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第18話 喜劇のアリス
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「ねぇ。ステラ。歌劇を観に行かない?」
店にやって来たのは客ではなくコール侯爵家のアリス。
従業員に笑顔で「ごきげんよう」と声を掛けながら真っ直ぐにステラの元にやって来て観劇に行こうと誘う。
「申し訳ございませんが、暫くは仕事が立て込んでおりますので」
「えぇ~。アタシ、ステラと行きたいんだけどな~」
「聞こえませんでした?忙しいのです」
「留学生はそんな事しなくていいんだってば~」
揶揄うような口調のアリスにステラは「そんな事」と答えるにとどまった。
「ねぇねぇ?どうするの?行くの?行かないの?」
「参りません」
「そんな事言っていいの?他の子、誘っちゃうかもぉ」
「そうなさればよろしいのでは?アリス様なら皆さまご一緒なさるでしょう」
アリスは見た目は可愛い。男性の庇護欲を掻き立てるというのだろうか。
中身はかなり図々しく、そしてあざとい。
おそらく同性からは嫌われるタイプだろうとステラは読んでいた。
「今度夜会があるの。男爵家まで招待状が届いてるのよ?知ってる?」
「存じております」
「恥ずかしいとは思うけど、大勢の令嬢の中に埋もれれば誰も気にしないわ。会場では別行動すればいいんだし、アタシと一緒に入場させてあげる。ドレスも持ってないでしょう?貸してあげるわ。お古になっちゃうけど安心して?男爵家なんかじゃ買えない素材のドレスよ?自慢していいわ」
どこから突っ込んでいいのか判らないが、翻訳すれば・・・。
「野暮ったい留学生なんか誰も気にしないけど、キラキラした夜会に私と一緒に入場すればその時だけスポットライトがあたるわ。だって私のドレスを着てるんだもの」
とでも言いたいのだろう。
アリスが突然やって来たのにも意味があるとステラは読んだ。
留学生を受け入れた家には両国から支度金が支払われるのだが、実体のない預かりには当然支払われる事はない。帰国後に纏めて支払われる金額は経費を除いて1か月当たり300万ミィ。それが両国からなので600万ミィ。
半年となれば3600万ミィとなり、これらは非課税扱いで家の事業所得に含まれない。
その上、相手の家からは感謝の意を込めて取引が持ち込まれる。
書面で見る限りステラの家であるカルボス男爵家の領からはゴールドとシルバーが採掘をされているとあり、コール侯爵は「美味しいところ」だけを吸い取ろうと考えていた。
が、実績がないとそれは支払われない。実績を作るためにステラを色々な場所に連れ回す必要があるので父のコール侯爵に言われてやって来たのだろう。
ステラにはそれが滑稽に見えた。
身分を偽っているステラ。
相手国を騙しているのでは?と考える者もいるだろうが、昨年モーセット王国に来た第1王子も実際には存在しない架空の伯爵家を名乗っていた。
友好に基づく交換留学生制度と表向きの言葉は聞こえはいいが、国と国の情報戦の試験の場とも言える。
王族が紛れる理由は今のステラと同じく「見聞を広める」意味もあるし「武者修行」の意味もある。何故相手国が身分を隠して訪れているのか。そこを読むのも国としては当たり前。
モーセット王国は第1王子の事を「あ~この子ね」と留学に於いての情報が虚偽だと見抜いていたし、王妃の子である第2王子ではなく側妃の子の第1王子を送って来た事で、次の玉座を手にするのはどちらかおおよその見当をつけた。
モーセット王国にはカルボス男爵家もカルボス男爵領も実際は存在しない。
実際に存在をする家かどうかなど調べれば判る事だが、ステラはモーセット王国から来た。
留学に当たり万全の態勢でここに来ているので調べるにもコール侯爵家では限界があるだろう。
ありもしない領や家をさもあったかのように見せる、思わせるのも戦略の1つ。
ステラの身元を隠すために母親であるメリル夫人の生まれ故郷の村の名前を取っただけ。
カルボス村でゴールドもシルバーも取れないし、目立った産業もなく限界集落となって2年前に廃村になっている。
その事に未だに気がつかず、目先の支度金欲しさに観劇に誘うとはなんと滑稽なのだろう。まさに今、この場が喜劇の上演をしている舞台ではないかとクスっと小さく笑った。
