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第14話 2つの国籍
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ガタゴトと馬車は走る。王都はもう振り返っても見えない場所。
何日も野営を繰り返しながら長い長い隊列は少しずつ辺境伯の統治する地に近づいて行った。
「明日にはもう国境を超える。身分証明となる書類を各自用意するように」
例え領主であっても例外はない。
辺境伯も自身の身分やモーセット王国の民であるという証明書を馬の鞍に取り付けたカバンから取り出した。その中には封書に入って国王シュルタスから預かったメリルの証明書もあった。
「これは君の証明書だ。皆よりも枚数が多いのは仮でモーセット王国民として届けは出しているが正式なものは屋敷に届いている。今は2つの国の国籍を有しているんだが、モーセット王国では婚姻時または20歳になった時にどちらの国籍とするか、自分自身で選ぶ自由がある」
「えぇっと結婚するから自動に変わるのではなく?」
「20歳を超えて結婚をする際はその時にどちらの国籍とするか選べるが、君はまだ16歳。今回の結婚で国籍を移す事も出来る。それがこれ、シュルタス殿が保証人となっている書類だ。ただ、寝かせておくことも出来る。その時、届け出は20歳になるかな。結婚は国家間の取り決めだが国籍は個人のもの。我々もその辺の線引きはする」
「と、言う事は・・・結婚はしてるから今でも変えられるけれど20歳になった時ってことは白い結婚での離縁を望むなら待った方が良い?」
「アハハ。そうくるか。バルは口が悪いからなぁ。残念だがモーセット王国は白かろうが黒かろうが離縁を認めていないんだ。モーセット王国は貞操観念がないと言われているけれど、結婚するまでにそちらの相性も確かめなさいって事だよ。神の前で誓うのは生涯一度きり。何度も相手が違っていたら神様も困るだろうからね。今も20歳の時も変えないのなら国籍が違う夫婦になるだけだよ。子供が生まれた時にもう一度国籍が変えられるか。今は検討中だけどね」
――そっか。やっぱり離縁はできないんだ――
ブートレイア王国は貴族のみ離縁が出来る。王族は貴族ではないので除外。平民はそもそも「籍」がないので事実婚のようなもの。
それまで「籍」すらなかったメリルは、あれよあれよという間に「存在」が認められた。それも「国王の姪」「王族」として。
書類の両親の蘭には「フランソワーノ・ブートレイア、第一子」とのみ記載されて父の欄は空欄だった。
「へぇ。オヤジ。判んねぇのか」
覗き込んだシュバイツァーから遠ざけるようにメリルは書類を隠した。
「見ないでよ!」
「減るモンじゃねぇし。国王の姪なんだろ?それでいいじゃん」
「そうだけど・・・」
「オヤジが誰なのか知りたいとか?」
「うーん…知りたいような・・・知らなくてもいいような・・・」
「じゃ、それでいいじゃないか。知りたくなれば調べさせるし、知りたくないなら何もしないさ」
自分よりも年下で、離縁は出来ないというのに受け入れている風のシュバイツァーがメリルには不思議に思える。他に思う人がこれから出来るかも知れない15歳。人生を左右する事なのに、そんなにすんなりと受け入れられるものなのかと。
旅をして1カ月。見えてきたのは口は悪いが性格はそこまで悪くないということ。
部下の兵士たちとは仲がいいし、なんなら年下である事を抜きに慕われている。
見た目は抜群なのだから、その性格を知れば引く手あまた。いや選り取り見取りとも思える。
かたやシュルタスやメイド達はメリルを褒めたが自分自身で人に選ばれるような容姿とも思えない。国王の姪となる前は貧しい村の娘。中身はその時と変わらない。
「離縁は出来ないのよ?これで良かったの?」
メリルはシュバイツァーに聞いた。
疑問は本人に聞いた方が1番早く解決をするもの。
「俺は相手がお前で良かったと思ってるけど?」
「良かったって・・・何処が?」
「面白いところかな。前にドレスとか宝石とか要らないとか言ってただろ」
