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最終話 シンデレラとは?
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何としても別居でのラブラブ新婚生活を回避したいテオドールは奥の手を使った。
「殿下!お願いします!もうこれが最後の頼み!一生のお願いです!」
「お前な?それは寝込みを襲った時も同じ事を言ったぞ?お前の最後と一生は何度あるんだ」
「そう言わずに!きっとドゥライブ殿下も人生観が変わりますから!俺は知ってからそれまでの人生を別れを告げたんです。1度だけ!1度だけ俺に騙されてください!」
王太子ドゥライブを王宮から連れ出したテオドールが向かったのは勿論アベルジェ公爵家。
門をくぐる少し前、丁度テオドールは自分の実家であるボードリエ公爵家のあたりで馬車の小窓を開けた。
「おい!何をするんだ!」
この時代、走行中の馬車を途中で止めるのは自殺行為に近い。馬車が停車するとあっという間に物乞いが集まって来て馬車は動けなくなってしまう。
なので車軸など足回りが壊れやすかった馬車は兎に角問題なく走行できるように点検を念入りに行っている。同時に完全な密室ではないので臭いはどうしても入ってくるのだが、下水という設備がないので農村部に行けばそうでもないが人が密集して住んでいる王都などは異臭とはなんだ?と考えなければならないくらいに臭かった。
停車するのと同じくらいに嫌っていたのが窓を開ける行為。換気なんてトンデモナイ。余計にクサい臭いが充満するだけだ。香水で鼻がバカになっていた方がずっとマシなくらいに臭かった。
ドゥライブの制止も聞かずにテオドールは小窓を開けた。しかも全開。
異臭が鼻だけでなく目も容赦なく攻撃してきて、テオドールもドゥライブも悲しくないのに涙が止まらない。
しかし、異変は直ぐに起きた。
「(スンスン…スンスン)あれ?」
アベルジェ公爵家の門をくぐるとゼロではないのだが、あの異臭が消えた。
屋敷の玄関に到着する頃には、爽やかな新緑の香りがする。ずっと昔、まだ立太子していない頃に隣国へ表敬訪問に行った際、田舎を幾つも通ったが、そこで嗅いだ小麦の穂が風に揺れる香りだったり、山間の街で宿泊した貴族の家で寝台に横になった時に嗅いだお日様の香りに似た嗅ぐと気持ちが穏やかになる。そんな香りがした。
「まだこれからですからね。この後の予定は到着をしたらサロンでお茶を3杯、かけつけ3杯、イっちゃってもらいます」
「3杯?!飲めるわけがない!」
「大事な事なのでもう一度。飲んで頂きます。口に流し込んで鼻を抓んででも飲んで頂きます」
有無を言わさぬテオドール。ドゥライブも受け入れるしかなかった。
馬車は玄関に到着し、アベルジェ公爵家の家屋の中に入るとこれまたいい香り。ドゥライブは香水の香りが苦手だったのだが、これくらい空気が澄んでいれば香水も要らないな…そう感じた。
予定通りに立て続けに茶を3杯飲まされたあとは、早足になったりゆっくりになったり歩くスピードを変えて、ついでに歩幅も通常、広く、小さくと変えてアベルジェ公爵家の庭を何と1時間も歩く羽目になった。
花を愛でるとか、川に隣接しているので川の流れに涼むとか一切ない。兎に角歩け!歩けのまるで行軍。屋敷に戻った時は汗だくで肩で息をするくらいだった。
「さぁ、メインイベントです。男同士!裸で話し合いましょう」
「えぇっ?!いや、私はソッチの性癖はない・・・まさかお前が辞したのは?!」
「違いますからね?俺はロッティ一筋。男に興味はありません。ついでにロッティ以外の女にも興味ありません」
急かされるままに従者に服を脱がされ、汗を流すかと思ったら植物由来の成分で精製した体専用の洗剤でゴシゴシと体も髪も洗われて、本来の肌の色、髪の色になったドゥライブは5人ほどが一緒に浸かれる大きな桶の中に誘われた。
「どうぞ。温度は今回少しヌルめにしてありますので、サブーンと行っちゃってください」
言われるがままに「ままよ!」と飛び込むと・・・。
「フォォォォーッ?!」
「ハァー♡疲れも飛びますよねぇ」
「何だコレは!」
「風呂です」
「風呂ッ?!」
湯は薪で沸かすため、少々温度がヌルくても芯から体が温まる。
湯から出た後は、軽く水気を拭き取って貰うが吹いてくる風が心地よい。いつもは桶に立って流して貰い寒い寒いと寝間着を着た後も体が冷えているのだが、全く違う。
「さぁ殿下。昼寝しましょう」
「昼寝・・・そうだな」
凄く眠れそうな気がしたのだ。案内された部屋はお日様の熱でホカホカの寝具がある寝台。
熱さと気怠さ、そして窓から吹いてくるそよ風にドゥライブは寝入ってしまった。
「ハッ!」と目が覚めた時、いつもは怠さがあるのに爽快感しかない。「寝たー!」という充実感まで感じる。
「素晴らしい!是非また誘ってくれ」
ギュッとテオドールの手を握ったのだが…。
「無理です」冷たい返事が返って来た。
「む、無理?どうして?!」
「ここはロッティの実家なんです。俺の屋敷じゃないので…今日は特別。騙されてくれて良かったです。夢だと思って今日の事は忘れてください」
「なっ!なんとっ?!」
忘れられる訳がない。この心地よさ。「風呂」の魅力に憑りつかれているのに忘れろとはなんと非情な!
