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絡めとられるシャーロット

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バシッ!!ガシャーン!!


「何をしてたんだ!あいつらは!」


はぁ、ウンザリですわね。
この男には何を期待してもダメだという事が判りましたの。
モノに当たってもどうにもなりませんのに。古物商にでも売れば買取価格がパン1個の値段程度でもあったかも知れない壺は割らないほうがお腹の足しには出来ましたのに。


そろそろ結果をもってベッカリー侯爵が雇った男達が戻って来る頃だったけれど、誰一人帰ってきやしない。ハッキリ言って怒りたいのはわたくしの方。
破落戸たちを雇うのも、交換用の馬の代金も用意をしたのはわたくし。
大損害ですのよ?


先ほどまで屋敷にいたのは、トマフィー国で馬車などの交換用馬を貸し出している男。貸した馬は帰ってこないし、預かった馬は1つ手前の同じ商売してる者が引き取りに来る。

わたくしが用意した馬を最初に預かった者は得をするかと言えばそうではないの。破落戸たちだって無事に仕事を終えて帰ってきてもその後の馬の世話までは出来ない。
だから破落戸たちに渡した馬も借り物。

結局最後に馬を貸したトマフィー国の貸し馬屋が損をしただけ。
30頭分の代金を払えと怒鳴り込んで来たの。

1頭、2頭なら保証人は要らないけれど30頭ともなればそれなりの人間でなければ貸してはくれない。だから、わたくしは金は出すけれど保証人は義父のベッカリー侯爵にしたのよ。

怒り心頭の男が屋敷を訪れた時点で計画は失敗と判ったでしょう?
計画通りだったのは馬車を襲ったというところまで。トマフィー国に破落戸たちが捕縛された時点で詰んだも同然。


もうベッカリー侯爵家は見限る事にしたのよ。
今日は引導を渡しに来ただけ。


「貴様、今更逃げられると思うなよ!」

「何を言ってますの?わたくしは義父に恫喝されて代金を捻出しただけよ?」

「そんな事が通用すると思うなよ。事がバレればお前だって一蓮托生だ」


顎よりも股間の傷口が化膿して、切り落としたけれど感染症を併発したルシオンはもう虫の息。となれば秘密を知る者はわたくしと目の前の男だけ。
任せておいても失敗ばかりの役立たずに用はないわ。


「あら?面白い事を仰るのね。ルシオンの浮気癖は周知の事実。何を話そうが何を言ってるかも判らない。破落戸どもがここを出たのはルシオンがあぁなった後。息子の仇を取ろうと躍起になった父親が元凶。どこの世界に3年以上夫の浮気に苦しんで実家にまで逃げ帰った嫁が手を貸したなんて信じる馬鹿がいるのかしら?」


わたくしが義父のベッカリー侯爵に強い態度で出ているのは昨夜、お父様の書斎で【とある書類】を盗み読みしたから。宝飾品がないと騒ぎ出した兄嫁から拝借する事が出来ないからお父様の書斎に忍び込んで正解だったわ。
売れる物は何一つなかったけれど、アレを見ていなかったら一緒に泥船で沈むところだった。


トマフィー国から、王弟の従者がアブレド国で斬りつけられた件の捜査依頼。
これはきっとレオパス子爵を襲わせた時の異国の男性に間違いない。
これだけなら鼻で笑うところだったけれど、問題は次の行だった。

破落戸が街道で襲ったのはトマフィー国の王弟の馬車でそこに王弟もいたという事実。
エルシーがトマフィー国の王弟とどういう関りがあるかは知らないけれど、流石にこれはもう手を出しちゃいけないって事くらいわたくしも判るもの。


だけど、同じ侯爵家なのにベッカリー侯爵には来ていないのかしら。まぁ、まともに仕事も出来ない侯爵家にいちいち知らせた所でどうにもならないと陛下も考えたのかも知れないわね。


「お父様に頼んで離縁の申請をするわ。安心して。子供はわたくしが育てるから」

「お前…逃げ切れるとでも思っているのか?考えが甘いな」

「逃げ切る?まぁ怖い。怖い。わたくしが何をしたと仰るの?誰もわたくしの罪を証明する者はいなくてよ?だって浮気者の夫に情もないもの。犯罪者となった貴方が息子の嫁だったからと、わたくしを名指ししたところで信じる者がいると思ってるなんてどれだけ頭に花が咲いてる、いえ咲き乱れているのかしら?」

「それがいるんだよ」

「へぇ。トマフィー国にまで行ってエルシーを今度は貴方が捕まえてきて証言させる気?うふふ。それが出来るならとっくにやってるわよね。出来なくて墓穴ばかりを大きくしたおバカさん♡」

「お前は逃げられない。墓穴を掘ったのは俺じゃないからだ…クックック」


なんなの‥‥八方塞がりで遂に頭までおかしくなったのかしら。
不気味に笑うベッカリー侯爵はねっとりとした目でわたくしを見たの。


「お前は逃げられないんだよ。俺が捕縛されないようにお前は俺を匿うしかないんだ」

「何をバカな事を。さっきも言ったでしょう?貴方の言葉を信じる者なんて誰一人いやしないの」


わたくしがそう言った後、すぐさま聞こえるはずのない声が聞こえたの。
何故?どうして?どうして貴方がここにいるの?

「証人ならいるんだよ。シャーロット」


声の主は、第三王子ベルファン殿下だった。
今はもう王族として籍があるかは判らない。
だけど正式に廃嫡になったとも発表は…ない?!
わたくしは背筋に毛虫が這ったかと思うほどに、身の毛がよだったの。


「実家に入り浸りのお前は気が付かなっただけだ。ヒトという生き物は難儀な生き物でね、名前が同じなら見知った物を想像してしまう。地下牢と聞いてブランセ侯爵家の地下牢を想像したんだろう?綺麗なドレスが汚れてしまうのがブランセ侯爵家の地下牢なんだろうが…我が家の地下牢は快適でね。評判が良いんだよ。そうだ、良い事を教えてやろう」

「何よ…」

「大人の世界には【敵を騙すにはまず味方から】ということわざもあるんだ」

「なんですって…わたくしを騙していたの?!」

「結果的にはそうなっただけだ。シャーロット、お前は地下牢を見に行こうともしなかったじゃないか。私を小馬鹿にした目でいつも見ていたが、私はそんなお前を魚にして飲むワインが殊更に好きだったよ」


ねっとりとした視線でわたくしを絡めとる義父。
そして、この男にこんな事を言われるなんて!


「似たもの夫婦とはよく言ったものだな。あのルシオンに似てバカなシャーロットだ」


この悪党!わたくしを騙すなんて!絶対に許さないんだから!
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