2度もあなたには付き合えません

cyaru

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2回目の人生

第37話  婚約も結婚も無理

その後もヴァルスは「聞きたいことがあれば何でも聞いてくれ」とオデットに告げた。

今は無事に生きているとしても、両親や兄の事を問われれば包み隠さず記憶にある事を話すつもりでいた。

しかし、オデットは…。

「聞きたいことではなく、言いたいことがあります」と言う。

「何だろう。なんでも言ってくれ」

「私は…貴方が怖いです」

「…そうだろうな」

「今の貴方は違うかもと思っても、同じじゃないかと思う事もあるんです。自分の事じゃないので判断は出来ないし…。だから婚約も結婚も無理です」

「そうか。そしたらあの暴漢男と?そんな趣味はないと思うが…いや、知っている限りではあの男に騎士の職と男爵家を根回ししたのは前回の私だ。君の判断を尊重したい」

「嫌ですよ。私、ジークフリッドとも結婚なんかしません。あの男、前は男爵令嬢といた時に私に気が付いたのに無視したんです。今回だって…親子で私の事を都合よく使ってただけです。どうせ今日だって結婚を匂わせていましたけど、家が片付いていないから掃除しろとか、洗濯しろとか、料理作れとかそんな事を言いに来たんです。信じられます?人にやらせておいて作った料理は味が薄いとか言って調味料ドバドバかけるし、片付けたら何処にあるか解らないとか文句言うんですよ?足の踏み場もないくらいに物が散乱してるのに!」

「ふはっ。ごめん…アハハ…。そうか。だけど妬けるな」

「何がです?」

「私は君の手料理を食べたことがないけど、ヤツは食べた事がある。しまったな…さっき、騎士権限で斬っておけばよかったよ」

「そういうの、自制してるんじゃなかったんですか?」

「…そうだった。君の事になるとタガが外れてしまうんだ」

「さらっと怖い事言わないでください」

「自重しよう」


オデットの心の中に、目の前のヴァルスは悪くない。そんな思いも芽生えるが恐怖心だけはしっかりと根付いていてどうしようもない。

思いを寄せてくれるのは人間として嬉しいが、他の人には抱かない恐怖の感情をヴァルスに感じる以上、思いに応える事は出来ない。素直に告げるとヴァルスは「解った」と理解をしてくれた。


足元もふら付かないようになったので、医院を出る。

「私が払います…今はないけど…」

「いいんだよ。こういうのは甘えておけばいいんだ」

「でも後になって――」

「言わない。これは私が好きでする事だ。あとでこの件を引っ張り出す事もない。それに立て替えるだけだし」

「立て替える?」

「あぁ。ヤツは騎士団の隊舎で今頃可愛がられているはずだ。犯罪に巻き込まれた被害者の治療費などは加害者に請求出来るんだ。オデット嬢は可愛くて可憐で優しいから手心を加えるだろうが、私は容赦するつもりはないんでしっかり請求、回収してくるよ」


なら、いいのかな?と確かに加害者に被害者が治療費などを請求できると聞いたことはあったので、ヴァルスならジークフリッドからしっかり回収してくるだろう。

――なんでもお見通しなのかな――

そう思ったのはオデットだったらジークフリッドも「今は手持ちがない」と言われたらまた今度となるだろうし、それが続けば「もういいや」と疎遠になる事で諦めてしまいそうだった。

医院を出て、通りに出ると金貨を渡した女性が荷物の番をしていた。

「おーい!お兄さん!こっち、こっち!」

大きく手を振ってヴァルスを呼ぶ。

「番をしていてくれたんですか?」

「そりゃあんた、あんなにチップ貰ったら1週間でも待つわよ」

「ありがとうございます」

金貨1枚はマルネ子爵家の4人が飲まず食わずで1年働いても手に出来るものではない。
女性はただ声を掛けただけで1枚を手に入れた。荷物の番をするくらい造作もない。

ヴァルスは3つの木箱を軽々と抱える。

「気分が悪くなったら言ってくれ。休憩をしながら帰ろう」

「はい。だけど、木箱1つなら持てますよ?」

「大丈夫。たった3つだ。すこし前が見え難いから先導を頼むよ。それに両手が塞がっていたらオデット嬢も安心するだろう?」

「それはそうですけど…公爵家の方に持たせていると思うと気が気じゃないです」

「今はただのヴァルス。爵位は関係ないさ」

2人はゆっくりとマルネ子爵家に戻って行った。
到着をした時にはもう21時を過ぎていて、両親と兄は心配だったのだろう。商店街まで何往復かしたという。

無事に戻ってきた2人。アレグロはターバン風に頭に布を巻いたオデットを見て腹を抱えて笑い、オデットに思いっきり「笑うな!」と耳を引っ張られた。


「では、私はこれで」

「本当にありがとうございます。助かりました」

マルネ子爵家の4人に見送られてスワン号に跨ったヴァルスはポックリポックリとスワン号の蹄の音を聞きながら、「明日は王宮に行こう」と誰に言うともなく呟いた。
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