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第19話 メリル、「小屋」を発見!
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「参ったなぁ。お日様ももう沈んじゃったけど見つからないわ。騙されたのかなぁ」
空を見上げれば鬱蒼と茂った木々の間から月の光と星の瞬きが見える。
しかし、足元は真っ暗な上に冬なので茶色く枯れてはいるが草が茂っていて、ともすれば木の根に足を引っかけて転びそうになったり、石に生えたコケで足がズルっと大股に開いてしまったり。
振り返っても道なき道を歩いたために前を見るのと大差ない森の中。
「木があるから合ってると思うんだけど、辺境伯様のご一家だから行軍も意味してるのかしら」
貰った地図には確かにカレドアは木の絵を描いた。
ちゃんとメリルにはそれが「木」だと伝わっている。
しかし、カレドアは「庭」のつもりで描いたのであって「森」ではない。
道なき道を進んでいたメリルだったが、月も空の真上に差し掛かろうという頃に「小屋」を見つけた。
遠目から見ても一辺が5、6mの正方形に近い「小屋」である事は間違いない。
「灯りがないわ・・・そっか。妾の館なんだもの」
月明かりに照らされる小屋を見つければもうそこは最終地点。あともう少しと頑張れるのだが、1歩、1歩と小屋に近くなると、小屋は小屋で間違いないのだが、明らかに廃屋であるのが判った。
壁は所どころ穴があいているし、窓は枠が朽ちてしまったのか落ちてガラスが割れている。
玄関扉とおぼしきものは閉じているのではなく、草などの生え具合から数年前に誰かが立てかけただけだと判る。
「うわぁ…まさに妾に相応しいって感じ~」
時間も時間。この先歩けるかと言えばもう休みたいと思えるほどに疲れていた。
メリルはこの廃屋で今夜は休もうと立てかけてあった扉をヨイショと持ち上げて横にずらした。
「お邪魔しまぁす・・・いないとは思いますがどなたかいらっしゃいます?」
今の心境は、「返事がない」事を祈るのみ。
オバケや幽霊は信じていないけれど、こんな森の中の廃屋だとついつい想像してしまうもの。
「いないのかな。じゃ、失礼して・・・」
窓のない窓用の穴から差し込む月明かりが小さな家のかつての暖炉を照らしていた。
「助かったぁ!暖炉があるぅ!!火種になるもの・・・あるかな」
手探りではあったけれど埃の厚さを感じる暖炉の上側に手を滑らせると馴染みのある感触。
「火打石だわ!やった!!」
だが、色んな物が散らばる足元。月明かりに照らされる部分には窓が取れてしまった事から葉っぱや枝などが風と共に吹き込んできてそこで朽ちているけれど、吹き込むのは雨や雪も同じだったようで手に取った枝は湿っていた。
「窮すれば即ち変ず、変ずれば即ち通ず、通ずれば即ち久し。だわ!こんな時はぁぁーッ」
メリルはさっき火打石に触れる直前に「ふわっ」と厚みを感じた「埃」を手で寄せ、掴むと火打石でカチンカチン!!火花を散らした。
小さく飛んだ火種が埃を「ジジッ」と燃やして独特の香りを発生させる。
「行けるわ。埃は乾燥してる。絶対に火をつけるんだから!ハンザの言った通りねっ!」
メリルを育てたハンザとリンダ。ハンザは若い頃に役目で遠い異国にも行った事があったようで、メリルがどうしていいのか判らなくて悩んでいる時によく言っていたのだ。
『メリル。知ってるかい?遠い遠い海の向こうには大きな国がある』
『海?海ってなぁに?』
『塩辛い水のある大きな湖さ。何日もかけて船に乗ってついた先の国にはこんな言葉がある』
『どんな言葉?』
『窮すれば即ち変ず、変ずれば即ち通ず、通ずれば即ち久し』
『キュキュ・・・キュルル?』
『ハハハ。困った時は今までの考え方を変えなければならない。変えると閃く事がある。閃くとその問題が解決するかもしれない。そういう考えを続けなさいという事さ』
ハンザの言葉の通り「埃」も考え方を変えれば火を起こす道具にもなる。掃除で眉を顰める厄介ものではなくなるという事である。
カチカチと何度も繰り返していると焦げた部分に緩く煙が上がるようになった。
メリルは大事そうにその火種にゆっくりと息を吹きかける。
赤くなったり、消えそうになったりする小さな火種に急いで頼りにしていた地図を下敷きにして乗せた。
「もっと燃えそうなもの・・・」
壁に布があるような感触にてっきり壁紙が布製かと思い、捲れた部分から引き裂いてなんとか暖炉に火が入った。埃が溜まっていた部分に更に手を伸ばし、燃えそうなものがないか探り、紙と思われるものが触れるとジャンジャン暖炉に突っ込んでいく。
その次にするのは見える範囲で床に散らばった湿った枝を暖炉の周りに集めた。
暖炉の熱で水分を飛ばし、燃えそうな程度の湿り気になれば放り込むためである。
懸命になっていると時間が経つのも忘れてしまう。
空が白みかけた時、メリルは部屋全体が明るくなってきた事に特大の雄叫びをあげて卒倒した。
「ンニャァッァアーッ」
そこはかつて、蝋人形師が作業場としていた小屋で、部屋の隅には蝋人形師の実にリアルで、精巧にかつ!忠実にモデルを再現したと思われる作品が「ヘロゥ♡ガール♪」とメリルを見ていたからである。
