52 / 57
第52話 キメろ。関節。
しおりを挟む
「どぉぉりゃぁぁ!!」
間に合わないと感じたエルドールはエリザベスから渡してくれと頼まれた箱を槍投げをするようにステップを踏んで思い切り投げた。
ごつっ!!
「痛っ!」
完全なコントロールミス。
なんとエルドールの投げた箱は事もあろうかアリスティアの背中に当たってしまった。
ほぼ同時に飛び掛かろうとしていた男はアリスティアの声で足を止めながら後ろを向いたライアンが咄嗟にアリスティアをブン投げるように体を掴んで後ろに回した事で標的が無くなり、勢いが付いていただけ前のめりになって片足でバランスを取り、数歩先で止まった。
「暴漢だ!誰か!!」
「きゃぁぁ!!」
騒ぎになり、近くにいた数人の貴族が腰を抜かしつつも叫んで逃げ出しはじめた。
男はアリスティアに向かってナイフを振りかぶり、突進してきたのだが、声を出したのは暴漢ではなくエルドールだった。
「ダァァーッ!!」
体を斜めに二の腕を盾にしてエルドールは男に体当たりした…のだが。
先に投げた箱を踏んでしまってバランスが崩れたまま男に突っ込んでしまった。
エルドールの体と男の体が重なって転がり、滑っていく。
男の手から離れたナイフが床をクルクル回り、壁に当たって進路を変えてアリスティアの足元まできた。
――取り敢えず、踏んだ方がいいかな――
回転を止めようとアリスティアは「えい!」と踏んだら、何かを踏んだ感触はあったが「痛っ」何故かライアンが声をあげる。
「ティア、それ、俺の足」
「ご、ごめんなさい!」
ナイフはうまい具合にアリスティアのドレスの裾で隠れてしまった。様子を伺いながらもアリスティアはつま先でナイフを探す。
――イマイチ解らないわね。ヒール履いてるからかしら――
目の前ではエルドールと暴漢が取っ組み合いになっていて、どちらかと言えば暴漢が優勢に見える。
――喧嘩、弱っ!――
殴り合いの喧嘩などするものでもないが、エルドールは防戦一方。
しかしそれを見たライアンが真逆の事を言う。
「へぇ。上手いな。あれじゃ相手がヘバるのは直ぐだよ」
「そうなの?」
「うん。殿下は相手に大きな動きを敢えてさせて体力を奪ってるよ。格闘家でも目指してたのかな?」
――それはないわ――
ライアンの言う通り、暴漢は息が上がって腕を振り上げるのもようよう。
会場からは離れていた場だったので、兵士が来るまでに時間はかかったが到着した時には暴漢は腕を背にされただけでなく、タップすら出来ない状態にエルドールによって関節をキメられていた。
「外れる!腕が分解するっ!助けて!誰か!助けて!」
暴漢が助けを求めるがエルドールは渾身の力で更に関節を締め上げる。
兵士から「殿下、もういいですよ」と声を掛けられ力を緩めると暴漢が失神していた。
「あれ?ナイフが無いぞ?何処に行った?」
証拠物となるナイフ。アリスティアのドレスの裾で隠れているので、アリスティアは体を横に動かす。
「あ、ありました。すみません。拾うので気持ち…もうちょっと寄って貰えます?ドレスに触れてしまうので」
兵士はライアンに向かってニコっと声を掛けたが、ライアンの顔の傷跡に「ヒュ!」息をのむ。
ムカっとしたアリスティアが「隠すわよ?」とナイフをさらに隠そうとするがライアンが「だめだめ」アリスティアの体を寄せて兵士は無事にナイフを押収出来た。
「殿下、大丈夫ですか?」
「あぁ。体は習った事を覚えているものだな。こんなところで役に立つとは思わなかったよ」
ライアンに手を貸してもらって立ち上がったエルドールの口元にアリスティアがハンカチをあてた。
「こんなところで。世話を焼かせない程度に殴られてくださいませ」
「あれは不可抗力って言うか…そうだな。善処するよ」
「ティア。これで正解なんだよ。理由はともあれ殿下が奴を殴っていたら供述を取るのに口が痛いとか言い出しかねない。供述を取るのに腕や足の関節は関係ないからね」
「そうなの?でも背中に何かぶつけられたんだけど」
「ごめん!!奴にあてるつもりだったけどズレたんだ!」
