夫に「好きな人が出来たので離縁してくれ」と言われました。

cyaru

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VOL:6  ランスロット、初めての秘密

ランスロットの仕事は王宮にある配送課での資材管理も兼ねた文官。

文官職は初級、中級、上級とあり、上級の上は事務官となり技術分野の専門官職と共に国王や大臣を補佐する。

中級以上は学園の経理課などを卒業している者が多い。年齢が同じでも学歴や経歴でスタートから差がついていた。ランスロットはその中でも初級。基本3年勤めれば係長などに昇進をするのだがランスロットの同期は子爵家、男爵家の次男、三男が多く、準男爵家で学園にも通っていないランスロットはヒラのままだった。

初級でも役職手当が付けば、見合った基本給に上がるので家族を養っていける。ヒラのままのランスロットは妻のタチアナが公爵家で侍女をしているから生活が出来た。

共働きは高位貴族は別にして、珍しい事でも恥ずかしい事でもなかった。

だが、周りと違うのは周りは「子供」の事を考えて昇進できるよう学び、試験を受ける。そうしないと子供が生まれるという事は出費も多くなるし、何より出産時期になれば妻の稼ぎが無くなるのだ。

ランスロットが違っていたのは、ランスロットだけの給料ではタチアナが出産で働けない期間は食べる事さえ出来ない。そう思っていたから敢えて子供を作らなかった事である。


独身寮にいた時は、自分の稼ぎを自分が全て使ってしまっても誰も文句を言わなかった。寮の費用も食費も事前に天引きをされるので手元に残る分は「小遣い」だったのだ。


そんなランスロットだったが恋人も居らず、使うあてもなく経理課で毎月6、7万リロを積み立てていた。出世は人よりも遅いのは愚鈍である事を自覚して判っていた。

ランスロットがタチアナに出会ったのは26歳の時だ。

初めて女性に品物を贈る喜びを知った。タチアナは値段ではなくランスロットが選んでくれたからと何を贈っても喜んでくれて、ランスロットもそんなタチアナの笑顔を見て癒された。


タチアナの実家であるルルド伯爵は最後まで認めてくれなかったが、ランスロットはタチアナを幸せに出来るよう、浮気もせず、飲みにも行かず、毎日定時になればタチアナの待つ家に飛んで帰った。


同期が係長などから課長に昇進していく中、ランスロットにも昇進の話が来た。
係長への昇進試験には合格していたが、席が空いていなかったのだ。試験に合格したからと役職をつけていたら全員が役職になってしまう。

4年後輩が課長補佐に昇進し、ぽっかり空いた係長の席。
ランスロットは昇進したのだ。


喜んでその事をタチアナに知らせようとしたのだが、実家から連絡だと手紙を渡された。
母のリンダが骨折をしてしまったと書かれていた。

驚いたランスロットは実家に戻ったが、そこで「金銭的な援助」をして欲しいと言われ、姉や妹のように男である自分は満足な世話が出来ないだろうと月に10万リロを支援する事を決めた。

正直、懐は痛かったが昇進の話が決まったばかりで翌月からは手取りも増える。タチアナには言わねばならないとは思っていた。思ってはいたのだ。


『母さんが怪我をしてね。治るまで月に10万リロ支援して欲しいと言うんだ』
『そうなの。治療費も高いもの。仕方ないわね。でも大丈夫なの?ここにも入れてくれないと私一人じゃちょっと厳しい生活になっちゃうわ』


ランスロットの給料が手取りで16万リロ程しかないことはタチアナも知っている。
そこから家に5万、実家に10万となればランスロットは何も買えなくなってしまう事に心配をしていたのだ。

だが昇進で手取りが23万ほどになるランスロットは『え?余るんだけど?』と首を傾げた。
同時にほんの少し欲が出て昇進したと言えなかったのだ。


『僕の親だからね。仕方ないよ。でも、ごめんな。タチアナ』
『気にしないでいいわよ』
『お詫びではないけど結婚5年目まで残った金を貯めて近場になるけど旅行に行こうよ』
『旅行?気を使わなくていいわよ。5年目ともなればお義母様ももうよくなってるでしょうし、その頃には子供もいるかも知れないし』


タチアナの言葉に、ランスロットは『母さんが怪我をしなかったら子供もつくれたのか』そんな考えも浮かんだ。

係長に昇進したランスロットだが、タチアナに悪いと思いつつも『秘密』は給料のことだけだった。実家で母や姉妹がタチアナにキツく当たる事にも本気で怒り、「もう助けにも来ないし、金も出さない」と言い切った。

しかし結局は親である事は変わらず、泣きながら「ごめん」と謝って来る母親を切り捨てる事は出来なかった。


母親の怪我が良くなった時は金銭的な支援を初めて1年ほど経っていた。
その頃には「実家には毎月10万リロ」にも慣れていて、それがあるものだという感覚にもなっていた。


そして結婚3年目を過ぎた頃だった。
隔月に行われる課長への昇進試験に6度目の失敗をしたランスロットは、それなりに落ち込んでいた。

が、新卒が入って来る時期でもあり、ランスロットに初めて『直属』の部下が出来た。


豪商として有名なゴース男爵家の次女で学園を卒業したばかりのリリアが部下となった。そこからランスロットは妻のタチアナに言えない『秘密』を更に抱え込む事になるのだった。
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