ねぇ?恋は1段飛ばしでよろしいかしら

cyaru

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第27-1話   恩と仇は返すもの②-①

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「これ、お薬なんだ?すごい、沢山あるんだぁ」
「全て母のお手製で御座います。薬を作るのが趣味なので」

要らないと言っても毎月王都に送って来ていて、プリスセア王国に行くことになった時も「こんなに持っていけない」とほとんどは置いて来たけれど「もしも」や「想定外」は何時でも起こり得るのだとステラは少し反省した。

トレサリー家に戻って来たステラは荷物の中から小さなケースを幾つか取り出した。蓋を開けると軟膏が入っていて、女性従業員がステラの傷口に塗っていく。

プリスセア王国でも薬は貴重品。
風邪で命を落としてしまう者も少なくないが医者に診せる事も薬を買う金も無いプリスセア王国の庶民は民間療法に頼る事が多い。

打ち身でも切り傷でも「兎に角アロエを塗っておけばいい」という考えも広く知れ渡っていて、塗ってしまった事で化膿し、余計に酷くなる者もいる。


「しばらくは・・・現場は行かない方が良い」
「そうですね。あやかしのような顔になっておりますものね。ふふっ」
「ステラさん、そこ、笑うとこじゃないよぅ・・・ホント、ゴミ王子なんだから!」
「煽ってしまったわたくしも悪いのです。余りにも酷いなと思ってしまってつい・・・」
「つい?なんて言っちゃったの?」
「ダニ王子です。祖父が人のことを悪く言う者の顔は醜悪でダニのように見えると常々申しておりましたが、本当にダニに見えてしまって心の声が出てしまいました」
「ダニ王子・・・当たってるかも?噂だと凄く息が臭いらしいから歯茎に水虫菌でも塗ってるんじゃないかと言われてるんだけど・・・寄生虫の女と体液を吸い尽くしてるだろうからダニとも言えるかもぉ」

酷い言われようだが、アドリアンは低位貴族の令嬢達からは「見た目は良いが中身は最悪」とも言われている。デヴュタントでも「貧乏人がいると城が臭くなる」と挨拶の時に言われてしまった令嬢もいて評判は最悪。

ぶつけた額はコブになってしまい、時間が経つにつれ眉の上がポコっと盛り上がってきてしまった。現場も騒然となってしまって急遽応援が入ったが、リヴァイヴァールは離れることはできず今も現場にいる。

ハンドレーはアドリアンに目を付けられてしまったら、また嫌がらせに訪れるだろうと当面ステラを事務所内で経理など書類業務に携わって貰う事にした。

「ちゃんと言えればいいんだが・・・第2王子のバックが面倒でね。ウチと同じ商売ではないけれど飲食店など汚物を店内にふりまかれたり、店に放火をされたりで王都から出て行った者もそれなりの数いるんだよ。訴え出ても何時の間にか調べも打ち切りにされていたり、そもそもで届けが出されてなかったとされたり。従業員の家族にも嫌がらせをするから打つ手がないんだ」

まさにやりたい放題。王家に対しての信用が失墜しているというのはもう程度を超えている。民衆もわざわざ破落戸に絡むような事をしなければトバッチリは受けないので我関せず。

我が身が可愛いのは誰しも同じで、時にお節介と言われるものは入れ知恵をしてくれるが、うっかり乗ってしまい目を付けられたら大変と泣き寝入りする方を選んでしまう。

ハンドレーも出来る事と言えば「出来るだけ関わり合いにならないように」と注意喚起をするくらい。特にトレサリー家はアドリアンの情婦とも言えるアリスが絡んでいるだけに慎重にならざるを得ないのである。


★~★

内勤となったステラだったが、両親である辺境伯夫妻がプリスセア王国の王都に向かっているという情報も街で囁かれるようになった。

辺境伯夫人のメリルが輿入れをした時は300mの隊列だったが、今回はそれを上回り、師団が向かっていると旅人の話を更に盛った噂が駆け巡る。

王家もこれは不味いと感じたのか、それとも恩を売る絶好の機会と捉えたか。なんとアドリアンの母親である王妃がトレサリー家を指定して仕事を依頼してきた。

ステラの正体がバレたのかとハンドレーは警戒したが、留学生を預かっている家にそれぞれ仕事を依頼しているので、王妃が感づいた訳ではないと仕事を受けるかどうか返答をしかねていた。

「父さん、仕事だろう?受けるしかないよ」

リヴァイヴァールも受けたい仕事とは思わないが、依頼人が王家の中でも王妃となれば断った時の方がよほどに面倒なことになるのは明らかなので、穏便に済ませるには受けた方が良いとハンドレーに進言した。


「傷の具合はどう?もう何ともないかい?」
「全く。傷跡も御座いません」
「首から上の怪我は甘くみちゃいけないんだけど‥見積もりに行くんだが一緒に行く?」
「承知しました。内勤で項目もより詳細に学びましたので猫の手にはなると思います」
「そっか。明日は商店街にある見積もりが入ってるから明後日になるけどいいかな」
「明日でも明後日でも業務は業務。休みは御座いません」


王宮務めにでもなれば休日はあるものだが、貴族と言えど商売をしている者は休みなどあるようでないもの。気がつけばステラも留学して1日も休みという日はなかった。

しかし、翌朝になり商店街の見積もりに出掛けようとしたところに依頼主がやって来て明日にして欲しいと言い出した。片付けの仕事に出ていれば予定の変更は出来ないがまだ見積もりの段階。
リヴァイヴァールはぽっかりと時間が空いてしまい、ならば先に王妃依頼の物件を見積もりに行くことにしたのだった。

「突然になってしまったけど、行ける?」
「問題御座いません」
「そんなに大きな家じゃないんだ。家具なんかもあまりないと思う。先日外から見ただけだけど荷馬車に2台で、ゴミよりも家具の運びだしって感じかな」
「ならば、こちらをお使いくださいませ」

ステラが出してきたのはおおよその見積もりを出すのに家具の項目を予め書いてある用紙だった。

「色や形状、個数を書き込めばよいかと」
「助かるよ。うんこれなら見積もりも時間が短縮できそうだ」

小さな荷馬車に乗り、出掛けた2人。まさかあんな場に遭遇するとは夢にも思わなかった。
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