ねぇ?恋は1段飛ばしでよろしいかしら

cyaru

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第24話   留学の意図

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部屋の中から話声が聞こえる事に一旦外に出たリヴァイヴァールは上着が薄手だったことに気が付き、取り替えようとしたが手を掛けたドアノブが回せずにいた。

隙間の多い古い家。増築をして大きな湯殿を作った事で父と今一緒になっている部屋は扉を閉じていても再利用した扉なのでサイズが合わずくるぶしまで足元が空いている。

ぼそぼそとした声は下から聞こえてくるものなのか。
あり得ない言葉のオンパレードにリヴァイヴァールは混乱していた。

(ステラが次期国王?どういう事だ?)


★~★部屋の中★~★

販促の品がテーブルに出され、ブレイドルは商品の説明をするかと思えば違った。

「ステラ、トレサリー殿にはもう?」
「へっ?!」

いきなりブレイドルがステラの事を呼び捨てにして呼んだものだから、ブロク男爵はビックリしてまだカバンの中にある品を手で掴んだまま動きを止めた。

「トレサリー様には初日で気付かれてしまいましたわ」
「気がつくって・・・どういう??」

キョロキョロと挙動不審にになったブロク男爵にハンドレーは「驚くなよ?」と無茶な前置きをした後、ステラの正体を明かした。

「ファウッ?」
「声を出すな。従業員もだがリバーもビッケも知らないんだ」
「えぇ。内緒にして頂いております」
「にゃんでまひゃ・・・(ぺちっ)」

ブロク男爵は噛んでしまい自分で自分の頬を軽く叩いた。
ブレイドルは一旦隣に腰を下ろしたブロク男爵にハンドレーの隣にと手で示し、移動したブロク男爵の位置に腰を下ろすと、隣にステラが腰かけた。

「騙した形になり申し訳ない」と先に告げると今回、プリスセア王国に出向いた理由を説明する。

「今回、留学制度を利用致しましたのは、貴国の第1王子殿下たってのご希望でしたので。友好国となる証にわたくしが出向いた方が貴国プリスセア王国には遺恨を残さないだろうと叔父のめいを受けました」

<< 友好国?! >>

今もそうではないのか?とハンドレーとブロク男爵が口を半開きにしたままで顔を合わせる。

「今も友好国です。ですが、第1王子が望んだのは属国としてモーセットへの吸収でしたので、それは待ってくれとこちらから頼んだのです」

<< 属国?! >>


ハンドレーもブロク男爵も思いもよらない言葉に開いた口も塞がらないが、瞬きの仕方も忘れたのか目も飛び出さんばかりに見開いて、前のめりになった。

「昨年第1王子が我が国に留学をされたのは御存じかと」
「え、えぇ、知っています・・・帰国後の報告会にも出席しましたので」

第1王子は母である側妃の意向もあったが、留学は王子自身が国王に願い出たもの。

国王を含め宰相たちも留学生を受け入れて5年経っても改善の兆しを見せない経済に行き詰まりを感じていた。その原因が何であるかも判っている。

王妃の実家である公爵家が原因だった。
取り潰そうにも力を持ち過ぎた公爵家無くしては国も立ち行かない。

斬新な提案も古参の公爵家を筆頭派閥にする老害の前では無力。尽く廃案になった。
何より交易の拠点となる大街道の要所要所を公爵家が買い取り、都度通行税を徴収する。

領地を通過する者から通行税を徴収する事は違法ではないが、それが街道沿いに点在していると通行税が売り上げを上回るため商人は遠い道を迂回する。

すると運べる量は少なくなり流通が滞る。
物価が他国に比べて高いのも少ない荷を超長距離で運ぶか、通行税を払って近道をするか。

何処にでも甘い汁を吸う者はいる。
ならば王家が動けばよいではないかとなるが、それも出来ない。
通行税の税率を下げたり、徴収を禁止すれば公爵家以外の家で通行税が収入の柱になっている家も多いので、途端に傾いてしまう。

法の抜け穴を利用する者は、違法性のある事には敏感でスレスレのラインを利用するものだ。

経済が滞りがちなので、成長率も悪い。
違法スレスレでも合法。公爵家を処罰すれば同じく通行税を取っているその他の家も処罰の対象で打つ手がなかった。

第1王子がステラの王配になる話が持ち上がった事がある。年齢差も無く問題ないと思われたが、強国のモーセット王国に第一1王子が婿入りとなれば第2王子が国王となるが力関係は、追い出した第1王子の方が遥か上になる事に公爵家が猛反発し、立ち消えになった。

では第2王子を・・・という話も一応モーセット王国に持ち込まれたがシュヴァイツァーが一言で終わらせた。

その一言は【舐めとんのか】である。
叔父の国王は【煮えたぎったミネストローネで顔を洗って出直してこい】と言った。


私財が増えるのは公爵家だけで、その公爵家に目を付けたのが好戦的なマフィネ独立国。
軍部が恐怖政治を行っている国で隙あらば他国に侵略してくる国。

マフィネ独立国と水面下で話をしている動きもあった。

第2王子が即位をすれば後ろ盾は公爵家なのだからプリスセア王国が手に入ったも同然。
そうなるとモーセット王国にもブートレイア王国にも攻め込むのは容易。

力のある辺境伯でもこの地まで来るのに時間がかかり、兵を向かわせた知らせを受けて逆のブートレイア王国に攻め入れば、向かわせた軍はあちこちに散らばり分散、そして戦力が低下する。

公爵家を押さえるのが国王には精一杯。
マフィネ独立国と交易をする事も違法ではないし取り締まる事も出来ない。かと言って公爵家を潰す事も出来ない。

「ここまでだ」と国王が第1王子を昨年留学生として送り出したのは「国を売るため」だった。
属国となれば力のある公爵家と言えど仕える主が変わる。

マフィネ独立国も公爵家を利用とは考えていても、公爵家に利用とは考えていない。公爵家とモーセット王国の喧嘩。どちらに軍配が上がるのか判り切った勝負をを高みの見物を決め込む。

モーセット王国の一部となれば民が守れる。
そうしなければモーセット王国とブートレイア王国に挟まれたプリスセア王国は侵攻の拠点となって戦場になってしまうのは目に見えていたからである。


「第1王子殿下と国王陛下は属国になるにあたり、己の首を差し出すと申されましたが・・・要りません。置物にしては趣味が悪すぎますし、民を思う者が犠牲になる必要など微塵も御座いません」

ステラの言葉にブロク男爵は民の為に尽力する国王が生き残れると安堵の息を吐き出した。
ブレイドルはそんなブロク男爵に「安心されよ」と声を掛ける。

「人によってはこれを国を売ったなどと揶揄する者もいるでしょうが…民の上に立つ者は時として、国を残すのではなく民を残す方に舵取りをせねばならない苦渋の決断を迫られる時があります。しくも・・・片づけをするトレサリー家に預けられた事には驚きましたが」

「国ではなく民を残そうとする貴国の国王の考え。我々は受け入れることに決めたのだが、不用品まで受け入れる必要はないと遣わされたのがステラです。次期国王への最終試験のようなものですけどね」


リヴァイヴァールはドアノブからやっと手を放し、扉の向こうの会話を頭の中で反復しながらフラフラと庭に出た。
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