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VOL:12 お買い物
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商店街の中でも皇族、高位貴族御用達の店の前で馬車が停車する。
馬車の窓から見える店はフランソワールからすれば「お城」である。
いつかはあんな店で買い物がしたい。そう願っても叶わない事も多い。
教会のバザーや年に数回立つバザールで、何往復かを目で楽しんでいざ買い物となればもう閉店の準備を始めたテントに行き、売れ残りを値引き交渉して手に入れる。
目で楽しんでいる最中に、「いいなぁ」と思っていた物が売れ残っていればワクワクしたし、買われてしまって残念な思いをした事も数えきれない。
今まで26年間生きてきてフランソワールは乳飲み子の時は記憶がないが、覚えている限りでは「新品」は身に付けた事がない。寝台に掛けるシーツですら中古品。3オーナーならまだいい方で5オーナー以上を渡り歩いてきた「布製品」しか使った事がない。
王宮で支給されていた制服だって着回し。
個人に支給はされるけれど要返却で、盗まれないように襟の裏やブレザーの裾には刺繍した痕跡があった。
「まぁ、ヨハネス公爵家のミクマ様では御座いませんか。こちらに異動になりましたの?」
品の良い女店主がミクマの顔を見ると、声をあげて近寄ってきた。
「いや、祖父の見舞いにね」
「あら?何処か具合が?」
「心配には及ばない。今朝も元気に懸垂してたよ」
「左様で御座いましたか。本日は‥‥ええぇっと…」
女店主がフランソワールをちらりと見た。ミクマのツレで無ければつまみ出されていたかも知れない。女店主の目からは何も感じなかったが、周りにいる店員たちの視線は「歓迎」していない事を示している。
嫌と言うほど心地悪い視線を浴びせられたフランソワールは感じたくなくても目を見てしまう。その目と小さな表情の動きで感情を読んでしまう。そんな癖がついてしまっていた。
「妻だ。今日は彼女に合うものを見繕って欲しくてね」
「承知致しました。ですが…ミクマ様。奥様のお名前をお伺いしても?」
「あぁ、そうだね、フランソワールだ」
「フランソワール様。では…こちらへ。女性の体はその時、その時で違うのです。採寸を致しましょう」
戸惑うフランソワールにミクマは「お婆様のお気に入りの店だ。なんでも頼めばいい」と告げた。だが、女店主はそうでなくても他の店員の目が怖い。
そんなフランソワールに女店主は「大丈夫です」と小さく囁き採寸室に案内をした。
「申し訳ございません。長くヨハネス公爵家様には御贔屓にして頂いておりますのに。従業員の教育は今一度しっかりとさせて頂きます。本日はわたくしがお相手をさせて頂きますね?」
女店主の言葉にビクリと肩を震わせて、メジャーを手にしていた店員は静かに退室していった。代わりにやって来たのは別の店員で女店主と同じく不手際をフランソワールに侘び、採寸のたびにどうしてこの数値が必要なのかを丁寧に説明してくれた。
フランソワールの身に着けている下着はこの店にはおよそ似つかわしくない質素なものだったが、目に入っていないのか、採寸をする女性達は終始丁寧な対応だった。
「フランソワール様には明るいお色も良いと思いますが、主張をする色よりも淡い色の方が御髪も映えると思います。ミクマ様のお色でもある薄いブルー。こちらは如何でしょう?」
差し出されたのは嵐が過ぎ去った後の青空を思わせる薄いブルーの布地。
反物の状態でこれから縫製をしていく品。肌さわりもよく素地は絹。染色には高山植物の茎を何日も乾燥させたあと、雪解け水でその色をゆっくり抽出したものが使用されている。
――怖い‥お値段が怖すぎるっ――
しかもそんな上等な布を使って仕立てるのは「普段着」だと言う。
――眩暈がしそう――
採寸はしてもらった。デザイン画が気に入らなかった訳ではない。
ページが捲られるたびにフランソワールの心は踊った。
