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VOL.30 シェイラの訴え
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シェイラが目を覚ました時、聞こえてきたのはパチパチと暖炉の中で樹皮が弾ける音だった。
「まだ起き上がっちゃだめよ?」
声が聞こえてきて、横たわったまま首だけを向けるとそこには見知った女性によく似た人がいた。
――オリビア様?!――
そう思ったが、髪が短い。貴族令嬢で肩に届くかどうかの髪の長さの令嬢は1人としておらず、シェイラは「よく似た人もいるんだな」と感じたのだが…。
「ロゼッタ様はまだ寝てるの。先に湿布を交換するわね」
「やはり…オリビア様?オリビア様なのですか?」
「えぇ。シェイラ様。掛布を取りますよ」
「いけません!そんなことっ!」
「いいの。今は平民なの。シェイラ様の方が身分は上よ」
「いけません!!」
シェイラは起き上がろうとしたが、全身が痛くて起き上がれず顔を歪めた。
その時に腕が目に入り、着替えをさせてくれた事に気が付いた。
「ビショビショだったから着替えさせたわ。大丈夫。安心して」
シェイラとロゼッタは兎に角走った。夜明け前でうっすらと空が白みかける中、凍てついた道を足を前に出すことだけを考えて走って来た。
兵士に見つかる事はなかったけれど、休んでいる暇はない。
息は切れて、吸い込む冷気で喉の奥が切り刻まれるような痛みを感じても、手足の感覚が無くなっても走り続けた。傍から見ればよろよろと歩いているだけだったかも知れないが、2人は「走った」のだ。
途中で何度も転び、土手から2人とも転げ落ちた。
冷気よりも川の水の方が温かいと感じたが、川から出ると更なる寒さが2人を襲った。
どこをどう走って来たかも判らない。
道だって宮に入る前も自分で歩くのは屋敷か王宮か。街の中など馬車でしか通ったことがないので何処を自分が走っているのかも判らなかった。
「あの…オリビア様…」
「何?宮に連絡をすればいいの?」
「だ、ダメです!大事なことを!!お伝えすることがあるんです」
「何かしら」
「聞いてしまったんです。殿下は街に火を放とうとしています。信じられないかも知れませんがその事を伝えるためにロゼッタと共に宮を抜け出してきたんです」
声が途絶えると暖炉の中でまた薪が音を立てた。
シェイラはオリビアの腕を掴んで「信じて欲しい」と何度も訴えた。
「あんなことをした私ですから、信じられるわけがない。そう思われてもおかしくありません。反省したなんて言葉、謝罪をしてもそれで足りるはずのない事をしてしまいました。だけど!本当なんです。殿下はディチ子爵と手を組み、西地区と貧民窟に火を放とうとしています。焼け野原にして新しい街を作る都市計画なのだと!本当なんです」
「都市計画?」
「はい。聞いたんです。そうすれば…炊き出しなどもしなくていいし慈善事業も不要。更地になったら美術館などを建てればいいと!」
シェイラの必死さをオリビアは演技だとは思えなかった。
ただ、疑ってしまったのは体の痣。強い力で殴られたりした痕跡はレスモンドによるものだろうと思う。オリビアだってレスモンドに何度も殴られた。
痣の個所が自分も覚えがある場所に集中しているのだ。
ドレスなどを来た時に見えない場所。レスモンドはそういう場所を殴って来た。
同じところにシェイラもロゼッタも痣があった。
レスモンドの暴力が自分に向けられたことで逃げて来たのではないか。保護して貰うための口実ではないかと疑ったのだ。
――でも――
オリビアの知るシェイラとロゼッタは申し訳ないのだが、都市計画なんていうワードを知っている人間ではなかった。
だとしても、西地区と貧民窟のある北地区は議会でも何とかしたいと議題になっていて、強硬派がそこに住む者を追い出し公共施設を建てればいいと言っていたのは記憶にあった。
そして強硬派の中にディチ子爵家がいた事も記憶にあった。
公共工事は大きな金額が動く国家事業。少し絡んだだけで大きな利益が上げられる。
そう考えると、シェイラの言葉が単にレスモンドから逃げるための口実と決めつけるのは危険だと感じた。
「とにかく。今は傷を治すのが先よ。怪我をしている間は宮に連絡をしたりしないわ」
「そんなのはどうでもいいんです!殿下は陛下に!ディチ子爵から貰った書類を陛下に出したんです。時間がないんです。火を放たれたら沢山の人が犠牲になってしまいます!オリビア様!皆を逃がしてくださいぃぃぃ」
「書類?!まさか事業提案書のこと?議案書?」
「け…計画書って言ってたと記憶してます…違うんでしょうか」
「計画書と言ってたの?」
「は、はい。殿下はそれを陛下の従者が週に1度来るので渡したんです」
――シェイラは本当の事を言ってるんだわ――
オリビアは、「本当なんです」と起き上がろうとするシェイラに掛布を掛けた。
「判ったわ。信じる。だけど今は体を休めて。貴女の言葉を皆に伝えるわ」
「ありがとう…信じてくれて…オリビア様、ありがとう」
「泣くのは後。先に湿布を替えるわ。私も…打撲にはよく使ってたから効くわよ」