っと、そこに3杯も飲んだお茶の効果が出てしまった。
「不浄はこちらです。終わられたら目の前にある紐を引いてください」
「紐?」
不思議に思ったが「漏れちゃう。漏れちゃう」と不浄にドゥライブは駆け込んだ。が、そこも今までにない感覚があった。
「く、臭くない?!!」
不浄独特の臭いがなかったのだ。理由は直ぐに解った。用を足した後で言われたように紐を引くと「ジャー!」水が流れて来た。
「ファァァーッ!!」
不浄から飛び出してきたドゥライブにテオドールは言った。
「殿下、社会の窓が開きっぱなしです」
★~★
心地よさを知ってしまうともう知らなかった、我慢していた頃には戻れない。
ドゥライブは国土大改革を約束した。上下水設備を国内に張り巡らせる。かつてのローマ帝国のように街中にも水を流し民衆にも「衛生」という観念を広める事を誓った。
テオドールは「このままじゃラブラブ同居DE新婚生活が送れない」となると、もう自分の家だけでは解決できる問題ではないので国の事業をする事を思いつき、ドゥライブを引き込んだ。
伯爵家以上の爵位の家には簡易浄化槽の設置を義務とし、道路の両端に暗渠で下水を通すと貴族の住まう一画から臭いが無くなった。
そうなると資産のある低位貴族や商人も真似をし始める。
みんな快適に住める環境を欲していたのだ。
★~★
テオドールとシャルロットの結婚式は地味に行われたが、それもシャルロットの希望。
その他にシャルロットはテオドールに「どうしても」とお願いをした。
「結婚式の日は前日からここに泊まって、一緒に教会に行ってほしいの」
「それは良いけど…どうして?」
「もう、式場で相手が来ないなんて思いをしたくないの」
「どう言う事だ?初婚だったよな?え?あれ?えっ?」
「頭がおかしいと思わないでね?私、この世界じゃない世界でも暮らしていたの。前の世界では給排水設備の器材を卸す会社で勤める事務兼営業兼技術者だったの」
テオドールは驚いた。驚いたのだが「だからか…」よく判らないままでも何か心にストンと落ちた。
シャルロットは普通の令嬢とはどこか違うし、持っている概念そのものが違うと感じる事もあったし、不思議な事を言い出すとは思っていたが、なるほど。納得できたのだった。
結婚式の前日は花嫁と花婿は顔を合わせないのがこの世界の慣例だったけれど、テオドールはシャルロットの希望通り前夜はボードリエ公爵家の両親も一緒にアベルジェ公爵家に泊まり込み、全員で翌日教会に向かった。
暫くはアベルジェ公爵家の離れで新婚生活を送り、ボードリエ公爵家にも浄化槽設備が設置されて高位貴族の区画から道路の両端に下水の暗渠が設置されると2人は住まいをボードリエ公爵家に移した。
その頃にはシャルロットのお腹には小さな命が芽吹いていた。
★~★
シャルロットの悪阻もおさまった頃、、市井にある小さな教会では結婚式が行われていた。
その式にはシャルロットとテオドールも招かれていた。
「とっても綺麗。おめでとう。リー」
「シャルも赤ちゃんもうすぐね。おめでとう」
花嫁はサンドリヨン。花婿はジョルジュ。
サンドリヨンはジョルジュに教えを受けて大人向けの長編小説も読めるまでになっていた。語学はサンシャイン王国以外には2か国語も話せるようになった。
ジョルジュはサンドリヨンに文字などを教える傍らで諜報は引退し王太子ドゥライブの元で専属執事として働いている。プライベートな時間では一緒に過ごす事が多くいつの間にかお互いを思い合い結婚する事になった。