手を合わせて謝罪するエルドールにまたもライアンが助け舟を出した。
「ティア、これこそ不可抗力だ。でも当たってなかったら距離もあったし奴の持ってたナイフは落とせなかっただろうから…結果オーライって事かな」
「うーん…それもそうね。だけどその箱はなに?」
「エリザベスからなんだ」と言いながらエルドールが箱を拾い上げると投げる前とは違った音がする。
ガシャガシャとまるで陶器が割れたような音。
恐る恐る箱を開けてみると、おそらく入っていたのは陶器製の扇だったのだろう。粉々に粉砕していた。
エルドールは箱に付いた自分の靴跡を袖でごしごし擦ったが消えるはずがない。力を入れて擦るものだから今度は変な折り目までついてしまう。
「参ったな。エリーにドヤされてしまうよ」
「殿下…余計に酷くなるのでそのまま頂きますわ。箱は後で直しておきます。中も…金継ぎは難しそうなので何か利用方法を探しておきます」
「手間をかけてしまってすまない…」
「本当。世話ばかりですわね。コレで最後ですよ?もう殿下のお世話は辞めたんですから」
「恩に着るよ」
エルドールは今度こそ去っていくアリスティアとライアンを見送った。
そんなエルドールに兵士がそっと耳打ちをしてきた。
「すぐ行く」
短い返事のあと、エルドールは兵士の後を追って自室ではない方向に消えて行った。
間に合わないと感じたエルドールはエリザベスから渡してくれと頼まれた箱を槍投げをするようにステップを踏んで思い切り投げた。
ごつっ!!
「痛っ!」
完全なコントロールミス。
なんとエルドールの投げた箱は事もあろうかアリスティアの背中に当たってしまった。
ほぼ同時に飛び掛かろうとしていた男はアリスティアの声で足を止めながら後ろを向いたライアンが咄嗟にアリスティアをブン投げるように体を掴んで後ろに回した事で標的が無くなり、勢いが付いていただけ前のめりになって片足でバランスを取り、数歩先で止まった。
「暴漢だ!誰か!!」
「きゃぁぁ!!」
騒ぎになり、近くにいた数人の貴族が腰を抜かしつつも叫んで逃げ出しはじめた。
男はアリスティアに向かってナイフを振りかぶり、突進してきたのだが、声を出したのは暴漢ではなくエルドールだった。
「ダァァーッ!!」
体を斜めに二の腕を盾にしてエルドールは男に体当たりした…のだが。
先に投げた箱を踏んでしまってバランスが崩れたまま男に突っ込んでしまった。
エルドールの体と男の体が重なって転がり、滑っていく。
男の手から離れたナイフが床をクルクル回り、壁に当たって進路を変えてアリスティアの足元まできた。
――取り敢えず、踏んだ方がいいかな――
回転を止めようとアリスティアは「えい!」と踏んだら、何かを踏んだ感触はあったが「痛っ」何故かライアンが声をあげる。
「ティア、それ、俺の足」
「ご、ごめんなさい!」
ナイフはうまい具合にアリスティアのドレスの裾で隠れてしまった。様子を伺いながらもアリスティアはつま先でナイフを探す。
――イマイチ解らないわね。ヒール履いてるからかしら――
目の前ではエルドールと暴漢が取っ組み合いになっていて、どちらかと言えば暴漢が優勢に見える。
――喧嘩、弱っ!――
殴り合いの喧嘩などするものでもないが、エルドールは防戦一方。
しかしそれを見たライアンが真逆の事を言う。
「へぇ。上手いな。あれじゃ相手がヘバるのは直ぐだよ」
「そうなの?」
「うん。殿下は相手に大きな動きを敢えてさせて体力を奪ってるよ。格闘家でも目指してたのかな?」
――それはないわ――
ライアンの言う通り、暴漢は息が上がって腕を振り上げるのもようよう。
会場からは離れていた場だったので、兵士が来るまでに時間はかかったが到着した時には暴漢は腕を背にされただけでなく、タップすら出来ない状態にエルドールによって関節をキメられていた。
「外れる!腕が分解するっ!助けて!誰か!助けて!」
暴漢が助けを求めるがエルドールは渾身の力で更に関節を締め上げる。
兵士から「殿下、もういいですよ」と声を掛けられ力を緩めると暴漢が失神していた。
「あれ?ナイフが無いぞ?何処に行った?」
