ある日王女になって嫁いだのですが、妾らしいです

cyaru

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第12話   年の差婚でいいんだけど

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ガタゴトと進む馬車。その中の空気はチリチリと細かい冷気の粒が詰め込まれているように冷え切っていた。

人は見た目と中身は違う事をメリルは実感した。

向かいに人がいる。
途轍もない美丈夫で、細マッチョというのだろうか。服を着ていても見えている腕や首回りから「余分なものはありません」と体が訴えかけているよう。

濃紺のサラサラヘアーに切れ長の目。瞳は深い緑を思わせる。
薄い唇がキュっと口角を上げれば悲鳴をあげて卒倒するご令嬢は多いだろう。

しかし、いかにも「不機嫌です~」と言わんばかりの態度。
2人きりでこれから2か月以上をこの馬車で過ごさねばならないのに、ずっとこの空気感だと思うと溜息を吐くだけでは緩和されるものではない。

メリルは思い切って話しかけてみた。

「あのぅ…メリル・ブートレイアと申します」
「(ちらっ)知ってる」
「良ければ・・・お名前を教えて頂いても?」
「なんで?知ってるだろう?」


ビキビキとメリルのこめかみの血管はここ最近で2度目の膨張をし始める。
作り笑いで申し訳ないけれど、表情が引き攣るのは仕方がない。

「取り敢えず自己紹介?と思っただけなので。知っている事を聞いてしまって申し訳ないですわ」
「なら聞くな。鬱陶しい」

――鬱陶しい?!鬱陶しいって言った?!この男ッ!――

「では、黙っておりますわ。オホホ・・・ホーッホッホのホゥッ!!」

語尾を強調し言い切ると「ふんっ!」メリルは顔を背け窓に向けた。
それがおかしかったのか、シュバイツァーは吹き出し、笑い始めた。

「おまっ!お前っホゥッ!って!ホゥッ!ってアハハ」

しかしシュバイツァーが笑っている間もメリルは窓から目を逸らさずに聞こえないふりをする。

「お前、面白いな?ブートレイアの女ってそんな言い方するんだ?」
「・・・・・」
「ブートレイアじゃそれが普通なのか?」
「・・・・・」
「何とか言えよ!人が聞いてるだろうがっ!」

腰を浮かせて向かいに腰掛けるメリルの肩を掴もうとしたシュバイツァーだったがメリルはその手が肩に触れる直前でパチン!と弾いた。

「鬱陶しい(ふんっ)」

一言だけシュバイツァーの顔を見て返し、メリルはまたプイ!と顔を逸らした。
弾かれた手。腰を下ろすと足を組み、膝上に肘を落とし顎を支える手に変えて、シュバイツァーはメリルと反対側の窓を向いて黙った。

ガタガタと走っていた馬車が停車すると、小窓の向こうには騎乗していた兵士達が馬に水を与えるために動き出す。シーンと静まりかえる馬車の中は外からの声が板を抜けて行く。


「休憩だ。馬車を降りて体を伸ばしてもいいぞ」
「・・・・・」
「お前なぁ!人が折角教えてやってるのに無視すんな!」
「知ってます~。休憩所でする事は休憩だもの(ふんっ)」
「あのな!俺が――」
「鬱陶しい(ふんっ)」
「うぅぅーッ!!後で降りたいとか水飲みたいって言っても知らないからな!」


シュバイツァーが大きな声で叫んでもメリルは窓の外を見たままシュバイツァーを振り向きもしない。シュバイツァーは1人で馬車を降りると、バタン!大きな音をさせて扉を閉めた。

馬車の中で1人になったメリルは座面を叩き、天井を見上げて、ついでに壁もコンコンと叩いてみる。これから2か月以上はこの馬車で寝泊まりするのだから座面は広めだけれど寝台とするには少し狭いし、着替えはどうするのかなどメリルなりに考えてみた。

しかし、馬車に乗るのも初めてのこと。隠し部屋のような荷物を入れたり、組み立て寝台があるのかと思ったが違ったようで、考え込んだ。

コンコン

小窓を叩く音に顔をあげてみれば、辺境伯だった。
メリルは慌てて小窓を開けようとしたのだが、開け方が判らない。隙間に爪をひっかけてみるが違うようカタカタするのだが開かない。

窓の外に見えていたはずの辺境伯の顔が消えて、ガチャリと背中にした扉が開き風を感じた。

「手を痛めてしまうよ。開け方が判らないのかい?バルは教えてくれなかったのかな?」

結構無体な要求をする人だなぁと城では思ったが、実際に話しかけられてみると国王シュルタスのような「優しいおじさん」を醸し出していた。

バルとはおそらくシュバイツァーの事だろうが「鬱陶しい」と言われて腹が立ったので無視してました!とは言えないし、小窓を開けるという行為、というよりメリルは馬車の窓が開閉できるとは思ってもみなかったので開け方など聞くはずもない。

乗った事のある荷馬車には天井すらなかったので窓は外を見るものだと思っていた。


「ここに留め具があるだろう。先ず上に持ち上げて外すんだ」
「こうですか?(カチン)あ、外れた・・・」
「それから窓の上に窪みがあるだろう。そこを下げるんだよ」
「窪み・・・あ、ありました!(カラカラ)うわ!開いた!開きました!」
「閉じる時は逆の手順だ」
「ありがとうございます!王都を出たら開けてみます」
「王都を出たら?‥‥アッハッハ。だよな。この臭いだからな」

優しい目をしてメリルを見る辺境伯はその後も、知らない事を咎める事も無く座面を持ち上げる。折り畳み式になった座面を広げると寝台に丁度な大きさになり、その座面は内部が物入れになっていてメリルの着替えが入っている事も教えてくれた。

「休憩所では降りて水も補給するといい。ずっと座ったままは体にも良くないからね」
「はい。ありがとうございます」
「今日は第3郊外地区まで進む。そこで宿を取ってるから宿泊するが、明日中には一番外郭の第5郊外地区も抜ける。野営になるが我慢して欲しい」
「大丈夫です!王都に来る途中は騎乗で野営でした。私、薪とか拾ってきますね。あ、水を汲んできたほうがいいですか?」
「何もしなくていいよ。怪我をすると大変だからね」


柔らかい物言いに気遣い!年上の男性は違うわぁ♡と思わず辺境伯にゴロゴロと甘えそうになってしまう。ほんのりと香るのは香水だろうが「大人」を感じさせるいい香り。

「38歳のおじさんが義父なんて申し訳ないなぁ」
「そんなこと♡(キャハ&もじっ)」

――私こそ年の差婚で良かったんだけどなぁ――

乱暴な物言いのシュバイツァーよりも優しい辺境伯のほうがずっといいと思ってしまったメリルなのだった。
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