが拷問に近い苦い薬草を煎じた薬を飲み、先ず休む。そして休んで、ひたすら休む。
「くしゃみとか出るって解っていたら近寄ってはダメだろう?」
医者はそういうが、近寄ったわけではない。あれは不可抗力だろう。
ジークフリッドとは付き合いも7、8年なので幼い頃から「この草、苦手なの」と告げてはいたので知っているものだと思っていたが、思い込みだったようだ。
求婚は本気だったのかも知れない。
だから手ぶらではだめだと思って急遽河原で摘んできたのだろう。
これが墓地の近くなら彼岸花だっただろうし、時期が時期ならドクダミ草だったかも知れない。
野の花が嫌だという事ではないが、随分と安く見られていたのだなとオデットは溜息を吐いた。
「大丈夫か?かなり落ち着いたようだが…話せるか?」
医院の診察を兼ねたベッドで上半身だけを起こしたオデットの元にやってきたヴァルスがココアを淹れたカップを差し出した。
「ここに運んでくださったそうで‥‥ありがとうございます」
「良いんだよ。飲める?ココアは嫌いかな?」
差し出されるが、オデットはカップを持つヴァルスの手が怖くて仕方がない。
正直なところで、オデットは両親からも兄からも手を挙げられた事は一度もない。
なので、先ほど意識も朦朧とし始めた頃にジークフリッドに頭を張られたことで恐怖が蘇ってしまった。
「テーブルがあるといいんだが‥」
なかなかカップを受け取らないオデットにヴァルスは手にしたカップの置き場所を探した。
カップを置き、もう一度オデットの近くに来たヴァルスは髪にも花粉が付いていると思われるが、ここで洗髪は出来ないため応急に巻かれたターバン風の布の端が取れかかっている事に気が付き、手を伸ばした。
バッ!!
ヴァルスの手が近づいた途端にオデットは両手で頭を庇うようにして起こした上半身を伏せた。
「‥‥すまない‥髪を纏めた布が…取れそうになっていたんだ」
「‥‥」
オデットは返事を返さない。ただ、伏せた背中と肩は恐怖で小刻みに震えていた。ヴァルスは人が咄嗟に取る防御の姿勢。何故オデットがそうしてしまうのか。心当たりがあったが、同時にまさか?と少し困惑をした。
自分にはもう一度同じ時間を生きているという記憶がある。
頭がおかしいと言われると思い、誰にも言わなかったがもしかするとオデットにもあるのではないか。
そしてその記憶は自分の中にある記憶とリンクしているのではないかと感じた。
「あの…オデット嬢…」
「はい…すみません。失礼なことを…」
「良いんだ。気にしないでくれ。独り言だと思って聞いて欲しい事があるんだがいいかな?」
「何でしょう」
「誰にも言ったことがないんだが、私には今と同じ時間を過ごした記憶があるんだ」
そう言った瞬間にオデットの顔がヴァルスの中にある考えを肯定する表情になった。
言葉にするなら「貴方もか?」だろうか。
「その記憶があるからか、私は同じ時間を過ごす上で過ちは犯さないよう心掛けて来た。騎士にはなったけれど意味なく剣を振る事はしないし、この手で非力な者を屈服させる事もしていない。それが起こり得る未来を知る自分に出来る事だと考えたからだ」
「・・・・」
「そうしているのは、私は…記憶の中で君に言葉にすることが出来ない程に酷いことをした。最後は君に濡れ衣を着せ、処刑‥‥してしまったんだ」
オデットはまだ充血したままの目を真っすぐにヴァルスに向けて来た。
「知っている…いや同じ記憶があるのかな‥」
「‥‥はい」
小さく答えるオデットにヴァルスは「やはり」と思いながらも言いようのない感情がこみあげて来た。
「許して欲しいとは言えない。これは私が言いたいから言うだけだ。本当にすまなかった」
