離縁は恋の始まり~サインランゲージ~

cyaru

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第14話    言葉を形に

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ナタリアに連れ出されて先ず向かったのはファッセル侯爵家が運営と支援をしている協会だった。

協会そのものの運営はファッセル侯爵家が行っているが、協会に登録した者達の就職や生活の支援も同時に行っている。

ずっと金銭的な援助ばかりをしていては自立を促す事は出来ず、様々なハンディをもった者達は保護者である親や兄弟姉妹にずっと面倒をみてもらわなければならなくなる。

親は必然的に先に神に召される。残されたとしても自活の道があれば悲観する事なく生きていける。
正直、世間はまだ偏見の目で彼らを見ることが多い。

生まれた時から四肢にハンディがあったり、戦など後天的にハンディを抱えた者。
彼らは今の自分に出来る事をここで見つけて自活の道を切り開くのだ。

「お義姉様、こちらはプロステティック商会を運営しているアキレス様です」
「アキュリー?」
「ア・キ・レ・ス」
「アキレス様。お名前を間違うなどとんだ失礼を致しました」
「構いませんよ」

ビオレッタはきょとんとしてしまった。
「構わない」とゆっくり、正確に口が動くので何となく聞き取れた言葉と唇の動きで言葉は理解出来たが、動作が何を意味するのか解らなかった。

右手の小指を立て顎にトントン。2回当てながら言葉を発するアキレス。
ナタリアが紙に文字をサラサラと記し、同じ仕草をした。

「構わない。という合図です。手話と言います」
「手話・・・」
「身振り、手振りで言葉を伝えるのです」

ビオレッタは周囲を見回した。そこには中年の男性がいて、両手をあげると両手の人差し指を立てて向かい合わせて折る。

しかし、ビオレッタにはそれが何のジェスチャーなのか判らない。

「お義姉様、こんにちは。と言っています」
「そうなのね」

ビオレッタの耳元でナタリアがゆっくりと話し、教えてくれるとビオレッタは男性に向かってカーテシーを取った。

ナタリアはまた紙に文字を書く。

【こんにちはの時に1つ手間を加えると時間を示します】と書かれた文字。

耳元に軽く手を握って、少し下げると朝。
額の前に人差し指と中指を重ねて合わせると昼。
手の平を相手に向けて交差させると夜。

「その動作を加えるとおはよう、こんばんはと変化するの?」

するとアキレスが片手の親指と人差し指をトントン。軽く重ねた。

「これは?」
「そうです。という意味です」

ぱぁっとビオレッタの表情が明るくなった。
それまで存在すら知らなかった「手話」を使えば相手に言葉を伝えることができる。

ずっと側に仕えてくれているニーナや両親、レイスにも何度も聞き直したりするうちに迷惑だろうなと聞こえたふりをしてしまう事も多かった。
そのせいで結局二度手間、三度手間になってしまったこともあってビオレッタは家族と話をする事も控えるようになってしまっていたのだ。

筆談も取り入れたが、紙に幾つも文字を書けば書く場所がなくなると新しい紙を用意せねばならないし、会話に時間がかかる。

ナタリアがまた紙に文字を書いた。

【これはなにか、当ててみて】

手渡されたのは無地の紙。しかし文字が書かれていないように見えて書かれていると言う。
小さな突起があって、幾つも連なっていた。

【これは点字。目にハンディがある方が読む文字です】

「点字?そうね・・・目が不自由だと本は読めないものね」

【では、もう1つ。アキレスさんは何を作る人でしょう】

「作る?点字を作っていらっしゃるの?あら?翻訳になるのかしら」
「じゃじゃーん。これです」
「きゃぁ!!」

ナタリアが効果音を付けて取り出したのは人間の足。膝から下の部分で危うく生足だと思ったビオレッタは気を飛ばしそうになったが、避けようと差し出した手のひらに義足が触れた。

「あら・・・木?木なの?」

アキレスがにっこりと笑って片手の親指と人差し指をトントン。軽く重ねた。

「えぇっと・・・指を合わせて・・・そうです!そうですですわね!えっ?ですです???」
「お義姉様、それでいいんです。でも手話だと簡単でしょう?」

アキレスは戦で四肢を失った者たちに義足や義手を作っている商会を営む青年だった。

元々は工芸を生業としていて木彫りの人形などを作っていたが、徴兵で父親と叔父が出征。
父は戦死したが、叔父は両足の膝から下を失って帰還してきた。

なんとか出来ないかと壊れた梯子をヒントに最初の義足を作ったのだが、明らかに造り物と判る品。しかし叔父は「もう一度歩けるなら」とリハビリを兼ねて改良を手伝ってくれた。

「ウチの商品が必要とされるのは嬉しいのですが、売れるという事は手放しで喜べません。なのでここでお手伝いをする事で・・・自己満足という奴ですね」

ゆっくりと、そして少し照れながら話をするアキレスだったが、ファッセル侯爵はアキレスをいたく気に入り今では諸外国にも義手や義足を広めようと販促活動もしていた。

「お義姉様。こちら、解ります?」

紐の先に耳栓のようなものがついた箱を差し出したナタリアから受け取ったビオレッタは何だろうと色々な角度で眺めてみるがさっぱりわからない。

「補聴器と言って、音を聞くのを助けてくれる機器です」
「補聴器?」

これも初めて聞く名前で、ナタリアは補聴器の試作品が幾つか出来たことは知っていたが、ようやく1台を手に入れる事が出来て、届いたばかりの試作品を試してみて欲しいと言った。

「上手く・・・つかないわ・・・」
「私がやりましょう」

ビオレッタに装着させるのに悪戦苦闘のナタリアに変わってアキレスが装着を手伝ってくれた。
しかし、うなじの髪を纏めそうになったアキレスの手にビオレッタは首の後ろにある傷までファンデーションを塗っていない事に気が付き、手でうなじを隠した。

「気にしないで」

耳元でゆっくりとアキレスが囁く。傷跡が見えているはずなのに・・・誰もが嫌悪するだろう傷跡もアキレスは躊躇う事も無く普通に接してくれた。

装着してみれば確かに音はそれまでよりも大音量で聞こえるのだが、色んな音を拾ってしまうのと動力源となっている箱の部分は耳栓がついた紐の長さが無いので文鳥やインコのように肩の近くに置かねばならず、それなりの重さがあって持ち運びも大変だった。

機器を取り外すと何故かナタリアがビオレッタの手をギュッと握って来て「お義姉様、お願いがございます」と貴族令嬢の努力の賜物。涙ウルウルの瞳を揺らした。

「開発を手伝って頂きたいのです」

少しだけ驚いたビオレッタだったが、少し考えた。

(えぇっと・・・どうだったかしら・・・あ!そうそう!)

悩むビオレッタにナタリアは(唐突過ぎたかな)と思ったが、ビオレッタの仕草に飛び上がって喜んだ。

右手の小指を立て顎にトントン。2回当てながらナタリアに笑みを返すビオレッタ。

返事は「いいわよ」と手話で返したのだった。
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