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クリス様の元婚約者①
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その日はクリス様が王宮へご出仕されておられる日で御座いました。
朝食の後、クリス様やお父様、お兄様をお見送りしたわたくしは、午前中はダンスレッスンとの事でドレスに着替え、ダンスホールでルディさんにお相手をお願いし練習をいたしました。
シグマは大抵お屋敷にいるのですが、その日に限ってサイモンさんと王立博物館に見学に出ておりました。
そろそろクリス様がお戻りになる時刻。休憩を挟んであと1曲にしましょうとルディさんが仰った時、従者さんがダンスホールにいらっしゃいました。
「どうしましょう。お客様が…」
家令のサイモンさんも居られませんし、執事であるルディさんに判断を仰ごうと使用人さんがやって来たのです。元々お客様が来られる事がないので、純粋にわたくしは誰だろうと思ったのです。
このお屋敷に来るお客様と言えば、クリス様のお母様か、王妃殿下のクラーラ様。
警備の関係でお兄様の同僚の方にもご遠慮頂いているのです。
「誰なのです。主は留守だと追い返しなさい」
「それが、パッツェ公爵令嬢で御座いまして、家紋入りの馬車で来られております」
「チッ!面倒な…」
アブレド国でも同じで御座いますが、家紋入りの馬車で来られたお客様には無碍な扱いは出来ないのです。対応に困った使用人さんは執事のルディさんに判断を仰いだのですけれど、ルディさんも家紋入りの馬車となれば追い返した時に、クリス様が王弟とは言え公爵家に対しての扱いを問われてしまいます。
「私が出ましょう。通してください」
「それが…エルシー様に会いに来たと仰いまして。先触れも出しており殿下からの返答も頂いていると仰るのです」
「殿下が会わせると返事を?そんなバカな」
いったいパッツェ公爵令嬢とは何方なのでしょう。
周りの使用人さんのお顔を見ると、小さく首を横振って目を伏せられます。
あまり歓迎されていない方のようですが、クリス様が先触れに返事をされているのであれば家長が許可をしたという事なのでしょう。お出かけの際にその旨をお声がけくだされば良いのですが忘れてしまわれたのでしょうね。
使用人さん達は【最近の殿下は浮かれている】と仰っておりましたし。
「ルディさん、わたくしは構いませんよ。ですが初見の方ですしまだトマフィー国のご挨拶も習い始めたばかりですから一緒にお願いいたします」
「いや…しかし…」
「どうされたのです?」
「殿下にもう一度確認を取りましょう。エルシー様はだたのお客様ではないのです。この国の公爵家と言えど万が一があってはなりませんので、ここでお待ちください」
「はい」
わたくしと、数名の侍女、従者を残しルディさんは王宮に早馬でも出されるのだと思います。ダンスシューズを履き替えて、椅子に座っておりますと扉の方が騒がしくなってまいりました。
「お黙り!わたくしに触れるなど手打ちにされても文句は言えないわよ!」
扉の前に塞がった男性従者の制止を振り切った女性が、ダンスホールに入って来たのです。美しい金髪を縦型のロール状に巻いた綺麗な女性で御座いました。
わたくしの前に侍女さんや従者の方がまるでその女性の視界にわたくしを入れないように立ち塞がります。
「おどきなさい」
「レセラ様、こんな所まで無礼ですよ」
「わたくしが無礼?貴方、わたくしに無礼だと言ったのかしら?」
「そうです。来訪をされるのであれば通された部屋で待つのが――」
「お黙り」
男性従者さんを一喝し、わたくしの名を呼ばれたのです。
「あなたがエルシーさん?」
侍女さんや従者さんに囲まれたわたくしと目が合ったパッツェ公爵令嬢のレセラ様の視線は、公園でわたくしを揶揄した令嬢たちとなんら変わらない物で御座いました。
頭から足先に往復する視線は段々と憎悪に満ちて参ります。
「破廉恥な身の程知らず。どんな女狐かと思えば、素朴さと純朴さが売りの安い娼婦ではないの。可愛いと言われて本気になったの?微笑を返されて自分だけだと思ったのかしら」
「レセラ様っ!何という事を!」
「お黙りジゼル。侍女風情がわたくしの名を口にして良いと思っているの!」
「パッツェ公爵令嬢様、ここは王弟クリストファー殿下の宮。殿下の留守に上がり込むなどどのような教育を受けて来られたのか。あまつさえ聞き捨てならない罵詈雑言は看過できません」
「ジゼル、あなた女官長を下ろされてこんな女の世話をして恥ずかしくないの?」
「恥ずかしく御座いません。このお役目は自ら殿下に望んだもの。誉と思っております」
「たかが侯爵家のお前に誉などあると思って?そこをおどき」