「シャル、今だから言うけど…私、魔法使いに魔法をかけてもらったの」
「うふっ。そうなの?」
――知ってるよ~。カボチャが馬車だもんね――
「うん。頭おかしいって思われると思って・・・誰にも言えなかったの。魔法ってね。0時になったら消えるって言われたんだけど‥‥消えてなかった事に気が付いたの」
そこまで言った時、ジョルジュが「式が始まるよ。行こうか。僕のお姫様」手を差し出してきた。
サンドリヨンは立ち上がり、ジョルジュの手に手を重ねるとシャルロットにパチン!とウィンクした。
「ね?素敵な王子様とこれからもっと幸せになれるんだもの」
嬉しそうにジョルジュと共に花道に向かうサンドリヨンは輝いて見えた。
――本当だわ。とっても幸せそう。あれ?やっぱり私ってモブ?――
そう思ったけれど違った。
シャルロットの隣にはテオドールという最高の王子様がいた。
――身分じゃないわね。人の数だけ幸せなお姫様と王子様がいるんだわ――
テオドールは身重のシャルロットを気遣って手を貸してくれる。
「行こうか。足元、大丈夫か?」
「大丈夫よ。靴が片方脱げたら、もう片方も脱ぐから」
「アハハ。そうだな。そしたらお姫様抱っこってやつをしないといけないな」
「もう!お姫様じゃないわよ!」
「判ってるって。ロッティは俺だけの奥様だからな」
テオドールと共に参列席に向かうシャルロット。
参列席に腰を下ろし、ステンドグラスから降り注ぐ柔らかい光を見て思った。
本当のシンデレラの時代とは違う方向に国が進みだした事に「ifだもんね」と。
その頃、神様は・・・。
ガラスの靴をキュッキュと磨きながら次に幸せにする女の子を見繕っていたのだった。
次のシンデレラは・・・貴女かも知れない。
Fin
★~★
長い話にお付き合い頂きありがとうございました<(_ _)>
この後、完結表示にしますけども…気が付いた方だけに贈る閑話が炸裂します(;^_^A
コメントも亀&ナマケモノペースですが、返信いたしますので、キリンのように首を長~くしながらお待ち頂けると嬉しいです(*^-^*)
「殿下!お願いします!もうこれが最後の頼み!一生のお願いです!」
「お前な?それは寝込みを襲った時も同じ事を言ったぞ?お前の最後と一生は何度あるんだ」
「そう言わずに!きっとドゥライブ殿下も人生観が変わりますから!俺は知ってからそれまでの人生を別れを告げたんです。1度だけ!1度だけ俺に騙されてください!」
王太子ドゥライブを王宮から連れ出したテオドールが向かったのは勿論アベルジェ公爵家。
門をくぐる少し前、丁度テオドールは自分の実家であるボードリエ公爵家のあたりで馬車の小窓を開けた。
「おい!何をするんだ!」
この時代、走行中の馬車を途中で止めるのは自殺行為に近い。馬車が停車するとあっという間に物乞いが集まって来て馬車は動けなくなってしまう。
なので車軸など足回りが壊れやすかった馬車は兎に角問題なく走行できるように点検を念入りに行っている。同時に完全な密室ではないので臭いはどうしても入ってくるのだが、下水という設備がないので農村部に行けばそうでもないが人が密集して住んでいる王都などは異臭とはなんだ?と考えなければならないくらいに臭かった。
停車するのと同じくらいに嫌っていたのが窓を開ける行為。換気なんてトンデモナイ。余計にクサい臭いが充満するだけだ。香水で鼻がバカになっていた方がずっとマシなくらいに臭かった。
ドゥライブの制止も聞かずにテオドールは小窓を開けた。しかも全開。
