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第08話   男の存在意義

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コール侯爵家の内情はかなり火の車状態。資産額で言えば例年ワースト。
但し借金の額で言えばトップ3から落ちたことはない。

祖父の代ではそれなりに資産もあったのだが落ちぶれた理由など明白で「父が母に貢いでいる」からである。アリスも可愛い系の女子なのだが、母親は間もなく45歳だというのに「美」には余念がなく見た目は20代半ば。

それだけ金をかけているからなのだが、アリス以上に庇護欲をそそる見た目の母親はアリスの年代の頃は男に貢いでもらう品で部屋に足の踏み場が無かった。

ただ、如何せん母の本当の実家は準男爵家。
どんなに望まれても持参金が用意出来ず伯爵位以上の家を継ぐ子息の元には嫁げなかった。

子息たちも馬鹿ではない。アリスの母親が「特殊女性給仕以上に金がかかる素人」である事に気が付き始めると1人、2人と去っていく。
体の関係を持ってくれるわけではなく数秒手を握るだけで50万のダイヤ、3時間デートするのも行き先は宝飾品店。ローンで数百万の3点セットを買ったところで店を出れば「じゃぁまたね」

現実を見た時に次男、三男など家を継がない者は自活をするしかなく、アリスの母親を養うなど到底できるはずもない。隣にいることを競い合ったライバルが借金地獄に陥る現実は目を覚ますには効果覿面だった。

残ったのがコール侯爵。父親が45歳、母親が43歳で生まれたとあって目の中に入れても痛くない可愛がりで成長をしたため、親に強請れば何でも買って貰えたし金ももらえた。

ライバルが気がつけばいなくなり、コール侯爵は金にものを言わせてアリスの母親を伯爵家の養女に迎えさせた。



そこまでして結婚をしたのは良かったが、アリスの母親の浪費癖は止まらない。先代が亡くなると領地を売り、屋敷を売り、今、住んでいる屋敷はコール侯爵の弟が遺産を分けた時に相続した屋敷。

実弟に賃借料を払って大きな屋敷に住んでいるのだが、それでも母親の浪費は止まらない。

アリスの上には騎士となった兄が2人いるが騎士団の独身寮に住まう事を母が許していない。
兄2人の給料も母親の「美の追求」に当てねば支払いが追いつかないからである。

父親は、借りられるだけ金を借りて妻に貢いでいる。
アリスに金を掛けてくれるどころではなかったが、成長し母親に似た容姿は金になる事をアリスは知った。

そのいい例が第2王子のアドリアン。王族でもあり羽振りもいい。
貞操を捧げるとアドリアンはアリスを側に置くようになった。

(ホント、チョロい男)とアリスはアドリアンを分析している。

アドリアンも誰彼となく寝所に連れ込む事は出来ない。
隣国モーセット王国は貞操観念の薄い国と言われていて結婚をする際に純潔かどうかは問題にされないがプリスセア王国は違う。

侯爵令嬢であり、いずれは何処かの家に嫁ぐのだろうから貞操は求められるが、相手はトレサリー家。アリスはアドリアンを盾にすればリヴァイヴァールだけでなくトレサリー子爵も何も言えなくなるのが面白くて仕方がない。

しかし、トレサリー家からの金は母親の散財であっという間に消えていく。

「私の婚約者よ?なんでお母様が好き勝手に使うのよ!」
「いいじゃないの。嫁げば貴女がトレサリー家の女主人。もっと自由にお金を使えるんだから。男なんて女に金を使って幾らの存在なの。貴女も上手く立ち回らないと損ばかりするわよ?折角可愛く産んであげたのに」


母親の事は軽蔑していたが、その言葉でアリスもハッとした。

「そう、そうよね。ウフフフ・・・ハハッ・・・アハハ」


★~★

そんなアリスはカフェにいた。

時計を見れば間もなく約束の時間だが、空席の目立つカフェの扉はなかなか開かない。

カランコロン♪

扉の開く音と給仕の「いらっしゃいませ」の声がアリスの耳に届くと待ち人で、アリスは「ここよ」と合図をする為に軽く手を振った。

険しい顔をした子息が周りを気にしながら近づいてくると、テーブルに封筒を置いた。

「これだけしか用意出来なかったんだ。もう勘弁してくれ」

アリスは「ふーん」鼻を鳴らして封筒の中身を半分引っ張り出し、指をペロリと舐めると札を数え始めた。

「本当にもうこれが限界なんだよ。母上の宝飾品を売ったんだ。もう払えないよ」
「ふーん?もう払えないって聞こえた気がするわ。気のせいかしら」
「気のせいじゃない!頼む!この通りだ!」
「お座りになったら?立ったままで頭を下げてたら目立っちゃうわよぅ?ふふっ」

子息はまた周囲を見回し、足早にアリスの向かいに腰掛け、テーブルに額を押し当てて小さな声で「勘弁してくれ」と何度も懇願した。

「そうね~じゃ、あと200万でこの事は忘れる事にするわ」
「に、200万?!無理だよ。さっきも言っただろう?これは母上――」
「だから何?アタシとの関係、言ってもいいのよ?婚約者もビックリすると思うけど?言っちゃってもいい?」
「うっ‥‥本当に・・・本当にあと200万だな?」
「えぇ。それで婚約者には黙っていてあげる。聞かれても惚けてあげるわ」

しばし考えた子息は「判った」と答えると席を立った。

「あんまり待てないかもぉ~欲しいドレスもあるしぃ~」
「2週間で用意する。2週間後にここに持って来る」
「了解~。待ってるわ」

子息が去った後、封筒をカバンに入れて窓の外を見る。店の外に出た子息と目が合うが子息は目を逸らせた。

「馬鹿な男。婚約者には言わないだけで、婚約者の親は別枠なのに。ふふっ」

女性だけでなく、男性にも貞操観念は求められる。娼館など感情が伴わない場所は大目にみて貰えるが社交でも顔を合わせる相手となれば話が変わる。入り婿なら猶更隠したいだろう。


アリスはリヴァイヴァールと婚約をしていながらもアドリアンだけでなく他の子息にも体を開く。アリスの姑息なところは相手を吟味し、その数は5人と決めている。それ以上は金を持っていそうでも手は出さない。

理由は簡単で1つは病気。もう1つは管理が出来ないから。

数が多くなれば巻き上げる金は多くなるだろうが、徒党を組んで訴えられる可能性もある。満足できる額が手に入るであろうことと、子息同士が結託をしたところで「自業自得」と諦めざるを得ない数が5人。

それより少なければ実入りが無いし、多ければ数で訴えられた時に負けてしまう
5人なら「お前もか!」を見つけるのは難しくなり、子息も誰彼に相談できない。

1、2回寝ただけで顔を歪め、涙を流して金を貢いでくれるのだから面白くて止められない。

5人もいれば1人から2、3千万貢がせれば済む事。そういう相手を「吟味」して選んだのだ。1億ほど金があればトレサリー家に嫁ぐのも時間の問題。嫁ぐまでのつなぎの金があればいいのだから欲張ってはいけないと不敵に笑う。

「お母様の言う通りだわ。男なんて女に金を使って幾らの存在ね」

会計伝票を「トレサリー家に回して」と言い残してアリスはカフェを出て行った。
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