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第07話 箱入りの度合
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ビッケとの買い物で取り敢えずの品は一式揃ったステラ。
数日おいて、今日は初めての「現場」に向かう。
時期もあるのだろうが、トレサリー家の扱う「現場」で楽な現場はほぼない。
他の片付け屋がお断りをした現場が多く、家主も切羽詰まって頼んでくることが多い。
馬車は馬車でも荷馬車に揺られる経験も初めてのステラはちょっと緊張気味。表情がこわばっている事に気が付いたリヴァイヴァールはステラに話しかけた。
「今日は初めてだから無理はしなくていいよ」
「いいえ。何でも致しますわ。ご遠慮なく申し付けてくださいませ」
「ん~。有難いんだけど、ハッキリ言うと慣れるまでは・・・足手纏いというか‥ダメって事じゃないんだ!そこは判ってくれ」
「承知しております。見て覚える、という事で御座いますね?」
「綺麗な言い方をするとそうなるかな・・・取り敢えず清掃班がいるからそちらに回ってもらうよ。シンクを磨いたりする仕事なんだけど、家でした事はある?」
リヴァイヴァールはステラが物言いは丁寧で所作も美しいけれど、それは男爵家と言えどモーセット王国はちゃんとしてるんだな~という印象しか持っていなかった。
プリスセア王国でも男爵家と言えど蝶よ花よと育てられた箱入り娘はいるにはいる。
だた、やはり低位貴族の中でも下に位置する男爵家なので、家を継ぐ者以外は男も女も自活の道を探すのが当たり前で、家事一般は経験が無ければ生きて行けず、当然知っている、経験ありだと思っていた。
「経験は御座いませんが、見様見真似でやってみますわ」
「した事ないのか?洗濯も?掃除も?」
「はい、御座いませんが・・・洗ったものを自分で着る練習は何度か」
「え・・・・」
(どんだけ箱入りなんだよ!)とリヴァイヴァールは心で叫ぶ。
リヴァイヴァールも服は自分で着る。他者にしてもらっていたのは記憶も無い幼少期くらいだが、それを練習したと真顔で返すステラに驚きを隠せない。
「ですが、食事は自分で食しておりました」
「えっと・・・それは作る?」
「いいえ。シェフが作って下さったものを皿の上でナイフで切り、フォークで口まで」
手でナイフとフォークを持ち、食材を切る仕草をするステラはまたもや真顔。決して冗談で笑わそうとしての行動でない事がリヴァイヴァールに(大丈夫なのか?この子)という焦りを生み出す。
「普通だよね・・・それ、人にしてもらうなら現場に行ける状態じゃないし」
「ですが、父は母によくしてもらっておりました」
「お父上は床に臥せっておられるとか?」
「いいえ。愛情表現だと申しておりましたが」
(俗にいう ”あ~ん” だな・・・なんて羨ましいんだッ!)
しかし、箱入りだとしても片付けの場では仕分けなりもしてもらわねばならない。
仕分けは簡単そうに見えて難しい。先ず白紙なのか何かを書いているのか。色付の紙なのか。
インクの色によっても紙を再利用する際に使う薬液が異なるので7種類くらいに分ける必要がある。その上スピードが要求されるので、初心者で手っ取り早いのはシンクやトイレット(便器)の清掃。
箒やモップで掃除をするのは全てが終わった最後になるので、その手前で何かをしてもらうとなればキッチン周りの焦げや油汚れ、水垢を取ってもらう事だった。
「掃除はした事あるだろう?」
「経験は御座いませんが、教えて頂ければ」
「ちょっと待った。聞き方が悪かったな・・・片付けは・・・」
「書類で御座いますか?書類なら従者に手渡しておりました」
「え・・・・」
どやぁ!とドヤ顔ではないがこれまた真面目に答えるステラ。リヴァイヴァールの問うている片付けと大きく乖離しているような気がしてならない。
「ゴミ箱のゴミとかを集めたりしただろう?」
「えぇ。清掃メイドが行っておりました」
「待ってくれよ・・・じゃぁ洗濯は?」
「選択でございますか?」
「そっちじゃなくゴシゴシと服を洗ったり・・・いや、いい」
小さくステラが「服」と呟いたのをリヴァイヴァールは聞き逃さなかった。間違いなく「洗濯未経験」以前の問題であることくらい察しが付く。
「えぇっと・・・留学をする際に気を付けようとかした事は?」
「御厄介になるご家族の迷惑にならぬようにと」
「うん。そうだ。そうなんだけど…ほら、自分の事は自分で~みたいな?」
「それでしたら、自分で服を脱ぎ着する、体を洗う、衣類を決められ場所に置く・・・でしょうか?洗面も練習致しました」
「練習って・・・」
(箱入りにも度合ってやっぱ、あったー!)
