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VOL:14 激昂するカインド公爵
休みなんか取るんじゃなかったとランスロットは独り言ちた。
と、言うのも。
きっちりとしたタチアナの事だから、「明日提出する」と言った離縁届も出されたはず。折角休みを3日取り、予定より早くリリアと過ごせると踏んだのに。
身軽になったその身でリリアの家に「婿養子」として入り込めば万事OK。
そう考えていたのに、あの宿屋のカジノでツキまくった反動なのか上手く行かない。
10時には到着したリリアの屋敷。
ゴース男爵家に言っても門の中には入れてくれないのだ。
屋敷の門が見える草むらに座り込んでリリアが出てくるのを待ったが、数台の馬車が入っていき数時間後に出て来ただけでリリアが出てくることはなかった。
昼にパンとか飲み物を買って、座り込むが豪商と呼ばれたゴース男爵家には似つかわしくない古びた馬車が何度か行き来するだけでやっぱりリリアは出て来なかった。
午後になっても目立った動きはない。
「ツイてないな」
そこで、ふと思いついた。
「そうだ。タチアナとはもう別れてるんだ。新しい嫁さんをそのうち連れて来るって家に知らせとくか」
今日は実家に泊まりリリアの素晴らしさを両親に語って聞かせ、休日の中日となる明日リリアを迎えに行く。休みの最終日は家族にも紹介が終わるのだからもう人の目を気にする事も無い。
幸いにもカジノで勝った手持ちもあって、辻馬車の往復代を引いても払わねばならない利息は残る。ランスロットは思い立ったが吉日と立ち上がり、辻馬車が集まる広場に急いだ。
☆~☆
タチアナがリゲルと共に最後の点検に出向いていた頃、ランスロットの父親フランクは次年度の作付けに必要な種苗の手続きと、思った以上に虫害と鳥害に見舞われた事から諸所の手続きの為に王宮に向かい、長い待ち時間を経て午後、用件を済ませた。
「では、来年も虫害などあればご報告ください」
「判りました。こちらこそまたよろしくお願いします」
席を立ったフランクだったが、話が終わるのを待ってカインド公爵家の従者が声を掛けた。
「フランクさん。少しお時間、よろしいですか?」
「え?…あぁこれはカインド公爵様の…仕事だけでなく、その節は息子の結婚見届人となって頂きありがとうございました」
挨拶もそこそこにフランクが案内をされたのは、王宮内にあるカインド公爵の執務室。王宮には年に数回やってくるが奥までは入った事がないフランクには目が潰れそうなほど煌びやかな庭に廊下。
キョロキョロしながらカインド公爵の待つ部屋に向かった。
朝、出仕して間もなくの頃、ブレスト公爵家の従者から知らされた事実にカインド公爵は血圧も怒りも急上昇の怒り心頭だった。仲を持ったランスロットとタチアナの離縁を聞かされたのだ。
2人の結婚に一番骨を折ったのはカインド公爵だと言っても過言ではない。
不出来だが真面目。一所懸命に取り組む姿勢しか評価は出来なかったが、文官職に求められるのは潔白である事と真面目である事。だからタチアナの父であるルルド伯爵が頑として許さなかった婚姻をさせてやるべく、爵位も下のルルド伯爵に頭を下げて婚姻を認めさせたのがカインド公爵だった。
不出来な部下でも部下は部下。
カインド公爵は手掛けている事業の1つにルルド伯爵を起用するなど便宜も図ったし、タチアナの兄であるリチャードと何度頭を下げたか判らない。
「離縁?しかも奴の不貞行為での?!」
信じられないと椅子に座ったと思えば立ち上がる。
「これじゃ、後ろ足で砂を!いや顔中に泥を塗りこまれたようなものだ!!」
すっかり面目を潰されたカインド公爵は鼻血を出すまでに激昂した。
すぐさま離縁届が出されているかを確認させ、配送課の課長職以上を招集した。
明らかに不適切と思われる部下への対応を聞くと同時に「羽振りが良かった」という過去形にも聞こえる声。
職権乱用だと思われて構わないと会計課に問い合わせ、ランスロットが預かり金を引き出し始めた頃がリリアの直属上司になった頃で、既に預かり金がない事も確認した。
