33 / 44
第33話 涙と鼻水が止まらない
同じころ、ダリオンは目のカスミと嗅覚、味覚の異常に悩まされていた。
デリスは荷馬車に2週間揺られたが、ダリオンは1、2時間。
送り込まれた先は王都郊外にあるエルフィンが試作時からブドウの皮や種を廃棄した地だった。
ダリオンはここで一番酷い匂いのする泥土を手作業で取り除く作業に従事することになってしまった。
デリスと同じくダリオンと一緒に同じ作業をする者はいるが、デリスと違うのは彼らは雇われている事。
作業が終わると彼らは日当を貰って帰って行き、作業も3日に1日。
ダリオンだけはずっと作業に当たらねばならなかった。
(なんで俺だけ!!ずるいじゃねぇかよ!)
そう思っても逃げ出そうにもダリオンの足には片足20kgの錘が付いた足枷が両足に嵌められていて走って逃げるどころか目の前まで移動するにも一苦労。
作業場の者たちはダリオンを枷男と呼ぶ。
訳アリなダリオンが話しかけても、トバッチリを恐れまともに返事を返してくれる作業員は1人もおらず、ダリオンは会話もないまま繰り返し始まり終わる日々に言葉を忘れてしまいそうだった。
作業が終わり、泥から出れば足枷は外してもらえても休憩小屋まで動けばヘトヘト。粗末な食事を胃に流し込んだら半端ない疲労感から横になって目を閉じ体力の回復に努めた。
来る日も来る日も底から20cmほどに堆積した泥を掬い上げて袋詰め。
泥も碌に洗い流さずにいると足の皮膚がびりびりと引き裂かれそうに痛む。
酷い匂いに鼻はすぐ馬鹿になり、目も刺激で涙が流れっぱなし。
1か月もすると涙と鼻水はダダ流れで止まる事がなくなった。
どうしてこんなことをしなきゃいけないのか。ダリオンには理解が出来なかったが1か月たったころ作業を終えたダリオンの元にどこかで見た顔が話しかけてきた。
「随分と男前になったようで」
「あぁん?なんだ・・・・きっ!貴様ッ!!」
話しかけてきたのはエルフィンの執事でダリオンは「あの日いた奴だ」と気が付くと飲み終えて空になったスープボゥルを床に投げつけた。
「もうちょっと使えるかと思いましたが1か月経っても作業終了の目途が立っていないなんて」
「はぁ?言うじゃねぇか。あんな腐った泥!出来る訳がねぇだろうが」
「困ったものだ。まぁ、君には当面ここで泥と遊んでもらうから教えてあげてもいいでしょう」
モノクルを指でクイッと引き上げた執事はニヤリと笑みを浮かべるとダリオンに近づいた。
「間もなくアリア様は侯爵ご夫妻と面会。正式に侯爵家に迎え入れられることになります」
「なんだと!?なんでアリーが?」
ダリオンは執事に詳しく聞かせろと食って掛かろうとするも今日の作業で腕もまともに上げられず、体を動かせばギシギシと軋んだ音がして痛みが全身を走った。
執事の後ろには今度はダリオンにも「只者じゃない」と判る男もいて下手に歯向かえば命を落としかねない。少し考えたダリオンはここは下手に出たほうが賢明だと大人しくすることに決めた。
「そうだよ。俺は馬鹿なんだ。あんな阿婆擦れに肩入れすることも無ければ今頃はーー」
「ほぅ!今頃?未来があると信じていましたか。これはお目出たい頭なことで」
「ぐっ!!(堪えろ、俺)」
「大人しくしていればそのうち放免される、とでも思っているでしょう」
「え?違うのか?」
「当然です。教えて差し上げましょう。貴方は王位継承権を持つ者を貴様呼ばわりし、1歩を踏み込んだ。これだけで死刑を宣告しても問題はないのです」
「なんだって?王位継承権?アリーが?!」
「ほら、また不敬罪適用発言。言葉を慎みなさい。言ったはずです。アリア様は間もなく侯爵家に正式に迎え入れられると。この先、アリア様のお子様も王位継承権を持つことになります。考えてごらんなさい。アリア様のお子様が王位に付けばアリア様は国母。勝手に愛称で呼ぶことも憚られるお人となるのです」
ダリオンは驚き過ぎて口が開きっぱなしになった。
涙と鼻水が容赦なく流れ込み、ダリオンは咳き込んだ。
「だったら…げほっげほっ。頼んでくれよ。昔の誼で許してくれと俺が言ってたと言えばアリーは応えてくれるはずなんだ」