異臭が鼻だけでなく目も容赦なく攻撃してきて、テオドールもドゥライブも悲しくないのに涙が止まらない。
しかし、異変は直ぐに起きた。
「(スンスン…スンスン)あれ?」
アベルジェ公爵家の門をくぐるとゼロではないのだが、あの異臭が消えた。
屋敷の玄関に到着する頃には、爽やかな新緑の香りがする。ずっと昔、まだ立太子していない頃に隣国へ表敬訪問に行った際、田舎を幾つも通ったが、そこで嗅いだ小麦の穂が風に揺れる香りだったり、山間の街で宿泊した貴族の家で寝台に横になった時に嗅いだお日様の香りに似た嗅ぐと気持ちが穏やかになる。そんな香りがした。
「まだこれからですからね。この後の予定は到着をしたらサロンでお茶を3杯、かけつけ3杯、イっちゃってもらいます」
「3杯?!飲めるわけがない!」
「大事な事なのでもう一度。飲んで頂きます。口に流し込んで鼻を抓んででも飲んで頂きます」
有無を言わさぬテオドール。ドゥライブも受け入れるしかなかった。
馬車は玄関に到着し、アベルジェ公爵家の家屋の中に入るとこれまたいい香り。ドゥライブは香水の香りが苦手だったのだが、これくらい空気が澄んでいれば香水も要らないな…そう感じた。
予定通りに立て続けに茶を3杯飲まされたあとは、早足になったりゆっくりになったり歩くスピードを変えて、ついでに歩幅も通常、広く、小さくと変えてアベルジェ公爵家の庭を何と1時間も歩く羽目になった。
花を愛でるとか、川に隣接しているので川の流れに涼むとか一切ない。兎に角歩け!歩けのまるで行軍。屋敷に戻った時は汗だくで肩で息をするくらいだった。
「さぁ、メインイベントです。男同士!裸で話し合いましょう」
「えぇっ?!いや、私はソッチの性癖はない・・・まさかお前が辞したのは?!」
「違いますからね?俺はロッティ一筋。男に興味はありません。ついでにロッティ以外の女にも興味ありません」
急かされるままに従者に服を脱がされ、汗を流すかと思ったら植物由来の成分で精製した体専用の洗剤でゴシゴシと体も髪も洗われて、本来の肌の色、髪の色になったドゥライブは5人ほどが一緒に浸かれる大きな桶の中に誘われた。
「どうぞ。温度は今回少しヌルめにしてありますので、サブーンと行っちゃってください」
言われるがままに「ままよ!」と飛び込むと・・・。
「フォォォォーッ?!」
「ハァー♡疲れも飛びますよねぇ」
「何だコレは!」
「風呂です」
「風呂ッ?!」
湯は薪で沸かすため、少々温度がヌルくても芯から体が温まる。
湯から出た後は、軽く水気を拭き取って貰うが吹いてくる風が心地よい。いつもは桶に立って流して貰い寒い寒いと寝間着を着た後も体が冷えているのだが、全く違う。
「さぁ殿下。昼寝しましょう」
「昼寝・・・そうだな」
凄く眠れそうな気がしたのだ。案内された部屋はお日様の熱でホカホカの寝具がある寝台。
熱さと気怠さ、そして窓から吹いてくるそよ風にドゥライブは寝入ってしまった。
「ハッ!」と目が覚めた時、いつもは怠さがあるのに爽快感しかない。「寝たー!」という充実感まで感じる。
「素晴らしい!是非また誘ってくれ」
ギュッとテオドールの手を握ったのだが…。
「無理です」冷たい返事が返って来た。
「む、無理?どうして?!」
「ここはロッティの実家なんです。俺の屋敷じゃないので…今日は特別。騙されてくれて良かったです。夢だと思って今日の事は忘れてください」
「なっ!なんとっ?!」
忘れられる訳がない。この心地よさ。「風呂」の魅力に憑りつかれているのに忘れろとはなんと非情な!
