夫に「好きな人が出来たので離縁してくれ」と言われました。

cyaru

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VOL:12 ヒト目ネコ科なブレスト公爵

タチアナとリゲルが出掛けた後、アレクシアは執事を呼んだ。

家令のロビンはタチアナに貸していた家に向かわせる私兵を選定し始めていた。


「忌々しいわね。下半身の緩い男も女も絶滅すればいいのに」


アレクシアが不貞とみなされる行為を毛嫌いするのも当然理由がある。
もう30年ほど前になるがアレクシアには苦々しい過去があった。

侯爵令嬢だったアレクシアは同じ爵位の侯爵子息と婚約をしていた。相手の家に嫁ぐために同じ爵位の侯爵家とは言え、家ごとの決まりもある。

「馴染んでもらわないと困るのよ」と義母となる女性の言葉に従って「本当にこんなの必要なの?」という「指導」を受けていた。

それだけならいいのだが、婚約者の子息は「愛情表現」だとアレクシアの髪や頬、手などに執拗に触れて来る男だった。触れると言うより、触れている手のひらで舐め回すと言っていいほどに。

だが、結局その子息は結婚式まであと2週間と言う時になって閨教育をしていた未亡人の1人と駆け落ちをした。その未亡人は婚約者の母親が雇い入れた者だったが、「教育」以上に溺れてしまった結果だった。

驚く事に閨教育に雇い入れた未亡人は12人もいて1日に2、3人の相手もしていた元婚約者。アレクシアとの茶会の前に事を済ませ、茶会が終わればまた事に及ぶ。

それを知った時、茶会で手渡たされた贈り物の箱を見て吐いた。
暫くは男性の手を見ると卒倒してしまったくらいだ。


アクレシアの家に莫大な「口止め料込」の慰謝料を支払う事になり、アレクシアの父親が現金一括を譲らなかったためにその侯爵家は一気に傾いた。

ブレスト公爵はアレクシアよりも7歳年下で、婚約が無くなった当時15歳。
「僕が結婚出来る年齢になるまで誰にも嫁がないで!」っと巡ってきたチャンスをつかみ取った。

アレクシアは思う。
もし、今の夫が自分と同じ年齢ならすぐさま新しい婚約者となり結婚までたどり着いただろう。今と同じく愛してくれるのは変わらないだろうが…。自分はどうだっただろう。

アレクシアの男性への嫌悪が消えるまでの時間は必要だった。

結局結婚出来る18歳を軽く通りこして8年の歳月を根気よく付き合って口説いてくれたブレスト公爵(当時子息)の愛と善意、そして無償の献身にアレクシアは結婚した。

アレクシア30歳、ブレスト公爵23歳の時のことだ。
それからは‥‥僅か5年のうちに双子1組を含んで3回の出産で4人の子供を授かった。勿論今もブレスト公爵が愛しているのはアレクシアのみ。娘も好きだが、妻への「愛」と娘への「愛」は甲乙つけ難いが似て非なると豪語する。


そんな過去を思い出しながらもタチアナの状況に憤慨するアレクシア。


「執事じゃなく、たまには僕を呼んでよ」


部屋にやって来たのはブレスト公爵だった。
何歳になっても愛しさは変わらない、いや、マシマシになる一方だとアレクシアをギュッと抱きしめて、昼間なのに髪の毛1本1本も愛しいと口付けをする。

――これはこれで、病的なのよね――

重すぎる愛も困りものだと思いつつ、年下の夫は可愛い。
髪を撫で返すと、喉を鳴らす猫のように気持ちよさそうに恍惚とする困った夫。


「シアの可愛がってるタチアナのことだよね?」
「そうなの。他に好きな人が出来たと離縁だなんて」
「突然のことなのかな?それとも関係がずっと続いていたとか?」
「どうかしら。でも許せないわ」
「シアが許ないのなら僕は許ない。シアのお気に入りを困らせるという事は、ひいては僕の命でもあるシアを困らせるという事だからね」


「でも困ったわね。タチアナはそれなりにお金を貯めているはず。あの子の性格だとそんな気がするの。浮気者は大抵見栄を張るから手持ちを撃ち尽くしているか、借金に手を出している。夫婦の財産だからとタチアナの私財に手を付ける事は許せないわ」

「あぁ、僕のシアがこんなに気を病んで。判った。タチアナの私財を守ればいいのかい?」

「えぇ、それでこれ以上タチアナの人生に関わるような事は遠慮してほしいと願うわ」

「まぁ、当事者には今の生活もご遠慮願うとするかなっ♡」


ソファに並んで座ったブレスト公爵はアレクシアの膝に頭を乗せて考える。


「いい方法があるよ」
「なぁに?」
「キスしてくれたら、僕の悪戯な口から言葉が飛び出すかも?」
「まぁ?塞いじゃうのに?」


仲が良いのは素晴らしい事だが、仕える使用人は居た堪れない。
可視化出来るなら公爵家の天井は使用人の反らせる視線で穴だらけだ。


「一体どうするの?タチアナが泣くのは嫌よ?」
「笑い泣きは除外してくれるかな?」


「先払い♡」っとアレクシアの唇から呼吸さえも吸い上げてしまう深くて長いキスを堪能したブレスト公爵はアレクシアに微笑んだ。

その目は喉を鳴らした猫ではなく獲物刺激に飢えた獰猛な虎のようだった。
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