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第09話 ステラ、初めての現場に行く
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トレサリー子爵家の主な仕事は「ゴミ屋敷」の片付けである。
ハウスクリーニングまで一緒に頼まれるのは請け負う数のおよそ3割。殆どは荷を運び出したあと家屋は解体される。
壁も床も虫やネズミの糞だらけで臭いが取れず、壁紙を張り直しても片付ける事で逃げ出した害虫は壁の中に巣食い、今度は柱などを食い荒らす。
何より掃除をしても害虫は追い出しきれないので喘息や皮膚炎を発症する者も多いのと、内装をやりかえるくらいなら新築にした方が安く付くし、借り手も見つかりやすい。
時に住人が物言わぬ形で見つかる事もある。
申し訳ないが死臭は本当に取れない。丁寧に弔ってから片づけをするにも通常の装備では出来ないのでそんな時は割増料金にはなるし、間違いなく次の借り手は見つからないので他人に家を貸す家主も大変なのだ。
極稀にリフォームまで任される事はあるが、それは家主自身が住んでいる場合が多い。他に行くあてがないのだからそんな時はハウスクリーニングや改修、改装まで頼まれる事もある。
荷馬車に揺られて朝早くからリヴァイヴァールとステラがやって来たのは「片付けのみ」の2階建て家屋。片付けだけなのだが、シンクと便器は取り外して洗浄し、再利用する予定になっている。
3日という日程で片付けが行われるのだが、2階と奥の部屋は比較的早く片付いたが手前の2室。ここに手間取っていた。
「どうかな?進んでるか?」
「リバーさん。いやぁ…すんません。思ったより捗らなくて」
「仕方ないか。最近まで生活をされていた部屋だろう?見積もりの時からここは時間がかかると3日貰ったんだ」
「えぇ。食べ物もですが不浄にも行かず手短に済ませていたようで臭いがね」
この場合も通常の装備ではなく二重、三重に服を着て分厚い手袋で「所有物」を回収していく。
「下に行けば行くほど・・・気を付けてくださいね。アンモニア臭で目と鼻、やられます」
手渡されたマスク、木の枠をピーナッツ型にして手前にガラスを嵌め込んだゴーグルを付けて手袋を嵌めるとリヴァイヴァールはくぐもった声で使用人に声を掛けながら中に入った。その後ろを同じ格好をしたステラもちょこちょことついていく。
ツンとする臭いもだがゴーグルをしていても目に刺激があり涙が出てきた。
「手伝うよ。順に回収した荷を荷馬車に載せてくれ」
「あ、ありがとうございます。気を付けてください。そのあたり・・・ヌルっとします」
汚いだの言ってはいられない。依頼人は早くここを片付けたいのである。その為の金も前払いで受け取っているし、片付けに於いては他の商会には負けない!という自負もあるリヴァイヴァール。
目に見える範囲にあるものは全て特殊な廃棄をせねばならない状態なので選別するとすれば危険な刃物や針金などの金属類と割れた茶器などの陶器。
しゃがみ込むと大きな麻袋の中に余裕をもって運べる量をどんどん入れていく。
役職でもあるリヴァイヴァールが来ると使用人達の士気もあがり、作業はスピードアップ。
「家屋は解体するんだから床が汚れても気にしなくていい!」
「リバーさん、荷馬車から汚水が垂れてます。どうしますか」
「直ぐ行く。ここ頼んだ!」
「はい!あと一息・・・頑張ります」
「無理はするな。こういう現場は休憩を取りながらだ」
荷馬車に行くと防水加工はしてあるのだが、載せる時に垂れたと思われる汚水が水溜まりになっていた。
「砂を持って来てくれ。あとでお客様には僕が説明をする」
リヴァイヴァールの声に砂を土嚢袋に入れた使用人がやって来て汚水溜まりに砂を撒いていく。
「移動中に注意するんだ。手の空いた者が騎乗して荷馬車の後ろについてくれ。道に零れたらそれこそ大変だ」
処理業者に持ち込むまでがトレサリー子爵家の仕事。
以前に汚水を点々と残したままの商会があって、場所が商店街だったので騒ぎになった事がある。運ぶルートも出来るだけ人通りの少ないルートを進み、その途中にある民家には菓子折りを渡し挨拶に回ってはいるが、こんな落とし物は気持ち良いものではない。
しかしリヴァイヴァールはすっかりステラの存在を忘れていた。
