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第33話 メリル、胃袋を掴まれる
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散々に桶の中で唇をマンモスイモムシ化されたメリルはシュバイツァーが帰った後、湯の中に雪をまた投入してごそごそと制作をした薬草の丸薬を取り出した。
数粒をその湯で解いてドロドロのペースト状にすると顔にぺたぺた。
こうしておくと「腫れ」が引くのである。
「唇だけじゃなくて色んな所吸いまくって!もぉっ!」
服を着ていなかったら全身パックをしなくてはならず、今ある丸薬では足らなかったかも知れない。
しかし、時間が経ちメリルはテーブルにしていた寝台に手をついてがっくりと項垂れた。
「そうよ・・・沢は枯れてるんだった・・・パックが落とせないわ」
鍋にある湯は残り僅か。
今から雪を投入していたら洗い流すのに必要な水の量が確保できるのは真夜中になってしまう。
時間が経てば乾燥し、ぺりぺりと剥ぐのではなくプルルンの実から作ったパックは洗い流さなくてはならない。だが、数時間置いておいても害になるものではないので出来るだけシーツに顔を付けないようにと疲れもあって横になってしまった。
昼寝をしていてもぐっすりと翌朝を迎えられるのは習慣だろうか。
「今朝も・・・さっぶ・・・うぅぅ~」
むくりと旧作業台だった寝台から起きたメリルは朝食用の水と顔を洗うためにいつものように暖炉の残り火に枝を突っ込み、遂に役目を引き継いだフラー犬に火を灯した。
ちなみにフラー犬に取り付けた芯は人間で言えば肩甲骨のあたりにある。
蓄音機を覗き込むように首を傾げたビク〇ー犬を模したのだろうが、体の部分は未完成なので傾いた頭部がネック。なので顎の下に支え用の彫刻刀が欠かせないのである。
芯を取り付ける際にメリルが「お客さん、凝ってますね」とフラー犬に語りかけたが、ツボに刺さったかどうかは鍼灸師ではないので不明である。
っと・・・いつものようにメリルは洗顔の為に玄関の扉を開ける。
「あ‥‥そうだった。沢が凍ってるんだった」
と、なれば暖炉の火で雪を溶かして水を確保せねばならない。
顔にパックをしたままである事をすっかり忘れ、暖炉の火力をMAXにするため薪を投入し、桶を抱えて外と内を数往復。
湯が沸騰し、さぁ顔を洗うためにと桶に湯を取り、外の雪で温度を調整しようと玄関を開けた。
「よっ!起きてたか?」
「もう来たの!?まだ全然用意してないんだけど!」
「気にすんな。待ってっからさ。今日も俺のリルは可愛いな」
キスをしてこようとするシュバイツァー。そこでメリルは気が付いた。
――私、パックを取ってない!!――
が、シュバイツァーはニコニコとメリルの顔を見ながら「雪だろ?」と言って屋敷から持ってきたであろう大きな桶にいっぱいの雪を差し出した。
「あ、ありがとう」
――あれ?顔を見て笑わないわね――
手渡された桶から湯の入った桶に雪を入れ、顔を洗うのだがそこでさらなる違和感がメリルを襲う。
――え?どうして桶の湯が濁らないの?――
ハッと違和感の正体に気が付き、暖炉の前で薪をくべるシュバイツァーの後ろを抜け、寝台のシーツをガッと手に取ると玄関に走り、太陽の光に翳す・・・までもなくがっくり崩れ落ちた。
「ど、どうした?!腹でも痛いのか!?」
「違うの・・・私、本当に寝相が悪かったのぉぉーっ」
シーツにべっちょりとついたパック。
かの日、馬車の中での寝泊まりで「寝相、寝言、寝ぼけ顔」の3拍子をシュバイツァーに指摘されたが、正直な所「そこまで酷くないわよ」と思っていたのに!!
