元侯爵令嬢は冷遇を満喫する

cyaru

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好きでも限度がある

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ガシャーン!!

パトリックの屋敷の窓ガラスに小さめの花瓶が投げつけられて割れてしまいます。
降ってくるガラスを慌てて避ける庭師たちがいます。

外にいる者たちは割れた窓ガラスから聞こえてくる声を聞き漏らすまいとじっと立ったままです。
部屋の中では、パトリックとリリシアが向かい合っております。

「なんでよ!なんで?何でも買っていいって言ったじゃない!」
「わかった。わかった。買ってもいい。だが月に100万までだ」
「100万?たった100万で何が買えるって言うのよ!」

1本の指に1つだけでなく2つも指輪をした指が幾つもありますし、付けられない指輪は10個以上ある宝石箱にぎっしりと詰まっています。
首には珍しい大粒で透明度の高いサファイアのネックレス。
そのネックレスももういくつ目かというほど買っていますし、毎月何着も自分仕様に誂えるドレス。下着や手袋、帽子、バッグなど1回しか使わないどころか、出来たからと届いてみたら箱から出しもしないものだってあります。

菓子も一口食べれば次の菓子と食べくさしていくだけで、齧られているので使用人も持ち帰ったりできません。
すべて廃棄処分になっていきます。

パトリックは1週間執事とみっちりそれまでの収支の見直しをしておりました。
明らかに変わったのは、自分がここの領主になってからです。
それまでは少ないながらも純利益はプールできていたのですが、領主になってたった2か月でなくなり、そこからは公爵家からの援助で借金はせずにすんでおりましたがそれも2年が限度。

次の1年は借金をしてなんとか賄い、使用人を減らし、給料を減額し、税金を限度額まで引き上げましたが翌年はもう完全な自転車操業状態。危うく倒れるところでエレインとの婚約、結婚となってドーンとまとまって2億が入りましたが、それも今では残り2千万あるかどうかまで減っています。それだって使用人への給与と屋敷の維持費で消えていきます。

かろうじて王家からのエレインの支度金の5憶は手付かずですがこのままリリシアの散財が続けば王家からの支度金に手を付けるしかなくなります。

すでに公爵家からのエレインの支度金に、エレインには全く使わず残り10%弱になっている事を知られれば廃嫡は間違いありません。
王家からの支度金に手を付ければパトリックだけでとどまらず、公爵家の降格すらあり得るのです。

まだエレインが嫁いでたった3か月弱だというのにどうした物かとやっと腰を上げて、パトリックはリリシアに買い物の制限だけでも守ってもらおうとしたのです。
ドレスも宝石も小物も沢山ありますし、毎月100万すら実際はきびしいけれど贅沢な菓子なら買えるだろうと思ったのですが、蓋を開ければ物を投げるわ、喚き散らすわのリリシアです。

「リリシア、判ってくれ。正直その100万だってやっと捻出するんだ」
「関係ないわ。約束が違うわ!ちゃんと守ってよ!」

ガシャーン!!

またリリシアの投げたものがガラスに当たり割れていきます。
窓ガラスだって無料ではありません。ガラスだけではなく枠だって変えなければならないし、それまでの間に雨でも降ればここは執務室。大事な資料が濡れてしまったりしたら大変です。

「物を投げるのは危ないよ。やめてくれ」
「なら今まで通りの買い物をさせてよ!」
「それは無理なんだ‥‥こんな事は言いたくないが金がないんだ」
「ならあの女からもらえばいいじゃない!いっぱい持ってたわ」
「なっ‥‥そんな事出来るわけがないだろう!」
「出来るわよ。何度か寝てあげれば?イかせてあげれば出してくれるわよ」

あまりの下品な発言にパトリックは額に手をやります。執事は無表情。
リリシアは魔法契約がどういうものかを理解していないのでどうにでも出来ると思っているようです。
しかし、リリシア以外は知っているのです。特にパトリックはエレインの事をどうするべきか考えるだけで胸が焼けるように熱くなります。恋焦がれているのではなく刻印が熱を持ち、火傷するかと思うほど。

「とにかく、買い物は月に100万だ。それ以上は無理だ」
「なら1年我慢すれば今月1200万は構わないの?」

確かに計算上ではそういう理屈も成り立ちますが相手はリリシア。
翌月から1年間何も買わないなんてとても思えません。
今の提案の月に100万が飲めないのに0が出来るはずがないと思うのも当然ですからね。

「だめだ。月に100万。その月に余りが出ても翌月には回せない。もうそこまで来てるんだよ。出来れば買い物はしないでくれるとありがたいとも思っているんだ」

「無理よ!こんな田舎で他に何の愉しみがあるって言うの?このイ●ポ!!」

大声で言い残すとバタンとドアを乱暴に締めて退室してしまいます。

「旦那様‥‥本当ですか?」
「‥‥‥‥あぁ」
「はぁ…」

静かになった執務室ですが玄関からは馬車が出ていきます。

「全く‥‥」
「支払いについては業者には通知しておりますので」
「あぁ、助かる」

そして夕方になり屋敷に知らせが届くのです。
買い物に制限をつけられたリリシアが宝飾品店で暴れて多くの品が破損しただけでなくケガ人まで出たというパトリックにとっては訃報とも言える知らせでした。
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