殿下のお世話はやめました

cyaru

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第51話  ダッシュだ!エルドール

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「君の事を愛している。しりに火が点いてそう思ったんだが、違っていたようだ。何かに縋りたくてそう思ったんだと今は思えるんだ。決して嫌っているとかそういう事じゃない。愛し合っていると思い込むことでどうにかなるんじゃないかと救いに思えたんだ。君に嫌われているなんて微塵も思ってなかったから」

「ソ、ソウデスカ‥(予想外だわ)」

「実は明日から国内を回るんだ。次に会えるとすればソゥス伯爵領に行った時になると思う。また会うのかと思うだろうが仕事だと思ってくれるとありがたい」

「御公務ですもの。いらっしゃるのを楽しみにしておりますわ。それに頂くイチョウの木。大事に育てます。成長ぶりも見て頂けるとありがたいですわ」

「イチョウの木。受け取ってくれてありがとう。これも…実はルマンの受け売りなんだ。いつも誰かにこうやって助けてもらってばかりだよ」

「まぁ。ルマン殿下の?夜会で会ったらお礼を言わなくては。ですが決められたのは殿下で御座いましょう?薬にもなり、領の為にもなる木ですので嬉しいですわ」

「世話ばかりかけたからね。喜んでもらえて嬉しいよ」

「もう殿下のお世話は致しませんけど。ふふっ」

「そうだね。最後に…握手、してもらえるかな」

「握手?いいですけど」

差し出したエルドールの手は小刻みに震えていたが、アリスティアは軽く握り、そしてすぐに手は離れた。

「殿下、では、またこの後の夜会でお会いできるのを楽しみにしております」

「あぁ。楽しんでいってくれると嬉しいよ。アルマンドも喜ぶ」

立ち上がったアリスティアを愛おし気に見つめる目をライアンが見逃すはずもない。
ライアンはアリスティアの耳元で小さく囁いた。


「ティア、先に出てくれるかな?少し殿下と話がしたいんだ。直ぐに済むよ」

「いいけど。じゃぁ廊下で待ってるわね」

アリスティアが部屋を出ると残ったライアンにエルドールは「あれ?一緒に出て行かないのか?」そんな目線を向けてきた。ソファテーブルを挟み、立ったままでライアンはエルドールに問う。


「殿下、嘘ですよね」

「ははっ。バレていたか」

「解りますよ。でも最後くらいは本当の気持ちは言えなくても事情は伝えても構わないと思いますが」


この後、旧王族として平民となりただの調査員として各地を回ることになるエルドールはソゥス伯爵領に来ても役職もないためアリスティアに会う事はない。ライアンはフェルマン伯爵との話で知っていた。

護衛もつかず、貴族の中には知られたくない事も知られる可能性もある。なので面割れをしていない従者が行うのだが、広く顔が知られているエルドールが行うとなればソゥス伯爵領に到達することはないと思われる。


「今更好きだとか、愛しているとか…全部手放したのは自分だ。各地を回る役目も本当の事を言えば心のどこかで小さくてもまた世話を焼かせてしまう。どうこう言ってもアリスは…いやソゥス伯爵夫人は世話焼きなんだ。知ってるだろう?」

エルドールはライアンにお道化てみせた。

「だから、未だに未練があると思われて、これ以上嫌われたくない。夫である伯の前でいう事でもないんだが…口にするのはこれで最後だと許して欲しい」

「そうですか。殿下がそれで良いのなら何も申し上げる事は御座いませんが、ソゥス伯爵領に来られた際は私がおもてなし致しますよ」

「ははっ。ありがとう。厩舎の隅でも貸してもらうかな」


ライアンは一礼をしてエルドールの部屋を出た。
直ぐそこで待っていたアリスティアに「どうぞ」と腕を出し、手を組んで廊下を歩き始めた。



「あ、いけない。忘れてた!」

エルドールはエリザベスから「アリス姉様が来たら渡して」と言われていたお揃いの扇をアリスティアに渡す事を失念してしまっていた。

流石に夜会の場でエリザベスからだと言っても手渡すのは不味い。
色んな貴族の目もある上に、婚約破棄の当事者同士、そして火傷の痕跡が顔にも残るライアン。嫌でも目を引いてしまう。

エルドールは扇の入った箱を手に取ると、部屋を飛び出し2人を追いかけた。

2人の背中を見つけ声を掛けようとしたが、放蕩王子と呼ばれていても王子の勘、いやセンサーのようなものが働いた。

――なんだ?アイツ?――

人間の勘や感覚は直感ほど過去の経験から導き出されるので、その人の行動に於いて正しいとも言われている。

エルドールの脊髄を走る嫌な直感。
それはエルドールからは見えているが、前を歩く2人はエルドールが「危険」と判断をした男を通り過ぎて気が付いていない。

胸元に手を入れた男は頭部だけを2人に向けている。体は柱の陰に置いていてもエルドールには胸に入れた手が何を握っているかも見えていた。

――間に合うか?いや、間に合わせるんだ!――

エルドールは小走りから全力に足の回転を切り替えた。
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