殿下の御心のままに。

cyaru

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最終話☆運命のお相手

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向かい合って座る王家とアンカソン公爵家そしてペルセウス。

マイセレオス帝国とやり合って勝てる見込みはない上に、貿易で関税一つ見直しをされれば他国も追随して関税をあげてくる。弱みしかないタスレイ王国に打つ手は残っていない。
あるとすればアルフレッドを処刑する事くらいであろう。


後ろ手に縛った縄を持つ騎士すら着席をしているのに1人だけ立たされたアルフレッドに国王と王妃が向ける視線はまるで氷の刃のように冷たく鋭い。

「アルフレッド。お前には自室でおとなしく執務をしているように言ったはずだ」

「父上、それには訳があるのです。見てくださいこのケガを。そこにいる騎士と言いながらもならず者に殴られ私は…私は屈辱でもう耐えられなかったのです」

「城から出なければそうなる事もなかったのではないのか」

「それは‥‥そうなのですが…ですが聞いてください。判ったのです。運命の出会いの相手はリアだった。だからリアの誤解を解こうと」

「それで勝手に王命と詐称し騎士団を動かしたと?今更出会いがどうだと説明をして何が変わると言うのだ。言ったはずだ。アンカソン公爵令嬢は儂とした約束を履行したのみ。お前が説明をして誤解とやらを解いたところで婚約が解消になった事は変わらないし、アンカソン公爵令嬢がもう婚約者ではないという事実も変わらない。お前がした事は自己都合による自己の保身だけだ」

国王は王妃と共に立ち上がり、アンカソン公爵、公爵夫人、マークスそしてツェツィーリア、ペルセウスに向かって深く長く頭を下げた。


「国王陛下、王妃殿下、謝罪は判りました。あなた方が我々に頭を下げるという事がどういう事なのか。それは十分に理解を致します。ですが許すかどうかは別問題です」

「素より承知の上。だが謝罪をするという気持ちがあるという事だけは知っておいてほしい。そしてマイセレオス帝国、シルグラ殿。この度は愚息が誠に失礼な事をした。非礼の数々は頭を下げて許されるものではないが愚息に代わって‥‥申し訳なかった」

「タスレイの国王、謝罪の気持ちは受け取った」


頭を上げると、国王はアルフレッドに視線を向けた。
最後の抵抗なのかアルフレッドは顔を横に反らし目を合わせる事を嫌った。


「本来ならばこの時をもって王太子アルフレッドの身分を剥奪し、廃嫡の上幽閉若しくは国外追放とするところだが‥‥時を遡りアンカソン公爵令嬢との婚約解消に至った日をその日とする。遅きに失した感は否めないが恥ずかしながらタスレイ王国には王族を処刑する事が出来ない。幽閉となり毒杯を賜る事はあっても断罪が出来ないよう法が成されている。その為日を遡り、平民とした上で処刑をする。これで納めてはくれないだろうか」

「し…処刑?!どうして!?何故です?何故私がっ!悪いのは誤解をしたままのリアでしょう?私は悪くない、誤解を正そうとしただけです。それなのに何故!?何故なのです!」


涙と鼻水、涎をまき散らしながらアルフレッドは国王の元に行こうとするが縄を引かれそれは叶わない。首を大きく横に振り、「嫌だ。悪くないのに何故だ」と繰り返し叫び続ける。

それに目を背けていた王妃はアルフレッドに歩み寄る。

「母上っ」 パンッ!!

母と呼ぶ声と、その母が頬を打つ音が響く。アルフレッドは打たれたまま顔を動かす事が出来ない。しばしの時を置き今度は泣き叫んだ。

「アルフレッド。王族は時としてその責を負わねばなりません。アンカソン公爵令嬢は貴方には過ぎた令嬢でした。あなた達なら共に手を取り合い国を治めて行けると思いました。ですが‥‥腐った蜜柑は時に隣り合うものまで腐らせてしまう。夢見心地も良いでしょう。ですが貴方は見極める必要があったのに見誤った。

1人の女として言わせてもらえば、貴方は最低な事をしたのです。拒否出来ぬ立場で婚約者となりその身を捧げ、辛い教育にも耐え貴方をずっと支えてきたツェツィーリアを‥‥目の前でくだらぬ妄想で心を打ち砕き、己の間違いを認めず責任転嫁。そしてつき纏い。それでどうして元鞘に戻ってくれると考えたのか。恥を知りなさい」


「次の国王はヘルミング公爵家から嫡男を選出する。引継ぎが終わり次第退位し儂と王妃は蟄居する。引継ぎの際には婚約者選出には自我を優先し令嬢を選ぶよう進言する事にしよう」

「陛下、そのような事は当家だけではなく残りの公爵家、そして侯爵家を集めてお決めになってはどうでしょうか。陛下の進退については大勢を見なければなりません」

サッと手を挙げたのはペルセウスだった。
立ちあがるとツェツィーリアを見て目線で会話をする。小さく頷いたのを見て

「その男の処遇だが…平民なのなら私がもらい受けても良いだろうか」

思いもよらない言葉にアンカソン公爵も、国王も、それ以上にアルフレッド本人が一番驚いた。

「ど、どうすると言うのです?」

「簡単な事です。私流に性根を叩きなおそうかと思いましてね。私とアンカソン公爵令嬢はまもなく夫婦となる。彼のした事は許せるものではないが、マイセレオス帝国も血を流し過ぎた国。もう消える命はなくても良いのではないかと思うのです。特に関りがあった者が処刑となれば寝覚めも悪い」