「無理ですよ」
執事は向う脛に這って縋りつくダリオンの手を足払いをして払いのけた。
「貴方に罰を与えているのは主。アリア様は貴方が何処で何をしているかもご存じありません。ここで働いてもらっているのは貴方の借金を返すためです。給金は全て借金返済に充てられています」
「勝手なことをするな!!」
「何を仰る。借金を踏み倒せば困る者が出る。アリア様は少なからず関係のあった貴方に迷惑を掛けられた者がいることに心が痛まれてしまう。主は広い心で全てを丸く収めるために即座に首を刎ねるよりもと使い物にならない貴方にも給金を払っているというのに。あぁそうだ。本題を忘れるところでした」
執事はダリオンにわざわざ会いに来た理由を述べた。
デリスは荷馬車に2週間揺られたが、ダリオンは1、2時間。
送り込まれた先は王都郊外にあるエルフィンが試作時からブドウの皮や種を廃棄した地だった。
ダリオンはここで一番酷い匂いのする泥土を手作業で取り除く作業に従事することになってしまった。
デリスと同じくダリオンと一緒に同じ作業をする者はいるが、デリスと違うのは彼らは雇われている事。
作業が終わると彼らは日当を貰って帰って行き、作業も3日に1日。
ダリオンだけはずっと作業に当たらねばならなかった。
(なんで俺だけ!!ずるいじゃねぇかよ!)
そう思っても逃げ出そうにもダリオンの足には片足20kgの錘が付いた足枷が両足に嵌められていて走って逃げるどころか目の前まで移動するにも一苦労。
作業場の者たちはダリオンを枷男と呼ぶ。
訳アリなダリオンが話しかけても、トバッチリを恐れまともに返事を返してくれる作業員は1人もおらず、ダリオンは会話もないまま繰り返し始まり終わる日々に言葉を忘れてしまいそうだった。
作業が終わり、泥から出れば足枷は外してもらえても休憩小屋まで動けばヘトヘト。粗末な食事を胃に流し込んだら半端ない疲労感から横になって目を閉じ体力の回復に努めた。
来る日も来る日も底から20cmほどに堆積した泥を掬い上げて袋詰め。
泥も碌に洗い流さずにいると足の皮膚がびりびりと引き裂かれそうに痛む。
酷い匂いに鼻はすぐ馬鹿になり、目も刺激で涙が流れっぱなし。
1か月もすると涙と鼻水はダダ流れで止まる事がなくなった。
どうしてこんなことをしなきゃいけないのか。ダリオンには理解が出来なかったが1か月たったころ作業を終えたダリオンの元にどこかで見た顔が話しかけてきた。
「随分と男前になったようで」
「あぁん?なんだ・・・・きっ!貴様ッ!!」
話しかけてきたのはエルフィンの執事でダリオンは「あの日いた奴だ」と気が付くと飲み終えて空になったスープボゥルを床に投げつけた。
「もうちょっと使えるかと思いましたが1か月経っても作業終了の目途が立っていないなんて」
「はぁ?言うじゃねぇか。あんな腐った泥!出来る訳がねぇだろうが」
「困ったものだ。まぁ、君には当面ここで泥と遊んでもらうから教えてあげてもいいでしょう」
モノクルを指でクイッと引き上げた執事はニヤリと笑みを浮かべるとダリオンに近づいた。
「間もなくアリア様は侯爵ご夫妻と面会。正式に侯爵家に迎え入れられることになります」
「なんだと!?なんでアリーが?」
ダリオンは執事に詳しく聞かせろと食って掛かろうとするも今日の作業で腕もまともに上げられず、体を動かせばギシギシと軋んだ音がして痛みが全身を走った。
執事の後ろには今度はダリオンにも「只者じゃない」と判る男もいて下手に歯向かえば命を落としかねない。少し考えたダリオンはここは下手に出たほうが賢明だと大人しくすることに決めた。
「そうだよ。俺は馬鹿なんだ。あんな阿婆擦れに肩入れすることも無ければ今頃はーー」
「ほぅ!今頃?未来があると信じていましたか。これはお目出たい頭なことで」
「ぐっ!!(堪えろ、俺)」
「大人しくしていればそのうち放免される、とでも思っているでしょう」
「え?違うのか?」
「当然です。教えて差し上げましょう。貴方は王位継承権を持つ者を貴様呼ばわりし、1歩を踏み込んだ。これだけで死刑を宣告しても問題はないのです」