オデットは直ぐには返事を返せなかった。
どう答えていいのか解らない。
オデットもヴァルスと同じように一度過ごした時間をもう一度過ごしている。前回のヴァルスなら謝罪なんてしなかっただろう。
だが、今、目の前にいるヴァルスは何もしていないのだ。
ちょっと余計なお節介だったり、面倒だなと思う事はあったけれど記憶の中にあるヴァルスとは違う。
今、目の前で項垂れるヴァルスをオデットは責める事が出来なかった。
「謝らないでください。貴方は何もしていないもの。それに記憶の中にいる貴方に謝られても許そうとも思えないんです」
「困るよな…」
「えぇ、困ります。だとすればガッティネ公爵子息様はその記憶があるから婚約を申し入れて来たんですか?」
「そうだ。ただ…全てが同じだからではない。あの時…願ったんだ」
「あの時?何時です?」
「私が自死する時だ」
「自死っ?!なんでそんな事に?」
「色々とあってね。自分のしてきたことが返ってきただけだ。因果応報ってやつかな。一方的に虐げられる側になって初めて君にしてしまった事の非道さや重大さに気が付いた。だからもしも生まれ変われるのならこの命を生涯かけて君を守る事に使おうと決めたんだ」
「じゃぁずっと私の事は知っていたと?」
「知っていた。でも…姿を見たのはデヴュタントだ。残念な事にそれも前回と同じだけどね」
「うぇぇ…それで婚約を?」
「ち、違う!違わないけど違うんだ。なんていうか…嬉しかったんだ。君と父上が楽し気に話しているのを見て嬉しかった。今度は間違わない。君を守ると誓ってもう一度人生を生きているのなら結婚をして幸せだったと思えるようにしようと思ったし…気持ち悪いと思われるだろうが、13歳で以前の記憶がある事が解ってから君の事をずっと考えていて…好きになってしまっていたんだ」
「え…13歳で?3歳の子供を?それって…ロリ――」
「だから違うんだって!!」
ヴァルスはその点については全否定をした。
飲み込むことが拷問に近い苦い薬草を煎じた薬を飲み、先ず休む。そして休んで、ひたすら休む。
「くしゃみとか出るって解っていたら近寄ってはダメだろう?」
医者はそういうが、近寄ったわけではない。あれは不可抗力だろう。
ジークフリッドとは付き合いも7、8年なので幼い頃から「この草、苦手なの」と告げてはいたので知っているものだと思っていたが、思い込みだったようだ。
求婚は本気だったのかも知れない。
だから手ぶらではだめだと思って急遽河原で摘んできたのだろう。
これが墓地の近くなら彼岸花だっただろうし、時期が時期ならドクダミ草だったかも知れない。
野の花が嫌だという事ではないが、随分と安く見られていたのだなとオデットは溜息を吐いた。
「大丈夫か?かなり落ち着いたようだが…話せるか?」
医院の診察を兼ねたベッドで上半身だけを起こしたオデットの元にやってきたヴァルスがココアを淹れたカップを差し出した。
「ここに運んでくださったそうで‥‥ありがとうございます」
「良いんだよ。飲める?ココアは嫌いかな?」
差し出されるが、オデットはカップを持つヴァルスの手が怖くて仕方がない。
正直なところで、オデットは両親からも兄からも手を挙げられた事は一度もない。
なので、先ほど意識も朦朧とし始めた頃にジークフリッドに頭を張られたことで恐怖が蘇ってしまった。
「テーブルがあるといいんだが‥」
なかなかカップを受け取らないオデットにヴァルスは手にしたカップの置き場所を探した。
カップを置き、もう一度オデットの近くに来たヴァルスは髪にも花粉が付いていると思われるが、ここで洗髪は出来ないため応急に巻かれたターバン風の布の端が取れかかっている事に気が付き、手を伸ばした。
バッ!!