なんせ国王ですら見破っていないのだから。まさに現在絶賛公演中の喜劇だ。
(最後まで暴かれなかったらチームにご褒美あげなきゃ)
ステラはアリスに微笑む。
「お引き取りくださいませ。遊びのお誘いは不要です。夜会は帰国する前に出席するよう手配をしておりますが、それまでは一介の留学生。期間中は1分1秒も無駄にしたくはありません」
「無駄っ?!信じられない‥‥貴女ね!この家がどんな汚い仕事をしてるか知ってそんな事を言ってるの?こき使われて学ぶものなんか何もないわよ?」
「業務の内容は説明を受けております。汚いかどうかは個人の主観ですのでお答えのしようが御座いませんが、そもそもでトレサリー家に厄介になれと指示されたのはコール侯爵です。貴女こそ何のためにこの留学制度があるのかを学ばれた方が宜しいのでは?」
「くっ!!恥をかいても助けてあげないんだから!あとで侯爵家に泣きついてこないでよ!」
「えぇ…肝に銘じて。そちら様もその言葉、お忘れなきよう」
「ひ、人が誘ってやってるのに!このアタシがわざわざこんな所まで来てやったのに!恩知らずの恥知らず!気分が悪いわ!帰ります」
「是非。お帰りはあちらですわ」
ステラは何食わぬ顔で入って来た扉を手で指し示すと顔を真っ赤にし憤慨したアリスが従業員に「開けなさいよ!」と怒鳴る。
「内開きですのでそこに立たれては扉を開けられません」
「なっ!何よ!アタシに意見する気?!」
アリスが出て行ったあと、従業員がステラに通ってくる。
突然やって来て、リヴァイヴァールの婚約者だからと「ドレスを頼め」「支払いをしておけ」と喚き散らして従業員たちを「コール侯爵家に逆らうのか」と脅す。
平民である従業員たちは黙るしかない。自分たちの一声でトレサリー家の事業が立ち行かなくなる危険性もあるので言い返したくても言い返せなかった。
「あんた、凄いね。あのご令嬢を追い返すなんて」
「業務の邪魔でしか御座いませんもの」
「俺たちも強く出られればいいんだけどな」
「それよりも坊ちゃんが気の毒だよ。あんな子を妻にしなきゃいけないなんてね」
「ホントそれ。気の毒――うわっ」
従業員たちもリヴァイヴァールを気遣う言葉を発するが、カランコロンとドアベルが鳴り、間一髪アリスとニアミスのリヴァイヴァールが見積もりから戻って来た事で自分の席に散っていった。
店にやって来たのは客ではなくコール侯爵家のアリス。
従業員に笑顔で「ごきげんよう」と声を掛けながら真っ直ぐにステラの元にやって来て観劇に行こうと誘う。
「申し訳ございませんが、暫くは仕事が立て込んでおりますので」
「えぇ~。アタシ、ステラと行きたいんだけどな~」
「聞こえませんでした?忙しいのです」
「留学生はそんな事しなくていいんだってば~」
揶揄うような口調のアリスにステラは「そんな事」と答えるにとどまった。
「ねぇねぇ?どうするの?行くの?行かないの?」
「参りません」
「そんな事言っていいの?他の子、誘っちゃうかもぉ」
「そうなさればよろしいのでは?アリス様なら皆さまご一緒なさるでしょう」
アリスは見た目は可愛い。男性の庇護欲を掻き立てるというのだろうか。
中身はかなり図々しく、そしてあざとい。
おそらく同性からは嫌われるタイプだろうとステラは読んでいた。
「今度夜会があるの。男爵家まで招待状が届いてるのよ?知ってる?」
「存じております」
「恥ずかしいとは思うけど、大勢の令嬢の中に埋もれれば誰も気にしないわ。会場では別行動すればいいんだし、アタシと一緒に入場させてあげる。ドレスも持ってないでしょう?貸してあげるわ。お古になっちゃうけど安心して?男爵家なんかじゃ買えない素材のドレスよ?自慢していいわ」
どこから突っ込んでいいのか判らないが、翻訳すれば・・・。
「野暮ったい留学生なんか誰も気にしないけど、キラキラした夜会に私と一緒に入場すればその時だけスポットライトがあたるわ。だって私のドレスを着てるんだもの」
とでも言いたいのだろう。
アリスが突然やって来たのにも意味があるとステラは読んだ。
留学生を受け入れた家には両国から支度金が支払われるのだが、実体のない預かりには当然支払われる事はない。帰国後に纏めて支払われる金額は経費を除いて1か月当たり300万ミィ。それが両国からなので600万ミィ。
半年となれば3600万ミィとなり、これらは非課税扱いで家の事業所得に含まれない。
その上、相手の家からは感謝の意を込めて取引が持ち込まれる。
