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夫の愛妾
窓のない部屋は真っ暗だった。
少し歩けばテーブルだろうか、ソファだろうか。何かに足をぶつけてしまう。
手を前に出し、障害物がないかを確認してゆっくりと歩かねばならない。
小さな灯りか光でもあれば目が慣れるのかも知れないが、暗闇は目を閉じて一晩過ごしても暗闇でしかなかった。
ここでは本を読むことは出来ない。食事を与えられる時だけドアの下にある小窓が開いた。
その時だけうっすらと【明るさ】を感じたがおそらくはトレーを木の棒で押しているだろう。
寝転んでその小窓に腕を突っ込んでも出口には届かなかった。
途中には何枚も厚い緞帳のような布があった。徹底して明かりを抹殺されていたのである。
朝なのか夜なのか。それも判らない。食事も小さな灯りに気が付いた時にしか置かれた事すら気が付かない。
明かりが見えて小窓に行くと気が付かなかった食事のトレーが1,2食既にあった事もある。
当然クリスティナは痩せていく。
「このまま死んでもいいかな」
クリスティナは暗闇に1人置かれる事で少しだけ人間である事を実感していた。
そんなある日の事である。
暗闇の部屋に明かりいや、光が差し込んだ。
それは暗闇にずっといたクリスティナには眩しすぎて目が潰れるかと思うほどだった。
「こんなところで…まるで虫…ですわ」
その声は学園にいた頃から第一王子の寵愛を受け、初夜の寝所で夫となった第一王子と何度もつながった公爵令嬢のレジーナだった。
眩しい光に徐々に目が慣れてくると煌びやかなドレス、美しく纏め上げられた髪、胸元には大きな宝石を付けたレジーナがクリスティナの瞳に映った。
「一人ではお寂しいでしょう?それに満足にお食事もされておられないと聞きましたわ」
「いえ‥‥お構いなく…」
「いえいえ。これは隣国から取り寄せた栄養剤ですの。元気になってもらわねばなりませんから」
「そうですか…」
やっと一人になって自分は人間だったと思えて来た頃だったのに、また引き戻されるとクリスティナは力なく声を出す。
「お飲みになって」
「いえ、結構です…」
しかし、体力も落ち、腕力もないに等しいクリスティナはレジーナの侍女に押さえつけられて唇に瓶を押し付けられる。
頬を指で力強く抑えられると開けたくなくても口が開く。
瓶の中の液体はクリスティナの喉を通って体内に入っていった。
「うっ、グッ‥」
思わず喉と胸が締め付けられるような痛みを感じる。
胸を押さえて蹲るクリスティナにレジーナは微笑みながら言った。
「アンタが生きていると、何時まで経っても避妊薬付きなんだよ。さっさと死ねっ」
バタンと扉が閉まる音がした後は、いつもの暗闇だった。
クリスティナは苦しい息の中で、両親、2人の兄、その婚約者、そしてベスを思い浮かべた。
すぅーっと涙が一筋頬を伝った。
そのままクリスティナの心臓は鼓動を止めた。
王家に嫁いでたった半年。生を受けて18年の人生が閉じたのだった。
☆~☆~☆~☆
2週間に及ぶ隣国との貿易の調整に父である王の名代として出向いていた第一王子は王宮内を闊歩していた。
予定よりも2日早い帰国であった。
護衛の騎士と並んで王宮の文官たちが一枚、また一枚と歩く王子に書類を渡す。
執務室にも書類は山となって王子の帰りを待っている。
歩きながらも王子は軽微な資料に目を通しているのである。
その先に結婚後、何度も体を重ねた公爵令嬢のレジーナがカーテシーをしているのが目に入る。
「レジーナ。今帰った」
「お帰りなさいませ。ご無事で何よりでございます」
第一王子はレジーナの前を通り過ぎようとしたが、ふいに立ち止まった。
かすかにクリスティナの香りがしたのである。
「どうされましたの?」
第一王子はレジーナの問いには答えず、レジーナと侍女を見据えた。
(気のせいか‥‥いや、だが‥‥)
2週間も会えなかったのだからと自分に言い聞かせるようにして立ち去ろうとしたが、吹いてきた風にまたクリスティナの香りが第一王子の鼻腔を擽った。
(我が風下か‥‥)
第一王子はレジーナの侍女の一人に近づき、おもむろに侍女の手を掴み匂いを嗅いだ。
「で、殿下、何をなさるのです」
まさか侍女に気を魅かれたのではと慌てるレジーナの顔面を第一王子は力任せに張る。
そして掴みあげた侍女の手を今度は捩じりあげる。
「あぁぁっ!!痛いっ痛ぅございますっ!!」
「貴様…今まで何処にいた」
第一王子の問いに苦痛に表情を歪めながら侍女はレジーナを見る。
視線を確認した第一王子はその場で抜刀し、レジーナに剣を突き付けた。
「ひっヒィィィイっ!!殿下…何をなされます…」
「何処にいたのだ」
「こ、ここに‥‥ここに…」
「もう一度聞く。今まで何処にいた」
「あ、あの‥‥」
突然の恐怖にレジーナはその場に失禁をしてしまった。