ヴァルスの手が近づいた途端にオデットは両手で頭を庇うようにして起こした上半身を伏せた。
「‥‥すまない‥髪を纏めた布が…取れそうになっていたんだ」
「‥‥」
オデットは返事を返さない。ただ、伏せた背中と肩は恐怖で小刻みに震えていた。ヴァルスは人が咄嗟に取る防御の姿勢。何故オデットがそうしてしまうのか。心当たりがあったが、同時にまさか?と少し困惑をした。
自分にはもう一度同じ時間を生きているという記憶がある。
頭がおかしいと言われると思い、誰にも言わなかったがもしかするとオデットにもあるのではないか。
そしてその記憶は自分の中にある記憶とリンクしているのではないかと感じた。
「あの…オデット嬢…」
「はい…すみません。失礼なことを…」
「良いんだ。気にしないでくれ。独り言だと思って聞いて欲しい事があるんだがいいかな?」
「何でしょう」
「誰にも言ったことがないんだが、私には今と同じ時間を過ごした記憶があるんだ」
そう言った瞬間にオデットの顔がヴァルスの中にある考えを肯定する表情になった。
言葉にするなら「貴方もか?」だろうか。
「その記憶があるからか、私は同じ時間を過ごす上で過ちは犯さないよう心掛けて来た。騎士にはなったけれど意味なく剣を振る事はしないし、この手で非力な者を屈服させる事もしていない。それが起こり得る未来を知る自分に出来る事だと考えたからだ」
「・・・・」
「そうしているのは、私は…記憶の中で君に言葉にすることが出来ない程に酷いことをした。最後は君に濡れ衣を着せ、処刑‥‥してしまったんだ」
オデットはまだ充血したままの目を真っすぐにヴァルスに向けて来た。
「知っている…いや同じ記憶があるのかな‥」
「‥‥はい」
小さく答えるオデットにヴァルスは「やはり」と思いながらも言いようのない感情がこみあげて来た。
「許して欲しいとは言えない。これは私が言いたいから言うだけだ。本当にすまなかった」
オデットは直ぐには返事を返せなかった。
どう答えていいのか解らない。
オデットもヴァルスと同じように一度過ごした時間をもう一度過ごしている。前回のヴァルスなら謝罪なんてしなかっただろう。
だが、今、目の前にいるヴァルスは何もしていないのだ。
ちょっと余計なお節介だったり、面倒だなと思う事はあったけれど記憶の中にあるヴァルスとは違う。
今、目の前で項垂れるヴァルスをオデットは責める事が出来なかった。
「謝らないでください。貴方は何もしていないもの。それに記憶の中にいる貴方に謝られても許そうとも思えないんです」
「困るよな…」
「えぇ、困ります。だとすればガッティネ公爵子息様はその記憶があるから婚約を申し入れて来たんですか?」
「そうだ。ただ…全てが同じだからではない。あの時…願ったんだ」
「あの時?何時です?」
「私が自死する時だ」
「自死っ?!なんでそんな事に?」
「色々とあってね。自分のしてきたことが返ってきただけだ。因果応報ってやつかな。一方的に虐げられる側になって初めて君にしてしまった事の非道さや重大さに気が付いた。だからもしも生まれ変われるのならこの命を生涯かけて君を守る事に使おうと決めたんだ」
「じゃぁずっと私の事は知っていたと?」
「知っていた。でも…姿を見たのはデヴュタントだ。残念な事にそれも前回と同じだけどね」
「うぇぇ…それで婚約を?」
「ち、違う!違わないけど違うんだ。なんていうか…嬉しかったんだ。君と父上が楽し気に話しているのを見て嬉しかった。今度は間違わない。君を守ると誓ってもう一度人生を生きているのなら結婚をして幸せだったと思えるようにしようと思ったし…気持ち悪いと思われるだろうが、13歳で以前の記憶がある事が解ってから君の事をずっと考えていて…好きになってしまっていたんだ」
「え…13歳で?3歳の子供を?それって…ロリ――」
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ヴァルスはその点については全否定をした。
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