小切手を拾っただけなのに~それは侯爵子息の溺愛の始まりでした~

cyaru

文字の大きさ
3 / 44

第03話  小切手を拾ったら求婚された

アリアの頬を伝う涙も乾いたころ到着した貴族院の前ではちょっとした騒ぎが起きていた。

なんでも今日、婚姻の届けを出すはずなのに相手が来ない、いや正確には来ているのだが来たのは僅かばかりの迷惑料の小切手を持った従者で「話が違う」と言い合いになっていた。

「で、ですから私は主から伝言を頼まれただけなんです。文句は主に言っていただかないと」
「勿論だ。正式に抗議させてもらう。だが婚姻は貴族同士家と家の取り決めだろう!それをこんな紙切れで済まそうだなどと失礼にもほどと言うものがあるだろうが!」
「ですから!それをただの使いである私に言われても困ります」

不毛な言い合いを続けていれば、足を止める野次馬が集まり始める。
貴族院の表玄関なので公園の噴水広場ほどではないにしても、道行く人の興味を掻き立てていた。

「とにかく!これは主から貴方に必ず渡せと言われたものです!」

従者は男性の胸ポケットに小切手を捻じ込むと「ほんと!勘弁してくれよ」と言いながら男性を突き飛ばし距離を取った。

突き飛ばされた男性は転びこそしなかったが、後ろに数歩下がる格好になった隙に従者はその場から駆け出しあっという間に見えなくなった。

「マジかよ。もう日がないってのに…なんてこった」

ぽつりと呟いた男性は「はぁー」大きくため息をついて周囲を見回すも集まっていた野次馬は目が合いそうになると顔を背けた。

男性の着ている服は平民がちょっといい感じの服を着た程度で、貴族だとしても低位貴族確定。手も顔も煤で汚れていて「そりゃ土壇場であっても逃げるだろ」と思わせるに十分だった。


野次馬が散り始めると胸ポケットに捻じ込まれたが半分も入りきらなかった小切手がひらりと落ちて風に乗りアリアの足元に舞って落ちた。

事情は知らないが、一応は小切手。
関係の人が拾って金融商会で換金も出来てしまうのでアリアは拾い上げて男性に戻そうと差し出した。

「落ちましたよ」
「・・・・」
「あの、これ。落ちましたよ」
「あんた…貴族か?」
「は?」
「あんただよ。貴族か?結婚してんのか?してないなら結婚してくれないか!」

いきなりガッと両肩を掴まれて体が前後に揺すられたアリアは目がぐるぐると回る。
祖母が亡くなる数日前から寝ずの看病で看取ってからは冬場だとは言え早くに葬儀を行い埋葬をせねば死者特有の腐臭が漂ってしまう。

直近10日は仮眠すら取ったか取らなかったか。
済ませることは早くに済ませようと埋葬した墓地から歩いた途中で最愛だった男と信じていた友人の裏切りを知っての今。全てが限界だった。

「キュゥゥゥ・・・・」
「おいっ!おいっ!寝るな!目を覚ませ!おいっ!」

耳元で怒鳴る男性の声もアリアの耳には遠くの空で稲光を放つ遠雷にしか聞こえない。
ハッと男性が周囲を見れば「何やってんだ」「女の子相手に酷いな」と非難囂々の目。

仕方なくアリアを横抱きにした男性は貴族院の大玄関前の階段を駆け下りるが、降りた先で「何処にいたんだ?」と思わせる豪奢な馬車がやってきた。

扉が開くと最新式の馬車だとすぐにわかる。
最新式は馬車に乗り込むステップが扉を開くと同時に出てきて、扉が閉じるとステップも格納される。

その場にいた誰もが男性は没落貴族か、それとも金のない家の出で金持ちの令嬢との結婚を夢見たが直前で夢破れたと思っていただけに余りのギャップに目を見開いた。
感想 19

あなたにおすすめの小説

強面夫の裏の顔は妻以外には見せられません!

ましろ
恋愛
「誰がこんなことをしろと言った?」 それは夫のいる騎士団へ差し入れを届けに行った私への彼からの冷たい言葉。 挙げ句の果てに、 「用が済んだなら早く帰れっ!」 と追い返されてしまいました。 そして夜、屋敷に戻って来た夫は─── ✻ゆるふわ設定です。 気を付けていますが、誤字脱字などがある為、あとからこっそり修正することがあります。

【本編完結】伯爵令嬢に転生して命拾いしたけどお嬢様に興味ありません!

ななのん
恋愛
早川梅乃、享年25才。お祭りの日に通り魔に刺されて死亡…したはずだった。死後の世界と思いしや目が覚めたらシルキア伯爵の一人娘、クリスティナに転生!きらきら~もふわふわ~もまったく興味がなく本ばかり読んでいるクリスティナだが幼い頃のお茶会での暴走で王子に気に入られ婚約者候補にされてしまう。つまらない生活ということ以外は伯爵令嬢として不自由ない毎日を送っていたが、シルキア家に養女が来た時からクリスティナの知らぬところで運命が動き出す。気がついた時には退学処分、伯爵家追放、婚約者候補からの除外…―― それでもクリスティナはやっと人生が楽しくなってきた!と前を向いて生きていく。 ※本編完結してます。たまに番外編などを更新してます。

