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#4 決められた結婚
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「承諾できません」
9日後に14歳の誕生日を迎えるヴァレリアは叔父のハーゲンの目を真っ直ぐ見て差し出してきた結婚承諾書を突き返した。
「立場を理解していないのか?この領地とて王家に返さなければならないだろう?宿なしになるお前に住む場所も嫁ぎ先も決めて来てやったんだ。お前の為にこの私が決めてやったんだぞ?」
ハーゲンの言う通り住んでいる屋敷も領地もレナードが一代限りと王家の直轄地を預かっていたに過ぎず、レナードが亡くなった今は返還の手続きが取られている。
今日、明日に追い出されるわけではないが長くても2、3か月しか滞在は許されないだろう。
レナードの言葉通りに使用人達はその手続きを可能な限りゆっくりと行い、時間を稼いでいたのだが各地を回って行商をする商人からレナードが亡くなった事を知ったハーゲンはフルボツ侯爵家に話を持ち掛け、即日で話を纏めてきた。
あと数日。その数日が明暗を分けた。結婚承諾書の日付が恨めしい。
この国では結婚は何歳でも出来る。ただ夫と妻どちらも18歳以上になるまでは閨を共にする事はない。と、言っても閉ざされた屋敷の中での事で守られているとは限らない。
ほくそ笑むハーゲンの考えている事などお見通し。
レナードによって管理されていた全ての資産が手に入る上に、当主となる前にヴァレリアが嫁ぐ事で当主代行から当主に格上げされる。
勿論不服申し立てをしようにもその結婚を無効にするための訴えに必要な後見人がヴァレリアにはいなかった。
「こんな田舎で土に塗れながら暮らすより、煌びやかな王都で楽しく過ごせるんだ。考えてもみろ。王家に領地を戻した後、お前の家はハップルス伯爵家となるが…いいんだよ?私はね。お前は姪だし同居したって構わない。代行していた当主の座だって直ぐにお前に返したっていいんだ。だがよぉく考えろ?」
ハーゲンは「さも」困ったような表情を浮かべた。
「私だって考えたさ。あと何日だ?1週間とちょっとでお前は家督を継げる。継いだって良い。私はただの代行だ。当主にはすぐなれるさ。だが、その後はどうする?貴族の子供たちは幼い頃から社交の真似事をして同年代の子供同士でコミュニティを作る。友人同士家を行き来して親に顔を覚えて貰うのさ。それでも家督を継ぐのは20歳を超えてから。何故か判るか?田舎暮らしをしていると判らないだろう?」
睨みつけるヴァレリアを蔑むように口角をあげてハーゲンは続ける。
「子供だからさ。場数も踏んでいない子供に何が出来る?ましてお前は顔も名前も知られていない。右往左往した挙句にハップルス伯爵家は落ちぶれてしまうのは目に見えているじゃないか。いやいや、いいんだよ?私はね?だが、兄上はどうだろうと考えたのさ。父上から引き継いだ伯爵家を命を賭して救った娘が潰してしまうとなれば永眠どころではないだろう?」
「お父様を引き合いに出さないで。関係ない話だわ」
「関係ない?アッハッハ。大有りだよ。そんなところがまだ子供だと言うんだ。いいか?家を潰す、つまりそれまで先祖が引き継いできたハップルス伯爵家をお前が潰す。これは由々しき問題だ。デヴュタントもしていないお前に何かできる?書類にサインして家印を押せば終わりじゃないんだ。こんな田舎で書類を見てただけならそう勘違いをしてしまうのも無理はないが、実際は・・・甘くない」
ハーゲンは言葉尻にあわせて首をコテンと傾けた。
「そんな事は承知しております」
「いいや、してないね。してないから簡単に判っているふりをする。何と浅はかなんだろう。あぁ憐れだよ。家が欲しいその気持ちはわかる。だが、それは今じゃなくていいだろう?」
「どういう意味ですか」
フフンと鼻を鳴らし、ハーゲンは立ち上がるとソファーテーブルを舐めるように回ってヴァレリアの隣に腰を下ろしてきた。そしてヴァレリアの手を包むように握った。