ステラは何一つ悪びれてはいない。真っ直ぐにリヴァイヴァールと目を合わせ「何でも聞いてください!」と眼力を発射している。
「と、取り敢えず・・・清掃班でおばちゃんたちに聞けば手順は・・・解る・・・かな?」
「承知致しました。一所懸命に務めさせて頂きます」
「いや‥命まで賭けなくてもいいんだケド」
荷馬車で仕入れる事が出来た情報は「両親はラブラブ」だけに近いが、リヴァイヴァールは「気負わなくていいから」とステラの肩を叩いた。
のだが‥‥現場に到着し「失敗」だったと気が付くのだった。
数日おいて、今日は初めての「現場」に向かう。
時期もあるのだろうが、トレサリー家の扱う「現場」で楽な現場はほぼない。
他の片付け屋がお断りをした現場が多く、家主も切羽詰まって頼んでくることが多い。
馬車は馬車でも荷馬車に揺られる経験も初めてのステラはちょっと緊張気味。表情がこわばっている事に気が付いたリヴァイヴァールはステラに話しかけた。
「今日は初めてだから無理はしなくていいよ」
「いいえ。何でも致しますわ。ご遠慮なく申し付けてくださいませ」
「ん~。有難いんだけど、ハッキリ言うと慣れるまでは・・・足手纏いというか‥ダメって事じゃないんだ!そこは判ってくれ」
「承知しております。見て覚える、という事で御座いますね?」
「綺麗な言い方をするとそうなるかな・・・取り敢えず清掃班がいるからそちらに回ってもらうよ。シンクを磨いたりする仕事なんだけど、家でした事はある?」
リヴァイヴァールはステラが物言いは丁寧で所作も美しいけれど、それは男爵家と言えどモーセット王国はちゃんとしてるんだな~という印象しか持っていなかった。
プリスセア王国でも男爵家と言えど蝶よ花よと育てられた箱入り娘はいるにはいる。
だた、やはり低位貴族の中でも下に位置する男爵家なので、家を継ぐ者以外は男も女も自活の道を探すのが当たり前で、家事一般は経験が無ければ生きて行けず、当然知っている、経験ありだと思っていた。
「経験は御座いませんが、見様見真似でやってみますわ」
「した事ないのか?洗濯も?掃除も?」
「はい、御座いませんが・・・洗ったものを自分で着る練習は何度か」
「え・・・・」
(どんだけ箱入りなんだよ!)とリヴァイヴァールは心で叫ぶ。
リヴァイヴァールも服は自分で着る。他者にしてもらっていたのは記憶も無い幼少期くらいだが、それを練習したと真顔で返すステラに驚きを隠せない。
「ですが、食事は自分で食しておりました」
「えっと・・・それは作る?」
「いいえ。シェフが作って下さったものを皿の上でナイフで切り、フォークで口まで」
手でナイフとフォークを持ち、食材を切る仕草をするステラはまたもや真顔。決して冗談で笑わそうとしての行動でない事がリヴァイヴァールに(大丈夫なのか?この子)という焦りを生み出す。
「普通だよね・・・それ、人にしてもらうなら現場に行ける状態じゃないし」
「ですが、父は母によくしてもらっておりました」
「お父上は床に臥せっておられるとか?」
「いいえ。愛情表現だと申しておりましたが」
(俗にいう ”あ~ん” だな・・・なんて羨ましいんだッ!)
しかし、箱入りだとしても片付けの場では仕分けなりもしてもらわねばならない。
仕分けは簡単そうに見えて難しい。先ず白紙なのか何かを書いているのか。色付の紙なのか。
インクの色によっても紙を再利用する際に使う薬液が異なるので7種類くらいに分ける必要がある。その上スピードが要求されるので、初心者で手っ取り早いのはシンクやトイレット(便器)の清掃。
箒やモップで掃除をするのは全てが終わった最後になるので、その手前で何かをしてもらうとなればキッチン周りの焦げや油汚れ、水垢を取ってもらう事だった。
「掃除はした事あるだろう?」
「経験は御座いませんが、教えて頂ければ」
「ちょっと待った。聞き方が悪かったな・・・片付けは・・・」
「書類で御座いますか?書類なら従者に手渡しておりました」
「え・・・・」
どやぁ!とドヤ顔ではないがこれまた真面目に答えるステラ。リヴァイヴァールの問うている片付けと大きく乖離しているような気がしてならない。
「ゴミ箱のゴミとかを集めたりしただろう?」
「えぇ。清掃メイドが行っておりました」
「待ってくれよ・・・じゃぁ洗濯は?」
「選択でございますか?」
「そっちじゃなくゴシゴシと服を洗ったり・・・いや、いい」
小さくステラが「服」と呟いたのをリヴァイヴァールは聞き逃さなかった。間違いなく「洗濯未経験」以前の問題であることくらい察しが付く。
「えぇっと・・・留学をする際に気を付けようとかした事は?」
「御厄介になるご家族の迷惑にならぬようにと」
「うん。そうだ。そうなんだけど…ほら、自分の事は自分で~みたいな?」
「それでしたら、自分で服を脱ぎ着する、体を洗う、衣類を決められ場所に置く・・・でしょうか?洗面も練習致しました」
「練習って・・・」
(箱入りにも度合ってやっぱ、あったー!)
ステラは何一つ悪びれてはいない。真っ直ぐにリヴァイヴァールと目を合わせ「何でも聞いてください!」と眼力を発射している。
「と、取り敢えず・・・清掃班でおばちゃんたちに聞けば手順は・・・解る・・・かな?」
「承知致しました。一所懸命に務めさせて頂きます」
「いや‥命まで賭けなくてもいいんだケド」
荷馬車で仕入れる事が出来た情報は「両親はラブラブ」だけに近いが、リヴァイヴァールは「気負わなくていいから」とステラの肩を叩いた。
のだが‥‥現場に到着し「失敗」だったと気が付くのだった。
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