っと、そこに3杯も飲んだお茶の効果が出てしまった。
「不浄はこちらです。終わられたら目の前にある紐を引いてください」
「紐?」
不思議に思ったが「漏れちゃう。漏れちゃう」と不浄にドゥライブは駆け込んだ。が、そこも今までにない感覚があった。
「く、臭くない?!!」
不浄独特の臭いがなかったのだ。理由は直ぐに解った。用を足した後で言われたように紐を引くと「ジャー!」水が流れて来た。
「ファァァーッ!!」
不浄から飛び出してきたドゥライブにテオドールは言った。
「殿下、社会の窓が開きっぱなしです」
★~★
心地よさを知ってしまうともう知らなかった、我慢していた頃には戻れない。
ドゥライブは国土大改革を約束した。上下水設備を国内に張り巡らせる。かつてのローマ帝国のように街中にも水を流し民衆にも「衛生」という観念を広める事を誓った。
テオドールは「このままじゃラブラブ同居DE新婚生活が送れない」となると、もう自分の家だけでは解決できる問題ではないので国の事業をする事を思いつき、ドゥライブを引き込んだ。
伯爵家以上の爵位の家には簡易浄化槽の設置を義務とし、道路の両端に暗渠で下水を通すと貴族の住まう一画から臭いが無くなった。
そうなると資産のある低位貴族や商人も真似をし始める。
みんな快適に住める環境を欲していたのだ。
★~★
テオドールとシャルロットの結婚式は地味に行われたが、それもシャルロットの希望。
その他にシャルロットはテオドールに「どうしても」とお願いをした。
「結婚式の日は前日からここに泊まって、一緒に教会に行ってほしいの」
「それは良いけど…どうして?」
「もう、式場で相手が来ないなんて思いをしたくないの」
「どう言う事だ?初婚だったよな?え?あれ?えっ?」
「頭がおかしいと思わないでね?私、この世界じゃない世界でも暮らしていたの。前の世界では給排水設備の器材を卸す会社で勤める事務兼営業兼技術者だったの」
テオドールは驚いた。驚いたのだが「だからか…」よく判らないままでも何か心にストンと落ちた。
シャルロットは普通の令嬢とはどこか違うし、持っている概念そのものが違うと感じる事もあったし、不思議な事を言い出すとは思っていたが、なるほど。納得できたのだった。
結婚式の前日は花嫁と花婿は顔を合わせないのがこの世界の慣例だったけれど、テオドールはシャルロットの希望通り前夜はボードリエ公爵家の両親も一緒にアベルジェ公爵家に泊まり込み、全員で翌日教会に向かった。
暫くはアベルジェ公爵家の離れで新婚生活を送り、ボードリエ公爵家にも浄化槽設備が設置されて高位貴族の区画から道路の両端に下水の暗渠が設置されると2人は住まいをボードリエ公爵家に移した。
その頃にはシャルロットのお腹には小さな命が芽吹いていた。
★~★
シャルロットの悪阻もおさまった頃、、市井にある小さな教会では結婚式が行われていた。
その式にはシャルロットとテオドールも招かれていた。
「とっても綺麗。おめでとう。リー」
「シャルも赤ちゃんもうすぐね。おめでとう」
花嫁はサンドリヨン。花婿はジョルジュ。
サンドリヨンはジョルジュに教えを受けて大人向けの長編小説も読めるまでになっていた。語学はサンシャイン王国以外には2か国語も話せるようになった。
ジョルジュはサンドリヨンに文字などを教える傍らで諜報は引退し王太子ドゥライブの元で専属執事として働いている。プライベートな時間では一緒に過ごす事が多くいつの間にかお互いを思い合い結婚する事になった。
「シャル、今だから言うけど…私、魔法使いに魔法をかけてもらったの」
「うふっ。そうなの?」
――知ってるよ~。カボチャが馬車だもんね――
「うん。頭おかしいって思われると思って・・・誰にも言えなかったの。魔法ってね。0時になったら消えるって言われたんだけど‥‥消えてなかった事に気が付いたの」
そこまで言った時、ジョルジュが「式が始まるよ。行こうか。僕のお姫様」手を差し出してきた。
サンドリヨンは立ち上がり、ジョルジュの手に手を重ねるとシャルロットにパチン!とウィンクした。
「ね?素敵な王子様とこれからもっと幸せになれるんだもの」
嬉しそうにジョルジュと共に花道に向かうサンドリヨンは輝いて見えた。
――本当だわ。とっても幸せそう。あれ?やっぱり私ってモブ?――
そう思ったけれど違った。
シャルロットの隣にはテオドールという最高の王子様がいた。
――身分じゃないわね。人の数だけ幸せなお姫様と王子様がいるんだわ――
テオドールは身重のシャルロットを気遣って手を貸してくれる。
「行こうか。足元、大丈夫か?」
「大丈夫よ。靴が片方脱げたら、もう片方も脱ぐから」
「アハハ。そうだな。そしたらお姫様抱っこってやつをしないといけないな」
「もう!お姫様じゃないわよ!」
「判ってるって。ロッティは俺だけの奥様だからな」
テオドールと共に参列席に向かうシャルロット。
参列席に腰を下ろし、ステンドグラスから降り注ぐ柔らかい光を見て思った。
本当のシンデレラの時代とは違う方向に国が進みだした事に「ifだもんね」と。
その頃、神様は・・・。
ガラスの靴をキュッキュと磨きながら次に幸せにする女の子を見繕っていたのだった。
次のシンデレラは・・・貴女かも知れない。
Fin
★~★
長い話にお付き合い頂きありがとうございました<(_ _)>
この後、完結表示にしますけども…気が付いた方だけに贈る閑話が炸裂します(;^_^A
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