何処に行った?!とキョロキョロしてみるが荷馬車の周りには見当たらない。
「まさか?!」
リヴァイヴァールは全身から血の気が引いた。
ハウスクリーニングまで一緒に頼まれるのは請け負う数のおよそ3割。殆どは荷を運び出したあと家屋は解体される。
壁も床も虫やネズミの糞だらけで臭いが取れず、壁紙を張り直しても片付ける事で逃げ出した害虫は壁の中に巣食い、今度は柱などを食い荒らす。
何より掃除をしても害虫は追い出しきれないので喘息や皮膚炎を発症する者も多いのと、内装をやりかえるくらいなら新築にした方が安く付くし、借り手も見つかりやすい。
時に住人が物言わぬ形で見つかる事もある。
申し訳ないが死臭は本当に取れない。丁寧に弔ってから片づけをするにも通常の装備では出来ないのでそんな時は割増料金にはなるし、間違いなく次の借り手は見つからないので他人に家を貸す家主も大変なのだ。
極稀にリフォームまで任される事はあるが、それは家主自身が住んでいる場合が多い。他に行くあてがないのだからそんな時はハウスクリーニングや改修、改装まで頼まれる事もある。
荷馬車に揺られて朝早くからリヴァイヴァールとステラがやって来たのは「片付けのみ」の2階建て家屋。片付けだけなのだが、シンクと便器は取り外して洗浄し、再利用する予定になっている。
3日という日程で片付けが行われるのだが、2階と奥の部屋は比較的早く片付いたが手前の2室。ここに手間取っていた。
「どうかな?進んでるか?」
「リバーさん。いやぁ…すんません。思ったより捗らなくて」
「仕方ないか。最近まで生活をされていた部屋だろう?見積もりの時からここは時間がかかると3日貰ったんだ」
「えぇ。食べ物もですが不浄にも行かず手短に済ませていたようで臭いがね」
この場合も通常の装備ではなく二重、三重に服を着て分厚い手袋で「所有物」を回収していく。
「下に行けば行くほど・・・気を付けてくださいね。アンモニア臭で目と鼻、やられます」
手渡されたマスク、木の枠をピーナッツ型にして手前にガラスを嵌め込んだゴーグルを付けて手袋を嵌めるとリヴァイヴァールはくぐもった声で使用人に声を掛けながら中に入った。その後ろを同じ格好をしたステラもちょこちょことついていく。
ツンとする臭いもだがゴーグルをしていても目に刺激があり涙が出てきた。
「手伝うよ。順に回収した荷を荷馬車に載せてくれ」
「あ、ありがとうございます。気を付けてください。そのあたり・・・ヌルっとします」
汚いだの言ってはいられない。依頼人は早くここを片付けたいのである。その為の金も前払いで受け取っているし、片付けに於いては他の商会には負けない!という自負もあるリヴァイヴァール。
目に見える範囲にあるものは全て特殊な廃棄をせねばならない状態なので選別するとすれば危険な刃物や針金などの金属類と割れた茶器などの陶器。
しゃがみ込むと大きな麻袋の中に余裕をもって運べる量をどんどん入れていく。
役職でもあるリヴァイヴァールが来ると使用人達の士気もあがり、作業はスピードアップ。
「家屋は解体するんだから床が汚れても気にしなくていい!」
「リバーさん、荷馬車から汚水が垂れてます。どうしますか」
「直ぐ行く。ここ頼んだ!」
「はい!あと一息・・・頑張ります」
「無理はするな。こういう現場は休憩を取りながらだ」
荷馬車に行くと防水加工はしてあるのだが、載せる時に垂れたと思われる汚水が水溜まりになっていた。
「砂を持って来てくれ。あとでお客様には僕が説明をする」
リヴァイヴァールの声に砂を土嚢袋に入れた使用人がやって来て汚水溜まりに砂を撒いていく。
「移動中に注意するんだ。手の空いた者が騎乗して荷馬車の後ろについてくれ。道に零れたらそれこそ大変だ」
処理業者に持ち込むまでがトレサリー子爵家の仕事。
以前に汚水を点々と残したままの商会があって、場所が商店街だったので騒ぎになった事がある。運ぶルートも出来るだけ人通りの少ないルートを進み、その途中にある民家には菓子折りを渡し挨拶に回ってはいるが、こんな落とし物は気持ち良いものではない。
しかしリヴァイヴァールはすっかりステラの存在を忘れていた。
何処に行った?!とキョロキョロしてみるが荷馬車の周りには見当たらない。
「まさか?!」
リヴァイヴァールは全身から血の気が引いた。
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