恋人を寝取られ、仕事も辞めて酔い潰れたら契約結婚する事になりました。

cyaru

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VOL:14 まさかのエリック

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「すまないが、テーブルの上にある六角レンチを取ってくれないかな?」
「六角レンチですね。判りました」


先々代となったエリックはもう宰相職は引退をしていて、日頃は妻のクラリスと数は少なくなったが使用人達と暮らしている。

仕事は引退、エリック自身に譲られた家督はなかった事から、息子が公爵位を甥っ子、姪っ子勢揃いの話し合いで引き継いでからは別居したのだ。息子夫婦が公爵家の屋敷に引っ越した時、エリックとクラリスは残った。

一緒に行けばクラリスも上げ膳下げ膳でのんびりしていられるのだが、別居に踏み切ったのはクラリスの一言がきっかけである。


「クラリスはやっぱり行きたくないのかい?」
「行きたくないのではありません。エリックといたいのです」
「ファァァ♡クラリスぅ。5人目を考えてくれてるっ?じゃぁ早速!」
「お待ちなさい!エリック。5人目の子供は貴方です。職を辞した以上、今までより家にいる事は必須!ハッキリ言って嫁いできたミズーリさんミクマの母には気の毒‥いえ、目の毒なのです!これからは人の目が届かない場所で夫婦2人、静かに暮らしましょうね?」


っと、時折全裸でストレッチをしてしまうエリック。子供たちは「父はこんなもの」と理解はしているが子供たちの配偶者は違う。

以来、夫婦と少しばかりの使用人で生活をしているのだが、エリックはクラリスを喜ばせるために庭に舞台を作っている。年齢を重ねるたびにマシマシになっていく溢れる愛を知って欲しいのだ。

その舞台、正直あまり舞台としての出番はなかったのだが小上がりになっているのでお茶を楽しむウッドデッキテラスのようになっていた。

その手摺がぐらぐらしていると使用人から報告を受け、うっかりクラリスがもたれかかった時に壊れたら大変!っとエリックは修理をしている。

そのためにかつての権力を使い、各国から最新の道具を買い集めた。

「六角レンチです。公爵様は器用なのですね」
「フゥちゃん。ありがとう。これこれ。これだよ。あ、公爵は息子と孫のモガミ。私は皇帝陛下から頂いた爵位で伯爵なんだよ。纏めて言わなくてごめんね。このナットと支柱の間に座金って言う金属の板を挟むんだ。10個ほど持って来てくれる?」

同じような物言いで何度かテーブルに並べた「お取り寄せ品」を持って来てもらうエリック。

「ナットは対角線上に締めると書いてありました」
「なるほど!ありがとう。やってみようかね」

フランソワールに伝えられたようにエリックはナットを締めていく。

「出来たぁ。これで100人乗っても大丈夫だ」
「公…伯爵様、手摺に100人が乗る事はないと考えます」
「判らないよ~?大道芸人を呼んで、叩いて被ってジャケーン遊びをするかも知れないだろう?」

――クラリスさんは絶対呼ばないと思うけど――


エリックは舞台を下りてサロンに行き、先程までちょこまかと運んだ荷物を載せたテーブルまで行くとフランソワールに「こっちおいで」と手招きをした。


「お茶にしよう。クラリスはもうすぐ帰ってくると思う」
「朝から居られなかったですもんね。お出掛けされてたんですね」
「ミクマが帰国すると、戻る時に持たせるお茶の葉を買いに行くんだよ」


「ところで」と前置きしてエリックはフランソワールに道具を指差した。

「君は言われた通りの道具を持って来てくれたんだが、大工仕事の経験があるのかい?」
「大工仕事ですか?いいえ。全然ありません。ペンチやニッパーは知っていますがレンチって初めて見ました」
「でも、言われた通りのものを持って来てくれたよね?」
「それは、箱に書いてありますから。ほら。ここに」

箱に書かれた名前や商品名を指差すとエリックは「うんうん。書いてあるね」と返す。フランソワールは「何が聞きたいんだろう?」首を傾げた。

「私はいろんな国からお取り寄せをしているんだが、問題があってね」
「問題?なんでしょう」
「使用人に頼んでも、目当てのものを1回で持ってきてくれることがなくてね」
「まぁ…私もいきなりレンチって言われたら探すと思います」
「でも、1回で持って来てくれたよね」
「ここに書いていますから」
「うん、書いてる。でも使用人はそれでも間違うんだよ。この文字は全部違う国の文字。我が国を含めて8か国語。ヴァリエーションに飛んでるでしょ?」


気にした事はなかったが、並んでいる箱を見ればそれぞれ違う国の文字で書かれていた。

「最低でも君は7か国語を理解している。何処で覚えたんだい?」

「あ、そういう‥‥文字は隣に住んでいた人が行商をされる方だったので学びました。スーエデン語だけはルームメイトからです。仕事で書類は必ずしもこの国の言葉で書かれていなくて、会議もこの国の人だけで行なうわけじゃなないので用意する必要もあったので。それをすると残業が出来るので残業代目当てだったんですけど…ダメでしたか?」

「いや、いい事だね。目的が残業代だったとしても自分を高めるためのモチベーションアップなら大いに結構。で?人事課が主導して他国から職員を招き入れていたわけだが、君の他にその業務を行う者は?」

「みんなでしてた…と思います。翻訳に関する事は私が分担と言いますか…」

「うん、で?君以外に君と同じ事を分担されてた人は?」

「あの…私と…」


フランソワールは失言に気が付いた。エリックのポワポワした雰囲気に飲まれてうっかり口にしてしまったが、自分以外にとなると誰もいなかった。
よくよく考えてみればエリックは「切れ者宰相」と呼ばれ、今の仕事の細分化と効率化の基礎を作った男。腹の立つことをされたとは言え、一人に特定の業務を押し付けて、それが常態化していたとなれば人事課全員が「監察室」から調査をされる対象となってしまう。


「怒っているんじゃないよ?でもね…私が一線を退いてもう15年になる。ジューダスと共に作った各種の決まり事を今は年若いプリースト陛下が引き継いでくれている。製造者責任と言うのかな?適正に物事が動いているか。見る必要もあってね。正しく運用するためには1人だけが負担を強いられるなんて…あってはいけない事なんだ。体を壊すし、代わりがいないとなれば負担も大きいから心も壊れてしまう。休んだ時にピンチヒッターがいない!そんなの誰も得をしない」

「はい…」

「一番いけないのは、知らない事を知らないままにしているって事だ。自分は知らなかったんだと知る事が大事。誰かが負担をするのがいけない事だと知らないなんて‥‥不幸だよ。当人も、負担を強いられる人も不幸にしかならない。もし、皆が処罰されるかも知れないと思って言わないのなら…言わせてもらうよ?それはいけない事だ」

「でも…みんなそれぞれ生活があるし‥小さい子を持つ人もいるし…」

「だったら猶更だ。早いうちに直さないと。病気と同じだよ。早期発見、早期治療。これで文句を言うなら私が直々に言ってあげるよ「身から出た錆」だってね。淘汰される側にならないよう日々、自分磨きは大事なんだよ。若い人はエネルギーがあるし古参が長い経験から学んだ事を学問で履修してくる。古参も常に前進しないと日数を重ねるだけの経験なんて…無用の長物だ」


全裸で踊るだけではなかったエリック。
フランソワール「よく頑張ったね」と「知育本・ひとりでできたよシリーズ」の各本に付属している「達成シール」をフランソワールに手渡した。

「何処に貼れと?」

フランソワールが困惑したのは当然の事だ。
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