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#1 花冠の約束
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「ハインツ待ってよ。もう走れない」
「もうちょっとなのに。仕方ないなぁ」
9歳になったばかりのヴァレリア・ハップルスは4歳年上のハインツの背を追いかけて道の両側に銀杏の木が葉を揺らす斜面を駆けて来た。2人はまだ結婚の意味も満足に理解をしていないが「爺と婆になるまで一緒にいる」と誓い合った仲。
駆けのぼった先にあったのは2人のお気に入りの場所でシロツメクサが満開だった。
「わぁ!昨日も沢山摘んだのに今日もいっぱい!」
「リアはそっち!どっちが速いか競争だ」
「ズルい!ハインツの方がいっぱい咲いてる!」
「一緒だよ。ほら早く始めないと今日も負けちゃうぞ」
2人はシロツメクサ畑に座り込んで長い茎を千切り、花冠を作り始めた。
女の子の遊びかと思いきや、ロイス領の子供たちは縄の編み方を先ずシロツメクサで覚える。
編み方一つで麻縄よりも頑丈なロープだって出来てしまう。
要領を覚えているハインツの方が先に編み上がるのは当然で、ヴァレリアがまだ編むための花を集めている時には編み始め、ヴァレリアが編み始める頃にはハインツは仕上げに入る。
「出来たぁ!!今日も俺の勝ち!」
得意げなハインツにヴァレリアは頬をプゥと膨らませて不機嫌さを表す。
「リア、今日のは今までで一番いい出来なんだ。だから…ちょっと屈んで」
ハインツはそう言うとヴァレリアの頭に作ったばかりの花冠をのせた。
「丁度だな」
「くれるの?」
「うん。エヘへ。これはリアが俺の奥さんだって証拠だ」
「証拠?」
「そう。証拠。この前来てた芝居小屋の親方が言ってたんだ。貴族は結婚する時に男が女に宝石を贈るんだって。でも俺は平民だし宝石を買う金もないから」
得意げな顔でハインツは花冠を頭にのせたヴァレリアの隣に腰を下ろした。
「俺さ・・・騎士になる」
「騎士?警護団の?」
「違う。王都に行って騎士になる。うんと偉い騎士になって国王陛下から爵位を貰うんだ」
「そんなの貰ってどうするの?」
「リアは伯爵令嬢だろ?俺は平民。このままじゃリアが笑われちゃうからさ」
「気にしないのに…。ハインツは王都に行っちゃうの?」
「うん。でも絶対に帰って来る。偉くなってリアを迎えに帰って来る。この花冠に誓うよ」
ヴァレリア9歳、ハインツ13歳。
「花冠に誓う」と芝居小屋の俳優の見様見真似。騎士の誓いをヴァレリアに告げ、翌週ハインツは王都に行商に向かう領民と共に荷馬車に乗った。
騎士になるには入団試験を受ける必要がある。
鍛錬に耐えられる体力が無ければいざと言う時に役には立たない。
年齢は試験の申し込みが13歳からで、申し込みをすれば数日場に慣れる意味で相部屋にはなるが試験の日まで衣食住が保証される。
試験があるのは3年に1度なのでハインツは直ぐに申し込んだ。試験を突破出来れば見習いでも騎士は独身寮があり無料で入寮も出来るし給料も出る。
現在王太子殿下の専属となっている騎士には16歳の少年がいると知った。
――たった2年でそこまで出世できるんだ?!――
決して裕福とは言えない田舎からすれば、生涯で王族を目にする機会が何回あるだろう。一度も見る事のないまま死んでいく者が多いのは間違いない。
そして騎士の給金を知ってハインツは目を輝かせた。
両親が必死で働いた3カ月分の給金より騎士の1カ月の給金の方が多かった。
騎士の世界は実力がモノを言う。
平民でも実力さえあれば認めて貰える。