万が一、課へ配分された金に手を付けていれば大事になると金融商会に問い合わせれば「個人的な貸し付けはしているがランスロットから課への金を引き出すように言われた事実はない」と複数の金融商会が回答をした。
横領がない事は確認をされたのだが、同時に金融商会からの返事はランスロットの借金がある事を認めた物。
短期間に集中して多額の借金をしていたとなれば、金融商会以外からも借りている事が疑われる。
あくまでも個人的な借金だとしてもランスロットは文官。
公務を行う文官が民間からホイホイと金を借りれば、それをネタに外部に出してはいけない事柄も漏れる可能性がある。そのために文官は家を建てたり、病気で多額の出費となる場合は会計課で無利子若しくは超低利子の貸し付けをしてもらえるし、公的に認められた金融商会でも貸し付けをしてもらえる。
金貸しと言われる民間からの借り入れは認められていない。
その上、公務を行う者の不貞行為も民衆からの税金が給与となる文官職など王宮職員には禁忌とされていてこちらもレッドカード。一発退場の懲戒解雇案件。
なのにランスロットは‥‥。
状況を突き合せた時、誰もが考えた答えは1つ。
女に貢ぐために借金をし、不貞相手と再婚するため妻に離縁を言い渡した
「ハァァーッ!」カインド公爵は頭を抱えた。
「ルルド伯爵に何と弁明すればいいんだ…」
懲戒解雇となれば当然何十年勤めあげていようと退職金などはない。
と、言う事はタチアナに支払う慰謝料も無いに等しい。
無理に無理を言って、道理を引っ込ませた挙句に、いわば「やられっ放し」で離縁されるタチアナの立場を知ったルルド伯爵の怒りは如何ほどか。
丁度ランスロットの父親フランクが次年度作付けの手続きに王宮へ来ると聞いたカインド公爵は、全ての用件をキャンセルし、指先が感覚を失うかと思うくらいデスクをトントン・・・トントン。
ガチャリと扉が開き、暢気に「ご無沙汰しております、その節は――」にこやかに挨拶をするフランクの声を遮り、カインド公爵の怒号が王宮の庭の木々の葉を揺らした。
「どうなってるんだ!!説明しろォォーッ!!」
ザザザー‥‥。
木の葉の擦れが収まってもカインド公爵の怒りは収まらなかった。
と、言うのも。
きっちりとしたタチアナの事だから、「明日提出する」と言った離縁届も出されたはず。折角休みを3日取り、予定より早くリリアと過ごせると踏んだのに。
身軽になったその身でリリアの家に「婿養子」として入り込めば万事OK。
そう考えていたのに、あの宿屋のカジノでツキまくった反動なのか上手く行かない。
10時には到着したリリアの屋敷。
ゴース男爵家に言っても門の中には入れてくれないのだ。
屋敷の門が見える草むらに座り込んでリリアが出てくるのを待ったが、数台の馬車が入っていき数時間後に出て来ただけでリリアが出てくることはなかった。
昼にパンとか飲み物を買って、座り込むが豪商と呼ばれたゴース男爵家には似つかわしくない古びた馬車が何度か行き来するだけでやっぱりリリアは出て来なかった。
午後になっても目立った動きはない。
「ツイてないな」
そこで、ふと思いついた。
「そうだ。タチアナとはもう別れてるんだ。新しい嫁さんをそのうち連れて来るって家に知らせとくか」
今日は実家に泊まりリリアの素晴らしさを両親に語って聞かせ、休日の中日となる明日リリアを迎えに行く。休みの最終日は家族にも紹介が終わるのだからもう人の目を気にする事も無い。
幸いにもカジノで勝った手持ちもあって、辻馬車の往復代を引いても払わねばならない利息は残る。ランスロットは思い立ったが吉日と立ち上がり、辻馬車が集まる広場に急いだ。
☆~☆
タチアナがリゲルと共に最後の点検に出向いていた頃、ランスロットの父親フランクは次年度の作付けに必要な種苗の手続きと、思った以上に虫害と鳥害に見舞われた事から諸所の手続きの為に王宮に向かい、長い待ち時間を経て午後、用件を済ませた。
「では、来年も虫害などあればご報告ください」
「判りました。こちらこそまたよろしくお願いします」
席を立ったフランクだったが、話が終わるのを待ってカインド公爵家の従者が声を掛けた。
「フランクさん。少しお時間、よろしいですか?」