証拠物となるナイフ。アリスティアのドレスの裾で隠れているので、アリスティアは体を横に動かす。
「あ、ありました。すみません。拾うので気持ち…もうちょっと寄って貰えます?ドレスに触れてしまうので」
兵士はライアンに向かってニコっと声を掛けたが、ライアンの顔の傷跡に「ヒュ!」息をのむ。
ムカっとしたアリスティアが「隠すわよ?」とナイフをさらに隠そうとするがライアンが「だめだめ」アリスティアの体を寄せて兵士は無事にナイフを押収出来た。
「殿下、大丈夫ですか?」
「あぁ。体は習った事を覚えているものだな。こんなところで役に立つとは思わなかったよ」
ライアンに手を貸してもらって立ち上がったエルドールの口元にアリスティアがハンカチをあてた。
「こんなところで。世話を焼かせない程度に殴られてくださいませ」
「あれは不可抗力って言うか…そうだな。善処するよ」
「ティア。これで正解なんだよ。理由はともあれ殿下が奴を殴っていたら供述を取るのに口が痛いとか言い出しかねない。供述を取るのに腕や足の関節は関係ないからね」
「そうなの?でも背中に何かぶつけられたんだけど」
「ごめん!!奴にあてるつもりだったけどズレたんだ!」
手を合わせて謝罪するエルドールにまたもライアンが助け舟を出した。
「ティア、これこそ不可抗力だ。でも当たってなかったら距離もあったし奴の持ってたナイフは落とせなかっただろうから…結果オーライって事かな」
「うーん…それもそうね。だけどその箱はなに?」
「エリザベスからなんだ」と言いながらエルドールが箱を拾い上げると投げる前とは違った音がする。
ガシャガシャとまるで陶器が割れたような音。
恐る恐る箱を開けてみると、おそらく入っていたのは陶器製の扇だったのだろう。粉々に粉砕していた。
エルドールは箱に付いた自分の靴跡を袖でごしごし擦ったが消えるはずがない。力を入れて擦るものだから今度は変な折り目までついてしまう。
「参ったな。エリーにドヤされてしまうよ」
「殿下…余計に酷くなるのでそのまま頂きますわ。箱は後で直しておきます。中も…金継ぎは難しそうなので何か利用方法を探しておきます」
「手間をかけてしまってすまない…」
「本当。世話ばかりですわね。コレで最後ですよ?もう殿下のお世話は辞めたんですから」
「恩に着るよ」
エルドールは今度こそ去っていくアリスティアとライアンを見送った。
そんなエルドールに兵士がそっと耳打ちをしてきた。
「すぐ行く」
短い返事のあと、エルドールは兵士の後を追って自室ではない方向に消えて行った。
1,060
あなたにおすすめの小説
幼馴染がそんなに良いなら、婚約解消いたしましょうか?
ルイス
恋愛
「アーチェ、君は明るいのは良いんだけれど、お淑やかさが足りないと思うんだ。貴族令嬢であれば、もっと気品を持ってだね。例えば、ニーナのような……」
「はあ……なるほどね」
伯爵令嬢のアーチェと伯爵令息のウォーレスは幼馴染であり婚約関係でもあった。
彼らにはもう一人、ニーナという幼馴染が居た。
アーチェはウォーレスが性格面でニーナと比べ過ぎることに辟易し、婚約解消を申し出る。
ウォーレスも納得し、婚約解消は無事に成立したはずだったが……。
ウォーレスはニーナのことを大切にしながらも、アーチェのことも忘れられないと言って来る始末だった……。
【完結】20年後の真実
ゴールデンフィッシュメダル
恋愛
公爵令息のマリウスがが婚約者タチアナに婚約破棄を言い渡した。
マリウスは子爵令嬢のゾフィーとの恋に溺れ、婚約者を蔑ろにしていた。
それから20年。
マリウスはゾフィーと結婚し、タチアナは伯爵夫人となっていた。
そして、娘の恋愛を機にマリウスは婚約破棄騒動の真実を知る。
おじさんが昔を思い出しながらもだもだするだけのお話です。
全4話書き上げ済み。
【完結】旦那様、その真実の愛とお幸せに
おのまとぺ
恋愛
「真実の愛を見つけてしまった。申し訳ないが、君とは離縁したい」
結婚三年目の祝いの席で、遅れて現れた夫アントンが放った第一声。レミリアは驚きつつも笑顔を作って夫を見上げる。