――早く一人前にならなきゃ――
期待に胸を膨らませたハインツを乗せた荷馬車はゆっくりと王都に向かって走って行った。
「もうちょっとなのに。仕方ないなぁ」
9歳になったばかりのヴァレリア・ハップルスは4歳年上のハインツの背を追いかけて道の両側に銀杏の木が葉を揺らす斜面を駆けて来た。2人はまだ結婚の意味も満足に理解をしていないが「爺と婆になるまで一緒にいる」と誓い合った仲。
駆けのぼった先にあったのは2人のお気に入りの場所でシロツメクサが満開だった。
「わぁ!昨日も沢山摘んだのに今日もいっぱい!」
「リアはそっち!どっちが速いか競争だ」
「ズルい!ハインツの方がいっぱい咲いてる!」
「一緒だよ。ほら早く始めないと今日も負けちゃうぞ」
2人はシロツメクサ畑に座り込んで長い茎を千切り、花冠を作り始めた。
女の子の遊びかと思いきや、ロイス領の子供たちは縄の編み方を先ずシロツメクサで覚える。
編み方一つで麻縄よりも頑丈なロープだって出来てしまう。
要領を覚えているハインツの方が先に編み上がるのは当然で、ヴァレリアがまだ編むための花を集めている時には編み始め、ヴァレリアが編み始める頃にはハインツは仕上げに入る。
「出来たぁ!!今日も俺の勝ち!」
得意げなハインツにヴァレリアは頬をプゥと膨らませて不機嫌さを表す。
「リア、今日のは今までで一番いい出来なんだ。だから…ちょっと屈んで」
ハインツはそう言うとヴァレリアの頭に作ったばかりの花冠をのせた。
「丁度だな」
「くれるの?」
「うん。エヘへ。これはリアが俺の奥さんだって証拠だ」
「証拠?」
「そう。証拠。この前来てた芝居小屋の親方が言ってたんだ。貴族は結婚する時に男が女に宝石を贈るんだって。でも俺は平民だし宝石を買う金もないから」
得意げな顔でハインツは花冠を頭にのせたヴァレリアの隣に腰を下ろした。
「俺さ・・・騎士になる」
「騎士?警護団の?」
「違う。王都に行って騎士になる。うんと偉い騎士になって国王陛下から爵位を貰うんだ」
「そんなの貰ってどうするの?」
「リアは伯爵令嬢だろ?俺は平民。このままじゃリアが笑われちゃうからさ」
「気にしないのに…。ハインツは王都に行っちゃうの?」
「うん。でも絶対に帰って来る。偉くなってリアを迎えに帰って来る。この花冠に誓うよ」
ヴァレリア9歳、ハインツ13歳。
「花冠に誓う」と芝居小屋の俳優の見様見真似。騎士の誓いをヴァレリアに告げ、翌週ハインツは王都に行商に向かう領民と共に荷馬車に乗った。
騎士になるには入団試験を受ける必要がある。
鍛錬に耐えられる体力が無ければいざと言う時に役には立たない。
年齢は試験の申し込みが13歳からで、申し込みをすれば数日場に慣れる意味で相部屋にはなるが試験の日まで衣食住が保証される。
試験があるのは3年に1度なのでハインツは直ぐに申し込んだ。試験を突破出来れば見習いでも騎士は独身寮があり無料で入寮も出来るし給料も出る。
現在王太子殿下の専属となっている騎士には16歳の少年がいると知った。
――たった2年でそこまで出世できるんだ?!――
決して裕福とは言えない田舎からすれば、生涯で王族を目にする機会が何回あるだろう。一度も見る事のないまま死んでいく者が多いのは間違いない。
そして騎士の給金を知ってハインツは目を輝かせた。
両親が必死で働いた3カ月分の給金より騎士の1カ月の給金の方が多かった。
騎士の世界は実力がモノを言う。
平民でも実力さえあれば認めて貰える。
――早く一人前にならなきゃ――
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