夫に「好きな人が出来たので離縁してくれ」と言われました。

cyaru

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VOL:5  ショーンの提案

「タチアナさんさえ良ければなんですけど」


離縁をする、家を出ると聞いたショーンは1つ提案をした。


「僕の家、あ、誤解はしないでくださいね。家と言っても敷地内にある別棟ですよ?公爵家の家族寮みたいな。そんなのだと思ってくださいね」

「え、えぇ…」

「住んでくれる従業員も暫くいなくて取り壊そうかって家屋があるんです。広さはこの部屋より少し狭いと感じるかも知れませんが、台所も不浄も湯殿もついてます。洗濯場だけは共同ですけどね。良ければそこに住みませんか?変な意味じゃなくてですね。本心を言うと数年のうちにアベルの講師をしてくれる人を探せって親父から言われてるんです」

「アベル君の?でもまだ2歳ですよね」

「今はいいんです。でもあと5年もすれば7歳。商家の跡取りともなるんで文字や算術を直ぐにどうしろという訳じゃなく、習う段階になって初めてというよりも、事前に触れあうって感じかな。そう言うのをしてくれる人を探してたんですけどがね。アハハ」


と言いながら手のひらを上に、親指と人差し指の先で輪っかを作る。
つまりは講師代がそれなりに。という事だ。


「今は住み込みも流行らないようで、空き部屋もそれなりにあるんですけど、母屋おもやの方で隣の部屋が男ってのは嫌でしょう?飯も1食250リロでみんなと一緒で気にならないなら食べられます。夜はないんですけど朝と昼は従業員用の食堂がありますんで」


それならば食費が大幅に削減できるし助かる。公爵家で仕事をする時は昼食はまかないで出るし、夕食も主である公爵夫妻に提供する分の他に突然の来客分も見越して作るので使用人が分けるのだ。

ずっと前にその時の肉料理(ローストビーフ)をランスロットの実家に持って行った事があって、ランスロットの姉と妹は以降「肉!肉!」と言うようになった。
姑のリンダも舅も余りの柔らかさに無言のまま、あっという間に食べきった事だった。

だが、1食でも250リロの出費で済めば食費が月、2万リロいや下手すると1万リロも掛からない。
タチアナにとってはこの先、独り身で過ごすのなら働けなくなってからの資金が必要になる。公爵家の侍女の仕事も亡くなるまで続けられる訳ではない。

――この先、頼りになるのはお金よね――

うーん。と考えているタチアナにショーンはたたみ掛けるように言う。

「週に2回、1回2時間のアベルの講師代で家賃、内職代で食堂の食費でどうです?」
「それはあまりにもこちらにとって都合が良すぎます!」
「そうですかね?タチアナさんは公爵夫人の侍女してますし、ご実家は伯爵家でしょう?こんな商売していると身元がちゃんとしてないと困る事も多いですし、内職もね、タチアナさん丁寧だから辞められるのも痛いんですよ。講師と内職をしてくれる人間を2人探すより手間も省けるじゃないですか」


人材探しに掛ける手間と時間を換算すれば元を取るのも暫くかかるだろう。
だが、直ぐに返事は出来ないとタチアナは今回のソラマメを引き受け、明日公爵家で家の事を相談してみた結果で良いかとショーンに尋ねた。

「いいですよ。一応・・・雨漏りはしてると思うんで補修だけしときます」
「そんな!悪いですよ。話が決まってからでも!」
「まぁ…大工の真似事も気晴らしになるんで俺の趣味みたいなものですから」


玄関を入って直ぐの場所にソラマメの袋を置き、中の実を入れる折りたたまれた麻袋を手渡すとショーンは帰って行った。


――捨てる神あれば拾う神ありって事かしら?――

そう思ったが、直ぐに違うと首を横にブンブン振ったタチアナ。

――神は神でも疫病神…ううん。疫病神も一緒にされちゃ気の毒よ――


いつもなら袋を床に置いて1つ1つ身を屈めて取り出す。
「ま、いっか」タチアナはランスロットが使っていた椅子の上に袋を持ち上げて置いた。そうする方が袋の口だけ傾ければ取りやすい。

26歳のタチアナだが、結構腰に来るのだ。

鞘を向き、中の実を取り出して袋に入れていく。
見る間に山になっていく空っぽのさや。

それはランスロットの愛のようにも見えてタチアナは笑いが零れた。


――中身のない愛をずっと囁かれていたなんて――


綺麗に剥ければ、空っぽのさやも中身があるように誤魔化せる。
そんな気持ちをずっとタチアナに向けて、中身は別の袋に貯まっていく実のように別の女性と愛を育んでいたなんて。とんだ裏切りだ。

段々とタチアナがソラマメを剥く指に力が入って来る。


「あんな義家族の面倒までみさせてっ!!」
「肉はないのかですって?!腹に脂身蓄えているでしょうがっ!!」
「片付けろですって?!全部ゴミじゃないのよ!!」
「痛い、痛いって!頭の中身が痛いのよ!」


最後のソラマメを剥いた時、タチアナはフーフー肩で息をしていたが気持ちがスッキリしていた。「音」とする事が出来なかったランスロットの家族について、誰に聞かせるわけでもないが「声」に出した事でランスロットへの気持ちもハッキリと切れた事が感じられた。

――悪態なんか誰が聞いても気持ちいいものじゃないし――


1人で吐き出し、1人でスッキリしたタチアナは空のソラマメ2つ分を1つにする為にギュウギュウに押し込み、「おりゃ!」っと行儀悪く足も使って押し込む。空のさやの入った袋の口を縛った後、部屋の片隅に目をやった。


「次はここよ!!」

そこにあったのはランスロットの私物。
タチアナの目には粗大ごみにしか見えなかった。
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