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VOL:13 息が出来ない!胸が苦しい!
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女性の買い物を黙って待つのはヨハネス家の男性なら当たり前。
ミクマは日当たりの良い席で茶を飲み、本を読んでフランソワールを待っていた。
「気に入ったものがあったか?」
「あの…それが…」
「どうしたんだ?」
言葉に詰まるフランソワールの代わりに女主人がミクマに返事を返した。
「これなら似合う。わたくしがそう思うものをお仕立てしてもよろしいかしら?」
「構わないが…どうしたんだ?何でも好きなものを頼んで良いんだ」
小さくフルフルと首を横に振るフランソワールを女店主が椅子に座らせた。
「奥様は色んなデザインにご興味がおありでしたよ?ですがミクマ様。まだまだで御座いますね」
女店主はそっと自分の胸に手を当てて「気持ちを考えてやれ」と仕草で示した。
ミクマには意外だった。
母も祖母もあまりドレスや普段着を仕立てる事はなかったが、それでも気に入ったデザインを選ぶのは楽しいし、新しい布が入荷すれば屋敷に呼んで肌さわりなどを楽しんでいた。
――女性ってそう言うものじゃないのか?――
今までミクマの周りに群がっていた令嬢たちはこぞって着飾っていた。
ミクマ自身興味も無く「新製品のレースですの」と言われても先日見たものと何が違うのかよく判らない。
――ドレスだ、宝石だと喜ぶのが女性じゃないのか?――
ミクマは考えても答えが出ない。
店を出るには何か買っていくのが貴族の常識。仕立てるものは別に何か小物を買って帰るのが流儀である。そっと女店主にフランソワールが興味を示したデザインの服を10着ほど仕立てるようにとフランソワールに気づかれないように注文をする。
女店主は小さく頷いた。
「では、小物でも一緒に見るか?」
「はい」
フランソワールも何か買って店を出る。それは知っていた。
ミクマと共にショーケースを覗き込む。
そこにサファイヤがあしらわれたカフスのセットがあった。
一目見て、ミクマの瞳の色みたいだと思ったフランソワールはカフスのセットを他の商品よりも見つめてしまった。
「それが良いのか?」
「いえ、そう言う訳ではなくて、この石、瞳に似て綺麗だなと思って」
「瞳の色?君の瞳の色は薄い黄色だが?」
「私じゃなくて、ミクマ様です」
「僕の?―――」
ミクマの心がトクンと跳ねた。
瞳の色が綺麗だと言われた事はない。「ミクマ様のお色の髪飾りですの」と髪飾りや宝飾品を褒めて欲しいと言ってきた令嬢は多かったが、ミクマ自身の瞳の色を褒められた事はなかった。
ショーケースを指差して「この石です。鏡でご自身の瞳を見てください」にこりと微笑むフランソワールにミクマの心臓がドクドクと早鐘を打ち始めた。
「お手に取ってくださいませ」
女店主がカフスのセットを出して手に取ってよいと差し出してきた。
襟元を止める金具を手に取り、ふいにフランソワールの前髪を止めているピンと重ねてみた。
音はしなかったが「ばちん!」と頭のてっぺんに稲妻が落ちたような衝撃を感じた。
「私じゃないですよ?ミクマ様です。ここ!襟につけるんですよ」
ツンツンとフランソワールがミクマの襟元を細い指で突いた。
突かれた部分が布が焦げている、いや、着火した服を着ているような熱い温度を感じる。
「これとセットで…用意できるか?」
――僕は何を言ってるんだ?――
ミクマ自身が自分の口を突いて出た言葉がどうして出てしまったのか判らない。
でも思ってしまったのだ。
同じ石で。揃いの宝飾品をつけたら「嬉しい」と。
――なんで嬉しいんだ?どうしてだ?――
「では、首元、胸元、お指と合わせて精一杯仕事をさせて頂きます」
女店主の言葉に短く肯定の返事を返すとフランソワールが「指?」と首を傾げているのが見えた。
――不味い…なんだこの感覚・・・熱でも出たかな――
頬だけでなく耳も燃えるように熱い。挙動不審になってしまったミクマにフランソワールが感じた疑問をぶつけてきた。
「カフスって指じゃなく袖口ですよね?」
ミクマは見てしまった。見てはいけないものを見てしまった。
フランソワールの瞳に映る自分の顔。
今、フランソワールが自分だけを見ていると思うと胸がキュゥゥと締め付けられる。
「あ~…いいんじゃないかな?それで」
つとめて素っ気なく返事を返すが、声が裏返ってしまったのではないかと気になって仕方がない。
「そうですか?…そんなものなのかな?」
――ダメだ…重症かも知れない――
「そんなものなのかな?」と口元に指をあてるフランソワールを見るとミクマは息をするのもようようになってしまった。
――恋ね。恋だわ。いいもの見ちゃった♡――
