ねぇ?恋は1段飛ばしでよろしいかしら

cyaru

文字の大きさ
7 / 37

第07話   箱入りの度合

しおりを挟む
ビッケとの買い物で取り敢えずの品は一式揃ったステラ。
数日おいて、今日は初めての「現場」に向かう。

時期もあるのだろうが、トレサリー家の扱う「現場」で楽な現場はほぼない。
他の片付け屋がお断りをした現場が多く、家主も切羽詰まって頼んでくることが多い。

馬車は馬車でも荷馬車に揺られる経験も初めてのステラはちょっと緊張気味。表情がこわばっている事に気が付いたリヴァイヴァールはステラに話しかけた。


「今日は初めてだから無理はしなくていいよ」
「いいえ。何でも致しますわ。ご遠慮なく申し付けてくださいませ」
「ん~。有難いんだけど、ハッキリ言うと慣れるまでは・・・足手纏いというか‥ダメって事じゃないんだ!そこは判ってくれ」
「承知しております。見て覚える、という事で御座いますね?」
「綺麗な言い方をするとそうなるかな・・・取り敢えず清掃班がいるからそちらに回ってもらうよ。シンクを磨いたりする仕事なんだけど、家でした事はある?」


リヴァイヴァールはステラが物言いは丁寧で所作も美しいけれど、それは男爵家と言えどモーセット王国はちゃんとしてるんだな~という印象しか持っていなかった。

プリスセア王国でも男爵家と言えど蝶よ花よと育てられた箱入り娘はいるにはいる。
だた、やはり低位貴族の中でも下に位置する男爵家なので、家を継ぐ者以外は男も女も自活の道を探すのが当たり前で、家事一般は経験が無ければ生きて行けず、当然知っている、経験ありだと思っていた。


「経験は御座いませんが、見様見真似でやってみますわ」
「した事ないのか?洗濯も?掃除も?」
「はい、御座いませんが・・・洗ったものを自分で着る練習は何度か」
「え・・・・」

(どんだけ箱入りなんだよ!)とリヴァイヴァールは心で叫ぶ。

リヴァイヴァールも服は自分で着る。他者にしてもらっていたのは記憶も無い幼少期くらいだが、それを練習したと真顔で返すステラに驚きを隠せない。


「ですが、食事は自分で食しておりました」
「えっと・・・それは作る?」
「いいえ。シェフが作って下さったものを皿の上でナイフで切り、フォークで口まで」

手でナイフとフォークを持ち、食材を切る仕草をするステラはまたもや真顔。決して冗談で笑わそうとしての行動でない事がリヴァイヴァールに(大丈夫なのか?この子)という焦りを生み出す。

「普通だよね・・・それ、人にしてもらうなら現場に行ける状態じゃないし」
「ですが、父は母によくしてもらっておりました」
「お父上はとこに臥せっておられるとか?」
「いいえ。愛情表現だと申しておりましたが」

(俗にいう ”あ~ん” だな・・・なんて羨ましいんだッ!)

しかし、箱入りだとしても片付けの場では仕分けなりもしてもらわねばならない。

仕分けは簡単そうに見えて難しい。先ず白紙なのか何かを書いているのか。色付の紙なのか。
インクの色によっても紙を再利用する際に使う薬液が異なるので7種類くらいに分ける必要がある。その上スピードが要求されるので、初心者で手っ取り早いのはシンクやトイレット(便器)の清掃。

箒やモップで掃除をするのは全てが終わった最後になるので、その手前で何かをしてもらうとなればキッチン周りの焦げや油汚れ、水垢を取ってもらう事だった。

「掃除はした事あるだろう?」
「経験は御座いませんが、教えて頂ければ」
「ちょっと待った。聞き方が悪かったな・・・片付けは・・・」
「書類で御座いますか?書類なら従者に手渡しておりました」
「え・・・・」

どやぁ!とドヤ顔ではないがこれまた真面目に答えるステラ。リヴァイヴァールの問うている片付けと大きく乖離しているような気がしてならない。

「ゴミ箱のゴミとかを集めたりしただろう?」
「えぇ。清掃メイドが行っておりました」
「待ってくれよ・・・じゃぁ洗濯は?」
「選択でございますか?」
「そっちじゃなくゴシゴシと服を洗ったり・・・いや、いい」

小さくステラが「服」と呟いたのをリヴァイヴァールは聞き逃さなかった。間違いなく「洗濯未経験」であることくらい察しが付く。

「えぇっと・・・留学をする際に気を付けようとかした事は?」
「御厄介になるご家族の迷惑にならぬようにと」
「うん。そうだ。そうなんだけど…ほら、自分の事は自分で~みたいな?」
「それでしたら、自分で服を脱ぎ着する、体を洗う、衣類を決められ場所に置く・・・でしょうか?洗面も練習致しました」
「練習って・・・」

(箱入りにも度合ってやっぱ、あったー!)

