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第08話 アップルパイを回避せよ!
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「さぁ、こちらへ」と言われて連れて行かれたのは湯殿。
「ひっ!1人で出来ますから!!」
メリルの叫びも虚しく、数人のメイドにゴッシゴッシ、ワッシワッシと隅々まで洗われ、磨かれるとリンダに言われて数日に1回「ソマリ草」で染めていた赤茶色の髪も本来の色を取り戻した。
「わぁ!凄い。こんな綺麗な銀髪だったなんて。染めてたなんてもったいな~い」
「陛下の姪御さんなだけあるわ。キュリアナ王女は王妃殿下のお色だし」
「そうね王子殿下たちも誰も陛下の髪色は受け継がなかったのよね」
きゃっきゃと楽しみながらメリルの世話をするメイド達。
恐る恐るメリルは聞いてみた。
「あのぅ…陛下って怖くないんですか?」
メイド達は顔を見合わせて、次に声を合わせた。
<< ぜ~んぜん >>
櫛で丁寧に髪を梳いたのは何時ぶりだろう。メイドはそんな事を思うメリルの髪にある小さな解れも痛みを感じさせないように丁寧に梳いていく。
「怒ると怖いですけど、陛下は優しいですよ?」
「そうそう。以前は窓を拭く係も枠によじ登ってたけど危険だろう!って」
「する事をちゃんとすれば陛下はお菓子もくれるんだよね」
「使用人でも特に下っ端には気を配ってくれる優しい陛下ですよ?」
――へぇそうなんだ。お菓子で釣りあげてるんだ――
「でもね、陛下はお子様に興味がないの。王妃殿下も愛人――」
「ダメっ!」
メイドの1人がとんでもない事を暴露しそうになって止められる。
――なるほど。家庭内ボッチってわけね――
「だけど、メリル様が城に来ると聞いてからは凄かったわ」
「どう凄かったんですか?」
「仕立て屋という仕立て屋を呼んで、ドレスを数日で仕立てさせたの。仕立て屋がサイズが判らないと言ったら考えられる全てのサイズでつくればいいって。お代も全部陛下のポケットマネーよ」
「クロゼット」と札のついた扉の奥は目が眩むのだろうと思うと怖くて開けられない。
さらにメイドはお喋りを続けた。
「でね?美味い菓子はどこだと女官に聞いて、菓子店はドタバタよ」
「まさかと思うんですが‥‥」
「焼き菓子も生菓子も一番美味しく食べられる時に運ばれてきますよ」
「特にね、アップルパイがお勧め!今、リンゴが旬なの。さっきホールで何個も届いてた」
――ウゲェ・・・そんなに食べられないよぅ――
アップルパイは好き。大好き!でもホールとなるとキツイ。
きつい上に・・・。
あの宿屋で食べたような夕食の延長線にあるのは勘弁して欲しいと願う。お菓子は嫌いではないけれど嬉しさが全く込み上げて来ない。
メイド達の会話に国王シュルタスが国賓級と言った言葉の裏付けは取れたとしても、たかが姪。そこまでするとなればこの婚姻は国としては余程に重要なんだろうなと思える。
そんな大役が自分に務まるのだろうかと不安にもなってしまう。
鏡に映る自分は今まで見たこともないような化粧をされた女性で自分ではないような気にもなる。
心が沈みかけた時、メイドの1人が声をあげた。
「陛下!?」
「構わない。続けてくれ」
――フェェェーッ?なんでここに来るわけ?――
鏡には、こちらをにこにこしながら頬杖までついている国王シュルタスの顔が小さく映っている。メリルはさりげなく拳1つ腰を横にずらして自分の顔でシュルタスの姿を鏡から消した。
鏡の向こうに姿は見えなくなったと思ったら、声がするのは気のせい??
