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第17話 世の中は金で出来ている?
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3日経っても、4日経ってもビオレッタがライネルの屋敷に戻る事はなかった。
ライネルは午前と午後にオルバンシェ伯爵家に先触れを出したのだが、初夜を放り出し外出していた事はもう伯爵の耳に入っていたため、面会の許可は得られない事実を知った。
アガトン伯爵家からも父と兄が来て、ライネルに「どう言う事だ」と問い質すもライネルにはビオレッタが出て行った理由が判ってはいるのだが、理解が出来ていなかった。
「初夜、1人にしてしまったことが原因だろう?でも!ソフィアの事はビオレッタにはちゃんと話をしたんだ」
「了解は得たのか?承知しました、解りましたと返事は貰ったのか?」
「貰った‥‥気がする」
ライネルは紫のクロッカスを持ってオルバンシェ伯爵家に行った時のことを思い出す。
花束には驚いたようで「ありがとう」も言わなかった。
そこについては家令からも紫のクロッカスを贈るという意味を聞かされて、ライネルが知らなかっただけだし、そもそも花を選んだのはライネルではなくソフィア。
ソフィアも花言葉などではなく、単に花屋で目立っていた綺麗な花だから選んだだけ。
意味を知っていたビオレッタが驚いて声も出なかっただけだと思っていた。
しかし、ではソフィアとオルクの事を話した時に、返事があったかと言えば・・・。
(なかった?返事はなかった?)
いや待て。ビオレッタは怒った表情になるでもなく、ただ話をするライネルを見ていただけだった事に気が付いた。
胸の奥がざわざわとして敵を前にした時よりも緊張感が高まるのは何故だろう。
ライネルは冷や汗でも脂汗でもなく、じっとりと全身から汗が噴き出た。
「オルバンシェ伯爵からは数日のうちに離縁の手続きをすると連絡が来た」
「離縁なんかしない!絶対に別れない!別れるくらいなら――」
「この事は陛下も大変なお怒りだ。何処の世界に愛人を囲っておいて妻を王命にと願う者がいるのだ!バカ者が!」
「愛人なんかじゃない!」
「言い訳はいい。今日か明日のうちに囲っている女の事はちゃんとしておけ。部屋の違約金くらいなら出してやる。聞けば引っ越しした当日から近隣の苦情ばかりだと言うじゃないか」
それは子供が夜泣きをするからで・・・と言おうとしたのだが、アガトン伯爵が仕入れた情報は少し違っていた。子供が泣くのは夜に限った事ではなく、時間は関係がない。
母親が一緒に居る時は直ぐに解ると言う。何故か。子供を罵る怒声が泣き声に混じるからである。
父から知らされる事実にライネルは驚くばかりだった。
(まさか、ソフィアが虐待を?)
しかし、使用人の話を重ねてみればあながち誤った情報とも言い切れない。
ライネルが任務に忙殺されて屋敷に戻れない時、ソフィアは子供の面倒は全く見ずに使用人任せ。買い物三昧に貴婦人気取りだったと聞かされていた。
人間だから良い部分もあれば悪い部分もある。悪い部分を切り取りすぎだと思ったが、冷静になって考えてみれば不自然な点が多い事にも気が付く。
離縁を回避するには国王にもソフィアの事は知られてもいるし、早急に負傷兵の家族が頼れる機関にソフィアを委ねようと先ずは出先機関である教会を訪れた。
本来ならあり得ない事もこれだけ大盛況ならまかり通るのが世の中。
出掛ける前にライネルはまさか!と思う入れ知恵を家令に授けられた。
「寄付をするのですよ。お連れ様の名前で」
「寄付?寄付なら別にわざわざ名を告げなくても・・・」
「世の中は性善説だけで動いてはおりません。神の名の元・・・嘆かわしい事ですが」
「まさか!だとすれば寄付ではなく賄賂じゃないか!」
「旦那様。言葉とは利便性を兼ねて使うものなのです」
半信半疑で訪れ官職であるという男にソフィアの名で「寄付」をすれば列に並ぶ必要もなく、札が渡された。この札が欲しいばかりに大勢の人が何日も外で夜を明かし、寒さを耐えて待っていると言うのに。
正攻法がまかり通らない世の中にライネルは失望感も味わってしまったが、ソフィアの住む場所は確保できた。その足でソフィアのいる部屋に向かったのだが、1つ上手くいけば直ぐに躓くのも人生なのだろうか。
部屋に入るとオルクが泣きつかれたのか床で倒れているだけでソフィアの姿はなかった。
「オルク!」
オルクに駆け寄り、小さな体を抱きかかえるとオルクは突然吐瀉し、異物を吐き出した。
「なんでこんなものを?!」
殆どは食べ物と言えば食べ物だが、小さな子が食べるようなものなのかと首を傾げる固形物。そして紙屑。
(そうか・・・オルクが吐いたというのはこういう事か)
あの夜、この部屋で感じた違和感が実感に変わる。
ソフィアは昼となく、夜となくオルクを1人置いて何処かに出掛けているのが日常なのだろう。屋敷にいた時も買い物を頼めばすぐに出向いてくれたが、使用人に監視されるような生活では羽も伸ばせなかっただけだとライネルはオルクを抱きしめて自分の馬鹿さ加減に笑ってしまった。
さらにライネルの笑いが出てしまったのはソフィアにこの部屋を借りてやってまだ10日ほどだと言うのに、ライネルの金で買ったドレスは残っていなかった。それらは「買い取り承諾書」という紙切れに変わっていたのだ。宝飾品は嵩張らないので持って出たのだろう。
「馬鹿馬鹿しい。どいつもこいつも金、金、金」
ライネルはソフィアに騙されたとやっと気が付いた。
こうなるまでソフィアを信じていた自分が情けなくて涙も出ない。
ソフィアに対してあったのは「同情」だけで未練などはない。体の関係はあったかも知れないが手切れ金代わりにドレスなどをくれてやったと思い気持ちを落ちつかせようと怒りを飲み込み、ライネルはオルクを教会に預けると一旦屋敷に戻り残った使用人を連れてソフィアの部屋を片付け、解約したのだった。
ライネルは午前と午後にオルバンシェ伯爵家に先触れを出したのだが、初夜を放り出し外出していた事はもう伯爵の耳に入っていたため、面会の許可は得られない事実を知った。
アガトン伯爵家からも父と兄が来て、ライネルに「どう言う事だ」と問い質すもライネルにはビオレッタが出て行った理由が判ってはいるのだが、理解が出来ていなかった。
「初夜、1人にしてしまったことが原因だろう?でも!ソフィアの事はビオレッタにはちゃんと話をしたんだ」
「了解は得たのか?承知しました、解りましたと返事は貰ったのか?」
「貰った‥‥気がする」
ライネルは紫のクロッカスを持ってオルバンシェ伯爵家に行った時のことを思い出す。
花束には驚いたようで「ありがとう」も言わなかった。
そこについては家令からも紫のクロッカスを贈るという意味を聞かされて、ライネルが知らなかっただけだし、そもそも花を選んだのはライネルではなくソフィア。
ソフィアも花言葉などではなく、単に花屋で目立っていた綺麗な花だから選んだだけ。
意味を知っていたビオレッタが驚いて声も出なかっただけだと思っていた。
しかし、ではソフィアとオルクの事を話した時に、返事があったかと言えば・・・。
(なかった?返事はなかった?)
いや待て。ビオレッタは怒った表情になるでもなく、ただ話をするライネルを見ていただけだった事に気が付いた。
胸の奥がざわざわとして敵を前にした時よりも緊張感が高まるのは何故だろう。
ライネルは冷や汗でも脂汗でもなく、じっとりと全身から汗が噴き出た。
「オルバンシェ伯爵からは数日のうちに離縁の手続きをすると連絡が来た」
「離縁なんかしない!絶対に別れない!別れるくらいなら――」
「この事は陛下も大変なお怒りだ。何処の世界に愛人を囲っておいて妻を王命にと願う者がいるのだ!バカ者が!」
「愛人なんかじゃない!」
「言い訳はいい。今日か明日のうちに囲っている女の事はちゃんとしておけ。部屋の違約金くらいなら出してやる。聞けば引っ越しした当日から近隣の苦情ばかりだと言うじゃないか」
それは子供が夜泣きをするからで・・・と言おうとしたのだが、アガトン伯爵が仕入れた情報は少し違っていた。子供が泣くのは夜に限った事ではなく、時間は関係がない。
母親が一緒に居る時は直ぐに解ると言う。何故か。子供を罵る怒声が泣き声に混じるからである。
父から知らされる事実にライネルは驚くばかりだった。
(まさか、ソフィアが虐待を?)