「っっ!!ごめんなさい…私‥」
涙に咽ぶシェイラはオリビアに何度も詫びた。
「まだ起き上がっちゃだめよ?」
声が聞こえてきて、横たわったまま首だけを向けるとそこには見知った女性によく似た人がいた。
――オリビア様?!――
そう思ったが、髪が短い。貴族令嬢で肩に届くかどうかの髪の長さの令嬢は1人としておらず、シェイラは「よく似た人もいるんだな」と感じたのだが…。
「ロゼッタ様はまだ寝てるの。先に湿布を交換するわね」
「やはり…オリビア様?オリビア様なのですか?」
「えぇ。シェイラ様。掛布を取りますよ」
「いけません!そんなことっ!」
「いいの。今は平民なの。シェイラ様の方が身分は上よ」
「いけません!!」
シェイラは起き上がろうとしたが、全身が痛くて起き上がれず顔を歪めた。
その時に腕が目に入り、着替えをさせてくれた事に気が付いた。
「ビショビショだったから着替えさせたわ。大丈夫。安心して」
シェイラとロゼッタは兎に角走った。夜明け前でうっすらと空が白みかける中、凍てついた道を足を前に出すことだけを考えて走って来た。
兵士に見つかる事はなかったけれど、休んでいる暇はない。
息は切れて、吸い込む冷気で喉の奥が切り刻まれるような痛みを感じても、手足の感覚が無くなっても走り続けた。傍から見ればよろよろと歩いているだけだったかも知れないが、2人は「走った」のだ。
途中で何度も転び、土手から2人とも転げ落ちた。
冷気よりも川の水の方が温かいと感じたが、川から出ると更なる寒さが2人を襲った。
どこをどう走って来たかも判らない。
道だって宮に入る前も自分で歩くのは屋敷か王宮か。街の中など馬車でしか通ったことがないので何処を自分が走っているのかも判らなかった。
「あの…オリビア様…」
「何?宮に連絡をすればいいの?」
「だ、ダメです!大事なことを!!お伝えすることがあるんです」
「何かしら」
「聞いてしまったんです。殿下は街に火を放とうとしています。信じられないかも知れませんがその事を伝えるためにロゼッタと共に宮を抜け出してきたんです」
声が途絶えると暖炉の中でまた薪が音を立てた。
シェイラはオリビアの腕を掴んで「信じて欲しい」と何度も訴えた。
「あんなことをした私ですから、信じられるわけがない。そう思われてもおかしくありません。反省したなんて言葉、謝罪をしてもそれで足りるはずのない事をしてしまいました。だけど!本当なんです。殿下はディチ子爵と手を組み、西地区と貧民窟に火を放とうとしています。焼け野原にして新しい街を作る都市計画なのだと!本当なんです」
「都市計画?」
「はい。聞いたんです。そうすれば…炊き出しなどもしなくていいし慈善事業も不要。更地になったら美術館などを建てればいいと!」
シェイラの必死さをオリビアは演技だとは思えなかった。
ただ、疑ってしまったのは体の痣。強い力で殴られたりした痕跡はレスモンドによるものだろうと思う。オリビアだってレスモンドに何度も殴られた。
痣の個所が自分も覚えがある場所に集中しているのだ。
ドレスなどを来た時に見えない場所。レスモンドはそういう場所を殴って来た。
同じところにシェイラもロゼッタも痣があった。
レスモンドの暴力が自分に向けられたことで逃げて来たのではないか。保護して貰うための口実ではないかと疑ったのだ。
――でも――
オリビアの知るシェイラとロゼッタは申し訳ないのだが、都市計画なんていうワードを知っている人間ではなかった。
だとしても、西地区と貧民窟のある北地区は議会でも何とかしたいと議題になっていて、強硬派がそこに住む者を追い出し公共施設を建てればいいと言っていたのは記憶にあった。
そして強硬派の中にディチ子爵家がいた事も記憶にあった。
公共工事は大きな金額が動く国家事業。少し絡んだだけで大きな利益が上げられる。
そう考えると、シェイラの言葉が単にレスモンドから逃げるための口実と決めつけるのは危険だと感じた。
「とにかく。今は傷を治すのが先よ。怪我をしている間は宮に連絡をしたりしないわ」
「そんなのはどうでもいいんです!殿下は陛下に!ディチ子爵から貰った書類を陛下に出したんです。時間がないんです。火を放たれたら沢山の人が犠牲になってしまいます!オリビア様!皆を逃がしてくださいぃぃぃ」
「書類?!まさか事業提案書のこと?議案書?」
「け…計画書って言ってたと記憶してます…違うんでしょうか」
「計画書と言ってたの?」
「は、はい。殿下はそれを陛下の従者が週に1度来るので渡したんです」
――シェイラは本当の事を言ってるんだわ――
オリビアは、「本当なんです」と起き上がろうとするシェイラに掛布を掛けた。
「判ったわ。信じる。だけど今は体を休めて。貴女の言葉を皆に伝えるわ」
「ありがとう…信じてくれて…オリビア様、ありがとう」
「泣くのは後。先に湿布を替えるわ。私も…打撲にはよく使ってたから効くわよ」
「っっ!!ごめんなさい…私‥」
涙に咽ぶシェイラはオリビアに何度も詫びた。
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