少し歩けばテーブルだろうか、ソファだろうか。何かに足をぶつけてしまう。
手を前に出し、障害物がないかを確認してゆっくりと歩かねばならない。
小さな灯りか光でもあれば目が慣れるのかも知れないが、暗闇は目を閉じて一晩過ごしても暗闇でしかなかった。
ここでは本を読むことは出来ない。食事を与えられる時だけドアの下にある小窓が開いた。
その時だけうっすらと【明るさ】を感じたがおそらくはトレーを木の棒で押しているだろう。
寝転んでその小窓に腕を突っ込んでも出口には届かなかった。
途中には何枚も厚い緞帳のような布があった。徹底して明かりを抹殺されていたのである。
朝なのか夜なのか。それも判らない。食事も小さな灯りに気が付いた時にしか置かれた事すら気が付かない。
明かりが見えて小窓に行くと気が付かなかった食事のトレーが1,2食既にあった事もある。
当然クリスティナは痩せていく。
「このまま死んでもいいかな」
クリスティナは暗闇に1人置かれる事で少しだけ人間である事を実感していた。
そんなある日の事である。
暗闇の部屋に明かりいや、光が差し込んだ。
それは暗闇にずっといたクリスティナには眩しすぎて目が潰れるかと思うほどだった。
「こんなところで…まるで虫…ですわ」
その声は学園にいた頃から第一王子の寵愛を受け、初夜の寝所で夫となった第一王子と何度もつながった公爵令嬢のレジーナだった。
眩しい光に徐々に目が慣れてくると煌びやかなドレス、美しく纏め上げられた髪、胸元には大きな宝石を付けたレジーナがクリスティナの瞳に映った。
「一人ではお寂しいでしょう?それに満足にお食事もされておられないと聞きましたわ」
「いえ‥‥お構いなく…」
「いえいえ。これは隣国から取り寄せた栄養剤ですの。元気になってもらわねばなりませんから」
「そうですか…」
やっと一人になって自分は人間だったと思えて来た頃だったのに、また引き戻されるとクリスティナは力なく声を出す。
「お飲みになって」
「いえ、結構です…」
しかし、体力も落ち、腕力もないに等しいクリスティナはレジーナの侍女に押さえつけられて唇に瓶を押し付けられる。
頬を指で力強く抑えられると開けたくなくても口が開く。
瓶の中の液体はクリスティナの喉を通って体内に入っていった。
「うっ、グッ‥」
思わず喉と胸が締め付けられるような痛みを感じる。
胸を押さえて蹲るクリスティナにレジーナは微笑みながら言った。
「アンタが生きていると、何時まで経っても避妊薬付きなんだよ。さっさと死ねっ」
バタンと扉が閉まる音がした後は、いつもの暗闇だった。
クリスティナは苦しい息の中で、両親、2人の兄、その婚約者、そしてベスを思い浮かべた。
すぅーっと涙が一筋頬を伝った。
そのままクリスティナの心臓は鼓動を止めた。
王家に嫁いでたった半年。生を受けて18年の人生が閉じたのだった。
☆~☆~☆~☆
2週間に及ぶ隣国との貿易の調整に父である王の名代として出向いていた第一王子は王宮内を闊歩していた。
予定よりも2日早い帰国であった。
護衛の騎士と並んで王宮の文官たちが一枚、また一枚と歩く王子に書類を渡す。
執務室にも書類は山となって王子の帰りを待っている。
歩きながらも王子は軽微な資料に目を通しているのである。
その先に結婚後、何度も体を重ねた公爵令嬢のレジーナがカーテシーをしているのが目に入る。
「レジーナ。今帰った」
「お帰りなさいませ。ご無事で何よりでございます」
第一王子はレジーナの前を通り過ぎようとしたが、ふいに立ち止まった。
かすかにクリスティナの香りがしたのである。
「どうされましたの?」
第一王子はレジーナの問いには答えず、レジーナと侍女を見据えた。
(気のせいか‥‥いや、だが‥‥)
2週間も会えなかったのだからと自分に言い聞かせるようにして立ち去ろうとしたが、吹いてきた風にまたクリスティナの香りが第一王子の鼻腔を擽った。
(我が風下か‥‥)
第一王子はレジーナの侍女の一人に近づき、おもむろに侍女の手を掴み匂いを嗅いだ。
「で、殿下、何をなさるのです」
まさか侍女に気を魅かれたのではと慌てるレジーナの顔面を第一王子は力任せに張る。
そして掴みあげた侍女の手を今度は捩じりあげる。
「あぁぁっ!!痛いっ痛ぅございますっ!!」
「貴様…今まで何処にいた」
第一王子の問いに苦痛に表情を歪めながら侍女はレジーナを見る。
視線を確認した第一王子はその場で抜刀し、レジーナに剣を突き付けた。
「ひっヒィィィイっ!!殿下…何をなされます…」
「何処にいたのだ」
「こ、ここに‥‥ここに…」
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突然の恐怖にレジーナはその場に失禁をしてしまった。
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