小切手を拾っただけなのに~それは侯爵子息の溺愛の始まりでした~

cyaru

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第33話  涙と鼻水が止まらない

同じころ、ダリオンは目のカスミと嗅覚、味覚の異常に悩まされていた。

デリスは荷馬車に2週間揺られたが、ダリオンは1、2時間。
送り込まれた先は王都郊外にあるエルフィンが試作時からブドウの皮や種を廃棄した地だった。

ダリオンはここで一番酷い匂いのする泥土を手作業で取り除く作業に従事することになってしまった。

デリスと同じくダリオンと一緒に同じ作業をする者はいるが、デリスと違うのは彼らは雇われている事。

作業が終わると彼らは日当を貰って帰って行き、作業も3日に1日。
ダリオンだけはずっと作業に当たらねばならなかった。

(なんで俺だけ!!ずるいじゃねぇかよ!)

そう思っても逃げ出そうにもダリオンの足には片足20kgの錘が付いた足枷が両足に嵌められていて走って逃げるどころか目の前まで移動するにも一苦労。

作業場の者たちはダリオンを枷男かせメンと呼ぶ。
訳アリなダリオンが話しかけても、トバッチリを恐れまともに返事を返してくれる作業員は1人もおらず、ダリオンは会話もないまま繰り返し始まり終わる日々に言葉を忘れてしまいそうだった。

作業が終わり、泥から出れば足枷は外してもらえても休憩小屋まで動けばヘトヘト。粗末な食事を胃に流し込んだら半端ない疲労感から横になって目を閉じ体力の回復に努めた。

来る日も来る日も底から20cmほどに堆積した泥を掬い上げて袋詰め。
泥も碌に洗い流さずにいると足の皮膚がびりびりと引き裂かれそうに痛む。

酷い匂いに鼻はすぐ馬鹿になり、目も刺激で涙が流れっぱなし。
1か月もすると涙と鼻水はダダ流れで止まる事がなくなった。

どうしてこんなことをしなきゃいけないのか。ダリオンには理解が出来なかったが1か月たったころ作業を終えたダリオンの元にどこかで見た顔が話しかけてきた。

「随分と男前になったようで」
「あぁん?なんだ・・・・きっ!貴様ッ!!」

話しかけてきたのはエルフィンの執事でダリオンは「あの日いた奴だ」と気が付くと飲み終えて空になったスープボゥルを床に投げつけた。

「もうちょっと使えるかと思いましたが1か月経っても作業終了の目途が立っていないなんて」
「はぁ?言うじゃねぇか。あんな腐った泥!出来る訳がねぇだろうが」
「困ったものだ。まぁ、君には当面ここで泥と遊んでもらうから教えてあげてもいいでしょう」

モノクルを指でクイッと引き上げた執事はニヤリと笑みを浮かべるとダリオンに近づいた。

「間もなくアリア様は侯爵ご夫妻と面会。正式に侯爵家に迎え入れられることになります」
「なんだと!?なんでアリーが?」

ダリオンは執事に詳しく聞かせろと食って掛かろうとするも今日の作業で腕もまともに上げられず、体を動かせばギシギシと軋んだ音がして痛みが全身を走った。

執事の後ろには今度はダリオンにも「只者じゃない」と判る男もいて下手に歯向かえば命を落としかねない。少し考えたダリオンはここは下手に出たほうが賢明だと大人しくすることに決めた。

「そうだよ。俺は馬鹿なんだ。あんな阿婆擦れに肩入れすることも無ければ今頃はーー」
「ほぅ!今頃?未来があると信じていましたか。これはお目出たい頭なことで」
「ぐっ!!(堪えろ、俺)」
「大人しくしていればそのうち放免される、とでも思っているでしょう」
「え?違うのか?」
「当然です。教えて差し上げましょう。貴方は王位継承権を持つ者を貴様呼ばわりし、1歩を踏み込んだ。これだけで死刑を宣告しても問題はないのです」
「なんだって?王位継承権?アリーが?!」
「ほら、また不敬罪適用発言。言葉を慎みなさい。言ったはずです。アリア様は間もなく侯爵家に正式に迎え入れられると。この先、アリア様のお子様も王位継承権を持つことになります。考えてごらんなさい。アリア様のお子様が王位に付けばアリア様は国母。勝手に愛称で呼ぶことも憚られるお人となるのです」

ダリオンは驚き過ぎて口が開きっぱなしになった。
涙と鼻水が容赦なく流れ込み、ダリオンは咳き込んだ。

「だったら…げほっげほっ。頼んでくれよ。昔のよしみで許してくれと俺が言ってたと言えばアリーは応えてくれるはずなんだ」
「無理ですよ」

執事は向う脛に這って縋りつくダリオンの手を足払いをして払いのけた。

「貴方に罰を与えているのは主。アリア様は貴方が何処で何をしているかもご存じありません。ここで働いてもらっているのは貴方の借金を返すためです。給金は全て借金返済に充てられています」
「勝手なことをするな!!」
「何を仰る。借金を踏み倒せば困る者が出る。アリア様は少なからず関係のあった貴方に迷惑を掛けられた者がいることに心が痛まれてしまう。主は広い心で全てを丸く収めるために即座に首を刎ねるよりもと使い物にならない貴方にも給金を払っているというのに。あぁそうだ。本題を忘れるところでした」

執事はダリオンにわざわざ会いに来た理由を述べた。
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