空耳だと思いたい。思いたいのにどうやら現実のようでメイドが「陛下が話しかけておられますよ?」とご丁寧に教えてくれる。
「メリルの好きなものはなんだ」
――自由です・・・って言えないぃぃ!!――
「漠然とし過ぎたな。すまない。好きな食べ物は何だ?ほら女性はよく甘味が好きだとか言うだろう?何でも言ってくれ。直ぐに取り寄せるが…何と言ったかな?ほらア・・・アッ・・・何だったかな」
――こ、これはさっき仕入れた情報のアップルパイって答えを期待してる?――
「なんだ?なんでも好きな物を言ってくれ」
答えなければならない!でもホールは無理!
あれは1切食べて、もうひと切れ行っちゃおうかな~という欲張った楽しみがあるから2切れ目が食べられる。全部1人で食べなさいとホールで出されたら、暫くアップルパイは見たくもなくなるし、ホールで何個も並んだらそれはもう地獄でしかない。
「アッ・・・」
「ア?♡」
言いかけた1文字目を嬉しそうな声で復唱するシュルタス。
しかしメリルはギュっと目を閉じて言い切った。
「甘納豆が食べたいですっ!」
静まり返る部屋。予想をしていなかった答えなのだろう。
メリルも正直言って「甘納豆」は食べた事は無い。ついでに色も形も知らない。村に巡業にくる旅芸人の一座が海の見える国で渡来した国のお菓子「甘納豆」を食べた感想を小耳に挟んだだけ。
「甘納豆か・・・話には聞いた事がある。が、すまない・・・まだ輸入がないのだ」
――でしょうね!でしょうね!そのつもりだったもの!――
「そ、それは残念です。アハハ・・・甘納豆に凝っててそれ以外は受け付けなくって」
「そうだったのか・・・。だがアップルパ――」
「あっ!!」
「どうしたのだ!」
「どうされました?!」
「緊張してて虫歯が痛むのを忘れてました。甘いものはちょっと・・・もしご用意頂いているのなら皆さんで召しあがって頂けると・・・イイカナ~とか」
アップルパイは回避できたが、直ぐに侍医がやって来て虫歯はないのにデンタルチェックを受ける羽目になったメリルなのだった。
「ひっ!1人で出来ますから!!」
メリルの叫びも虚しく、数人のメイドにゴッシゴッシ、ワッシワッシと隅々まで洗われ、磨かれるとリンダに言われて数日に1回「ソマリ草」で染めていた赤茶色の髪も本来の色を取り戻した。
「わぁ!凄い。こんな綺麗な銀髪だったなんて。染めてたなんてもったいな~い」
「陛下の姪御さんなだけあるわ。キュリアナ王女は王妃殿下のお色だし」
「そうね王子殿下たちも誰も陛下の髪色は受け継がなかったのよね」
きゃっきゃと楽しみながらメリルの世話をするメイド達。
恐る恐るメリルは聞いてみた。
「あのぅ…陛下って怖くないんですか?」
メイド達は顔を見合わせて、次に声を合わせた。
<< ぜ~んぜん >>
櫛で丁寧に髪を梳いたのは何時ぶりだろう。メイドはそんな事を思うメリルの髪にある小さな解れも痛みを感じさせないように丁寧に梳いていく。
「怒ると怖いですけど、陛下は優しいですよ?」
「そうそう。以前は窓を拭く係も枠によじ登ってたけど危険だろう!って」
「する事をちゃんとすれば陛下はお菓子もくれるんだよね」
「使用人でも特に下っ端には気を配ってくれる優しい陛下ですよ?」
――へぇそうなんだ。お菓子で釣りあげてるんだ――
「でもね、陛下はお子様に興味がないの。王妃殿下も愛人――」
「ダメっ!」
メイドの1人がとんでもない事を暴露しそうになって止められる。
――なるほど。家庭内ボッチってわけね――
「だけど、メリル様が城に来ると聞いてからは凄かったわ」
「どう凄かったんですか?」