「止めてください!」ヴァレリアは手を引き抜いて、体を離すように横に動かした。
「夫となる男は何年も屋敷に返らず戦ごっこに明け暮れている男だ。上手く行けば顔も見ぬまま未亡人となって侯爵家の財産も手に入る」
「夫がいないのなら子も出来ません。家に戻されるだけでしょう。馬鹿馬鹿しい」
「それが出戻りにはならん。お前は子を産まずして侯爵家を手に入れることが出来るんだ。実質をお前が切り盛りする。その時、当主の座を交換してやってもいい」
「伯爵家の当主は無理で侯爵家なら大丈夫。そうも聞こえますわ」
「そりゃそうだろう。今のハップルス伯爵家は私がいる。空きがない上にお前が居心地悪い思いをするのに私は心を痛めてしまう。フルボツ侯爵家はまだ代替わりはしていない。手取り足取り教えてくれるさ。何と言ってもフルボツ侯爵が嫁を望んでいるんだから、お前が困らないように居場所も用意してくれている」
ハーゲンはもう一度テーブルの上に置いた書面をヴァレリアの目の前につきつけた。パン!と小気味よい音をさせて垂らした書面を指で弾くと、大笑いをし始めた。
「さっきも言ったろう?良いんだよ?ハップルス伯爵家に戻ってきても。覚えているかは知らないが、お前の知る伯爵家は焼け落ちて今はない。あの頃とは違う場所に建っているし、使用人も一新している。屋敷を切り盛りしているのだって私の妻だ。居場所のない伯爵家で肩身の狭い思いをさせたくないから結婚を決めて来たんだ。家を出るのが一番いい。何もかもお前の事を第一に考えての事だ」
「乗っ取りのような事を考えている癖に!」
「人聞きの悪い事を言うものじゃない。乗っ取りではなく交換、交換だ。が、フルボツ侯爵家に嫁ぐ事はもう決まった事だ。明後日の出立までに荷物を纏めろ。ヴァレリア、今のお前は私の管理下にある。丁度誕生日に王都につくような日程の旅だ。まぁ当主代行でだいぶ私も骨が折れた。嫁ぐ事でヴァレリアも私に恩返しが出来る。期待しているよ」
言いたいことは全て吐きだしたのか、ハーゲンは「今日は客間に泊ってやる」と言い残し部屋を出て行った。
9日後に14歳の誕生日を迎えるヴァレリアは叔父のハーゲンの目を真っ直ぐ見て差し出してきた結婚承諾書を突き返した。
「立場を理解していないのか?この領地とて王家に返さなければならないだろう?宿なしになるお前に住む場所も嫁ぎ先も決めて来てやったんだ。お前の為にこの私が決めてやったんだぞ?」
ハーゲンの言う通り住んでいる屋敷も領地もレナードが一代限りと王家の直轄地を預かっていたに過ぎず、レナードが亡くなった今は返還の手続きが取られている。
今日、明日に追い出されるわけではないが長くても2、3か月しか滞在は許されないだろう。
レナードの言葉通りに使用人達はその手続きを可能な限りゆっくりと行い、時間を稼いでいたのだが各地を回って行商をする商人からレナードが亡くなった事を知ったハーゲンはフルボツ侯爵家に話を持ち掛け、即日で話を纏めてきた。
あと数日。その数日が明暗を分けた。結婚承諾書の日付が恨めしい。
この国では結婚は何歳でも出来る。ただ夫と妻どちらも18歳以上になるまでは閨を共にする事はない。と、言っても閉ざされた屋敷の中での事で守られているとは限らない。
ほくそ笑むハーゲンの考えている事などお見通し。
レナードによって管理されていた全ての資産が手に入る上に、当主となる前にヴァレリアが嫁ぐ事で当主代行から当主に格上げされる。
勿論不服申し立てをしようにもその結婚を無効にするための訴えに必要な後見人がヴァレリアにはいなかった。
「こんな田舎で土に塗れながら暮らすより、煌びやかな王都で楽しく過ごせるんだ。考えてもみろ。王家に領地を戻した後、お前の家はハップルス伯爵家となるが…いいんだよ?私はね。お前は姪だし同居したって構わない。代行していた当主の座だって直ぐにお前に返したっていいんだ。だがよぉく考えろ?」
ハーゲンは「さも」困ったような表情を浮かべた。
