殿下のお世話はやめました

cyaru

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第52話  キメろ。関節。

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「どぉぉりゃぁぁ!!」

間に合わないと感じたエルドールはエリザベスから渡してくれと頼まれた箱を槍投げをするようにステップを踏んで思い切り投げた。

ごつっ!!

「痛っ!」

完全なコントロールミス。
なんとエルドールの投げた箱は事もあろうかアリスティアの背中に当たってしまった。

ほぼ同時に飛び掛かろうとしていた男はアリスティアの声で足を止めながら後ろを向いたライアンが咄嗟にアリスティアをブン投げるように体を掴んで後ろに回した事で標的が無くなり、勢いが付いていただけ前のめりになって片足でバランスを取り、数歩先で止まった。

「暴漢だ!誰か!!」

「きゃぁぁ!!」

騒ぎになり、近くにいた数人の貴族が腰を抜かしつつも叫んで逃げ出しはじめた。
男はアリスティアに向かってナイフを振りかぶり、突進してきたのだが、声を出したのは暴漢ではなくエルドールだった。


「ダァァーッ!!」

体を斜めに二の腕を盾にしてエルドールは男に体当たりした…のだが。

先に投げた箱を踏んでしまってバランスが崩れたまま男に突っ込んでしまった。
エルドールの体と男の体が重なって転がり、滑っていく。

男の手から離れたナイフが床をクルクル回り、壁に当たって進路を変えてアリスティアの足元まできた。

――取り敢えず、踏んだ方がいいかな――

回転を止めようとアリスティアは「えい!」と踏んだら、何かを踏んだ感触はあったが「痛っ」何故かライアンが声をあげる。

「ティア、それ、俺の足」

「ご、ごめんなさい!」

ナイフはうまい具合にアリスティアのドレスの裾で隠れてしまった。様子を伺いながらもアリスティアはつま先でナイフを探す。

――イマイチ解らないわね。ヒール履いてるからかしら――

目の前ではエルドールと暴漢が取っ組み合いになっていて、どちらかと言えば暴漢が優勢に見える。

――喧嘩、弱っ!――

殴り合いの喧嘩などするものでもないが、エルドールは防戦一方。
しかしそれを見たライアンが真逆の事を言う。

「へぇ。上手いな。あれじゃ相手がヘバるのは直ぐだよ」

「そうなの?」

「うん。殿下は相手に大きな動きを敢えてさせて体力を奪ってるよ。格闘家でも目指してたのかな?」

――それはないわ――


ライアンの言う通り、暴漢は息が上がって腕を振り上げるのもようよう。
会場からは離れていた場だったので、兵士が来るまでに時間はかかったが到着した時には暴漢は腕を背にされただけでなく、タップすら出来ない状態にエルドールによって関節をキメられていた。


「外れる!腕が分解するっ!助けて!誰か!助けて!」

暴漢が助けを求めるがエルドールは渾身の力で更に関節を締め上げる。
兵士から「殿下、もういいですよ」と声を掛けられ力を緩めると暴漢が失神していた。


「あれ?ナイフが無いぞ?何処に行った?」

証拠物となるナイフ。アリスティアのドレスの裾で隠れているので、アリスティアは体を横に動かす。

「あ、ありました。すみません。拾うので気持ち…もうちょっと寄って貰えます?ドレスに触れてしまうので」

兵士はライアンに向かってニコっと声を掛けたが、ライアンの顔の傷跡に「ヒュ!」息をのむ。
ムカっとしたアリスティアが「隠すわよ?」とナイフをさらに隠そうとするがライアンが「だめだめ」アリスティアの体を寄せて兵士は無事にナイフを押収出来た。


「殿下、大丈夫ですか?」

「あぁ。体は習った事を覚えているものだな。こんなところで役に立つとは思わなかったよ」

ライアンに手を貸してもらって立ち上がったエルドールの口元にアリスティアがハンカチをあてた。

「こんなところで。世話を焼かせない程度に殴られてくださいませ」

「あれは不可抗力って言うか…そうだな。善処するよ」

「ティア。これで正解なんだよ。理由はともあれ殿下が奴を殴っていたら供述を取るのに口が痛いとか言い出しかねない。供述を取るのに腕や足の関節は関係ないからね」

「そうなの?でも背中に何かぶつけられたんだけど」

「ごめん!!奴にあてるつもりだったけどズレたんだ!」

手を合わせて謝罪するエルドールにまたもライアンが助け舟を出した。


「ティア、これこそ不可抗力だ。でも当たってなかったら距離もあったし奴の持ってたナイフは落とせなかっただろうから…結果オーライって事かな」

「うーん…それもそうね。だけどその箱はなに?」

「エリザベスからなんだ」と言いながらエルドールが箱を拾い上げると投げる前とは違った音がする。
ガシャガシャとまるで陶器が割れたような音。

恐る恐る箱を開けてみると、おそらく入っていたのは陶器製の扇だったのだろう。粉々に粉砕していた。

エルドールは箱に付いた自分の靴跡を袖でごしごし擦ったが消えるはずがない。力を入れて擦るものだから今度は変な折り目までついてしまう。

「参ったな。エリーにドヤされてしまうよ」

「殿下…余計に酷くなるのでそのまま頂きますわ。箱は後で直しておきます。中も…金継ぎは難しそうなので何か利用方法を探しておきます」

「手間をかけてしまってすまない…」

「本当。世話ばかりですわね。コレで最後ですよ?もう殿下のお世話は辞めたんですから」

「恩に着るよ」


エルドールは今度こそ去っていくアリスティアとライアンを見送った。
そんなエルドールに兵士がそっと耳打ちをしてきた。

「すぐ行く」

短い返事のあと、エルドールは兵士の後を追って自室ではない方向に消えて行った。
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