「なんだって?王位継承権?アリーが?!」
「ほら、また不敬罪適用発言。言葉を慎みなさい。言ったはずです。アリア様は間もなく侯爵家に正式に迎え入れられると。この先、アリア様のお子様も王位継承権を持つことになります。考えてごらんなさい。アリア様のお子様が王位に付けばアリア様は国母。勝手に愛称で呼ぶことも憚られるお人となるのです」
ダリオンは驚き過ぎて口が開きっぱなしになった。
涙と鼻水が容赦なく流れ込み、ダリオンは咳き込んだ。
「だったら…げほっげほっ。頼んでくれよ。昔の誼で許してくれと俺が言ってたと言えばアリーは応えてくれるはずなんだ」
「無理ですよ」
執事は向う脛に這って縋りつくダリオンの手を足払いをして払いのけた。
「貴方に罰を与えているのは主。アリア様は貴方が何処で何をしているかもご存じありません。ここで働いてもらっているのは貴方の借金を返すためです。給金は全て借金返済に充てられています」
「勝手なことをするな!!」
「何を仰る。借金を踏み倒せば困る者が出る。アリア様は少なからず関係のあった貴方に迷惑を掛けられた者がいることに心が痛まれてしまう。主は広い心で全てを丸く収めるために即座に首を刎ねるよりもと使い物にならない貴方にも給金を払っているというのに。あぁそうだ。本題を忘れるところでした」
執事はダリオンにわざわざ会いに来た理由を述べた。
あなたにおすすめの小説
強面夫の裏の顔は妻以外には見せられません!
ましろ
恋愛
「誰がこんなことをしろと言った?」
それは夫のいる騎士団へ差し入れを届けに行った私への彼からの冷たい言葉。
挙げ句の果てに、
「用が済んだなら早く帰れっ!」
と追い返されてしまいました。
そして夜、屋敷に戻って来た夫は───
✻ゆるふわ設定です。
気を付けていますが、誤字脱字などがある為、あとからこっそり修正することがあります。
【本編完結】伯爵令嬢に転生して命拾いしたけどお嬢様に興味ありません!
ななのん
恋愛
早川梅乃、享年25才。お祭りの日に通り魔に刺されて死亡…したはずだった。死後の世界と思いしや目が覚めたらシルキア伯爵の一人娘、クリスティナに転生!きらきら~もふわふわ~もまったく興味がなく本ばかり読んでいるクリスティナだが幼い頃のお茶会での暴走で王子に気に入られ婚約者候補にされてしまう。つまらない生活ということ以外は伯爵令嬢として不自由ない毎日を送っていたが、シルキア家に養女が来た時からクリスティナの知らぬところで運命が動き出す。気がついた時には退学処分、伯爵家追放、婚約者候補からの除外…―― それでもクリスティナはやっと人生が楽しくなってきた!と前を向いて生きていく。
※本編完結してます。たまに番外編などを更新してます。
【完結】転生したら悪役継母でした
入魚ひえん@発売中◆巻き戻り冤罪令嬢◆
恋愛
聖女を優先する夫に避けられていたアルージュ。
その夜、夫が初めて寝室にやってきて命じたのは「聖女の隠し子を匿え」という理不尽なものだった。
しかも隠し子は、夫と同じ髪の色。
絶望するアルージュはよろめいて鏡にぶつかり、前世に読んだウェブ小説の悪妻に転生していることを思い出す。
記憶を取り戻すと、七年間も苦しんだ夫への愛は綺麗さっぱり消えた。
夫に奪われていたもの、不正の事実を着々と精算していく。
◆愛されない悪妻が前世を思い出して転身したら、可愛い継子や最強の旦那様ができて、転生前の知識でスイーツやグルメ、家電を再現していく、異世界転生ファンタジー!◆
*旧題:転生したら悪妻でした
公爵令嬢になった私は、魔法学園の学園長である義兄に溺愛されているようです。
木山楽斗
恋愛
弱小貴族で、平民同然の暮らしをしていたルリアは、両親の死によって、遠縁の公爵家であるフォリシス家に引き取られることになった。位の高い貴族に引き取られることになり、怯えるルリアだったが、フォリシス家の人々はとても良くしてくれ、そんな家族をルリアは深く愛し、尊敬するようになっていた。その中でも、義兄であるリクルド・フォリシスには、特別である。気高く強い彼に、ルリアは強い憧れを抱いていくようになっていたのだ。