「承知いたしました、旦那様。その恋全力で応援します」
「え?」
驚愕するアントンをそのままに、レミリアは宣言通りに片想いのサポートのような真似を始める。呆然とする者、訝しむ者に見守られ、迫りつつある別れの日を二人はどういった形で迎えるのか。
◇真実の愛に目覚めた夫を支える妻の話
◇元サヤではありません
◇全56話完結予定
「君は完璧だから、放っておいても大丈夫」と笑った夫。~王宮から私が去ったあと「愛していた」と泣きついても、もう手遅れです~
水上
恋愛
「君は完璧だから、放っておいても大丈夫だ」
夫である王太子はそう笑い、泣き真似が得意な見習い令嬢ばかりを優先した。
王太子妃セシリアは、怒り狂うこともなく、静かに心を閉ざす。
「左様でございますか」
彼女は夫への期待というノイズを遮断し、離縁の準備を始めた。
壊れた心はそのままで ~騙したのは貴方?それとも私?~
志波 連
恋愛
バージル王国の公爵令嬢として、優しい両親と兄に慈しまれ美しい淑女に育ったリリア・サザーランドは、貴族女子学園を卒業してすぐに、ジェラルド・パーシモン侯爵令息と結婚した。
政略結婚ではあったものの、二人はお互いを信頼し愛を深めていった。
社交界でも仲睦まじい夫婦として有名だった二人は、マーガレットという娘も授かり、順風満帆な生活を送っていた。
ある日、学生時代の友人と旅行に行った先でリリアは夫が自分でない女性と、夫にそっくりな男の子、そして娘のマーガレットと仲よく食事をしている場面に遭遇する。
ショックを受けて立ち去るリリアと、追いすがるジェラルド。
一緒にいた子供は確かにジェラルドの子供だったが、これには深い事情があるようで……。
リリアの心をなんとか取り戻そうと友人に相談していた時、リリアがバルコニーから転落したという知らせが飛び込んだ。
ジェラルドとマーガレットは、リリアの心を取り戻す決心をする。
そして関係者が頭を寄せ合って、ある破天荒な計画を遂行するのだった。
王家までも巻き込んだその作戦とは……。
他サイトでも掲載中です。
コメントありがとうございます。
タグのコメディに反対意見が多かったので修正しました。
必ず完結させますので、よろしくお願いします。
いくつもの、最期の願い
しゃーりん
恋愛
エステルは出産後からずっと体調を崩したままベッドで過ごしていた。
夫アイザックとは政略結婚で、仲は良くも悪くもない。
そんなアイザックが屋敷で働き始めた侍女メイディアの名を口にして微笑んだ時、エステルは閃いた。
メイディアをアイザックの後妻にしよう、と。
死期の迫ったエステルの願いにアイザックたちは応えるのか、なぜエステルが生前からそれを願ったかという理由はエステルの実妹デボラに関係があるというお話です。
愛人を選んだ夫を捨てたら、元婚約者の公爵に捕まりました
由香
恋愛
伯爵夫人リュシエンヌは、夫が公然と愛人を囲う結婚生活を送っていた。
尽くしても感謝されず、妻としての役割だけを求められる日々。
けれど彼女は、泣きわめくことも縋ることもなく、静かに離婚を選ぶ。
そうして“捨てられた妻”になったはずの彼女の前に現れたのは、かつて婚約していた元婚約者――冷静沈着で有能な公爵セドリックだった。
再会とともに始まるのは、彼女の価値を正しく理解し、決して手放さない男による溺愛の日々。
一方、彼女を失った元夫は、妻が担っていたすべてを失い、社会的にも転落していく。
“尽くすだけの妻”から、“選ばれ、守られる女性”へ。
静かに離婚しただけなのに、
なぜか元婚約者の公爵に捕まりました。
お飾り王妃の死後~王の後悔~
ましゅぺちーの
恋愛
ウィルベルト王国の王レオンと王妃フランチェスカは白い結婚である。
王が愛するのは愛妾であるフレイアただ一人。
ウィルベルト王国では周知の事実だった。
しかしある日王妃フランチェスカが自ら命を絶ってしまう。
最後に王宛てに残された手紙を読み王は後悔に苛まれる。
小説家になろう様にも投稿しています。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる