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第37話 別居したい理由
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「お願いだ!この通り!!頼む!!」
「いやよ。ティドの頼みでもこれは譲れないわ」
平身低頭でお願いをしているのはテオドールである。
断わっているのはシャルロット。
何をお願いしているのかと言えば、間もなく結婚式を迎えるのだが結婚式を挙げた後もシャルロットがアベルジェ公爵家で生活をするのでボードリエ公爵家では住まない、時々顔は見せると言うのだ。
理由は簡単だ。
アベルジェ公爵家には浴室があるが、ボードリエ公爵家にはない。
やっと毎晩の入浴ができるようになったのにボードリエ公爵家に行ったら銭湯に通うように実家に入浴の為だけに行かねば風呂には入れない。
夏は帰宅中に汗ばんでしまうだろうし、冬は湯冷めしてしまうではないか。
そして遂に!!シャルロットは「沈殿槽を暗渠で作ってみたら?」と考えて現代で言う「浄化槽」を作った。
原理は簡単だ。4つの沈殿槽を連続して繋げる。
汚物などを含むものは最初の槽に入ると微生物である程度分解される。次の層では1回目の食べ残しが好物!っていう微生物を放り込んでそこでも分解させる。
更に残飯が大好き!っていう微生物を3つ目の槽に入れて、4つ目の槽は濾過。そして川に放流である。
この微生物が手に入る訳ないと思いがちだが、身近に沢山いる。
土の中に食べ残しの残飯などを入れておくと、段々と形が無くなり土に返る。これが微生物の力。
人間の排出したモノを食べてくれる微生物も早ければ数日で見る事が出来る。水を入れた容器をそのまま放置すれば「水が腐る」現象が起きるが、腐っているのではなく微生物が沸いただけ。食べたり飲んだりすれば腹を下してしまうだけなのだ。
シャルロットは水を敢えて腐らせたり、土を放り込んだりして簡易の浄化槽を作り上げた。
水洗トイレの威力は抜群。流石にまだお尻を洗ってくれる機能はないが、紐を引けば桶に入れた水が汚物を流してくれるし、流れ着くのは簡易の浄化槽もどきなので臭いが無くなった。
誰だって自分のだって、ましてや主と言えど本心で言えば、し尿の処理なんかしたくない。アベルジェ公爵家の使用人達も手を挙げて喜んだ。
テオドールもボードリエ公爵家に浴室と水洗トイレを作ろうとしたが、作る事が出来なかった。
それには立地が関係していた。
ボードリエ公爵家とアベルジェ公爵家は中間にバザン公爵家を挟んだ立地になっている。凄くご近所さんに思えるけれど、言葉で言うほどご近所さんではない。
公爵家となると敷地の広さはちょっとやそこらの広さではないのである。
直線距離で短い辺で3、4km。長いほうの辺になると7,8kmあるのだ。
4km×8kmだとすると、敷地を1周回るだけで24km。ちょっとしたハーフマラソン並みの距離がある。
1軒間に挟んだご近所さんだが、1軒間に挟んでいるからこそ「隣の隣」でも10km以上離れているのだ。
そして、その中でアベルジェ公爵家だけ敷地の1辺が川に面している。だから排水が出来るけれど、ボードリエ公爵家では排水が出来ないので浴室は作れないのだ。
作っても最短距離ならお隣さんのバザン公爵家の敷地を縦断する側溝を作らねばならなくなる。では道になる方に作ればいい・・・となるとかなりの距離が必要になる上に側溝を作っている時は通行禁止となるので、公爵家の先にある侯爵家が許可しないのだ。
「ティドの事は好きだけど、これと好きって事は別問題なの。考えてみて?ご不浄だって他人に処理させてどこもかしこも便臭のする家と微生物が「喜んで―!」って処理してくれる便臭もない家、どっちに住みたい?」
「そりゃ‥臭いもない家だよ。オマルにはもう戻れない」
「時々体を濡れタオルで拭く事があるだけの家と、毎日チャポーン・カコーン・ファァァ♡って湯に浸れる家。どっちに住みたいと思う?」
「そりゃ…風呂に入れる家だよ。暑い日の風呂、風呂上がりのエールは至高だ」
「判ってるじゃない。だ・か・ら。別居。ちゃんと昼間は行くわよ?」
テオドールも水洗トイレの快適さと、入浴の気持ち良さは体験させてもらった。ハッキリ言えば「知らなかった頃には戻れない」と思っている。
そしてアベルジェ公爵家はこの貴族の住まう区画で唯一「臭さ」を感じない家でもある。
川と接している敷地で風上にあるので、他家の臭いも漂って来ないのだ。
風がないなと感じる日でも、水が流れているのでどうしても気温差が出来てアベルジェ公爵家とバザン公爵家の敷地の境界あたりまではユルく風が吹いている。
テオドールも自然には勝てない。
――どうしよう…入り婿・・・だめだ長兄がいるんだった――
打つ手はないのか?
悩むテオドールだが次回は最終回なのだった。
「いやよ。ティドの頼みでもこれは譲れないわ」
平身低頭でお願いをしているのはテオドールである。
断わっているのはシャルロット。
何をお願いしているのかと言えば、間もなく結婚式を迎えるのだが結婚式を挙げた後もシャルロットがアベルジェ公爵家で生活をするのでボードリエ公爵家では住まない、時々顔は見せると言うのだ。
理由は簡単だ。
アベルジェ公爵家には浴室があるが、ボードリエ公爵家にはない。
やっと毎晩の入浴ができるようになったのにボードリエ公爵家に行ったら銭湯に通うように実家に入浴の為だけに行かねば風呂には入れない。
夏は帰宅中に汗ばんでしまうだろうし、冬は湯冷めしてしまうではないか。
そして遂に!!シャルロットは「沈殿槽を暗渠で作ってみたら?」と考えて現代で言う「浄化槽」を作った。
原理は簡単だ。4つの沈殿槽を連続して繋げる。
汚物などを含むものは最初の槽に入ると微生物である程度分解される。次の層では1回目の食べ残しが好物!っていう微生物を放り込んでそこでも分解させる。
更に残飯が大好き!っていう微生物を3つ目の槽に入れて、4つ目の槽は濾過。そして川に放流である。
この微生物が手に入る訳ないと思いがちだが、身近に沢山いる。
土の中に食べ残しの残飯などを入れておくと、段々と形が無くなり土に返る。これが微生物の力。
人間の排出したモノを食べてくれる微生物も早ければ数日で見る事が出来る。水を入れた容器をそのまま放置すれば「水が腐る」現象が起きるが、腐っているのではなく微生物が沸いただけ。食べたり飲んだりすれば腹を下してしまうだけなのだ。
シャルロットは水を敢えて腐らせたり、土を放り込んだりして簡易の浄化槽を作り上げた。
水洗トイレの威力は抜群。流石にまだお尻を洗ってくれる機能はないが、紐を引けば桶に入れた水が汚物を流してくれるし、流れ着くのは簡易の浄化槽もどきなので臭いが無くなった。
誰だって自分のだって、ましてや主と言えど本心で言えば、し尿の処理なんかしたくない。アベルジェ公爵家の使用人達も手を挙げて喜んだ。
テオドールもボードリエ公爵家に浴室と水洗トイレを作ろうとしたが、作る事が出来なかった。
それには立地が関係していた。
ボードリエ公爵家とアベルジェ公爵家は中間にバザン公爵家を挟んだ立地になっている。凄くご近所さんに思えるけれど、言葉で言うほどご近所さんではない。
公爵家となると敷地の広さはちょっとやそこらの広さではないのである。
直線距離で短い辺で3、4km。長いほうの辺になると7,8kmあるのだ。
4km×8kmだとすると、敷地を1周回るだけで24km。ちょっとしたハーフマラソン並みの距離がある。
1軒間に挟んだご近所さんだが、1軒間に挟んでいるからこそ「隣の隣」でも10km以上離れているのだ。
そして、その中でアベルジェ公爵家だけ敷地の1辺が川に面している。だから排水が出来るけれど、ボードリエ公爵家では排水が出来ないので浴室は作れないのだ。
作っても最短距離ならお隣さんのバザン公爵家の敷地を縦断する側溝を作らねばならなくなる。では道になる方に作ればいい・・・となるとかなりの距離が必要になる上に側溝を作っている時は通行禁止となるので、公爵家の先にある侯爵家が許可しないのだ。
「ティドの事は好きだけど、これと好きって事は別問題なの。考えてみて?ご不浄だって他人に処理させてどこもかしこも便臭のする家と微生物が「喜んで―!」って処理してくれる便臭もない家、どっちに住みたい?」
「そりゃ‥臭いもない家だよ。オマルにはもう戻れない」
「時々体を濡れタオルで拭く事があるだけの家と、毎日チャポーン・カコーン・ファァァ♡って湯に浸れる家。どっちに住みたいと思う?」
「そりゃ…風呂に入れる家だよ。暑い日の風呂、風呂上がりのエールは至高だ」
「判ってるじゃない。だ・か・ら。別居。ちゃんと昼間は行くわよ?」
テオドールも水洗トイレの快適さと、入浴の気持ち良さは体験させてもらった。ハッキリ言えば「知らなかった頃には戻れない」と思っている。
そしてアベルジェ公爵家はこの貴族の住まう区画で唯一「臭さ」を感じない家でもある。
川と接している敷地で風上にあるので、他家の臭いも漂って来ないのだ。
風がないなと感じる日でも、水が流れているのでどうしても気温差が出来てアベルジェ公爵家とバザン公爵家の敷地の境界あたりまではユルく風が吹いている。
テオドールも自然には勝てない。
――どうしよう…入り婿・・・だめだ長兄がいるんだった――
打つ手はないのか?
悩むテオドールだが次回は最終回なのだった。
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