ある日王女になって嫁いだのですが、妾らしいです

cyaru

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第11話   扉を開けたら夫がいた

キュリアナ王女のヤラカシもあり、辺境伯が認めたメリルの同行者はたった1人。
ブートレイア王国に滞在する3日の間、シュルタスが頭を下げて認めさせたのはそれが精一杯だった。

16年前は肩を並べたが今や力関係は火を見るよりも明らか。
そして各国とモーセット王国が少し違うのは国王は王都にいるけれど実質の統治者は目の前にいる辺境伯だということ。

国王は辺境伯の兄ではあるけれど、おおよその事を指示するのは辺境伯。
辺境伯が「白」と言えば漆黒の闇でさえ「白」と答えるのがモーセット王国では当たり前だった。

その辺境伯が夜会に呼ばれたからと出向いたり、お忍びでやって来ていた。その理由など簡単。かつてフランソワーノ王女に心を奪われ、思慕し、妃にと望んだ第3王子こそ、この辺境伯なのである。ブートレイア王国に行けばかつて愛した女性の墓標に花を手向ける事が出来る。それだけの理由で直接出向いていた。

フランソワーノ王女から見れば姪に当たるキュリアナ王女。
だから暫くは贈り物や手紙に返事が無くても笑って流してきた。

が!
うっかりの失言にしては度が過ぎていたキュリアナ王女の言葉を辺境伯には看過できなかった。

「身近な家族を守れずして国は守れず」と教えられるモーセット王国の民。

大人げないと言われても心の思いに蓋をして築き上げた家族を揶揄する言葉を許すのは矜持にかけて出来なかったが、それでも縁談を破談にしなかったのは国としてブートレイア王国を取り込む事は経済流通に於いては利があると判断したからで、今の段階ではブートレイア王国を経由して荷を運ぶ事が1番費用的に安くて、距離も短く、安全だったから。

モーセット王国は経済のため、ブートレイア王国は国防のため。
お互いに利点がある婚姻だったのだが、辺境伯の怒りを買ったキュリアナ王女の尻ぬぐいは簡単ではなかった。

「聞き入れて頂けないのなら我々は別の販路を開拓するのみ」

辺境伯は捉えようによっては「宣戦布告」とも聞こえる言葉を口にした。



「すまない。同行者を1人認めさせることがやっとだった」

項垂れるシュルタスは悔しさから手のひらに爪の形をした瘡蓋が出来かけては剥がれていた。

「いいですよ?取り敢えず身の回りの事は1人で出来ますし。遠い地ですから同行する者も家族と離れなければならないし、私1人でも大丈夫です」

命令とあれば仕方がないが、若い使用人達は「指名されませんように」と願っているし、高齢の使用人は長旅に体調を崩す可能性もある。

そんな中、1人だけ手を挙げた者がいた。

「私で良ければ同行いたします」

手を挙げたのは近衛騎士のジョイス。年齢は23歳だが両親とは既に死別。
兄弟姉妹はそれぞれ家庭を持っているのだが婚約者がいて結婚間近。

城に来る途中、メリルに肉串を買ってくれた騎士である。

「私情よりも任務を優先するというのか」
「私は近衛騎士です。王族の方を守るのが役目です」
「殊勝な心掛けだ。では――」
「嫌ですっ!」
「メ、メリル?!」

シュルタスがその先を口にしてしまえば同行者はジョイスとなってしまう。
そうなればジョイスは婚約者を連れて行くことは出来ないので結婚は流れてしまう。

――あんなに楽しみにしてたのに、邪魔は出来ないわ!――

「わ、私、ジョイスさんには新しいお店の開拓をお願いしたいんです!王都から離れたら美味しいお店とか判らないしっ!!だっ・・・だから…ジョイスさんには王都に居て貰わないと困るんです!」

「だが、そうなれば自主的に願い出るものがいなくなる。私が選ぶ事になるが」

シュルタスの言葉に使用人の顔に緊張が走る。
モーセット王国はおそらく大陸で一番栄えている国だし、色々なものがある。辺境伯の統治する街も街という言葉で思い浮かべるような大きさよりも数倍の規模。

問題は家族を置いて行かねばならず、行けばおそらく生涯戻れない。
先日メリルが「里帰りは無理かな」と悩んだように行き来するだけで半年はかかる遠い地なのだ。

「1人で行きます」
「それは許可できない」
「元々モーセット王国側は同行者を認めなかったんですよね。上等じゃないですか。頭を下げ、足元を見られるような取引を陛下は恥ずかしくないんですかっ!」


かつてリンダは言っていた。

『相手が譲歩してやるという条件を提示した時、受けるかどうかは利があるかを考えなさい。足元を見られるような時は一蹴してやりなさい。なんでも受け入れると思ったら大間違いだと一矢報いる事にも繋がり、形勢逆転のきっかけにもなります』


教えられた時はピンとこなかったけれど、今なら判る。
力関係はあっても国と国は対等。確かに1人で来いというのは屈辱でもあるけれど、先に失態をしたのはブートレイア王国。屈辱的に足元を見られるような提案は受けるべきではない。メリルはそう考えた。


「そなたは・・・相判った。ではメリル。頼んだぞ」
「はい!お任せください!」

不安がないと言えば噓になるけれど、もう船には乗ってしまった。
メタボリックシンドローム行きではないと思えばなんとかなるかも知れないし、メリルも城にいる間は書庫にも行きモーセット王国の事は調べた。

「家族を大事にする国民性」なら、無体な事はしないだろう。
考えれば手だけではなく、体は不安で震えてしまうがただ蔑まれたり、卑しめられる訳じゃないというかすかな希望もある。それにしかなかった。


出立の日。
用意された大きな馬車は1つ。辺境伯も乗り込むかと思えば辺境伯は馬に跨った。

「では、陛下、皆様。行って参ります」
「メリ・・・。頼んだぞ。元気で・・・」
「はい!」

馬車に乗り込むメリルを見てシュルタスは抱きしめたい衝動に駆られたがグランドに制された。

が!!ガチャリと開いた馬車の入り口。
裾を踏まないようにと注意してステップに足を乗せ、バーに手を掛けてグイっと体を引っ張る。

顔を上げると馬車には既に1人乗り込んでいた男性がいた。
その男性こそ、メリルの夫となる次期辺境伯。

シュバイツァー・モーセット、15歳。

この先、女性の影を常に心配せねばならないのかと思わせる目が覚めるような美丈夫でメリルより1歳年下の「夫」だった。
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