「私だって考えたさ。あと何日だ?1週間とちょっとでお前は家督を継げる。継いだって良い。私はただの代行だ。当主にはすぐなれるさ。だが、その後はどうする?貴族の子供たちは幼い頃から社交の真似事をして同年代の子供同士でコミュニティを作る。友人同士家を行き来して親に顔を覚えて貰うのさ。それでも家督を継ぐのは20歳を超えてから。何故か判るか?田舎暮らしをしていると判らないだろう?」
睨みつけるヴァレリアを蔑むように口角をあげてハーゲンは続ける。
「子供だからさ。場数も踏んでいない子供に何が出来る?ましてお前は顔も名前も知られていない。右往左往した挙句にハップルス伯爵家は落ちぶれてしまうのは目に見えているじゃないか。いやいや、いいんだよ?私はね?だが、兄上はどうだろうと考えたのさ。父上から引き継いだ伯爵家を命を賭して救った娘が潰してしまうとなれば永眠どころではないだろう?」
「お父様を引き合いに出さないで。関係ない話だわ」
「関係ない?アッハッハ。大有りだよ。そんなところがまだ子供だと言うんだ。いいか?家を潰す、つまりそれまで先祖が引き継いできたハップルス伯爵家をお前が潰す。これは由々しき問題だ。デヴュタントもしていないお前に何かできる?書類にサインして家印を押せば終わりじゃないんだ。こんな田舎で書類を見てただけならそう勘違いをしてしまうのも無理はないが、実際は・・・甘くない」
ハーゲンは言葉尻にあわせて首をコテンと傾けた。
「そんな事は承知しております」
「いいや、してないね。してないから簡単に判っているふりをする。何と浅はかなんだろう。あぁ憐れだよ。家が欲しいその気持ちはわかる。だが、それは今じゃなくていいだろう?」
「どういう意味ですか」
フフンと鼻を鳴らし、ハーゲンは立ち上がるとソファーテーブルを舐めるように回ってヴァレリアの隣に腰を下ろしてきた。そしてヴァレリアの手を包むように握った。
「止めてください!」ヴァレリアは手を引き抜いて、体を離すように横に動かした。
「夫となる男は何年も屋敷に返らず戦ごっこに明け暮れている男だ。上手く行けば顔も見ぬまま未亡人となって侯爵家の財産も手に入る」
「夫がいないのなら子も出来ません。家に戻されるだけでしょう。馬鹿馬鹿しい」
「それが出戻りにはならん。お前は子を産まずして侯爵家を手に入れることが出来るんだ。実質をお前が切り盛りする。その時、当主の座を交換してやってもいい」
「伯爵家の当主は無理で侯爵家なら大丈夫。そうも聞こえますわ」
「そりゃそうだろう。今のハップルス伯爵家は私がいる。空きがない上にお前が居心地悪い思いをするのに私は心を痛めてしまう。フルボツ侯爵家はまだ代替わりはしていない。手取り足取り教えてくれるさ。何と言ってもフルボツ侯爵が嫁を望んでいるんだから、お前が困らないように居場所も用意してくれている」
ハーゲンはもう一度テーブルの上に置いた書面をヴァレリアの目の前につきつけた。パン!と小気味よい音をさせて垂らした書面を指で弾くと、大笑いをし始めた。
「さっきも言ったろう?良いんだよ?ハップルス伯爵家に戻ってきても。覚えているかは知らないが、お前の知る伯爵家は焼け落ちて今はない。あの頃とは違う場所に建っているし、使用人も一新している。屋敷を切り盛りしているのだって私の妻だ。居場所のない伯爵家で肩身の狭い思いをさせたくないから結婚を決めて来たんだ。家を出るのが一番いい。何もかもお前の事を第一に考えての事だ」
「乗っ取りのような事を考えている癖に!」
「人聞きの悪い事を言うものじゃない。乗っ取りではなく交換、交換だ。が、フルボツ侯爵家に嫁ぐ事はもう決まった事だ。明後日の出立までに荷物を纏めろ。ヴァレリア、今のお前は私の管理下にある。丁度誕生日に王都につくような日程の旅だ。まぁ当主代行でだいぶ私も骨が折れた。嫁ぐ事でヴァレリアも私に恩返しが出来る。期待しているよ」
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