書面で見る限りステラの家であるカルボス男爵家の領からはゴールドとシルバーが採掘をされているとあり、コール侯爵は「美味しいところ」だけを吸い取ろうと考えていた。
が、実績がないとそれは支払われない。実績を作るためにステラを色々な場所に連れ回す必要があるので父のコール侯爵に言われてやって来たのだろう。
ステラにはそれが滑稽に見えた。
身分を偽っているステラ。
相手国を騙しているのでは?と考える者もいるだろうが、昨年モーセット王国に来た第1王子も実際には存在しない架空の伯爵家を名乗っていた。
友好に基づく交換留学生制度と表向きの言葉は聞こえはいいが、国と国の情報戦の試験の場とも言える。
王族が紛れる理由は今のステラと同じく「見聞を広める」意味もあるし「武者修行」の意味もある。何故相手国が身分を隠して訪れているのか。そこを読むのも国としては当たり前。
モーセット王国は第1王子の事を「あ~この子ね」と留学に於いての情報が虚偽だと見抜いていたし、王妃の子である第2王子ではなく側妃の子の第1王子を送って来た事で、次の玉座を手にするのはどちらかおおよその見当をつけた。
モーセット王国にはカルボス男爵家もカルボス男爵領も実際は存在しない。
実際に存在をする家かどうかなど調べれば判る事だが、ステラはモーセット王国から来た。
留学に当たり万全の態勢でここに来ているので調べるにもコール侯爵家では限界があるだろう。
ありもしない領や家をさもあったかのように見せる、思わせるのも戦略の1つ。
ステラの身元を隠すために母親であるメリル夫人の生まれ故郷の村の名前を取っただけ。
カルボス村でゴールドもシルバーも取れないし、目立った産業もなく限界集落となって2年前に廃村になっている。
その事に未だに気がつかず、目先の支度金欲しさに観劇に誘うとはなんと滑稽なのだろう。まさに今、この場が喜劇の上演をしている舞台ではないかとクスっと小さく笑った。
なんせ国王ですら見破っていないのだから。まさに現在絶賛公演中の喜劇だ。
(最後まで暴かれなかったらチームにご褒美あげなきゃ)
ステラはアリスに微笑む。
「お引き取りくださいませ。遊びのお誘いは不要です。夜会は帰国する前に出席するよう手配をしておりますが、それまでは一介の留学生。期間中は1分1秒も無駄にしたくはありません」
「無駄っ?!信じられない‥‥貴女ね!この家がどんな汚い仕事をしてるか知ってそんな事を言ってるの?こき使われて学ぶものなんか何もないわよ?」
「業務の内容は説明を受けております。汚いかどうかは個人の主観ですのでお答えのしようが御座いませんが、そもそもでトレサリー家に厄介になれと指示されたのはコール侯爵です。貴女こそ何のためにこの留学制度があるのかを学ばれた方が宜しいのでは?」
「くっ!!恥をかいても助けてあげないんだから!あとで侯爵家に泣きついてこないでよ!」
「えぇ…肝に銘じて。そちら様もその言葉、お忘れなきよう」
「ひ、人が誘ってやってるのに!このアタシがわざわざこんな所まで来てやったのに!恩知らずの恥知らず!気分が悪いわ!帰ります」
「是非。お帰りはあちらですわ」
ステラは何食わぬ顔で入って来た扉を手で指し示すと顔を真っ赤にし憤慨したアリスが従業員に「開けなさいよ!」と怒鳴る。
「内開きですのでそこに立たれては扉を開けられません」
「なっ!何よ!アタシに意見する気?!」
アリスが出て行ったあと、従業員がステラに通ってくる。
突然やって来て、リヴァイヴァールの婚約者だからと「ドレスを頼め」「支払いをしておけ」と喚き散らして従業員たちを「コール侯爵家に逆らうのか」と脅す。
平民である従業員たちは黙るしかない。自分たちの一声でトレサリー家の事業が立ち行かなくなる危険性もあるので言い返したくても言い返せなかった。
「あんた、凄いね。あのご令嬢を追い返すなんて」
「業務の邪魔でしか御座いませんもの」
「俺たちも強く出られればいいんだけどな」
「それよりも坊ちゃんが気の毒だよ。あんな子を妻にしなきゃいけないなんてね」
「ホントそれ。気の毒――うわっ」
従業員たちもリヴァイヴァールを気遣う言葉を発するが、カランコロンとドアベルが鳴り、間一髪アリスとニアミスのリヴァイヴァールが見積もりから戻って来た事で自分の席に散っていった。
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