「だって必要な分だけあれば足りるから」
「そういうところ!屋台もさ、今だから言うけど試したんだ」
「試した?私を?」
「そう。女なんか誰だって同じだと思ってたんだ。綺麗で値段が高ければ高いほど良い物って思ってるし、洒落た店じゃないと露骨に嫌な顔するし、俺はさ、遠征とかもあるんだけど返事がすぐに来ないとか五月蠅いしさ。出せねぇっての。話しても枠に嵌めたように同じ話ばっか。この前聞いたって言ったら、それアタクシじゃなーい!ってビンタだぜ?でもさ、お前は腹の音はさせるし、寝言は言うし、寝相も悪いし、朝は寝ぼけてるしさ」
――やっぱり聞こえてた?!って寝言?!何故知ってるの?!――
「アハハ。そういう顔に直ぐ出ると事か面白いな!なんで寝てる時のこと知ってるんだって思ってるだろ?そりゃ見回りもするし知ってるさ。俺だけじゃなく皆知ってるぜ」
「うっ!うそぉぉぉ!!」
「女性を揶揄うな。バカ者が!(ごちっ!)」
「痛ってぇ」
辺境伯がシュバイツァーに特大の拳骨を落とすと頭を抱えてシュバイツァーが蹲った。
「大丈夫、見回りは分担して行っているが馬車の中を見るのは私とシュバイツァーだけだ。部下たちは知らないよ」
――それ、全然慰めになってないんですけどぉ――
否定をしないという事は、寝言も言っているし寝相も悪いという事である。
メリルは寝ている間の事なので朝、起きた時に寝た位置にいるし寝ぼけている顔は出来るだけ馬車の中で頭をはっきりさせてから出ているので大丈夫だと思っていた。
しかしメリルの恥ずかしい秘密は知られてしまったが、メリルも1つ収穫があった。
シュバイツァーにはお付き合いをしている女性達がいるという事である。
――公には出来ないのかも知れないけれど、そういう女性がいるから「お飾りの妻」が欲しかったのかも!!
15歳は確かに若いけれどお国柄が開放的なのだから、シュバイツァーのように結婚が決められてしまう人は恋人は別と考えてるのかも知れないわね。
1人は慣れているんだし、大きなお屋敷では勝手にして頂いて、自由を満喫できる???――
そんな事を思ってしまったのだった。
何日も野営を繰り返しながら長い長い隊列は少しずつ辺境伯の統治する地に近づいて行った。
「明日にはもう国境を超える。身分証明となる書類を各自用意するように」
例え領主であっても例外はない。
辺境伯も自身の身分やモーセット王国の民であるという証明書を馬の鞍に取り付けたカバンから取り出した。その中には封書に入って国王シュルタスから預かったメリルの証明書もあった。
「これは君の証明書だ。皆よりも枚数が多いのは仮でモーセット王国民として届けは出しているが正式なものは屋敷に届いている。今は2つの国の国籍を有しているんだが、モーセット王国では婚姻時または20歳になった時にどちらの国籍とするか、自分自身で選ぶ自由がある」
「えぇっと結婚するから自動に変わるのではなく?」
「20歳を超えて結婚をする際はその時にどちらの国籍とするか選べるが、君はまだ16歳。今回の結婚で国籍を移す事も出来る。それがこれ、シュルタス殿が保証人となっている書類だ。ただ、寝かせておくことも出来る。その時、届け出は20歳になるかな。結婚は国家間の取り決めだが国籍は個人のもの。我々もその辺の線引きはする」
「と、言う事は・・・結婚はしてるから今でも変えられるけれど20歳になった時ってことは白い結婚での離縁を望むなら待った方が良い?」
「アハハ。そうくるか。バルは口が悪いからなぁ。残念だがモーセット王国は白かろうが黒かろうが離縁を認めていないんだ。モーセット王国は貞操観念がないと言われているけれど、結婚するまでにそちらの相性も確かめなさいって事だよ。神の前で誓うのは生涯一度きり。何度も相手が違っていたら神様も困るだろうからね。今も20歳の時も変えないのなら国籍が違う夫婦になるだけだよ。子供が生まれた時にもう一度国籍が変えられるか。今は検討中だけどね」
――そっか。やっぱり離縁はできないんだ――