女店主は馬車までミクマとフランソワールを見送るとデザインルームに駆け込み、デッサンを始めた。
ミクマは日当たりの良い席で茶を飲み、本を読んでフランソワールを待っていた。
「気に入ったものがあったか?」
「あの…それが…」
「どうしたんだ?」
言葉に詰まるフランソワールの代わりに女主人がミクマに返事を返した。
「これなら似合う。わたくしがそう思うものをお仕立てしてもよろしいかしら?」
「構わないが…どうしたんだ?何でも好きなものを頼んで良いんだ」
小さくフルフルと首を横に振るフランソワールを女店主が椅子に座らせた。
「奥様は色んなデザインにご興味がおありでしたよ?ですがミクマ様。まだまだで御座いますね」
女店主はそっと自分の胸に手を当てて「気持ちを考えてやれ」と仕草で示した。
ミクマには意外だった。
母も祖母もあまりドレスや普段着を仕立てる事はなかったが、それでも気に入ったデザインを選ぶのは楽しいし、新しい布が入荷すれば屋敷に呼んで肌さわりなどを楽しんでいた。
――女性ってそう言うものじゃないのか?――
今までミクマの周りに群がっていた令嬢たちはこぞって着飾っていた。
ミクマ自身興味も無く「新製品のレースですの」と言われても先日見たものと何が違うのかよく判らない。
――ドレスだ、宝石だと喜ぶのが女性じゃないのか?――
ミクマは考えても答えが出ない。
店を出るには何か買っていくのが貴族の常識。仕立てるものは別に何か小物を買って帰るのが流儀である。そっと女店主にフランソワールが興味を示したデザインの服を10着ほど仕立てるようにとフランソワールに気づかれないように注文をする。
女店主は小さく頷いた。
「では、小物でも一緒に見るか?」
「はい」
フランソワールも何か買って店を出る。それは知っていた。
ミクマと共にショーケースを覗き込む。
そこにサファイヤがあしらわれたカフスのセットがあった。
一目見て、ミクマの瞳の色みたいだと思ったフランソワールはカフスのセットを他の商品よりも見つめてしまった。
「それが良いのか?」
「いえ、そう言う訳ではなくて、この石、瞳に似て綺麗だなと思って」
「瞳の色?君の瞳の色は薄い黄色だが?」
「私じゃなくて、ミクマ様です」
「僕の?―――」
ミクマの心がトクンと跳ねた。
瞳の色が綺麗だと言われた事はない。「ミクマ様のお色の髪飾りですの」と髪飾りや宝飾品を褒めて欲しいと言ってきた令嬢は多かったが、ミクマ自身の瞳の色を褒められた事はなかった。
ショーケースを指差して「この石です。鏡でご自身の瞳を見てください」にこりと微笑むフランソワールにミクマの心臓がドクドクと早鐘を打ち始めた。
「お手に取ってくださいませ」
女店主がカフスのセットを出して手に取ってよいと差し出してきた。
襟元を止める金具を手に取り、ふいにフランソワールの前髪を止めているピンと重ねてみた。
音はしなかったが「ばちん!」と頭のてっぺんに稲妻が落ちたような衝撃を感じた。
「私じゃないですよ?ミクマ様です。ここ!襟につけるんですよ」
ツンツンとフランソワールがミクマの襟元を細い指で突いた。
突かれた部分が布が焦げている、いや、着火した服を着ているような熱い温度を感じる。
「これとセットで…用意できるか?」
――僕は何を言ってるんだ?――
ミクマ自身が自分の口を突いて出た言葉がどうして出てしまったのか判らない。
でも思ってしまったのだ。
同じ石で。揃いの宝飾品をつけたら「嬉しい」と。
――なんで嬉しいんだ?どうしてだ?――
「では、首元、胸元、お指と合わせて精一杯仕事をさせて頂きます」
女店主の言葉に短く肯定の返事を返すとフランソワールが「指?」と首を傾げているのが見えた。
――不味い…なんだこの感覚・・・熱でも出たかな――
頬だけでなく耳も燃えるように熱い。挙動不審になってしまったミクマにフランソワールが感じた疑問をぶつけてきた。
「カフスって指じゃなく袖口ですよね?」
ミクマは見てしまった。見てはいけないものを見てしまった。
フランソワールの瞳に映る自分の顔。
今、フランソワールが自分だけを見ていると思うと胸がキュゥゥと締め付けられる。
「あ~…いいんじゃないかな?それで」
つとめて素っ気なく返事を返すが、声が裏返ってしまったのではないかと気になって仕方がない。
「そうですか?…そんなものなのかな?」
――ダメだ…重症かも知れない――
「そんなものなのかな?」と口元に指をあてるフランソワールを見るとミクマは息をするのもようようになってしまった。
――恋ね。恋だわ。いいもの見ちゃった♡――
女店主は馬車までミクマとフランソワールを見送るとデザインルームに駆け込み、デッサンを始めた。
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