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VOL:4 タチアナの内職
結婚してもうすぐ5年。
5回目の記念日には近場にはなるけれど、旅行に行こう。
そう言ったランスロット。
だからタチアナはその日の為にと3勤1休のシフトを4勤1休としてもらって、働く日を増やした。働く日が増えれば給金も多くなる。
近場でと言っていたが、それならばせめて普段なら奮発しても利用しないような豪華な宿泊所でゆっくりするのも良いんじゃないか、そう思ったからだ。
義母のリンダが足を骨折してその貴重な休みを奪われる事にもなったのだが。
1人になった部屋の中を見回しタチアナはポロッと言葉が零れた。
「新居、探さなくっちゃ」
タチアナの雇い主であるブレスト公爵家で公爵夫人に話をすれば今ほど格安とはならないだろうが、市価よりは安く借りられる家は紹介してくれるだろう。なんせブレスト公爵家は王都にある賃貸住宅の6割を所有しているため不動産収益は国内1位だ。
女性が1人でも安全に住める区域にある家を紹介してもらおう。そう思った。
と、言うのもブレスト公爵家では住み込みの使用人もいるのだが、先月最後の空き部屋が埋まったのだ。夫婦用に敷地内には別棟で家屋があるが、1人で住むには広すぎる。
単身者用に屋敷の中にある小さな部屋で十分だ。
ランスロットと結婚する際に、「ゴリゴリの凝り固まった」考えしかない両親は大反対をした。タチアナの味方になってくれたのは長兄のエドワードくらい。
『二度とルルド伯爵家の門をくぐるな』最後の日まで父親から祝いの言葉はなく、追い出されるようにして伯爵家を出たのだ。
ランスロットはそれもあって、タチアナには後ろめたさがあったのかも知れない。
パンパン!! タチアナは自分の頬を手のひらで軽く打って喝を入れた。
「他の女がいいなんて言うゲス男の本心を見抜けなかった私が悪いの!」
よし!と気合を入れ直したタチアナだったか、その時、玄関の扉を誰かがノックした。
まさかランスロットが戻って来たのだろうか。
気合を入れたばかりなのにタチアナの心が揺れた。
――ごめんって言ったらどうしよう――
いやいや、それでもダメ。他の女の方が良くて【君なんか】とまで言われたのだから!
先ほどのランスロットの言葉を思い出すとやはりムカムカする。
タチアナは「何?」と不機嫌な声を出して扉を開けた。
扉が開くとそこには両手に満杯のソラマメを抱えた男性が1人。
タチアナに話しかけた。
「こんばんは。今日はこの時期最後なので傷物が多いんですがよろしくと…あれ?どうしました?」
即座にランスロットではなかった事に気が付き、タチアナは取り繕うような笑顔で片方の手からソラマメが溢れそうな袋を受け取った。
男性の名はショーン。身分は平民なので姓はない。
ブレスト公爵家の食材を調達する商家の息子で父親について修行中の32歳。
2歳の息子アベルの父親だが、妻は昨年男を作って逃げてしまいそれっきり。
ランスロットの実家に金銭的な支援をする為に、本業に支障がない内職を探していた時に仲買人でもあるショーンが家で出来る仕事を回してくれるようになった。
紫蘇の葉を大きさと枚数ごとに分けて袋詰めしたり、オクラやジャガイモ、ニンジンを発条計りで計って数個ごとに小分けにしたり。
今日、持って来てくれた仕事はソラマメの殻から中身を取り出す仕事だ。
両手の袋に目一杯さやに入ったソラマメ。料理をするのに使うのは中身だけなので取り出して「手間」の分だけ高値で買い取ってもらえる。
『買ってくれる人は中に何個入ってるか判らないから損を感じて欲しくない』というショーンの心遣いだ。
満杯の袋を2つ。中身を取り出しても1万リロには到底足らない。せいぜい2千リロだ。しかし、コツコツとこのような内職で1カ月2万リロにはなる。
本当は勤務日を増やした上に、休みの日は日給8千リロでショーンの店の行商を手伝うはずだった。義母リンダの介護の事を話すとショーンは『稼ぎは少ないけどやってみる?』と仕事を回してくれている。
