小切手を拾っただけなのに~それは侯爵子息の溺愛の始まりでした~

cyaru

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第24話  昼寝が出来ない

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「準備オッケー!さぁ行くわよ!」

レンコンを収穫するときに着用していた胴付きゴム長に身を包んだアリアは額を押さえるエルフィンを残し颯爽と腐敗した泥の中に進んでいった。

予定していた3日を軽く超えてもアリアはこの地に留まり、サンプルにするための泥を採取し「製造者責任よ!」と自分の肌に塗りまくる。
確かにアリアが言った通り、底の泥には嫌なにおいがほとんどなかった。

ブドウの成分であるポリフェノールがたっぷりと染み込んだ泥はアリアだけだと可哀想だからと御者、そしてワインの貯蔵庫を管理する管理人の夫人が同じように泥を肌に塗ったら、本当に肌の状態が改善されたが、問題があった。

「うーん。いい感じなんだけどなぁ」
「効き目が強すぎるんじゃないですかね。男の私でも美肌ですよ」
「そうかも知れないねぇ」

ただ、泥は乾燥する。効き目が強いので乾燥をする前に奇麗に洗い流し、グレープシードオイルはないので保湿クリームを塗らなければ肌が荒れてしまうのである。

「初日と2日目は洗い流すだけで良かったんですけど、3日目はもうヒリヒリしましたしね」
「ってことは、週に1回がお勧めってなっちゃうかしら」

アリアは考えた。
自家消費のセルフで泥パックをしてもらえれば、売るだけになるので手間いらずだと考えていたけれど、ここまで効能が強いと個人にお任せしてしまうと効き過ぎてクレーム殺到になってしまうのが目に見えている。

「会員制とかにして、予約は週に1回って美容サロンでも経営したらどうです?」
「そうなるとエステティシャンとかも腕を横並びにしないといけないでしょう?」
「ってことは雇うだけじゃだめで、どの担当になっても腕は同じって教育もしなきゃいけないわよねぇ」
「この世で一番高い経費が人件費ですから、人数を揃えると経費が嵩みますね」

経費もだが、日数が経つと当初アリアが考えていたよりも簡単ではないことも判った。

「エルフィン様、ワインって毎年どれくらい作るんです?」
「700万本だな」
「結構な量ですよねぇ」

報告書を見るとワイン1本あたりの量でポマースと呼ばれる搾りカスは500g弱出る。
端数を切り上げて考えても1ダース12本で6kg。
予定数で考えると相当な量で20トンは超えてくる。

(そりゃこれくらい広範囲な腐敗土にもなるわよね)

短期間に出るポマースの量なので、焼却も追いつかないから埋めるしかない。
頭を悩ませるアリアだがエルフィンは通常運転。

「ほら、左手出すんだ」
「左手?さっきもクリーム塗ったわよ?」
「今日は泥を塗っている時間が昨日より2分8秒長かった。もう一度塗っておくんだ」
「はーぃ。少々の事なら大丈夫なのに(むぅっ!)」
「私が大丈夫ではないんだ。これで肌荒れでもしてみろ。ここに連れてくるんじゃなかったと後悔で昼寝も出来やしない」

(夜は寝るんだ?)

まぁ、塗りたいというのなら毒ではないし塗らせてあげようとエルフィンにクリームを塗られつつ、アリアは同じ被験者同士どうしたものかと頭を悩ませた。

目の前で遅れて到着した執事が空気となって暗くなった窓の外を眼を細くして見ているなんてアリアは気にもしない。

しかも、しかもだ。
この地に滞在している間、アリアは湯を1人で浴びるがバスタブには肌荒れと保湿効果のある薬草がエルフィンの指示で放り込まれているし、寝巻も最高級品で肌触りも格別なものをわざわざエルフィンが取り寄せている。

アリアも「フォォ!この寝巻、超気持ちいい!」と感嘆の声を上げたが、エルフィンは侯爵家のお坊ちゃまなので高級品しか買わないんだろうなと思い込んでいて、エルフィン自身は着古した綿の寝巻を愛用しているとは露とも知らず。

遠い目になった執事は心遣いが全くアリアには気が付いてもらっていない主に「ガンバっ♡」と心でエールを送った。
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