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第18話 心配ないさ
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「お嬢様。お忙しいところ残念なお知らせが御座います」
「ルダ。もしかして私のお気に入りの靴下に穴が開いたとか?」
「哀しさレベルは靴下に勝ります。靴下はこのルダが刺繍で隠せますので」
「って事は…また?えぇーっ。今日はもうへとへとなのに」
今日は朝いつも通りに執務を済ませて7時の朝食の後、ファガスの所で切り出した砥石の粉を集める作業をしたので、口や鼻は覆っていたけれど声はガラガラだし、粉末も元は石なので集まるとそれなりに重量もある。
土嚢袋に詰めて運んで湯を浴びた後はもうとっとと寝てしまえと寝間着に着替えたばかりだ。
しかも時計を見れば19時。
他家に訪問するのには明らかに適していない時間に溜息と切なさと苛立ちがこみ上げた。
「どうされます?」
「いいわ。会う。会わなきゃ明日も来るかも知れないし、明日は明日の風が吹くのよ!予定も埋まってるから邪魔されたくないわ」
「邪魔されたくないには同意しますが、着替えますか?」
「着替え?また着替えるの?‥‥もういいわ。これで会うわ」
「お嬢様…掃除で羞恥心も捨ててきましたか?」
サリアは現在寝間着姿だが、寝苦しさから掛布を蹴り飛ばしてお腹を冷やしてしまうので着ぐるみ風のパジャマを着ている。
「ルダ。行くわよ」
サリアは鬣の付いたフードを被った。
歩くと先端がモフモフになった尻尾が揺れる。
今日の着ぐるみは雄ライオン。
またもやデリックの待つ応接室の扉の前で「ヨシッ!」気合を入れた。
ガチャリ
「こんなぁ~時間にぃぃ~眠りをぉぉ~妨げるのは誰ぇ~だァ~♪」
サリアはミュージカル風に歌いながら大きな手振りをし、1回転。「うぉぉぉ~」可愛く吠えてもう1回転。
デリックは突然始まる即興ミュージカルに開いた口が塞がらないが、気を取り直し花束をサリアに差し出すと、サリアはデリックの腰かけていたソファの周りをジャンプしながら右に左にせわしなく動く。
そして差し出された花束から薔薇を1本抜き取るとクルっと回る。
「はい!咥えるッ!」
「え?咥‥え?」
「咥えたら両手を広げて羽根のようにッ!!」
デリックは言われたまま、薔薇の茎を口に咥えて手を翼のようにバサバサと動かした。
鳥になったデリックをそのままにサリアはピタリと動きを止めたかと思うと、中腰で指パッチンをしながら扉の方向に下がっていく。
「デデッデデー♪スーチャチャッ・スーチャチャッ♪」
「ア、アカペラで桃色パンサー?!格好はライオンなのに?!」
うしろ向きに下がったので扉があるかと思えば壁。
お尻がドンと当たっても大丈夫。
姿勢を立たせ、胸に手を当てると「心配ないさぁぁ~!!」と声高らかに場所が違っていた事を誤魔化した。
更にデリックに告げるのも忘れない。
「協議書項目5番ッ! ”パジャマはニャネルの5番と決まってる” 残念っ!着ぐるみでしたー」
「はぁっ?!」
「もひとつおまけに協議書項目8番目っ! ”時と場合を考えろッ” なのでぇ…今何時ッ!?」
「え、えっと…19時18分?」
「違ぁうッ!そこは そうね、だいたいねー。と答えなきゃ!なのでぇ‥協議書項目14番目っ! ”当たり前の事も知らないのか” ニャニャニャー!ニャニャニャニャー!デッデッデッデッデ‥‥」
「おいっ!最後は火サスで退場すんな―!!」
デリックは父親に続き、サリアにも言うだけ言われて去られてしまった。
「ルダ。もしかして私のお気に入りの靴下に穴が開いたとか?」
「哀しさレベルは靴下に勝ります。靴下はこのルダが刺繍で隠せますので」
「って事は…また?えぇーっ。今日はもうへとへとなのに」
今日は朝いつも通りに執務を済ませて7時の朝食の後、ファガスの所で切り出した砥石の粉を集める作業をしたので、口や鼻は覆っていたけれど声はガラガラだし、粉末も元は石なので集まるとそれなりに重量もある。
土嚢袋に詰めて運んで湯を浴びた後はもうとっとと寝てしまえと寝間着に着替えたばかりだ。
しかも時計を見れば19時。
他家に訪問するのには明らかに適していない時間に溜息と切なさと苛立ちがこみ上げた。
「どうされます?」
「いいわ。会う。会わなきゃ明日も来るかも知れないし、明日は明日の風が吹くのよ!予定も埋まってるから邪魔されたくないわ」
「邪魔されたくないには同意しますが、着替えますか?」
「着替え?また着替えるの?‥‥もういいわ。これで会うわ」
「お嬢様…掃除で羞恥心も捨ててきましたか?」
サリアは現在寝間着姿だが、寝苦しさから掛布を蹴り飛ばしてお腹を冷やしてしまうので着ぐるみ風のパジャマを着ている。
「ルダ。行くわよ」
サリアは鬣の付いたフードを被った。
歩くと先端がモフモフになった尻尾が揺れる。
今日の着ぐるみは雄ライオン。
またもやデリックの待つ応接室の扉の前で「ヨシッ!」気合を入れた。
ガチャリ
「こんなぁ~時間にぃぃ~眠りをぉぉ~妨げるのは誰ぇ~だァ~♪」
サリアはミュージカル風に歌いながら大きな手振りをし、1回転。「うぉぉぉ~」可愛く吠えてもう1回転。
デリックは突然始まる即興ミュージカルに開いた口が塞がらないが、気を取り直し花束をサリアに差し出すと、サリアはデリックの腰かけていたソファの周りをジャンプしながら右に左にせわしなく動く。
そして差し出された花束から薔薇を1本抜き取るとクルっと回る。
「はい!咥えるッ!」
「え?咥‥え?」
「咥えたら両手を広げて羽根のようにッ!!」
デリックは言われたまま、薔薇の茎を口に咥えて手を翼のようにバサバサと動かした。
鳥になったデリックをそのままにサリアはピタリと動きを止めたかと思うと、中腰で指パッチンをしながら扉の方向に下がっていく。
「デデッデデー♪スーチャチャッ・スーチャチャッ♪」
「ア、アカペラで桃色パンサー?!格好はライオンなのに?!」
うしろ向きに下がったので扉があるかと思えば壁。
お尻がドンと当たっても大丈夫。
姿勢を立たせ、胸に手を当てると「心配ないさぁぁ~!!」と声高らかに場所が違っていた事を誤魔化した。
更にデリックに告げるのも忘れない。
「協議書項目5番ッ! ”パジャマはニャネルの5番と決まってる” 残念っ!着ぐるみでしたー」
「はぁっ?!」
「もひとつおまけに協議書項目8番目っ! ”時と場合を考えろッ” なのでぇ…今何時ッ!?」
「え、えっと…19時18分?」
「違ぁうッ!そこは そうね、だいたいねー。と答えなきゃ!なのでぇ‥協議書項目14番目っ! ”当たり前の事も知らないのか” ニャニャニャー!ニャニャニャニャー!デッデッデッデッデ‥‥」
「おいっ!最後は火サスで退場すんな―!!」
デリックは父親に続き、サリアにも言うだけ言われて去られてしまった。
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