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第02話 黒い感情を押し殺して
「そういえば」と2か月ほど前にデリスから結婚が決まったと告げられたことを思い出した。
相手は誰だと問えば「貴族同士の結婚だから」とはぐらかされた。
今は高位貴族でも恋愛結婚が主流だが結婚式の当日まで釣書に書かれたこと以外は全く知らない者同士の結婚も絶滅したわけではない。
『アタシはね、真実の愛で結ばれた運命の人と結婚するの』と、常日頃から言ってたデリスでも、理想と現実を知ったのだろうかとアリアは思った。
貴族だからと皆が皆、若いうちに結婚出来る訳ではない。
生涯を独り身で送る者は意外に多いし、子供は養子を迎える予定で50代初婚同士の貴族夫婦も珍しくはない。
低位貴族の場合は相手がいるならさっさと結婚をしたほうが得策。不景気になると値が付くうちにと特に娘は娼館に売りに出されてしまう悲しい運命だ。
きっとデリスも容姿は度外視してもそこそこに資産家で年齢も見合う男性と縁談が纏まったのだろうとアリアは推測した。
式はどうするのかと問えば「身内だけで簡単に済ませる」とデリスはアリアに言った。
アリアの家もデリスの家も日々の生活でいっぱいいっぱいで余力は余りないので、ウェディングドレスに憧れていたデリスが理想と現実を受け入れたんだろうなと思ったくらいだ。
そのことを恋人のダリオンに言えば、ダリオンは少し考えて答えた。
「なら結婚する前に贈り物をしたらどうだ。2か月後は俺もちょっと騎士団の再編成でバタバタして休みは取れないしさ」
それもそうかとアリアは何の疑いもせずにデリスが「なら、お願いしてもいい?」とリクエストした少しばかり値段の張る小ぶりなテーブルセットを王城のシンボル3本塔から飛び降りる覚悟でプレゼントした。
ダリオンは「騎士団が落ち着いたら返すから立て替えておいてくれ」というのでアリアが全額自腹を切った。
新居となるアパートメントに届けに行くと部屋の中はデリスだけでなくどこか「ダリオンも好きそう」と思える内装だったと思い出すと情けなさだけが込み上げてきた。
「ははっ…あはは…そういうことだったのね」
何も知らなかったのは自分だけ。
自分の馬鹿さ加減に乾いた笑いしか出なかった。
祖母が亡くなったとダリオンの家には連絡をしたが葬儀に参列は誰一人いなかった。
デリスは来なかったけれど、デリスの家からはデリスの両親が来ていた。
お悔やみの言葉はもらったが、場が場なので今日の結婚のことは言えなかったのだろう。
でも、今後はどうするつもりだったのだろう。
ふと、今となってはお節介にも似た思いが込み上げた。
貴族は血が汚れることを極端に嫌うので、間男や間女という配偶者以外と関係を持つことは建前上タブーとされている。勿論みんなが清廉潔白だとは言わない。
やるなら見つからないように。お約束だ。
平民は貴族ほどでないと思いきや、平民のほうが不貞行為には厳しい目を向ける。
結婚をしても「籍」と言うものがないので口約束のようなものだが、他人の夫や妻には手を出さない。籍がないからこそ気持ちで結ぶ契約を重要視しているのだ。
なんだかんだでアリアとデリスは幼馴染だし、近所の人はダリオンの恋人はアリアだと知っている。
人の噂も七十五日と言うが、事あるごとに噂は再燃するので死ぬまで付きまとう。
世間体を気にするダリオンの母親や、身の回りの事には厳しい騎士団に所属するダリオン、他人の顔色を窺って日和見なデリスに耐えられるのだろうか。
「ダメダメ。喜ばしい事よ。悪く考えちゃダメ」
アリアは心の奥でムクリと頭をもたげた黒い感情を押し殺した。
少しばかり光景を見て足を止めてしまったアリアは「ここにいても仕方ない」と貴族院に向かって歩き出した。
角を曲がると風上だからか会場の声はもう聞こえてこない。