「どきません。お引き取りくださいませ」
両手を広げたジゼルさんにレセラ様は扇を振り被ったのです。
朝食の後、クリス様やお父様、お兄様をお見送りしたわたくしは、午前中はダンスレッスンとの事でドレスに着替え、ダンスホールでルディさんにお相手をお願いし練習をいたしました。
シグマは大抵お屋敷にいるのですが、その日に限ってサイモンさんと王立博物館に見学に出ておりました。
そろそろクリス様がお戻りになる時刻。休憩を挟んであと1曲にしましょうとルディさんが仰った時、従者さんがダンスホールにいらっしゃいました。
「どうしましょう。お客様が…」
家令のサイモンさんも居られませんし、執事であるルディさんに判断を仰ごうと使用人さんがやって来たのです。元々お客様が来られる事がないので、純粋にわたくしは誰だろうと思ったのです。
このお屋敷に来るお客様と言えば、クリス様のお母様か、王妃殿下のクラーラ様。
警備の関係でお兄様の同僚の方にもご遠慮頂いているのです。
「誰なのです。主は留守だと追い返しなさい」
「それが、パッツェ公爵令嬢で御座いまして、家紋入りの馬車で来られております」
「チッ!面倒な…」
アブレド国でも同じで御座いますが、家紋入りの馬車で来られたお客様には無碍な扱いは出来ないのです。対応に困った使用人さんは執事のルディさんに判断を仰いだのですけれど、ルディさんも家紋入りの馬車となれば追い返した時に、クリス様が王弟とは言え公爵家に対しての扱いを問われてしまいます。
「私が出ましょう。通してください」
「それが…エルシー様に会いに来たと仰いまして。先触れも出しており殿下からの返答も頂いていると仰るのです」
「殿下が会わせると返事を?そんなバカな」
いったいパッツェ公爵令嬢とは何方なのでしょう。
周りの使用人さんのお顔を見ると、小さく首を横振って目を伏せられます。
あまり歓迎されていない方のようですが、クリス様が先触れに返事をされているのであれば家長が許可をしたという事なのでしょう。お出かけの際にその旨をお声がけくだされば良いのですが忘れてしまわれたのでしょうね。
使用人さん達は【最近の殿下は浮かれている】と仰っておりましたし。
「ルディさん、わたくしは構いませんよ。ですが初見の方ですしまだトマフィー国のご挨拶も習い始めたばかりですから一緒にお願いいたします」
「いや…しかし…」
「どうされたのです?」
「殿下にもう一度確認を取りましょう。エルシー様はだたのお客様ではないのです。この国の公爵家と言えど万が一があってはなりませんので、ここでお待ちください」
「はい」
わたくしと、数名の侍女、従者を残しルディさんは王宮に早馬でも出されるのだと思います。ダンスシューズを履き替えて、椅子に座っておりますと扉の方が騒がしくなってまいりました。
「お黙り!わたくしに触れるなど手打ちにされても文句は言えないわよ!」
扉の前に塞がった男性従者の制止を振り切った女性が、ダンスホールに入って来たのです。美しい金髪を縦型のロール状に巻いた綺麗な女性で御座いました。
わたくしの前に侍女さんや従者の方がまるでその女性の視界にわたくしを入れないように立ち塞がります。
「おどきなさい」
「レセラ様、こんな所まで無礼ですよ」
「わたくしが無礼?貴方、わたくしに無礼だと言ったのかしら?」
「そうです。来訪をされるのであれば通された部屋で待つのが――」
「お黙り」
男性従者さんを一喝し、わたくしの名を呼ばれたのです。
「あなたがエルシーさん?」
侍女さんや従者さんに囲まれたわたくしと目が合ったパッツェ公爵令嬢のレセラ様の視線は、公園でわたくしを揶揄した令嬢たちとなんら変わらない物で御座いました。
頭から足先に往復する視線は段々と憎悪に満ちて参ります。
「破廉恥な身の程知らず。どんな女狐かと思えば、素朴さと純朴さが売りの安い娼婦ではないの。可愛いと言われて本気になったの?微笑を返されて自分だけだと思ったのかしら」
「レセラ様っ!何という事を!」
「お黙りジゼル。侍女風情がわたくしの名を口にして良いと思っているの!」
「パッツェ公爵令嬢様、ここは王弟クリストファー殿下の宮。殿下の留守に上がり込むなどどのような教育を受けて来られたのか。あまつさえ聞き捨てならない罵詈雑言は看過できません」
「ジゼル、あなた女官長を下ろされてこんな女の世話をして恥ずかしくないの?」
「恥ずかしく御座いません。このお役目は自ら殿下に望んだもの。誉と思っております」
「たかが侯爵家のお前に誉などあると思って?そこをおどき」
「どきません。お引き取りくださいませ」
両手を広げたジゼルさんにレセラ様は扇を振り被ったのです。
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