「え?…あぁこれはカインド公爵様の…仕事だけでなく、その節は息子の結婚見届人となって頂きありがとうございました」
挨拶もそこそこにフランクが案内をされたのは、王宮内にあるカインド公爵の執務室。王宮には年に数回やってくるが奥までは入った事がないフランクには目が潰れそうなほど煌びやかな庭に廊下。
キョロキョロしながらカインド公爵の待つ部屋に向かった。
朝、出仕して間もなくの頃、ブレスト公爵家の従者から知らされた事実にカインド公爵は血圧も怒りも急上昇の怒り心頭だった。仲を持ったランスロットとタチアナの離縁を聞かされたのだ。
2人の結婚に一番骨を折ったのはカインド公爵だと言っても過言ではない。
不出来だが真面目。一所懸命に取り組む姿勢しか評価は出来なかったが、文官職に求められるのは潔白である事と真面目である事。だからタチアナの父であるルルド伯爵が頑として許さなかった婚姻をさせてやるべく、爵位も下のルルド伯爵に頭を下げて婚姻を認めさせたのがカインド公爵だった。
不出来な部下でも部下は部下。
カインド公爵は手掛けている事業の1つにルルド伯爵を起用するなど便宜も図ったし、タチアナの兄であるリチャードと何度頭を下げたか判らない。
「離縁?しかも奴の不貞行為での?!」
信じられないと椅子に座ったと思えば立ち上がる。
「これじゃ、後ろ足で砂を!いや顔中に泥を塗りこまれたようなものだ!!」
すっかり面目を潰されたカインド公爵は鼻血を出すまでに激昂した。
すぐさま離縁届が出されているかを確認させ、配送課の課長職以上を招集した。
明らかに不適切と思われる部下への対応を聞くと同時に「羽振りが良かった」という過去形にも聞こえる声。
職権乱用だと思われて構わないと会計課に問い合わせ、ランスロットが預かり金を引き出し始めた頃がリリアの直属上司になった頃で、既に預かり金がない事も確認した。
万が一、課へ配分された金に手を付けていれば大事になると金融商会に問い合わせれば「個人的な貸し付けはしているがランスロットから課への金を引き出すように言われた事実はない」と複数の金融商会が回答をした。
横領がない事は確認をされたのだが、同時に金融商会からの返事はランスロットの借金がある事を認めた物。
短期間に集中して多額の借金をしていたとなれば、金融商会以外からも借りている事が疑われる。
あくまでも個人的な借金だとしてもランスロットは文官。
公務を行う文官が民間からホイホイと金を借りれば、それをネタに外部に出してはいけない事柄も漏れる可能性がある。そのために文官は家を建てたり、病気で多額の出費となる場合は会計課で無利子若しくは超低利子の貸し付けをしてもらえるし、公的に認められた金融商会でも貸し付けをしてもらえる。
金貸しと言われる民間からの借り入れは認められていない。
その上、公務を行う者の不貞行為も民衆からの税金が給与となる文官職など王宮職員には禁忌とされていてこちらもレッドカード。一発退場の懲戒解雇案件。
なのにランスロットは‥‥。
状況を突き合せた時、誰もが考えた答えは1つ。
女に貢ぐために借金をし、不貞相手と再婚するため妻に離縁を言い渡した
「ハァァーッ!」カインド公爵は頭を抱えた。
「ルルド伯爵に何と弁明すればいいんだ…」
懲戒解雇となれば当然何十年勤めあげていようと退職金などはない。
と、言う事はタチアナに支払う慰謝料も無いに等しい。
無理に無理を言って、道理を引っ込ませた挙句に、いわば「やられっ放し」で離縁されるタチアナの立場を知ったルルド伯爵の怒りは如何ほどか。
丁度ランスロットの父親フランクが次年度作付けの手続きに王宮へ来ると聞いたカインド公爵は、全ての用件をキャンセルし、指先が感覚を失うかと思うくらいデスクをトントン・・・トントン。
ガチャリと扉が開き、暢気に「ご無沙汰しております、その節は――」にこやかに挨拶をするフランクの声を遮り、カインド公爵の怒号が王宮の庭の木々の葉を揺らした。
「どうなってるんだ!!説明しろォォーッ!!」
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