本当に寝相が悪かった事が判明したのだった。
「今更だ。気にすんな」
「するわよ!あぁ~もしかしたら夜中に本当は寝台から落ちてるけど、それも気が付いてないのかも知れないわ。ううん。もしかしたら徘徊してるのかもぉぉ」
「だとしてもだ。俺しか知らないから大丈夫だ」
「全然大丈夫じゃないわよぅ!!」
「だったら俺と寝ればよくね?腹出して寝てても掛布、掛けてやるよ」
「そう言う問題じゃないんだってばぁ!」
メリルが吠えている間にシュバイツァーはバゲットを暖炉の火で炙り、持ってきたマグカップに珈琲を淹れ、ついでにチーズも持参したピックに刺して、炙ったバゲットと共にメリルに差し出す。
「ま、気にすんな。腹、減ってるだろ?」
「減ってるけど・・・ありがとう」
バゲットとピックに刺したチーズを受け取り、今日は一脚しかない椅子にメリルが腰かけて先ずはバゲットをぱくり。
「ん?・・・んんーっ?!」
「美味いだろ?持ってきた」
「ファフォンフフィーフッ!?」
シュバイツァーはマロンクリームをバゲットの切れ目に塗っていた。ピックなどと共に持参したマロンクリームの入った瓶を軽く持ち上げてニパっと笑う。
――なんて至れり尽くせりなの!これが胃袋を掴まれるという奴?――
余りの美味しさにいつもの倍のバゲットを食べてしまったメリルだった。
数粒をその湯で解いてドロドロのペースト状にすると顔にぺたぺた。
こうしておくと「腫れ」が引くのである。
「唇だけじゃなくて色んな所吸いまくって!もぉっ!」
服を着ていなかったら全身パックをしなくてはならず、今ある丸薬では足らなかったかも知れない。
しかし、時間が経ちメリルはテーブルにしていた寝台に手をついてがっくりと項垂れた。
「そうよ・・・沢は枯れてるんだった・・・パックが落とせないわ」
鍋にある湯は残り僅か。
今から雪を投入していたら洗い流すのに必要な水の量が確保できるのは真夜中になってしまう。
時間が経てば乾燥し、ぺりぺりと剥ぐのではなくプルルンの実から作ったパックは洗い流さなくてはならない。だが、数時間置いておいても害になるものではないので出来るだけシーツに顔を付けないようにと疲れもあって横になってしまった。
昼寝をしていてもぐっすりと翌朝を迎えられるのは習慣だろうか。
「今朝も・・・さっぶ・・・うぅぅ~」
むくりと旧作業台だった寝台から起きたメリルは朝食用の水と顔を洗うためにいつものように暖炉の残り火に枝を突っ込み、遂に役目を引き継いだフラー犬に火を灯した。
ちなみにフラー犬に取り付けた芯は人間で言えば肩甲骨のあたりにある。
蓄音機を覗き込むように首を傾げたビク〇ー犬を模したのだろうが、体の部分は未完成なので傾いた頭部がネック。なので顎の下に支え用の彫刻刀が欠かせないのである。
芯を取り付ける際にメリルが「お客さん、凝ってますね」とフラー犬に語りかけたが、ツボに刺さったかどうかは鍼灸師ではないので不明である。
っと・・・いつものようにメリルは洗顔の為に玄関の扉を開ける。
「あ‥‥そうだった。沢が凍ってるんだった」
と、なれば暖炉の火で雪を溶かして水を確保せねばならない。
顔にパックをしたままである事をすっかり忘れ、暖炉の火力をMAXにするため薪を投入し、桶を抱えて外と内を数往復。
湯が沸騰し、さぁ顔を洗うためにと桶に湯を取り、外の雪で温度を調整しようと玄関を開けた。
「よっ!起きてたか?」
「もう来たの!?まだ全然用意してないんだけど!」
「気にすんな。待ってっからさ。今日も俺のリルは可愛いな」
キスをしてこようとするシュバイツァー。そこでメリルは気が付いた。
――私、パックを取ってない!!――
が、シュバイツァーはニコニコとメリルの顔を見ながら「雪だろ?」と言って屋敷から持ってきたであろう大きな桶にいっぱいの雪を差し出した。
「あ、ありがとう」
――あれ?顔を見て笑わないわね――
手渡された桶から湯の入った桶に雪を入れ、顔を洗うのだがそこでさらなる違和感がメリルを襲う。
――え?どうして桶の湯が濁らないの?――
ハッと違和感の正体に気が付き、暖炉の前で薪をくべるシュバイツァーの後ろを抜け、寝台のシーツをガッと手に取ると玄関に走り、太陽の光に翳す・・・までもなくがっくり崩れ落ちた。
「ど、どうした?!腹でも痛いのか!?」
「違うの・・・私、本当に寝相が悪かったのぉぉーっ」
シーツにべっちょりとついたパック。
かの日、馬車の中での寝泊まりで「寝相、寝言、寝ぼけ顔」の3拍子をシュバイツァーに指摘されたが、正直な所「そこまで酷くないわよ」と思っていたのに!!
本当に寝相が悪かった事が判明したのだった。
「今更だ。気にすんな」
「するわよ!あぁ~もしかしたら夜中に本当は寝台から落ちてるけど、それも気が付いてないのかも知れないわ。ううん。もしかしたら徘徊してるのかもぉぉ」
「だとしてもだ。俺しか知らないから大丈夫だ」
「全然大丈夫じゃないわよぅ!!」
「だったら俺と寝ればよくね?腹出して寝てても掛布、掛けてやるよ」
「そう言う問題じゃないんだってばぁ!」
メリルが吠えている間にシュバイツァーはバゲットを暖炉の火で炙り、持ってきたマグカップに珈琲を淹れ、ついでにチーズも持参したピックに刺して、炙ったバゲットと共にメリルに差し出す。
「ま、気にすんな。腹、減ってるだろ?」
「減ってるけど・・・ありがとう」
バゲットとピックに刺したチーズを受け取り、今日は一脚しかない椅子にメリルが腰かけて先ずはバゲットをぱくり。
「ん?・・・んんーっ?!」
「美味いだろ?持ってきた」
「ファフォンフフィーフッ!?」
シュバイツァーはマロンクリームをバゲットの切れ目に塗っていた。ピックなどと共に持参したマロンクリームの入った瓶を軽く持ち上げてニパっと笑う。
――なんて至れり尽くせりなの!これが胃袋を掴まれるという奴?――
余りの美味しさにいつもの倍のバゲットを食べてしまったメリルだった。
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