――私、世紀末救世主じゃなくて聖飢〇Ⅱだったの?・・・閣下(がくり)――
空を見上げれば鬱蒼と茂った木々の間から月の光と星の瞬きが見える。
しかし、足元は真っ暗な上に冬なので茶色く枯れてはいるが草が茂っていて、ともすれば木の根に足を引っかけて転びそうになったり、石に生えたコケで足がズルっと大股に開いてしまったり。
振り返っても道なき道を歩いたために前を見るのと大差ない森の中。
「木があるから合ってると思うんだけど、辺境伯様のご一家だから行軍も意味してるのかしら」
貰った地図には確かにカレドアは木の絵を描いた。
ちゃんとメリルにはそれが「木」だと伝わっている。
しかし、カレドアは「庭」のつもりで描いたのであって「森」ではない。
道なき道を進んでいたメリルだったが、月も空の真上に差し掛かろうという頃に「小屋」を見つけた。
遠目から見ても一辺が5、6mの正方形に近い「小屋」である事は間違いない。
「灯りがないわ・・・そっか。妾の館なんだもの」
月明かりに照らされる小屋を見つければもうそこは最終地点。あともう少しと頑張れるのだが、1歩、1歩と小屋に近くなると、小屋は小屋で間違いないのだが、明らかに廃屋であるのが判った。
壁は所どころ穴があいているし、窓は枠が朽ちてしまったのか落ちてガラスが割れている。
玄関扉とおぼしきものは閉じているのではなく、草などの生え具合から数年前に誰かが立てかけただけだと判る。
「うわぁ…まさに妾に相応しいって感じ~」
時間も時間。この先歩けるかと言えばもう休みたいと思えるほどに疲れていた。
メリルはこの廃屋で今夜は休もうと立てかけてあった扉をヨイショと持ち上げて横にずらした。
「お邪魔しまぁす・・・いないとは思いますがどなたかいらっしゃいます?」
今の心境は、「返事がない」事を祈るのみ。
オバケや幽霊は信じていないけれど、こんな森の中の廃屋だとついつい想像してしまうもの。
「いないのかな。じゃ、失礼して・・・」
窓のない窓用の穴から差し込む月明かりが小さな家のかつての暖炉を照らしていた。
「助かったぁ!暖炉があるぅ!!火種になるもの・・・あるかな」
手探りではあったけれど埃の厚さを感じる暖炉の上側に手を滑らせると馴染みのある感触。
「火打石だわ!やった!!」
だが、色んな物が散らばる足元。月明かりに照らされる部分には窓が取れてしまった事から葉っぱや枝などが風と共に吹き込んできてそこで朽ちているけれど、吹き込むのは雨や雪も同じだったようで手に取った枝は湿っていた。
「窮すれば即ち変ず、変ずれば即ち通ず、通ずれば即ち久し。だわ!こんな時はぁぁーッ」
メリルはさっき火打石に触れる直前に「ふわっ」と厚みを感じた「埃」を手で寄せ、掴むと火打石でカチンカチン!!火花を散らした。
小さく飛んだ火種が埃を「ジジッ」と燃やして独特の香りを発生させる。
「行けるわ。埃は乾燥してる。絶対に火をつけるんだから!ハンザの言った通りねっ!」
メリルを育てたハンザとリンダ。ハンザは若い頃に役目で遠い異国にも行った事があったようで、メリルがどうしていいのか判らなくて悩んでいる時によく言っていたのだ。
『メリル。知ってるかい?遠い遠い海の向こうには大きな国がある』
『海?海ってなぁに?』
『塩辛い水のある大きな湖さ。何日もかけて船に乗ってついた先の国にはこんな言葉がある』
『どんな言葉?』
『窮すれば即ち変ず、変ずれば即ち通ず、通ずれば即ち久し』
『キュキュ・・・キュルル?』
『ハハハ。困った時は今までの考え方を変えなければならない。変えると閃く事がある。閃くとその問題が解決するかもしれない。そういう考えを続けなさいという事さ』
ハンザの言葉の通り「埃」も考え方を変えれば火を起こす道具にもなる。掃除で眉を顰める厄介ものではなくなるという事である。
カチカチと何度も繰り返していると焦げた部分に緩く煙が上がるようになった。
メリルは大事そうにその火種にゆっくりと息を吹きかける。
赤くなったり、消えそうになったりする小さな火種に急いで頼りにしていた地図を下敷きにして乗せた。
「もっと燃えそうなもの・・・」
壁に布があるような感触にてっきり壁紙が布製かと思い、捲れた部分から引き裂いてなんとか暖炉に火が入った。埃が溜まっていた部分に更に手を伸ばし、燃えそうなものがないか探り、紙と思われるものが触れるとジャンジャン暖炉に突っ込んでいく。
その次にするのは見える範囲で床に散らばった湿った枝を暖炉の周りに集めた。
暖炉の熱で水分を飛ばし、燃えそうな程度の湿り気になれば放り込むためである。
懸命になっていると時間が経つのも忘れてしまう。
空が白みかけた時、メリルは部屋全体が明るくなってきた事に特大の雄叫びをあげて卒倒した。
「ンニャァッァアーッ」
そこはかつて、蝋人形師が作業場としていた小屋で、部屋の隅には蝋人形師の実にリアルで、精巧にかつ!忠実にモデルを再現したと思われる作品が「ヘロゥ♡ガール♪」とメリルを見ていたからである。
――私、世紀末救世主じゃなくて聖飢〇Ⅱだったの?・・・閣下(がくり)――
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