――でも、これで最後ね――
ランスロットと離縁となる今、もうあくせくと働く必要はない。
元々公爵家の侍女をしているタチアナの給料はランスロットより少し多かった。ランスロットは実家に渡す分と家に入れる分のお金は【15万リロ】しか渡してくれていなかったのだ。
15万リロのうち10万リロは実家に渡るため、実質5万リロ。
その上で『ちょっと足らないんだ』と昼の弁当は持たせて節約をしていたが、同僚との飲みなどの金を1万×月に2、3回強請って来る。
つまりはランスロットがいないこれからの生活の方が楽だという事。
「ショーンさん。申し訳ないけど…次は出来ないと思うわ」
「え?そうですよね。安いですからね。かなり頑張ったんだけど」
ショーンがタチアナに対してかなり頑張った賃金を設定してくれているのはよく判る。
仕分けをしたり、豆をさやから出したりして少しだけ売価にその手間を上乗せしてもタチアナに支払う分を引けば今回のソラマメだって100リロも余らないだろう。
「損得抜きで仕事をくれていたのに…ごめんなさい」
「やっぱりこんな仕事・・・旦那さんは許してくれませんでしたか」
農作物を仕分けたりする内職をしている者は意外に多いが、家族から文句を言われる事も多い。どうしても「捨て」の部分になるヘタなども出るし、虫が実を食っている最中の果実もあったりする。
労力の割に賃金も安く、どちらかと言えば嫌われている仕事だ。
「仕事の内容じゃないわ。ふふっ。私ね、離縁するの。ここも出るからもう続けられないの」
次の住まいが何処になるかは今の時点では未定だが、仕事とは言え夜にこうやって農作物を部屋に運び入れるのをヨシとしないアパートメントの可能性もある。
良くしてくれているショーンにその時になって断りをいれるのは心苦しかったのだ。
ふと考えたショーンはタチアナに1つ提案をした。
5回目の記念日には近場にはなるけれど、旅行に行こう。
そう言ったランスロット。
だからタチアナはその日の為にと3勤1休のシフトを4勤1休としてもらって、働く日を増やした。働く日が増えれば給金も多くなる。
近場でと言っていたが、それならばせめて普段なら奮発しても利用しないような豪華な宿泊所でゆっくりするのも良いんじゃないか、そう思ったからだ。
義母のリンダが足を骨折してその貴重な休みを奪われる事にもなったのだが。
1人になった部屋の中を見回しタチアナはポロッと言葉が零れた。
「新居、探さなくっちゃ」
タチアナの雇い主であるブレスト公爵家で公爵夫人に話をすれば今ほど格安とはならないだろうが、市価よりは安く借りられる家は紹介してくれるだろう。なんせブレスト公爵家は王都にある賃貸住宅の6割を所有しているため不動産収益は国内1位だ。
女性が1人でも安全に住める区域にある家を紹介してもらおう。そう思った。
と、言うのもブレスト公爵家では住み込みの使用人もいるのだが、先月最後の空き部屋が埋まったのだ。夫婦用に敷地内には別棟で家屋があるが、1人で住むには広すぎる。
単身者用に屋敷の中にある小さな部屋で十分だ。
ランスロットと結婚する際に、「ゴリゴリの凝り固まった」考えしかない両親は大反対をした。タチアナの味方になってくれたのは長兄のエドワードくらい。
『二度とルルド伯爵家の門をくぐるな』最後の日まで父親から祝いの言葉はなく、追い出されるようにして伯爵家を出たのだ。
ランスロットはそれもあって、タチアナには後ろめたさがあったのかも知れない。
パンパン!! タチアナは自分の頬を手のひらで軽く打って喝を入れた。
「他の女がいいなんて言うゲス男の本心を見抜けなかった私が悪いの!」
よし!と気合を入れ直したタチアナだったか、その時、玄関の扉を誰かがノックした。
まさかランスロットが戻って来たのだろうか。
気合を入れたばかりなのにタチアナの心が揺れた。
――ごめんって言ったらどうしよう――
いやいや、それでもダメ。他の女の方が良くて【君なんか】とまで言われたのだから!