ブートレイア王国は貴族のみ離縁が出来る。王族は貴族ではないので除外。平民はそもそも「籍」がないので事実婚のようなもの。
それまで「籍」すらなかったメリルは、あれよあれよという間に「存在」が認められた。それも「国王の姪」「王族」として。
書類の両親の蘭には「フランソワーノ・ブートレイア、第一子」とのみ記載されて父の欄は空欄だった。
「へぇ。オヤジ。判んねぇのか」
覗き込んだシュバイツァーから遠ざけるようにメリルは書類を隠した。
「見ないでよ!」
「減るモンじゃねぇし。国王の姪なんだろ?それでいいじゃん」
「そうだけど・・・」
「オヤジが誰なのか知りたいとか?」
「うーん…知りたいような・・・知らなくてもいいような・・・」
「じゃ、それでいいじゃないか。知りたくなれば調べさせるし、知りたくないなら何もしないさ」
自分よりも年下で、離縁は出来ないというのに受け入れている風のシュバイツァーがメリルには不思議に思える。他に思う人がこれから出来るかも知れない15歳。人生を左右する事なのに、そんなにすんなりと受け入れられるものなのかと。
旅をして1カ月。見えてきたのは口は悪いが性格はそこまで悪くないということ。
部下の兵士たちとは仲がいいし、なんなら年下である事を抜きに慕われている。
見た目は抜群なのだから、その性格を知れば引く手あまた。いや選り取り見取りとも思える。
かたやシュルタスやメイド達はメリルを褒めたが自分自身で人に選ばれるような容姿とも思えない。国王の姪となる前は貧しい村の娘。中身はその時と変わらない。
「離縁は出来ないのよ?これで良かったの?」
メリルはシュバイツァーに聞いた。
疑問は本人に聞いた方が1番早く解決をするもの。
「俺は相手がお前で良かったと思ってるけど?」
「良かったって・・・何処が?」
「面白いところかな。前にドレスとか宝石とか要らないとか言ってただろ」
「だって必要な分だけあれば足りるから」
「そういうところ!屋台もさ、今だから言うけど試したんだ」
「試した?私を?」
「そう。女なんか誰だって同じだと思ってたんだ。綺麗で値段が高ければ高いほど良い物って思ってるし、洒落た店じゃないと露骨に嫌な顔するし、俺はさ、遠征とかもあるんだけど返事がすぐに来ないとか五月蠅いしさ。出せねぇっての。話しても枠に嵌めたように同じ話ばっか。この前聞いたって言ったら、それアタクシじゃなーい!ってビンタだぜ?でもさ、お前は腹の音はさせるし、寝言は言うし、寝相も悪いし、朝は寝ぼけてるしさ」
――やっぱり聞こえてた?!って寝言?!何故知ってるの?!――
「アハハ。そういう顔に直ぐ出ると事か面白いな!なんで寝てる時のこと知ってるんだって思ってるだろ?そりゃ見回りもするし知ってるさ。俺だけじゃなく皆知ってるぜ」
「うっ!うそぉぉぉ!!」
「女性を揶揄うな。バカ者が!(ごちっ!)」
「痛ってぇ」
辺境伯がシュバイツァーに特大の拳骨を落とすと頭を抱えてシュバイツァーが蹲った。
「大丈夫、見回りは分担して行っているが馬車の中を見るのは私とシュバイツァーだけだ。部下たちは知らないよ」
――それ、全然慰めになってないんですけどぉ――
否定をしないという事は、寝言も言っているし寝相も悪いという事である。
メリルは寝ている間の事なので朝、起きた時に寝た位置にいるし寝ぼけている顔は出来るだけ馬車の中で頭をはっきりさせてから出ているので大丈夫だと思っていた。
しかしメリルの恥ずかしい秘密は知られてしまったが、メリルも1つ収穫があった。
シュバイツァーにはお付き合いをしている女性達がいるという事である。
――公には出来ないのかも知れないけれど、そういう女性がいるから「お飾りの妻」が欲しかったのかも!!
15歳は確かに若いけれどお国柄が開放的なのだから、シュバイツァーのように結婚が決められてしまう人は恋人は別と考えてるのかも知れないわね。
1人は慣れているんだし、大きなお屋敷では勝手にして頂いて、自由を満喫できる???――
そんな事を思ってしまったのだった。
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