ねぇ?恋は1段飛ばしでよろしいかしら

cyaru

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第17話   王妃の腹の内

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プリスセア王国の王城内は少々複雑である。

国王と王妃は幼馴染でもあり、長く婚約期間をおいての結婚。相思相愛とも言われ民衆も心から祝ったのだが、立場が立場故に望まれるのは後継。

成婚し、10年経っても子宝に恵まれなかったため制度に基づいて国王は側妃を召し上げた。

人選が良くなかったのだが、他に年齢が見合う令嬢がいなかった。
国王と王妃は同じ年齢に対し、側妃は12歳も年下。

32歳の王妃と20歳の側妃。
その上、側妃はなんと王妃の異母妹だったのである。王妃の父がメイドに手を付けて生まれた子が側妃。幼少期の側妃は公爵令嬢でありながら虐げられて育った。

王妃となる際に庶子の義妹がいるなど聞こえが悪いと傘下の伯爵家に養女に出したのだが、公爵家から伯爵家に嫁入りでもなく養女。何かあるのではと深読みをした貴族は誰も婚約を申し込まなかった。

1つの家から2人も妃は出せないが、王妃を王家に送り出すために伯爵家に養女に出された事が10年経って何の因果か今度は夫を挟んで顔を合わせる事になってしまった。

幼かった少女は辛かった日々を忘れずに成長し、異母姉に復讐すべく側妃にという声に直ぐ頷いた。

側妃が若さで国王を虜にしそうになれば、王妃は積み上げた実績をもとに国王の隣から離れない。懐妊の知らせは王妃の方が先だったが、遅れる事1週間で側妃も懐妊が判明。

先に子を産んだのは側妃。王妃は16日後の出産だった。

国王は2人の息子に同じように接したのだが、母親は違う。
慣例通りに乳母に全てを任せた王妃、これからの時代は古い慣習を改めると手元で育てた側妃。

逆らう者が誰もいない中で育った第2王子と、その身は民の為にあると育てられた第1王子。

勤勉な第1王子を推す者は多かったが、後ろ盾となる側妃の実家の伯爵家は王妃の実家の傘下の家。表立ってどちらの派閥なのか貴族もはっきりとした態度を示す事は出来なかった。



そんな王妃の元にアドリアンは久しぶりに呼ばれた。

「アドリアン、そなたは己の立場が判っていて?」
「判ってますよ。第2王子です」
「そうではなく。お前は正妃であるわたくしの子。玉座に最も近い位置で生ま――」
「2番目ですよ?母上」
「出生順ではない!そなたは正妃であるわたくしの子!何よりも優先されるのは血なのです」


アドリアンの素行の悪さは王妃の耳にも当然届けられる。
実家の力を使ってきたが、成長と共に段々と抑える事も難しくなってきた。

第1王子の留学で貴族の向く方向が段々と固まりつつある。今年はアドリアンをと国王に推したが国王はアドリアンを留学生に選ばなかった。

乳母に任せ、自由にさせ過ぎて隣国モーセットの公用語も話せないし、歴史も知らない。国王や貴族は笑って許してくれても辺境伯に無礼を働けば国が消滅する。そんな危険すぎる駒を国王が選ばないのも当然の話だった。

だが、目に見えて2人の王子の評価の差が広がってくる。
王妃は焦りを覚えた。


アリスの言動も逐一王妃の耳には入ってくる。アリスは誰にも知られていないと思っているが子息を恐喝し金を巻き上げている事は報告をされている。

公にならないのは「被害者」が名乗りを挙げないので犯罪として成り立っていないだけで、王妃もアリスに手を出さないのは今のところ、アドリアンの名を出してはいないからに他ならない。
下手に藪をつついて蛇を出すと元の木阿弥。

アリスの婚約者の家、トレサリー家が子爵家という事もあり黙っているのだろうが、芽は摘み取るに限る。

幸いにも訪れた留学生のうち目玉とも言えるブレイドル・モーセットが宰相など重鎮との会合で度々ブロク男爵と共に登城をするためアドリアンも城を離れる事が出来ず、アリスと会わないでいる今のうちに手を切らせた方が良いと判断した。

アリスはいずれ行き詰まるか、捕らえられるか。コール侯爵家も青色吐息でこれ以上関わり合いになってしまうと取り返しがつかなくなる。
体の関係がある事も判明している上に、子でも出来れば大問題。

コール侯爵家は金が無さ過ぎて後ろ盾にはならないし、子が出来た事を引き合いに出されてアドリアンが臣籍降下する事にでもなれば、アドリアンの私財だけでなく王妃の私財も投入する事になる。

何より、次期国王の母である「生母」にならなければ王太后という座だけでは立場も弱くなる。生母も王太后も双方が揃わなければ、第1王子が即位した際に余生は寂しいものになってしまうのだ。


「昨年は第1王子が図々しくも留学したのですよ?今年こそはと思うておったのにコール家の阿婆擦れと・・・。距離を置きなさい。女を抱きたいなら母が用意します」

「母上、勘違いをしてもらっては困る。アリスとは例え子が出来ても結婚はしない。遊びの女と妻になる女。違いは歴然です。ただ、遊べるうちは遊ぶ。それだけの事ですよ」

「馬鹿仰い!それがいけないのです。貴族を甘く見てはいけません。何処で手のひらを返すか解らぬ令嬢との口約束を信じるなど愚の骨頂。理解出来ぬと言うのならしばらく謹慎なさい。そうでなくともモーセットから留学生も来ている今、醜聞をモーセットに知られる事がどれほどの事か!」

「小言は止めてください。結局のところ母上は側妃殿に負けたくないだけでしょう?そこに僕を巻き込むのは止めてください。だいたい・・・こんな弱小国のたかが王妃で満足している母上には判らないでしょうが、留学なんかしたらこの国の国王になると思われるのに誰がそんな貧乏くじを喜んで引くんです?」

「なっ!!アドリアン!そなたッ!」

「僕が狙っているのはそのモーセット王国のステラリア王女です。立派な種馬の仕事をするだけで将来安泰なのですよ?だからブレイドル殿に渡りを付けてもらうため城にいるんです。バレるようなヘマはしませんよ」


手をヒラヒラとさせてアドリアンは王妃に背を向けて部屋を出て行った。

「アドリアンを部屋から出さぬように」
「妃殿下、外部から施錠せよと?」
「少なくとも留学生のいるうちは城から出してはなりません。面会者も全てわたくしに報告。許可した者だけアドリアンと会わせます」
「承知致しました」

(モーセットなどに行かせはせぬ)

何としてもアドリアンに即位をしてもらわねばならない王妃はアドリアンの軟禁を従者に命じたのだった。
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