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第32話 メリル、野ネズミになり罠にかかる
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お茶を淹れて貰ったシュバイツァーだったが、「帰ろう」と言ってもメリルは「嫌だ」と頑として首を縦には振ってくれない。
「俺たちの家には誰も入れないし、リルの好きなようにしていい。叔母上たちにはちゃんと罰も与える」
「叔母様達に怒ってるからお屋敷に戻らない訳じゃないの」
「だったら猶更だ。不自由はさせない!約束するっ」
「あのね?正直な気持ちで言えば質の悪い悪戯だなって思うけど、歓迎の気持ちがあったのならそれでいいの。そりゃ妾とか言われてナンデスッテ?と思わなかった訳じゃないけど‥‥叔母様達に罰を与えるのならお相子にしてくれないかな」
「お相子?どういう事だ?」
メリルは一脚しかない椅子に腰かけたシュバイツァーの背にした側に置いてあるメリルが作った丸薬を一つまみ手に取るとテーブルの上に置いた。
「普通の王女様がこんなの作ると思う?そりゃ・・・歴代の王様の中には趣味で鍵を作ったり錬金術?で魔道具が作れないかってやってた人はいたみたいだけど・・・私は薬を作ったり村の人の手伝いをしたり・・・そうやって生きてきたの。母親が王女だって聞かされたのもここに来る直前よ?」
「え?じゃぁ・・・王女じゃないってことか?」
「そこは…判らないわ。でもシュルタス陛下とは髪色も目の色も同じだし、私の母親が王女だったって言うのは本当だと思う。育ててくれたのはハンザとリンダだったけど、村の子たちには教えないのに私には王家のしきたりなんかを教えてくれたし、今思えば保護だと赤茶色に髪を染めるように言われていたのは髪が痛むからじゃなくて、髪色から王族だと気が付かれないように・・・だったんだろうと思うの」
「そうだったのか・・・こちらには王女としか・・・そりゃそうだよな」
「ブートレイア王国がこんな大事な事を黙ってた事と、叔母様達のこと。お相子にしてくれると私としては良いかなあって思うの。だって…自分絡みで誰かが処罰されるなんて寝覚めが悪いじゃない?」
シュバイツァーにしてみれば自分たち一族に不利益になるような事をした者は身分問わず処分されるのが当たり前だが、メリルはそんな生き方をしてこなかった。
「帰りたくないっていうか・・・行きたくないのは貴方と暮らすのが嫌だとかそういうのじゃなくて、案外ここって不便そうに見えるかも知れないけど私には快適なの」
「快適?何もないのに?今だって水がないから雪を集めてたんだぞ?」
「それがいいのよ。多分ね…私、ブートレイア王国のお城でもそうだったけど誰かにお世話をされるのは慣れてないの」
「リルがそう願うなら・・・判った」
窓の外はもう陽が夕暮れに向かって傾きかけていた。
シュバイツァーは1人で屋敷に戻る事になったが、メリルも辺境伯に無事だという姿を見せなくていいわけではない。
かと言って「ここに来い」というつもりもない。
「明日、迎えに来る。ちゃんと父上に会った後はここに送る」
「うん。ありがとう」
玄関前で乗って来た馬の手綱を握ったシュバイツァーだったが、奇妙なものが目に入った。
筒のようなものが転がっていたのだ。
「なんだ?あれは」
「え?あぁ、人間用湯桶よ」
「人間用湯桶?」
「そう、あれに水っていうかお湯を入れてドボーン!って私が入るの」
「アッハッハ!もう本当に・・・何から何まで斜め上をいくんだな。でも外だと寒いだろ?」
「あ~・・・そうなんだけど・・・まだ手直しが必要なの」
「手直し?なんで?」
「お水を入れたらね…隙間から出ちゃって全然溜まらないのよ」
「ちょっとこれ、持っててくれ」
握ったばかりの手綱をメリルに預け、シュバイツァーは人間用湯桶に近づいた。
こんこんと板を叩いて人間用湯桶の周りを1周したが、疑問が浮かんだ。
「なぁ、これって立てたら俺の首くらいまで高さがあるけどどうやって入るんだ?」
「え‥‥」
「でもってさ・・・湯を入れて使った後はどうやって湯を出すんだ?今みたいに倒しとくのか?」
「え‥‥あ、あぁーっ!!そうよ!そうだった!!やだぁ!もぉぉ!!」
排水用の筒を取り付けるのをすっかり失念していたのと、入るのに跨げる高さではなかった事に気が付いたメリルは水を入れるのに苦労したはずだ!と叫んだ。
カルボス村の家にあったものは煉瓦でつくった踏み台もあったのだが「兎に角湯桶!」と考えてしまって肝心な事を忘れてしまっていた。
これでは水漏れを直しても使えない。
シュバイツァーは横倒しになった桶に潜るように入り、手だけ出してメリルに「来い、来い」と合図をした。
「何?」
「1匹、2匹」
1匹と自分を指差し、2匹とメリルを指差す。そして狭い横倒しの湯桶で隣に座れという。
「狭っ!!」
「だな。でもさ・・・2匹の野ネズミが穴倉に入ったらどうするか知ってっか?」
「ん?野ネズミ?穴倉に~飛び込んで~って歌?」
「そ!」
ジィィっと細い目になってメリルはシュバイツァーを見た。
ニマっと笑うシュバイツァー。
――来るっ!!!来たぁぁーっ!――
