わたしの王子様

cyaru

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夫の最期

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驚きと恐怖でまともに答えられないレジーナに見せしめなのか第一王子は先ほど手を捩じりあげた侍女の胸を突き付けた剣で一突きする。

声もあげられず絶命する侍女を見てレジーナはその場で意識を飛ばした。

「こいつらを拘束しておけ。公爵も急ぎ登城するよう伝えろ」

護衛の騎士にそう言うと第一王子は執務室に向かわずクリスティナを閉じ込めた部屋に向かった。

3重になった重厚な扉を順に明け、最期の扉を開ける。
そこには静かな世界が広がっていた。

「クリスティナっ!」

第一王子は名を呼ぶが返事がない。
開かれた扉の灯りは部屋の奥までは届かず、後から来た兵士にランプを持ってくるように伝える。

「クリスティナッ!!」

二度めを呼ぶが返事はない。返事だけではなく気配がない事に王子の心臓は早鐘を打った。
そこに兵士がランプに灯を入れて持ってくる。
ランプで部屋を照らしながら進むと、ドレスの裾が床に広がっているのが明かりの先に見える。

「クリスティナっ」

第一王子はランプを放り投げるとドレスの裾の方に向かった。
横たわるクリスティナはまだほんのり温かい。だが、口から一筋流れる血液の跡を見て第一王子はクリスティナを抱きかかえて部屋を飛び出した。

元々白かった肌に既に血の気がなく、もう亡くなっているのが判るが認められない第一王子は慟哭した。
亡骸を横抱きにして自身の部屋まで歩く。

寝台にクリスティナを横たえると、優しく髪を整え、頬を撫でた。

「クリスティナ。目を開けろ、命令だ‥‥クリスティナ?」

時にきつく、時に優しくクリスティナに呼び掛けるが返答はない。
どんどん冷たくなっているクリスティナの手を握りしめ、自身の体温を分けるかのように肌を撫でる。

王宮の御殿医が来ると、御殿医は脈をとる事もなくクリスティナの死を第一王子に告げた。

第一王子の目はもう狂気しかなかったが、優しい声にレジーナは自分を選んでくれたとほくそ笑んだ。

「もぉ~痛かったんだから。お詫びにあの指輪が欲しいなぁ」

第一王子の瞳の中に狂気を見いだせないレジーナはいつものように腕に縋り甘える。
頬を殴られた事など忘れたかのように。

「レジーナ。何故クリスティナに手をかけたんだい」
「だって…いつもいつも薬を飲むんですもの」
「そんなに嫌だったのかな?」
「えぇ、公爵令嬢という身分もですが愛してくださるのはわたくしだけ。あんな女などもう必要ないでしょう?」
「愛していた‥‥と申すか」
「だって初夜から…あの女の絶望と言ったら…ウフフ」
「そうか」

第一王子はレジーナの顔を振り向かせると、口を開けろと告げる。
レジーナは何の疑いもなく口を開ける。
第一王子は視界の端に公爵が慌てて走ってくるのを確認すると、瓶を口の中に放り込み、殴りつけて口腔内で瓶を叩き割った。

「私が愛しているのはクリスティナただ一人だ。貴様は処理係にすぎぬ」

レジーナは瞬間驚いたが、毒により父である公爵が駆け寄る前に絶命をした。
その後、公爵家は王子妃殺害の容疑により取り潰しとなった。

☆~☆~☆~☆

クリスティナの葬儀は王子妃である事から王家が執り行うと国王は申し出たが、静かに怒る伯爵の強い要望で伯爵家が執り行った。

亡骸が伯爵家に運ばれてきた時、伯爵夫妻、2人の兄、その婚約者、そして使用人の中でもとりわけベスは人目もはばからず声をあげ泣いた。

何度も婚約を解消して欲しいと娘が言ったにもかかわらず、王子の反省の言葉と王からの謝罪を盾に娘を我慢させ、嫁がせてしまった伯爵夫妻の悲しみは深かった。

兄二人は第一王子を決して許さず、弔問も夫であるにも関わらず門前払いをした。
そして亡くなった時の状況から判断し、そのまま墓地に妹を葬れば掘り起こしそうな第一王子に悟られぬよう伯爵家の墓地では空の棺で葬儀を行い、後日家族だけで屋敷の中にて最後の別れをした後、変更した墓地に埋葬をした。
第一王子に悟られぬよう、家族は喪中であると夜会など全てを断り沈黙をした。

何も知らぬ第一王子は夜中、伯爵家の墓を掘り起こしクリスティナの亡骸を持ち去ろうとしたが開けた棺が空である事に絶望した。

城に戻り、クリスティナが嫁いできた時に持ってきたドレスや宝飾品を周りに置くと、喉を剣で突き自害をした。
胸には婚約者だった頃送られた第一王子を司る鷲が刺繍されたハンカチが入っていた。
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