あなたと私の嘘と約束

cyaru

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#5  侯爵家の事情

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フルボツ侯爵家は家督継承の問題で頭を抱えていた。
子供は4人いるのだが、長男は前妻との子供で母親の喪も明けぬうちに後妻とその連れ子を屋敷に迎え入れた父親と折り合いが合わず5年前に貴族籍を放棄し、家を出た。

長女も次女も前妻との子で、2人とも家督を継ぐ子息の元に嫁いでおり、今は夜会で顔を合わせれば他の貴族同様に挨拶を交わす程度で疎遠となっている。

残ったのは後妻が侯爵家に来た時に連れていた子、アルフレード。
フルボツ侯爵の子供に間違いはなく、侯爵にとっては末子となる。
27歳になる美丈夫なのだが、まだ未婚。

婚約の話は幾つもあったのだが、全て相手方から丁寧な断りを頂いている。
その理由は2つ。

1つはアルフレードは極度のミリタリー狂で1年のうちほとんどは国境付近の紛争地にいる。レナードが現役だった頃よりは落ち着いてはいるものの侵攻が無くなった訳ではない。

敵と対峙しるかられるか、極限の緊張や興奮を求める男がアルフレード。
これだけなら「亭主元気で留守がいい」となり嫁ぐ者にとっては左団扇。

なのにどの家からも断られているのはもう1つの理由が全てと言って良い。


フルボツ侯爵家にはイエヴァという女性とハンスという乳飲み子がいる。
年から年中紛争地にいるアルフレードが王都で寝泊まりをする事は少ないのだが、イエヴァは半年前ひょっこりと乳飲み子のハンスを抱いてフルボツ侯爵家にやってきた。

イエヴァが言うにはハンスはアルフレードとの間に出来た子で、アルフレードから王都にあるフルボツ侯爵家で面倒をみて貰えと言われたと言う。

イエヴァは隣国の今は廃家となった子爵家の娘で廃家となった理由は借金。その借金を返すために娼館で客を取っていたが、アルフレードに見初められ足抜けをする為の金をアルフレードが娼館に支払い、暫くは辺境に近いグベラの街でアルフレードと暮らしていた。

紛争地を渡り歩くアルフレードはグベラの街の紛争が落ち着いたので別の地に向かう際、イエヴァに子供を連れて王都に行くようにと告げたのだと言う。

本人に確認をしようにもアルフレードがぐるりと国を囲む国境線の何処にいるかも判らず、各方面に書簡を出したが、届いた返事は「該当者なし」だった。
高位貴族の子息となると身分や名前を偽って従軍している可能性もあり、捜索はお手上げ状態。

追い出せなかったのはイエヴァがフルボツ侯爵家の家紋が入ったカフスのセットを持っていた事にあった。


嫁いだそばから夫は不在、子供を連れた愛人と同居。
フルボツ侯爵家の親戚は口を揃えてならば愛人と正式に結婚をすれば良いではないかと言ったが、ただ没落しただけの元貴族ならまだしも娼婦だった者を迎え入れる事は出来ない。

ハンスがアルフレードの子供なのかも確証が持てなかった。
髪の色も瞳の色もイエヴァと同じで、爪の形が似ている、生え際が似ていると言われてもまだ一人で立つことも出来ない赤子。しかし、カフスのセットを持っていた事から追い出す事も出来なかった。

それを持って出る所に出られてしまえば赤っ恥どころではない。

一先ずイエヴァとハンスの事は保留とし、フルボツ侯爵はアルフレードと結婚をしてくれる令嬢を探した。結婚そのものは書面で成立する。

フルボツ侯爵としても「貴族の嫁」は喉から手が出るほどに欲しい。
今はもう平民であろうが身分の差はあっても婚姻は可能となっている。

だが、侯爵家として「平民の嫁」では格好がつかない。
ましてイエヴァは娼婦あがり。


アルフレードが戻ればイエヴァとの関係がはっきりする。
ただハッキリさせるのはイエヴァとの関係ではなくハンスが本当にアルフレードの子なのか。それに尽きる。

実子であれば養子とすればいい。
フルボツ侯爵家としてはイエヴァを迎え入れる気はさらさらないのだから、貴族の令嬢を先ず嫁がせてもらう事が急務だった。


フルボツ侯爵は「逆結納金」として驚くような金を提示したが、国内にはもうアルフレードと名ばかりとは言え結婚をしてくれるような令嬢はいないと諦めかけたフルボツ侯爵に話を持ち掛けたのがハーゲン。

年齢としては間もなく14歳になるヴァレリア。
数年は白い結婚となるだろうが、屋敷にアルフレードが戻らないのだからこの際年齢は関係ない。いや若ければ若い方が「そろそろ落ち着きたい」と屋敷に戻った時にむしろ喜ぶくらいだろうとハーゲンはフルボツ侯爵にヴァレリアを売り込んだ。


多額の「逆結納金」に目が眩んだハーゲンと、「貴族の嫁」なら問題ないフルボツ侯爵の利害が一致し、ヴァレリアとアルフレードは当人が何も知らないままで婚約を飛ばし、婚姻となった。
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