メリルは逃げようとしたが遅かった。
「チュッチュチュッチュッチュッチュ♪大騒ぎ~だな(ちゅっ♡)」
メリルは罠にかかった事を悟った。
「俺たちの家には誰も入れないし、リルの好きなようにしていい。叔母上たちにはちゃんと罰も与える」
「叔母様達に怒ってるからお屋敷に戻らない訳じゃないの」
「だったら猶更だ。不自由はさせない!約束するっ」
「あのね?正直な気持ちで言えば質の悪い悪戯だなって思うけど、歓迎の気持ちがあったのならそれでいいの。そりゃ妾とか言われてナンデスッテ?と思わなかった訳じゃないけど‥‥叔母様達に罰を与えるのならお相子にしてくれないかな」
「お相子?どういう事だ?」
メリルは一脚しかない椅子に腰かけたシュバイツァーの背にした側に置いてあるメリルが作った丸薬を一つまみ手に取るとテーブルの上に置いた。
「普通の王女様がこんなの作ると思う?そりゃ・・・歴代の王様の中には趣味で鍵を作ったり錬金術?で魔道具が作れないかってやってた人はいたみたいだけど・・・私は薬を作ったり村の人の手伝いをしたり・・・そうやって生きてきたの。母親が王女だって聞かされたのもここに来る直前よ?」
「え?じゃぁ・・・王女じゃないってことか?」
「そこは…判らないわ。でもシュルタス陛下とは髪色も目の色も同じだし、私の母親が王女だったって言うのは本当だと思う。育ててくれたのはハンザとリンダだったけど、村の子たちには教えないのに私には王家のしきたりなんかを教えてくれたし、今思えば保護だと赤茶色に髪を染めるように言われていたのは髪が痛むからじゃなくて、髪色から王族だと気が付かれないように・・・だったんだろうと思うの」
「そうだったのか・・・こちらには王女としか・・・そりゃそうだよな」
「ブートレイア王国がこんな大事な事を黙ってた事と、叔母様達のこと。お相子にしてくれると私としては良いかなあって思うの。だって…自分絡みで誰かが処罰されるなんて寝覚めが悪いじゃない?」
シュバイツァーにしてみれば自分たち一族に不利益になるような事をした者は身分問わず処分されるのが当たり前だが、メリルはそんな生き方をしてこなかった。
「帰りたくないっていうか・・・行きたくないのは貴方と暮らすのが嫌だとかそういうのじゃなくて、案外ここって不便そうに見えるかも知れないけど私には快適なの」
「快適?何もないのに?今だって水がないから雪を集めてたんだぞ?」
「それがいいのよ。多分ね…私、ブートレイア王国のお城でもそうだったけど誰かにお世話をされるのは慣れてないの」
「リルがそう願うなら・・・判った」
窓の外はもう陽が夕暮れに向かって傾きかけていた。
シュバイツァーは1人で屋敷に戻る事になったが、メリルも辺境伯に無事だという姿を見せなくていいわけではない。
かと言って「ここに来い」というつもりもない。
「明日、迎えに来る。ちゃんと父上に会った後はここに送る」
「うん。ありがとう」
玄関前で乗って来た馬の手綱を握ったシュバイツァーだったが、奇妙なものが目に入った。
筒のようなものが転がっていたのだ。
「なんだ?あれは」
「え?あぁ、人間用湯桶よ」
「人間用湯桶?」
「そう、あれに水っていうかお湯を入れてドボーン!って私が入るの」
「アッハッハ!もう本当に・・・何から何まで斜め上をいくんだな。でも外だと寒いだろ?」
「あ~・・・そうなんだけど・・・まだ手直しが必要なの」
「手直し?なんで?」
「お水を入れたらね…隙間から出ちゃって全然溜まらないのよ」
「ちょっとこれ、持っててくれ」
握ったばかりの手綱をメリルに預け、シュバイツァーは人間用湯桶に近づいた。
こんこんと板を叩いて人間用湯桶の周りを1周したが、疑問が浮かんだ。
「なぁ、これって立てたら俺の首くらいまで高さがあるけどどうやって入るんだ?」
「え‥‥」
「でもってさ・・・湯を入れて使った後はどうやって湯を出すんだ?今みたいに倒しとくのか?」
「え‥‥あ、あぁーっ!!そうよ!そうだった!!やだぁ!もぉぉ!!」
排水用の筒を取り付けるのをすっかり失念していたのと、入るのに跨げる高さではなかった事に気が付いたメリルは水を入れるのに苦労したはずだ!と叫んだ。
カルボス村の家にあったものは煉瓦でつくった踏み台もあったのだが「兎に角湯桶!」と考えてしまって肝心な事を忘れてしまっていた。
これでは水漏れを直しても使えない。
シュバイツァーは横倒しになった桶に潜るように入り、手だけ出してメリルに「来い、来い」と合図をした。
「何?」
「1匹、2匹」
1匹と自分を指差し、2匹とメリルを指差す。そして狭い横倒しの湯桶で隣に座れという。
「狭っ!!」
「だな。でもさ・・・2匹の野ネズミが穴倉に入ったらどうするか知ってっか?」
「ん?野ネズミ?穴倉に~飛び込んで~って歌?」
「そ!」
ジィィっと細い目になってメリルはシュバイツァーを見た。
ニマっと笑うシュバイツァー。
――来るっ!!!来たぁぁーっ!――
メリルは逃げようとしたが遅かった。
「チュッチュチュッチュッチュッチュ♪大騒ぎ~だな(ちゅっ♡)」
メリルは罠にかかった事を悟った。
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