なのにアリアの頬には幾筋も跡を残して涙が伝った。
相手は誰だと問えば「貴族同士の結婚だから」とはぐらかされた。
今は高位貴族でも恋愛結婚が主流だが結婚式の当日まで釣書に書かれたこと以外は全く知らない者同士の結婚も絶滅したわけではない。
『アタシはね、真実の愛で結ばれた運命の人と結婚するの』と、常日頃から言ってたデリスでも、理想と現実を知ったのだろうかとアリアは思った。
貴族だからと皆が皆、若いうちに結婚出来る訳ではない。
生涯を独り身で送る者は意外に多いし、子供は養子を迎える予定で50代初婚同士の貴族夫婦も珍しくはない。
低位貴族の場合は相手がいるならさっさと結婚をしたほうが得策。不景気になると値が付くうちにと特に娘は娼館に売りに出されてしまう悲しい運命だ。
きっとデリスも容姿は度外視してもそこそこに資産家で年齢も見合う男性と縁談が纏まったのだろうとアリアは推測した。
式はどうするのかと問えば「身内だけで簡単に済ませる」とデリスはアリアに言った。
アリアの家もデリスの家も日々の生活でいっぱいいっぱいで余力は余りないので、ウェディングドレスに憧れていたデリスが理想と現実を受け入れたんだろうなと思ったくらいだ。
そのことを恋人のダリオンに言えば、ダリオンは少し考えて答えた。
「なら結婚する前に贈り物をしたらどうだ。2か月後は俺もちょっと騎士団の再編成でバタバタして休みは取れないしさ」
それもそうかとアリアは何の疑いもせずにデリスが「なら、お願いしてもいい?」とリクエストした少しばかり値段の張る小ぶりなテーブルセットを王城のシンボル3本塔から飛び降りる覚悟でプレゼントした。
ダリオンは「騎士団が落ち着いたら返すから立て替えておいてくれ」というのでアリアが全額自腹を切った。
新居となるアパートメントに届けに行くと部屋の中はデリスだけでなくどこか「ダリオンも好きそう」と思える内装だったと思い出すと情けなさだけが込み上げてきた。
「ははっ…あはは…そういうことだったのね」
何も知らなかったのは自分だけ。
自分の馬鹿さ加減に乾いた笑いしか出なかった。
祖母が亡くなったとダリオンの家には連絡をしたが葬儀に参列は誰一人いなかった。
デリスは来なかったけれど、デリスの家からはデリスの両親が来ていた。
お悔やみの言葉はもらったが、場が場なので今日の結婚のことは言えなかったのだろう。
でも、今後はどうするつもりだったのだろう。
ふと、今となってはお節介にも似た思いが込み上げた。
貴族は血が汚れることを極端に嫌うので、間男や間女という配偶者以外と関係を持つことは建前上タブーとされている。勿論みんなが清廉潔白だとは言わない。
やるなら見つからないように。お約束だ。
平民は貴族ほどでないと思いきや、平民のほうが不貞行為には厳しい目を向ける。
結婚をしても「籍」と言うものがないので口約束のようなものだが、他人の夫や妻には手を出さない。籍がないからこそ気持ちで結ぶ契約を重要視しているのだ。
なんだかんだでアリアとデリスは幼馴染だし、近所の人はダリオンの恋人はアリアだと知っている。
人の噂も七十五日と言うが、事あるごとに噂は再燃するので死ぬまで付きまとう。
世間体を気にするダリオンの母親や、身の回りの事には厳しい騎士団に所属するダリオン、他人の顔色を窺って日和見なデリスに耐えられるのだろうか。
「ダメダメ。喜ばしい事よ。悪く考えちゃダメ」
アリアは心の奥でムクリと頭をもたげた黒い感情を押し殺した。
少しばかり光景を見て足を止めてしまったアリアは「ここにいても仕方ない」と貴族院に向かって歩き出した。
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なのにアリアの頬には幾筋も跡を残して涙が伝った。
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