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第31話   2人で初めての作業は「沢の捜索」

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サクッサクッ。

メリルは人間用湯桶を作る際に出た端材はざいで作った手製のスコップを手に雪を掘り返した。

「なにしてんだ?」
「雪を掘ってるの」

それはシュバイツァーも見れば解ること。
たった一晩なのに40cmほど積もった雪は力を入れずとも掘れると言えば掘れるのだが、スコップを入れた先から崩れてちっとも前に進めない。

「だから!何してんだって聞いてるだろ!」
「雪を掘ってると言ったでしょう!言葉と動作!見ても聞いても判らないならどうしろっていうの!」
「そうじゃなくてっ!なんで雪を掘ってるんだよ!」
「沢があるの。料理をするにも何をするにも水が必要でしょう?このあたりにあったのよ」
「どこだよ。貸してみろ!」

メリルから手製のスコップを奪い取ったシュバイツァーはメリルに場所を問いながら雪をかき分けるようにスコップを動かした。

しかし、土が見えるようになって、水を汲んだり、鍋を洗ったり、顔を洗ったりした窪みは見つかったが水が流れている気配はない。

「凍ってしまったのかしら・・・仕方ないわ」
「仕方ないって・・・どうするつもりだ?」
「雪を集めて溶かすの。悪いんだけど暖炉の左隣に鍋があるから暖炉の金具に引っかけててくれる?」
「それは良いけど・・・まさか桶に雪を入れて?!」

地面をしゃがみ込んで水のない沢だった窪みを見るメリルの隣にシュバイツァーもしゃがむ。

「そうよ?他に何か方法がある?あの辺りならまだ手付かずだから雪も綺麗なはずね」

あの辺りと顔を別の方向に向けたメリルだが、ホッホと息と言葉を吐きだすたびに口の周りが白くなる。
掻き分けた雪が舞ってメリルの被ったショールにもハラハラと落ちているのだが、シュバイツァーはメリルの雪を払い、「しゃぁねぇな!」土に向かって叫んで立ち上がった。

「あ~もう!判った。判ったから。リルは家の中にいろ!俺がやる」
「リル?誰のこと?」

シュバイツァーを見上げるメリル。上目遣いとは逆だがこれはこれで破壊力抜群。
雪に赤いシミを噴射しそうになったがシュバイツァーは何とか堪えた。

沢を探すのに雪塗れになって体が火照っているからか、それとも寒さなのか。
耳まで真っ赤になったシュバイツァーの顔。

「お・・・お前の事だよっ!いいか?誰にもリルって呼ばせるなよ?」
「呼ぶ人いないんだけど…」
「いっ!いいから!家ん中入ってろ!ったく・・・雪焼けすんぞ」
「雪焼け?なにそれ」
「夏の日焼けみたいに雪で肌が焼けんだよっ!リルの肌が・・・」
「リルノハダ?何?モーセット王国の固有種?」
「どうでもいいから!家の中にいろって!茶でも用意しててくれ・・・さっきの美味かった」
「えぇーっ?!マコモ茶?あれ、残り少ないのにぃ!」
「だったら他のでいいよ!早く家の中で体っ!温めろ!」

シュバイツァーはメリルを小屋に向かわせ、その後はサラサラの雪を運ぶ。
水ならば底を押さえるのに工夫が必要だが雪ならそれも必要はない。しかし桶にコンモリと雪を入れても溶かせば熱くなった鍋なので最初の数回は直ぐに蒸発。
何度目かでやっと即座に湯になり、12,13往復した頃には鍋いっぱいの湯になった。

「これで…はぁはあ・・・足りるか?…はぁはあ」
「ありがとう。でもごめんなさい」
「まだ何かあるのかよ!」
「あるっていうか・・・お茶を淹れるお湯がコレなの。もうちょっと待ってくれる?」
「・・・・・」


そう、メリルの住む小屋には万能とも言える鍋は1つしかない。
現在ようやく沸騰をし始めたが、沸騰をさせてそれなりに時間を置かないと腹を壊す可能性もある。

シュバイツァーは改めて小屋の中を見回した。
腕の中でメリルが眠っていた時は、見ちゃいけないと思いつつも寝顔を堪能してしまい、小屋の中を見るなどなかった。

「へぇ…天井裏に木を打ち付けてるのか」
「そうよ。外側は蝋でコーティングしてるの。元々の屋根の板も葺き替えようと思ったんだけど、葺き替えるにはかなりの長さの板が必要なのね。手押し車じゃ運べなくて」

天井から視線を壁に移したシュバイツァーだったが、違和感を感じた。

――あれ?なんで ”ない” んだ?――

ワンルームとも言える小屋。扉は1つしかなく、開ければ外に出る。
他に部屋がある訳ではないのに、見えている範囲にある筈のものがない。


「なぁ、何処で寝てたんだ?まさかこんな冷えた床じゃないだろうな」

メリルはトントン・・・。指先でテーブルを突っついた。

「は?まさかこのテーブルで?!」
「これはテーブルじゃないの。本当の姿は私の寝台。言ったでしょう?お客様を迎えるような家じゃないって。でもここまで住めるように出来たって言うのは私なりに満足してるの。蝋人形もあとはフラーけんだけだし‥随分広くもなったわ。ねっフラーけん。ワンワーン!!」
「ぷっ!ワンワーンって…ブッハッハ」
「笑わなくてもいいでしょう!ふんっ!」

初めて出会った日、「鬱陶しい」と言った事に腹を立ててそっぽを向いた時と同じように顔を逸らすメリルだったが、シュバイツァーはその時を思い出しまた笑った。
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