【完結】転生したら悪役継母でした

入魚ひえん@発売中◆巻き戻り冤罪令嬢◆
恋愛
聖女を優先する夫に避けられていたアルージュ。 その夜、夫が初めて寝室にやってきて命じたのは「聖女の隠し子を匿え」という理不尽なものだった。 しかも隠し子は、夫と同じ髪の色。 絶望するアルージュはよろめいて鏡にぶつかり、前世に読んだウェブ小説の悪妻に転生していることを思い出す。 記憶を取り戻すと、七年間も苦しんだ夫への愛は綺麗さっぱり消えた。 夫に奪われていたもの、不正の事実を着々と精算していく。 ◆愛されない悪妻が前世を思い出して転身したら、可愛い継子や最強の旦那様ができて、転生前の知識でスイーツやグルメ、家電を再現していく、異世界転生ファンタジー!◆ *旧題:転生したら悪妻でした

公爵令嬢になった私は、魔法学園の学園長である義兄に溺愛されているようです。

木山楽斗
恋愛
弱小貴族で、平民同然の暮らしをしていたルリアは、両親の死によって、遠縁の公爵家であるフォリシス家に引き取られることになった。位の高い貴族に引き取られることになり、怯えるルリアだったが、フォリシス家の人々はとても良くしてくれ、そんな家族をルリアは深く愛し、尊敬するようになっていた。その中でも、義兄であるリクルド・フォリシスには、特別である。気高く強い彼に、ルリアは強い憧れを抱いていくようになっていたのだ。 時は流れ、ルリアは十六歳になっていた。彼女の暮らす国では、その年で魔法学校に通うようになっている。そこで、ルリアは、兄の学園に通いたいと願っていた。しかし、リクルドはそれを認めてくれないのだ。なんとか理由を聞き、納得したルリアだったが、そこで義妹のレティが口を挟んできた。 「お兄様は、お姉様を共学の学園に通わせたくないだけです!」 「ほう?」 これは、ルリアと義理の家族の物語。 ※基本的に主人公の視点で進みますが、時々視点が変わります。視点が変わる話には、()で誰視点かを記しています。 ※同じ話を別視点でしている場合があります。

結婚後、訳もわからないまま閉じ込められていました。

しゃーりん
恋愛
結婚して二年、別邸に閉じ込められていたハリエット。 友人の助けにより外に出ることができ、久しぶりに見た夫アルバートは騎士に連行されるところだった。 『お前のせいだ!』と言われても訳がわからなかった。 取り調べにより判明したのは、ハリエットには恋人がいるのだとアルバートが信じていたこと。 彼にその嘘を吹き込んだのは、二人いたというお話です。

図書館でうたた寝してたらいつの間にか王子と結婚することになりました

鳥花風星
恋愛
限られた人間しか入ることのできない王立図書館中枢部で司書として働く公爵令嬢ベル・シュパルツがお気に入りの場所で昼寝をしていると、目の前に見知らぬ男性がいた。 素性のわからないその男性は、たびたびベルの元を訪れてベルとたわいもない話をしていく。本を貸したりお茶を飲んだり、ありきたりな日々を何度か共に過ごしていたとある日、その男性から期間限定の婚約者になってほしいと懇願される。 とりあえず婚約を受けてはみたものの、その相手は実はこの国の第二王子、アーロンだった。 「俺は欲しいと思ったら何としてでも絶対に手に入れる人間なんだ」

継母の嫌がらせで冷酷な辺境伯の元に嫁がされましたが、噂と違って優しい彼から溺愛されています。

木山楽斗
恋愛
侯爵令嬢であるアーティアは、継母に冷酷無慈悲と噂されるフレイグ・メーカム辺境伯の元に嫁ぐように言い渡された。 継母は、アーティアが苦しい生活を送ると思い、そんな辺境伯の元に嫁がせることに決めたようだ。 しかし、そんな彼女の意図とは裏腹にアーティアは楽しい毎日を送っていた。辺境伯のフレイグは、噂のような人物ではなかったのである。 彼は、多少無口で不愛想な所はあるが優しい人物だった。そんな彼とアーティアは不思議と気が合い、やがてお互いに惹かれるようになっていく。 2022/03/04 改題しました。(旧題:不器用な辺境伯の不器用な愛し方 ~継母の嫌がらせで冷酷無慈悲な辺境伯の元に嫁がされましたが、溺愛されています~)

一年後に離婚すると言われてから三年が経ちましたが、まだその気配はありません。

木山楽斗
恋愛
「君とは一年後に離婚するつもりだ」 結婚して早々、私は夫であるマグナスからそんなことを告げられた。 彼曰く、これは親に言われて仕方なくした結婚であり、義理を果たした後は自由な独り身に戻りたいらしい。 身勝手な要求ではあったが、その気持ちが理解できない訳ではなかった。私もまた、親に言われて結婚したからだ。 こうして私は、一年間の期限付きで夫婦生活を送ることになった。 マグナスは紳士的な人物であり、最初に言ってきた要求以外は良き夫であった。故に私は、それなりに楽しい生活を送ることができた。 「もう少し様子を見たいと思っている。流石に一年では両親も納得しそうにない」 一年が経った後、マグナスはそんなことを言ってきた。 それに関しては、私も納得した。彼の言う通り、流石に離婚までが早すぎると思ったからだ。 それから一年後も、マグナスは離婚の話をしなかった。まだ様子を見たいということなのだろう。 夫がいつ離婚を切り出してくるのか、そんなことを思いながら私は日々を過ごしている。今の所、その気配はまったくないのだが。