ねぇ?恋は1段飛ばしでよろしいかしら

cyaru

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第14-2話   家事一般は壊滅的②

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ステラは調理だけでなく、家事一般が壊滅的だった。

ビッケと共に洗濯にも挑戦したのだが、洗濯板で洗い方を教えると布に穴があくまで洗い続ける。やめ時が判らないのである。

かの日のゴミを土嚢袋に詰めていた時と同じく無表情で真剣に洗っているのでビッケも「そんなに頑固な汚れかな?」と思っていたら!

ビッケも縁取りのみを輪っか状に残したハンカチを見たのは初めてだった。

「洗いすぎましたか?」
「洗い過ぎっていうか・・・もう洗う部分が無いよね」
「洗う部分が無い・・・。あっ!中央部分がありませんわ」
「気が付かなかったの?!これで!?・・・これはこれで才能だわ」


ハタキを持たせて棚の上などの埃をパタパタしてもらおうと思えば、ステラがいる筈なのに姿が無い。

部屋の中で音はするのだ。「パタタ・・・パンパン・・・パタタ」何処かでハタキを振っている音はするのに姿が無い。

「ステラさぁん!何処にいるの?」
「ここで御座います」
「え?ここって・・・どこ?隣の部屋?」
「ビッケ様、こちらで御座います!(パタパタ)」
「え?・・・エェーッ?!」

どうやってそこまで上がったのか。天井との隙間が30cmあるかないかの食器棚の上に入り込み。壁と天井の境にある廻り縁のたった1cmの出っ張りに巣食った蜘蛛の巣や小さな糸になり垂れた埃をはたいていたのだ。

「背伸びを致しましたが届きませんでした。申し訳ございません」
「そんな所までしてたら毎日が年末大掃除大作戦になっちゃうよぅ」
「しかし、埃をはたくのがハタキの役目。ならばその役目は果たさねばなりません」
「そうだけど!そうなんだけど!」


几帳面である事は解るのだ。そして「見残し」が許せない性格である事も判る。

高い所に上がってしまって転落でもすると危険だと壺を磨いて貰っていると「新品同様」にまで磨く。取っ手の出っ張りにも布の端をあて、それでも取れないと調理室で要らなくなった廃棄用のフォークの先に布を巻きつけて「職人仕事」なのである。

それが外観だけではない。


「ビッケ様。申し訳ございませんがお手を貸して頂けませんか」
「いいけど。どうしたの?面倒な所があったっけ?」
「実は‥‥手が抜けなくなったのです」
「どっ!どうやって入れたの!?」

2,3歳の幼児の手ならなんとか入りそうな首長の花瓶。その内部も掃除をしようと手を突っ込んだまでは良かったが抜けなくなってしまっていた。

「よくこんな狭い壁の間にっていう子供はいるようだけど…」
「お手数をお掛けしますわ」
「面倒だから割っちゃう?」
「家宝の花瓶を割るだなんてとんでもない!」
「いいよぉ、蚤の市で拾ったやつだし」
「拾った?!この花瓶を・・・で御座いますか?」
「うん。そうだよ。花でも飾れば華やかかな~って思って。不用品コーナーっていう店主が売れ残りを捨てていくブースがあるんだけど、拾ったんだよ」
「まさか…こんな重要文化財級の花瓶を捨てるだなんて」
「ドユコト?」


まるで人形劇のオートマタ人形のように抜けなくなった手をグイっと差し出したステラ。
裏に作者の名があるというので四方から眺めてみるがビッケにはただの模様にしか見えない。いや模様というより陶器を焼く時に出来たぼこぼこにしか見えない。


「こちら、時価数億と言われているピョエ―ルの作ですわ」
「ピョエ―ル?誰それ?」
「500年ほど前に王宮献上用にのみ陶器を焼いていた名工で御座います。おそらく底の文字からするに第41代国王に献上した品かと」
「41代っ?!何時の話?今の国王陛下117代だよ?」
「ですから500年ほど前です」
「・・・・・・(ばたっ)」
「ビッケ様!ビッケ様!困ったわ。花瓶が邪魔でッ!!割るしかないのかしら、どうしましょう!」


家事一般は壊滅的だが、古美術の鑑定には長けていたステラ。
その後、慌てふためくステラを始めてみたリヴァイヴァールは迷わず花瓶を叩き割った。

「大丈夫か!?」
「なっ、なっ、なんてこと‥‥(ばたっ)」

今度はステラも国宝級の花瓶を躊躇いもなく割った事に驚きすぎて失神。
リヴァイヴァールが「おい!大丈夫か!誰か来てくれ!」と従業員を呼ぶも従業員も状況が飲み込めない。

1つの部屋に倒れた女性が2人。そして割れた花瓶。
ちょっとした事件現場化していたのだった。
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