でも、頼めなかった。
契約での結婚でこれ以上ミクマに私財を使わせてしまうのは気が引けた。
馬車の窓から見える店はフランソワールからすれば「お城」である。
いつかはあんな店で買い物がしたい。そう願っても叶わない事も多い。
教会のバザーや年に数回立つバザールで、何往復かを目で楽しんでいざ買い物となればもう閉店の準備を始めたテントに行き、売れ残りを値引き交渉して手に入れる。
目で楽しんでいる最中に、「いいなぁ」と思っていた物が売れ残っていればワクワクしたし、買われてしまって残念な思いをした事も数えきれない。
今まで26年間生きてきてフランソワールは乳飲み子の時は記憶がないが、覚えている限りでは「新品」は身に付けた事がない。寝台に掛けるシーツですら中古品。3オーナーならまだいい方で5オーナー以上を渡り歩いてきた「布製品」しか使った事がない。
王宮で支給されていた制服だって着回し。
個人に支給はされるけれど要返却で、盗まれないように襟の裏やブレザーの裾には刺繍した痕跡があった。
「まぁ、ヨハネス公爵家のミクマ様では御座いませんか。こちらに異動になりましたの?」
品の良い女店主がミクマの顔を見ると、声をあげて近寄ってきた。
「いや、祖父の見舞いにね」
「あら?何処か具合が?」
「心配には及ばない。今朝も元気に懸垂してたよ」
「左様で御座いましたか。本日は‥‥ええぇっと…」
女店主がフランソワールをちらりと見た。ミクマのツレで無ければつまみ出されていたかも知れない。女店主の目からは何も感じなかったが、周りにいる店員たちの視線は「歓迎」していない事を示している。
嫌と言うほど心地悪い視線を浴びせられたフランソワールは感じたくなくても目を見てしまう。その目と小さな表情の動きで感情を読んでしまう。そんな癖がついてしまっていた。
「妻だ。今日は彼女に合うものを見繕って欲しくてね」
「承知致しました。ですが…ミクマ様。奥様のお名前をお伺いしても?」
「あぁ、そうだね、フランソワールだ」
「フランソワール様。では…こちらへ。女性の体はその時、その時で違うのです。採寸を致しましょう」
戸惑うフランソワールにミクマは「お婆様のお気に入りの店だ。なんでも頼めばいい」と告げた。だが、女店主はそうでなくても他の店員の目が怖い。
そんなフランソワールに女店主は「大丈夫です」と小さく囁き採寸室に案内をした。
「申し訳ございません。長くヨハネス公爵家様には御贔屓にして頂いておりますのに。従業員の教育は今一度しっかりとさせて頂きます。本日はわたくしがお相手をさせて頂きますね?」
女店主の言葉にビクリと肩を震わせて、メジャーを手にしていた店員は静かに退室していった。代わりにやって来たのは別の店員で女店主と同じく不手際をフランソワールに侘び、採寸のたびにどうしてこの数値が必要なのかを丁寧に説明してくれた。
フランソワールの身に着けている下着はこの店にはおよそ似つかわしくない質素なものだったが、目に入っていないのか、採寸をする女性達は終始丁寧な対応だった。
「フランソワール様には明るいお色も良いと思いますが、主張をする色よりも淡い色の方が御髪も映えると思います。ミクマ様のお色でもある薄いブルー。こちらは如何でしょう?」
差し出されたのは嵐が過ぎ去った後の青空を思わせる薄いブルーの布地。
反物の状態でこれから縫製をしていく品。肌さわりもよく素地は絹。染色には高山植物の茎を何日も乾燥させたあと、雪解け水でその色をゆっくり抽出したものが使用されている。
――怖い‥お値段が怖すぎるっ――
しかもそんな上等な布を使って仕立てるのは「普段着」だと言う。
――眩暈がしそう――
採寸はしてもらった。デザイン画が気に入らなかった訳ではない。
ページが捲られるたびにフランソワールの心は踊った。
でも、頼めなかった。
契約での結婚でこれ以上ミクマに私財を使わせてしまうのは気が引けた。
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