先ほどのランスロットの言葉を思い出すとやはりムカムカする。
タチアナは「何?」と不機嫌な声を出して扉を開けた。
扉が開くとそこには両手に満杯のソラマメを抱えた男性が1人。
タチアナに話しかけた。
「こんばんは。今日はこの時期最後なので傷物が多いんですがよろしくと…あれ?どうしました?」
即座にランスロットではなかった事に気が付き、タチアナは取り繕うような笑顔で片方の手からソラマメが溢れそうな袋を受け取った。
男性の名はショーン。身分は平民なので姓はない。
ブレスト公爵家の食材を調達する商家の息子で父親について修行中の32歳。
2歳の息子アベルの父親だが、妻は昨年男を作って逃げてしまいそれっきり。
ランスロットの実家に金銭的な支援をする為に、本業に支障がない内職を探していた時に仲買人でもあるショーンが家で出来る仕事を回してくれるようになった。
紫蘇の葉を大きさと枚数ごとに分けて袋詰めしたり、オクラやジャガイモ、ニンジンを発条計りで計って数個ごとに小分けにしたり。
今日、持って来てくれた仕事はソラマメの殻から中身を取り出す仕事だ。
両手の袋に目一杯さやに入ったソラマメ。料理をするのに使うのは中身だけなので取り出して「手間」の分だけ高値で買い取ってもらえる。
『買ってくれる人は中に何個入ってるか判らないから損を感じて欲しくない』というショーンの心遣いだ。
満杯の袋を2つ。中身を取り出しても1万リロには到底足らない。せいぜい2千リロだ。しかし、コツコツとこのような内職で1カ月2万リロにはなる。
本当は勤務日を増やした上に、休みの日は日給8千リロでショーンの店の行商を手伝うはずだった。義母リンダの介護の事を話すとショーンは『稼ぎは少ないけどやってみる?』と仕事を回してくれている。
――でも、これで最後ね――
ランスロットと離縁となる今、もうあくせくと働く必要はない。
元々公爵家の侍女をしているタチアナの給料はランスロットより少し多かった。ランスロットは実家に渡す分と家に入れる分のお金は【15万リロ】しか渡してくれていなかったのだ。
15万リロのうち10万リロは実家に渡るため、実質5万リロ。
その上で『ちょっと足らないんだ』と昼の弁当は持たせて節約をしていたが、同僚との飲みなどの金を1万×月に2、3回強請って来る。
つまりはランスロットがいないこれからの生活の方が楽だという事。
「ショーンさん。申し訳ないけど…次は出来ないと思うわ」
「え?そうですよね。安いですからね。かなり頑張ったんだけど」
ショーンがタチアナに対してかなり頑張った賃金を設定してくれているのはよく判る。
仕分けをしたり、豆をさやから出したりして少しだけ売価にその手間を上乗せしてもタチアナに支払う分を引けば今回のソラマメだって100リロも余らないだろう。
「損得抜きで仕事をくれていたのに…ごめんなさい」
「やっぱりこんな仕事・・・旦那さんは許してくれませんでしたか」
農作物を仕分けたりする内職をしている者は意外に多いが、家族から文句を言われる事も多い。どうしても「捨て」の部分になるヘタなども出るし、虫が実を食っている最中の果実もあったりする。
労力の割に賃金も安く、どちらかと言えば嫌われている仕事だ。
「仕事の内容じゃないわ。ふふっ。私ね、離縁するの。ここも出るからもう続けられないの」
次の住まいが何処になるかは今の時点では未定だが、仕事とは言え夜にこうやって農作物を部屋に運び入れるのをヨシとしないアパートメントの可能性もある。
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ふと考えたショーンはタチアナに1つ提案をした。
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