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侯爵の提案①
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「か、彼は…死んでしまったという事なのですか」
思わずテーブル越しのドレーユ侯爵にシャロンは立ち上がり
食ってかかるように問う。
「まぁまぁ。まずは落ち着きなさい。さぁ、飲んで」
諫められたシャロンは着席をして、お茶をまた一口飲む。
「シャロン嬢、概念を棄ててください」
「可能かなぎり努力しますわ」
「お願いしますね。まず、妖精ですが生きているように見える。
と、言うのは妖精には生と死というものがないのです」
「死なない…という事ですか?」
「いいえ。妖精にはそういう物がないだけです。
生まれるのではなく、現れるものであり、
死ぬのではなく、見えなくなるだけと言えば理解をし易いでしょうか」
「では、シリウスはどういう事なのです?」
「彼、と言ったほうが判りやすいでしょうかね。
肉体、そして人間としてはもう彼は亡くなっています。
ですが、靄のようなゆらぎが見えませんでしたか?」
「はい、何か白っぽいような・・ものに包まれていた感じです」
「判りやすく言うと、それはサナギの状態だと思ってください」
「蝶などのサナギという事ですか?」
「えぇ。妖精が現れて、具現化をする過程だと」
「そんな・・シリウスの体はそんな事に使われてしまうの?!」
ドレーユ侯爵は、また足を組み替える。
お茶を淹れかえるよう伝えると、シャロンに微笑みかける。
めったに動かない表情筋を動かした侯爵は儚げに見える。
「おそらく一番の原因は、貴女です。そして子羊でしょう」
「わたくし?ですか。子羊とは?」
「えぇ、通常の人間なら、あの状態ではほぼ即死だったでしょう。
せいぜい生きていても5分も持たないほどのケガでした」
ドレーユ侯爵の説明では、背中から2カ所、
前から背に突き抜けるように1カ所の刺し傷があり、
川に落とされ、流された事で失血。
いずれかの刺し傷が致命傷だが、
どれなのか、わかない程、同時に受けた傷だと言った。
「ですが、当時の彼には貴女の加護があった」
「加護?わたくしの??いえ、お待ちください。わたくしに加護などは…」
「やはり気が付いておられないのですね。
貴女には、愛と死の女神であるフーレィリヤの加護があるのです。
そして貴女をいつも妖精が見守っている」
「妖精が?見守る?」
ドレーユ侯爵は今まで見たことがないような優しい目を向ける。
「新たな妖精が現れる時、通常は血縁者を介します。
よく、おばあ様は見守ってくれている・・など言いますよね。それです」
「守護霊のような感じ・・でしょうか?」
「おぉ。まさにそれですね。ピタリとピースがはまりました。
コホン。
通常なら彼の肉体が器となる事は先ずあり得ません。他人ですから。
ですが、今回、貴女から彼に無意識に伝わった加護に、
子羊の加護が混ざり合った・・加護の結合となったのですよ」
ーー器・・今のシリウスは器でしかないーー
愛したシリウスがそこに居ても、
それは入れ物だと笑われているような屈辱をシャロンは感じた。
思わずテーブル越しのドレーユ侯爵にシャロンは立ち上がり
食ってかかるように問う。
「まぁまぁ。まずは落ち着きなさい。さぁ、飲んで」
諫められたシャロンは着席をして、お茶をまた一口飲む。
「シャロン嬢、概念を棄ててください」
「可能かなぎり努力しますわ」
「お願いしますね。まず、妖精ですが生きているように見える。
と、言うのは妖精には生と死というものがないのです」
「死なない…という事ですか?」
「いいえ。妖精にはそういう物がないだけです。
生まれるのではなく、現れるものであり、
死ぬのではなく、見えなくなるだけと言えば理解をし易いでしょうか」
「では、シリウスはどういう事なのです?」
「彼、と言ったほうが判りやすいでしょうかね。
肉体、そして人間としてはもう彼は亡くなっています。
ですが、靄のようなゆらぎが見えませんでしたか?」
「はい、何か白っぽいような・・ものに包まれていた感じです」
「判りやすく言うと、それはサナギの状態だと思ってください」
「蝶などのサナギという事ですか?」
「えぇ。妖精が現れて、具現化をする過程だと」
「そんな・・シリウスの体はそんな事に使われてしまうの?!」
ドレーユ侯爵は、また足を組み替える。
お茶を淹れかえるよう伝えると、シャロンに微笑みかける。
めったに動かない表情筋を動かした侯爵は儚げに見える。
「おそらく一番の原因は、貴女です。そして子羊でしょう」
「わたくし?ですか。子羊とは?」
「えぇ、通常の人間なら、あの状態ではほぼ即死だったでしょう。
せいぜい生きていても5分も持たないほどのケガでした」
ドレーユ侯爵の説明では、背中から2カ所、
前から背に突き抜けるように1カ所の刺し傷があり、
川に落とされ、流された事で失血。
いずれかの刺し傷が致命傷だが、
どれなのか、わかない程、同時に受けた傷だと言った。
「ですが、当時の彼には貴女の加護があった」
「加護?わたくしの??いえ、お待ちください。わたくしに加護などは…」
「やはり気が付いておられないのですね。
貴女には、愛と死の女神であるフーレィリヤの加護があるのです。
そして貴女をいつも妖精が見守っている」
「妖精が?見守る?」
ドレーユ侯爵は今まで見たことがないような優しい目を向ける。
「新たな妖精が現れる時、通常は血縁者を介します。
よく、おばあ様は見守ってくれている・・など言いますよね。それです」
「守護霊のような感じ・・でしょうか?」
「おぉ。まさにそれですね。ピタリとピースがはまりました。
コホン。
通常なら彼の肉体が器となる事は先ずあり得ません。他人ですから。
ですが、今回、貴女から彼に無意識に伝わった加護に、
子羊の加護が混ざり合った・・加護の結合となったのですよ」
ーー器・・今のシリウスは器でしかないーー
愛したシリウスがそこに居ても、
それは入れ物だと笑われているような屈辱をシャロンは感じた。
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