カツカツと軍靴の音が近づけばアルフレッドは怯えてペルセウスを見上げる。
ペルセウスは縛られた縄を解くとアルフレッドの衿を掴みあげ、引きずるように部屋から出ていった。

中庭の芝生の上にアルフレッドを放り投げると、アルフレッドには真剣。ペルセウスは木刀を手にした。

「かかって来いよ。一太刀でも俺が食らったら無罪放免だ」
「浴びせられなかったら…処刑か」
「さぁね。ま、死ぬ気で来いよ」


ぐっと剣を握ると、アルフレッドはペルセウスに振りかぶって斬りかかった。
しかし一歩も動かず防御の姿勢も取らないペルセウスの木刀はアルフレッドの剣を握る手を打ち、剣が落ちる。

「拾え。かかってこいよ。三十路のオッサンに負けたくないだろう」
「糞っ…ウワァァァッ!!」

何度振りかぶって斬りかかっても木刀で受けられる事もなく手から剣が叩き落される。

「これはツェツィーリアがお前を信頼して裏切られた分だ」
「これはツェツィーリアがお前を庇って執務をした分だ」
「これはツェツィーリアが流した涙の分だ」
「これはツェツィーリアがお前に失望した分だ」

斬りかかる度に、ツェツィーリアが耐えた分だと剣を握る手に木刀が当たる。
10回を超えて打たれてもまだ剣が握れるのは手加減をしているのだろう。
それも悔しく、屈辱的でアルフレッドは力が続く限り斬りかかった。
だが、一太刀どころかペルセウスを一歩も動かす事が出来ない。
そこには圧倒的な差があった。

芝生に倒れ込みながらも剣を握り、支えにして立ちあがり打たれまた倒れる。
30分もしないうちにアルフレッドは起き上がる事すら出来なくなった。

「帝国ではこの程度の打ち合いは3時間は続く。しばらく稽古を付けてやるよ」





貴族を交えた話し合いで国王が言った通り、ヘルミング公爵家の嫡男が次代の国王になる事が決定をした。引継ぎで6カ月という期間、ペルセウスは皇太子レオグランの名代として見届けるため滞在をする事になった。
その間も休みなくペルセウスはアルフレッド(廃嫡済み)に剣を持たせ斬りかからせた。

30分も持たなかった体力は3か月する頃には1時間となり、翌月には3時間、5カ月目には初めてペルセウスを半歩動かすことに成功をしたが一太刀浴びせる事は叶わなかった。

その間、ツェツィーリアは花嫁修業と引っ越しを終わらせた。

「どうですの?来週にはマイセレオス帝国に発ちますのよ?」
「ま、市井を警備する騎士団には何とか入れるんじゃないか?」
「あら?優しいんですのね。わたくしには優しくないのに」
「優しいだろう?ほら‥‥(ちゅっ♡)」
「仕方ありません。誤魔化されてあげますわ」


ペルセウスは毎日登城し、監査の間アルフレッドに付き合っていた。
ツェツィーリアが数日先にマイセレオス帝国に発つことになり、新しい国王となるヘルミング公爵家の嫡男の元に別れの挨拶の為に登城した日。アルフレッドは用件を終えて回廊を歩くツェツィーリアを呼び止めた。

「アンカソン公爵令嬢」

足を止め、声のした方を向けば半年前とはうって変わったアルフレッドが片膝をついていた。

「どうなされました?」

「貴女には本当に迷惑ばかりを…全て私の妄想と独断で迷惑ばかり。本当に…申し訳ありませんでした。そして…ありがとう。‥‥君と過ごした日々は‥‥私の宝物だ」

「ふふっ。では運命のお相手探しはどうされますの」

「意地悪だな…いや、もう探さない事にした。ペルセウス殿には結局一太刀も浴びせられなかった。だから頼みがあるのだ」

「なんでしょう?」

「タスレイ王国に来られた時だけでいい。ペルセウス殿との手合わせを許してもらえないだろうか。その…その時は君から彼との時間を奪ってしまう事になるから許しを得ようと思って」

「えぇ。貴方の御心のままに」

2人の間を風が吹き抜けていく。離れたところからペルセウスがツェツィーリアを呼ぶ声がする。ツェツィーリアはアルフレッドに微笑む。アルフレッドは片膝をついたまま頭を垂れた。


「何かあったのか?」
「いいえ?フフっ…運命の出会いだったのね」
「誰が?」
「さぁ?モテモテなペルセウス様には教えません」

先ほどアルフレッドに向けた微笑とは違い、心から信頼し弾けるような微笑を浮かべるツェツィーリア。愛おしく全てを受け入れる笑みを返すペルセウスにアルフレッドの胸は優しい温かさで満たされる。

並んで歩いて去っていく2人の背をアルフレッドは見送った。

Fin


☆~☆

読んで頂きありがとうございました。
アルフレッドへのお仕置きが足らねぇ!と思われる方もいらっしゃると思いますが堪えてくださいまし!
今回ざまぁタグ付けてません…ついでにR指定も‥ <(_ _)>

本編は完結ですが、3月6日にマイセレオス帝国に行ったツェツィーリアとペルセウスの結婚式、そしてその後の尻に敷かれた夫婦の話を2話ほど投稿致します。
その後のアルフレッドの様子もちょこっと出てきます。(*^-^*)

一旦完結表示として、番外編を投稿する際のみ連載中になります。(投稿後は完結に戻します)
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