小切手を拾っただけなのに~それは侯爵子息の溺愛の始まりでした~

cyaru

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第30話  鼻の頭をコツン。この状況で?

突然デリスに声を掛けられたアリアだったが、全く慌てる素振りもないし動揺もしていなかった。

エルフィンはデリスもダリオンも報告書で名前もアリアに対して何をしたかも知ってはいたが実物を見るのは初めて。

それでもダリオンがかつてアリアの恋人だったことも知っている。
デリスの隣にダリオンがいた事にアリアの手を握っている指に力が入った。

「エルフィン様、どうしました?」
「え?あ…いや、知り合いか?」
「はい。幼馴染のデリスです。最近結婚したそうなんですよ。隣にいるのがご主人さん…だと思います」
「そ、そうか」

エルフィンは報告書の内容に間違いがあったんじゃないか。そう思えるほどにアリアはダリオンの事を幼馴染のデリスの夫でそれ以上でもそれ以下でもないと紹介をした。

まるでダリオンとの過去がなかったかのように。

アリアの言葉に驚いたのはエルフィンだけではない。

デリスは幼馴染とは言われたが、親密な付き合いもなく会えば形式的に挨拶をする程度と線引きをされたことに驚いていたが、半月ほど会わなかっただけなのに他人のように接するアリアにダリオンが一番驚いていた。

「ア、アリア。何言ってんの?」
「ん?間違ってないでしょ?結婚するって言ってたと思うけど?まさか結婚したばかりで夫ではない男性と腕を組んで街中に買い物…なんてしないだろうから隣がご主人さんかなって思っただけよ。違ったの?違ってたらごめんなさいね」

デリスは言い返す言葉がなかった。

アリアの事は式にもお披露目のパーティにも呼んでいない。
「相手は誰?」と問われた時、まさかダリオンだとは言えずはぐらかした。

結婚したばかりで夫以外の男性と顔見知りも多い商店街に腕を組んで出かけるなんてあり得ない。
デリスとダリオンを見たら「新婚さんでお出かけ中」と思うのが当たり前。

さらには「違ってたらごめんなさい」と先に断りを入れられたことで、結婚相手を誰なのかデリスがアリアには言わなかったことが強調される。

幼馴染と言えど決して近しい関係であったり、家族ぐるみや個人的に親しくはなかったと線を引かれたのだ。

デリスはアリアがダリオンと一緒にいる場を見たのに焦りもない事に苛立った。

(あんたの男を寝取ったのよ?あんたは負けたの!あんたは選ばれなかったのよ!)

「言ったけど…気にならないの?」
「デリスの夫を私が気にする理由なんてある?名前も教えてくれなかったのに」
「それは…」

声を大にして言いたいけれど言えるはずもなく。
それでもアリアに対しマウントを取りたいデリスは仕掛けるつもりでさらに言葉を掛けようとしたがダリオンに制された。

「放っておけよ」
「なんでよ!」
「どうせどっかの年寄りに買い物でも頼まれてんだろ?男は荷物持ちさ。お前がイキる必要がどこにあんだよ」

そう言われればそうだとデリスはカッとなって頭に血が上ったが「なんでアタシ、怒ってるの?」気持ちが冷めたが、ダリオンはニヤニヤと笑いながらアリアに1歩近づいた。

「アリア。結婚したんだよ。祝いくらいくれたっていいだろう?」
「そう?おめでとう」
「それだけか?渡すものがあるんじゃないのか?」
「渡すもの?」

(引導かしら?)とアリアは思ったが、関わり合いになるのはもう御免と結婚の場を見た日に気持ちに整理もついたし、アリアを引き出して騎士団から金を借りていたことをアリアは知らないので渡そうにも引導になるようなものがなかった。

知っていれば即座に無関係だとして申し立てただろう。

何か渡すものでもあればと悩んでいるとエルフィンが顔を覗き込んできた。

「私が片付けようか?」
「エルフィン様が?いいですよ。破落戸相手に出張る必要はありません。そういうのは ”ここだ!” って時に取っておくものです」
「でもいいのか?難癖ばかりつけてきて。腸が煮えくり返りそうだ」
「まぁ。お腹は冷やしてはいけないと申しますけど煮えくり返るくらい熱いのもどうかと思いますわ。後で整腸薬でも買います?」
「ははっ。こんな時まで冗談を言うとは。肝が据わっているな。問題ない。屋敷に戻って干しカボチャで落ち着くだろう」

エルフィンは軽く握った指でアリアの鼻の頭をこつんと弾いた。

「うにゃっ!」
「カボチャ、頼んだよ?」

その様子にダリオンはクワっと目を見開いた。
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