ステラは何一つ悪びれてはいない。真っ直ぐにリヴァイヴァールと目を合わせ「何でも聞いてください!」と眼力を発射している。

「と、取り敢えず・・・清掃班でおばちゃんたちに聞けば手順は・・・解る・・・かな?」
「承知致しました。一所懸命に務めさせて頂きます」
「いや‥命まで賭けなくてもいいんだケド」


荷馬車で仕入れる事が出来た情報は「両親はラブラブ」だけに近いが、リヴァイヴァールは「気負わなくていいから」とステラの肩を叩いた。

のだが‥‥現場に到着し「失敗」だったと気が付くのだった。
しおりを挟む
感想 29

あなたにおすすめの小説

【完結】仲の良かったはずの婚約者に一年無視され続け、婚約解消を決意しましたが

ゆらゆらぎ
恋愛
エルヴィラ・ランヴァルドは第二王子アランの幼い頃からの婚約者である。仲睦まじいと評判だったふたりは、今では社交界でも有名な冷えきった仲となっていた。 定例であるはずの茶会もなく、婚約者の義務であるはずのファーストダンスも踊らない そんな日々が一年と続いたエルヴィラは遂に解消を決意するが──

全てから捨てられた伯爵令嬢は。

毒島醜女
恋愛
姉ルヴィが「あんたの婚約者、寝取ったから!」と職場に押し込んできたユークレース・エーデルシュタイン。 更に職場のお局には強引にクビを言い渡されてしまう。 結婚する気がなかったとは言え、これからどうすればいいのかと途方に暮れる彼女の前に帝国人の迷子の子供が現れる。 彼を助けたことで、薄幸なユークレースの人生は大きく変わり始める。 通常の王国語は「」 帝国語=外国語は『』

心の傷は癒えるもの?ええ。簡単に。

しゃーりん
恋愛
侯爵令嬢セラヴィは婚約者のトレッドから婚約を解消してほしいと言われた。 理由は他の女性を好きになってしまったから。 10年も婚約してきたのに、セラヴィよりもその女性を選ぶという。 意志の固いトレッドを見て、婚約解消を認めた。 ちょうど長期休暇に入ったことで学園でトレッドと顔を合わせずに済み、休暇明けまでに失恋の傷を癒しておくべきだと考えた友人ミンディーナが領地に誘ってくれた。 セラヴィと同じく婚約を解消した経験があるミンディーナの兄ライガーに話を聞いてもらっているうちに段々と心の傷は癒えていったというお話です。

家出したとある辺境夫人の話

あゆみノワ@書籍『完全別居の契約婚〜』
恋愛
『突然ではございますが、私はあなたと離縁し、このお屋敷を去ることにいたしました』 これは、一通の置き手紙からはじまった一組の心通わぬ夫婦のお語。 ※ちゃんとハッピーエンドです。ただし、主人公にとっては。 ※他サイトでも掲載します。

王子は真実の愛に目覚めたそうです

mios
恋愛
第一王子が真実の愛を見つけたため、婚約解消をした公爵令嬢は、第二王子と再度婚約をする。 第二王子のルーカスの初恋は、彼女だった。

報われなかった姫君に、弔いの白い薔薇の花束を

さくたろう
恋愛
 その国の王妃を決める舞踏会に招かれたロザリー・ベルトレードは、自分が当時の王子、そうして現王アルフォンスの婚約者であり、不遇の死を遂げた姫オフィーリアであったという前世を思い出す。  少しずつ蘇るオフィーリアの記憶に翻弄されながらも、17年前から今世まで続く因縁に、ロザリーは絡め取られていく。一方でアルフォンスもロザリーの存在から目が離せなくなり、やがて二人は再び惹かれ合うようになるが――。 20話です。小説家になろう様でも公開中です。

【12月末日公開終了】婚約破棄された令嬢は何度も時を遡る

たぬきち25番
恋愛
侯爵令嬢ビアンカは婚約破棄と同時に冤罪で投獄が言い渡された。 だが…… 気が付けば時を遡っていた。 この運命を変えたいビアンカは足搔こうとするが……?  時間を遡った先で必ず出会う謎の男性とは? ビアンカはやはり婚約破棄されてしまうのか? ※ずっとリベンジしたかった時間逆行&婚約破棄ものに挑戦しました。 短編ですので、お気楽に読んで下さったら嬉しいです♪ ※エンディング分岐します。 お好きなエンディングを選んで下さい。 ・ギルベルトエンド ・アルバートエンド(賛否両論お気をつけて!!) ※申し訳ございません。何を勘違いしていたのか…… まだギルベルトエンドをお届けしていないのに非公開にしていました……

夫に捨てられた私は冷酷公爵と再婚しました

香木陽灯
恋愛
 伯爵夫人のマリアーヌは「夜を共に過ごす気にならない」と突然夫に告げられ、わずか五ヶ月で離縁することとなる。  これまで女癖の悪い夫に何度も不倫されても、役立たずと貶されても、文句ひとつ言わず彼を支えてきた。だがその苦労は報われることはなかった。  実家に帰っても父から不当な扱いを受けるマリアーヌ。気分転換に繰り出した街で倒れていた貴族の男性と出会い、彼を助ける。 「離縁したばかり? それは相手の見る目がなかっただけだ。良かったじゃないか。君はもう自由だ」 「自由……」  もう自由なのだとマリアーヌが気づいた矢先、両親と元夫の策略によって再婚を強いられる。相手は婚約者が逃げ出すことで有名な冷酷公爵だった。  ところが冷酷公爵と会ってみると、以前助けた男性だったのだ。  再婚を受け入れたマリアーヌは、公爵と少しずつ仲良くなっていく。  ところが公爵は王命を受け内密に仕事をしているようで……。  一方の元夫は、財政難に陥っていた。 「頼む、助けてくれ! お前は俺に恩があるだろう?」  元夫の悲痛な叫びに、マリアーヌはにっこりと微笑んだ。 「なぜかしら? 貴方を助ける気になりませんの」 ※ふんわり設定です

処理中です...