「仕立て屋という仕立て屋を呼んで、ドレスを数日で仕立てさせたの。仕立て屋がサイズが判らないと言ったら考えられる全てのサイズでつくればいいって。お代も全部陛下のポケットマネーよ」
「クロゼット」と札のついた扉の奥は目が眩むのだろうと思うと怖くて開けられない。
さらにメイドはお喋りを続けた。
「でね?美味い菓子はどこだと女官に聞いて、菓子店はドタバタよ」
「まさかと思うんですが‥‥」
「焼き菓子も生菓子も一番美味しく食べられる時に運ばれてきますよ」
「特にね、アップルパイがお勧め!今、リンゴが旬なの。さっきホールで何個も届いてた」
――ウゲェ・・・そんなに食べられないよぅ――
アップルパイは好き。大好き!でもホールとなるとキツイ。
きつい上に・・・。
あの宿屋で食べたような夕食の延長線にあるのは勘弁して欲しいと願う。お菓子は嫌いではないけれど嬉しさが全く込み上げて来ない。
メイド達の会話に国王シュルタスが国賓級と言った言葉の裏付けは取れたとしても、たかが姪。そこまでするとなればこの婚姻は国としては余程に重要なんだろうなと思える。
そんな大役が自分に務まるのだろうかと不安にもなってしまう。
鏡に映る自分は今まで見たこともないような化粧をされた女性で自分ではないような気にもなる。
心が沈みかけた時、メイドの1人が声をあげた。
「陛下!?」
「構わない。続けてくれ」
――フェェェーッ?なんでここに来るわけ?――
鏡には、こちらをにこにこしながら頬杖までついている国王シュルタスの顔が小さく映っている。メリルはさりげなく拳1つ腰を横にずらして自分の顔でシュルタスの姿を鏡から消した。
鏡の向こうに姿は見えなくなったと思ったら、声がするのは気のせい??
空耳だと思いたい。思いたいのにどうやら現実のようでメイドが「陛下が話しかけておられますよ?」とご丁寧に教えてくれる。
「メリルの好きなものはなんだ」
――自由です・・・って言えないぃぃ!!――
「漠然とし過ぎたな。すまない。好きな食べ物は何だ?ほら女性はよく甘味が好きだとか言うだろう?何でも言ってくれ。直ぐに取り寄せるが…何と言ったかな?ほらア・・・アッ・・・何だったかな」
――こ、これはさっき仕入れた情報のアップルパイって答えを期待してる?――
「なんだ?なんでも好きな物を言ってくれ」
答えなければならない!でもホールは無理!
あれは1切食べて、もうひと切れ行っちゃおうかな~という欲張った楽しみがあるから2切れ目が食べられる。全部1人で食べなさいとホールで出されたら、暫くアップルパイは見たくもなくなるし、ホールで何個も並んだらそれはもう地獄でしかない。
「アッ・・・」
「ア?♡」
言いかけた1文字目を嬉しそうな声で復唱するシュルタス。
しかしメリルはギュっと目を閉じて言い切った。
「甘納豆が食べたいですっ!」
静まり返る部屋。予想をしていなかった答えなのだろう。
メリルも正直言って「甘納豆」は食べた事は無い。ついでに色も形も知らない。村に巡業にくる旅芸人の一座が海の見える国で渡来した国のお菓子「甘納豆」を食べた感想を小耳に挟んだだけ。
「甘納豆か・・・話には聞いた事がある。が、すまない・・・まだ輸入がないのだ」
――でしょうね!でしょうね!そのつもりだったもの!――
「そ、それは残念です。アハハ・・・甘納豆に凝っててそれ以外は受け付けなくって」
「そうだったのか・・・。だがアップルパ――」
「あっ!!」
「どうしたのだ!」
「どうされました?!」
「緊張してて虫歯が痛むのを忘れてました。甘いものはちょっと・・・もしご用意頂いているのなら皆さんで召しあがって頂けると・・・イイカナ~とか」
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