しかし、使用人の話を重ねてみればあながち誤った情報とも言い切れない。
ライネルが任務に忙殺されて屋敷に戻れない時、ソフィアは子供の面倒は全く見ずに使用人任せ。買い物三昧に貴婦人気取りだったと聞かされていた。
人間だから良い部分もあれば悪い部分もある。悪い部分を切り取りすぎだと思ったが、冷静になって考えてみれば不自然な点が多い事にも気が付く。
離縁を回避するには国王にもソフィアの事は知られてもいるし、早急に負傷兵の家族が頼れる機関にソフィアを委ねようと先ずは出先機関である教会を訪れた。
本来ならあり得ない事もこれだけ大盛況ならまかり通るのが世の中。
出掛ける前にライネルはまさか!と思う入れ知恵を家令に授けられた。
「寄付をするのですよ。お連れ様の名前で」
「寄付?寄付なら別にわざわざ名を告げなくても・・・」
「世の中は性善説だけで動いてはおりません。神の名の元・・・嘆かわしい事ですが」
「まさか!だとすれば寄付ではなく賄賂じゃないか!」
「旦那様。言葉とは利便性を兼ねて使うものなのです」
半信半疑で訪れ官職であるという男にソフィアの名で「寄付」をすれば列に並ぶ必要もなく、札が渡された。この札が欲しいばかりに大勢の人が何日も外で夜を明かし、寒さを耐えて待っていると言うのに。
正攻法がまかり通らない世の中にライネルは失望感も味わってしまったが、ソフィアの住む場所は確保できた。その足でソフィアのいる部屋に向かったのだが、1つ上手くいけば直ぐに躓くのも人生なのだろうか。
部屋に入るとオルクが泣きつかれたのか床で倒れているだけでソフィアの姿はなかった。
「オルク!」
オルクに駆け寄り、小さな体を抱きかかえるとオルクは突然吐瀉し、異物を吐き出した。
「なんでこんなものを?!」
殆どは食べ物と言えば食べ物だが、小さな子が食べるようなものなのかと首を傾げる固形物。そして紙屑。
(そうか・・・オルクが吐いたというのはこういう事か)
あの夜、この部屋で感じた違和感が実感に変わる。
ソフィアは昼となく、夜となくオルクを1人置いて何処かに出掛けているのが日常なのだろう。屋敷にいた時も買い物を頼めばすぐに出向いてくれたが、使用人に監視されるような生活では羽も伸ばせなかっただけだとライネルはオルクを抱きしめて自分の馬鹿さ加減に笑ってしまった。
さらにライネルの笑いが出てしまったのはソフィアにこの部屋を借りてやってまだ10日ほどだと言うのに、ライネルの金で買ったドレスは残っていなかった。それらは「買い取り承諾書」という紙切れに変わっていたのだ。宝飾品は嵩張らないので持って出たのだろう。
「馬鹿馬鹿しい。どいつもこいつも金、金、金」
ライネルはソフィアに騙されたとやっと気が付いた。
こうなるまでソフィアを信じていた自分が情けなくて涙も出ない。
ソフィアに対してあったのは「同情」だけで未練などはない。体の関係はあったかも知れないが手切れ金代わりにドレスなどをくれてやったと思い気持ちを落ちつかせようと怒りを飲み込み、ライネルはオルクを教会に預けると一旦屋敷に戻り残った使用人を連れてソフィアの部屋を片付け、解約したのだった。
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