時は流れ、ルリアは十六歳になっていた。彼女の暮らす国では、その年で魔法学校に通うようになっている。そこで、ルリアは、兄の学園に通いたいと願っていた。しかし、リクルドはそれを認めてくれないのだ。なんとか理由を聞き、納得したルリアだったが、そこで義妹のレティが口を挟んできた。
「お兄様は、お姉様を共学の学園に通わせたくないだけです!」
「ほう?」
これは、ルリアと義理の家族の物語。
※基本的に主人公の視点で進みますが、時々視点が変わります。視点が変わる話には、()で誰視点かを記しています。
※同じ話を別視点でしている場合があります。
結婚後、訳もわからないまま閉じ込められていました。
しゃーりん
恋愛
結婚して二年、別邸に閉じ込められていたハリエット。
友人の助けにより外に出ることができ、久しぶりに見た夫アルバートは騎士に連行されるところだった。
『お前のせいだ!』と言われても訳がわからなかった。
取り調べにより判明したのは、ハリエットには恋人がいるのだとアルバートが信じていたこと。
彼にその嘘を吹き込んだのは、二人いたというお話です。
図書館でうたた寝してたらいつの間にか王子と結婚することになりました
鳥花風星
恋愛
限られた人間しか入ることのできない王立図書館中枢部で司書として働く公爵令嬢ベル・シュパルツがお気に入りの場所で昼寝をしていると、目の前に見知らぬ男性がいた。
素性のわからないその男性は、たびたびベルの元を訪れてベルとたわいもない話をしていく。本を貸したりお茶を飲んだり、ありきたりな日々を何度か共に過ごしていたとある日、その男性から期間限定の婚約者になってほしいと懇願される。
とりあえず婚約を受けてはみたものの、その相手は実はこの国の第二王子、アーロンだった。
「俺は欲しいと思ったら何としてでも絶対に手に入れる人間なんだ」
継母の嫌がらせで冷酷な辺境伯の元に嫁がされましたが、噂と違って優しい彼から溺愛されています。
木山楽斗
恋愛
侯爵令嬢であるアーティアは、継母に冷酷無慈悲と噂されるフレイグ・メーカム辺境伯の元に嫁ぐように言い渡された。
継母は、アーティアが苦しい生活を送ると思い、そんな辺境伯の元に嫁がせることに決めたようだ。
しかし、そんな彼女の意図とは裏腹にアーティアは楽しい毎日を送っていた。辺境伯のフレイグは、噂のような人物ではなかったのである。
彼は、多少無口で不愛想な所はあるが優しい人物だった。そんな彼とアーティアは不思議と気が合い、やがてお互いに惹かれるようになっていく。
2022/03/04 改題しました。(旧題:不器用な辺境伯の不器用な愛し方 ~継母の嫌がらせで冷酷無慈悲な辺境伯の元に嫁がされましたが、溺愛されています~)
一年後に離婚すると言われてから三年が経ちましたが、まだその気配はありません。
木山楽斗
恋愛
「君とは一年後に離婚するつもりだ」
結婚して早々、私は夫であるマグナスからそんなことを告げられた。
彼曰く、これは親に言われて仕方なくした結婚であり、義理を果たした後は自由な独り身に戻りたいらしい。
身勝手な要求ではあったが、その気持ちが理解できない訳ではなかった。私もまた、親に言われて結婚したからだ。
こうして私は、一年間の期限付きで夫婦生活を送ることになった。
マグナスは紳士的な人物であり、最初に言ってきた要求以外は良き夫であった。故に私は、それなりに楽しい生活を送ることができた。
「もう少し様子を見たいと思っている。流石に一年では両親も納得しそうにない」
一年が経った後、マグナスはそんなことを言ってきた。
それに関しては、私も納得した。彼の言う通り、流石に離婚までが早すぎると思ったからだ。
それから一年後も、マグナスは離婚の話をしなかった。まだ様子を見たいということなのだろう。
夫がいつ離婚を切り出してくるのか、そんなことを思いながら私は日々を過ごしている。今の所、その気配はまったくないのだが。