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VOL.15  警護団へのお礼

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慌ただしい日々が続く中、王宮からも婚約破棄を認める書簡がアガントス伯爵家に届けられた。これでもうサシャリィは自由の身になったが、同時に傷物令嬢と呼ばれる事も確定をしたようなもの。

だが、サシャリィはもうレオンの事を思い出しても胸に痛みは感じなくなった。あんなに好きで、女遊びをしても「いつかは自分の元に来る」とまで思っていたのに、自分自身の気持ちの変わりようにサシャリィ自身が一番驚いていた。


そんなサシャリィはシェリーを連れて先日よりも小ぶりな馬車で出掛けた。
途中であの馬車が側溝に嵌り込んだ場所まで来ると2人は小窓を覗き込んだ。

馬車が側溝に嵌ってしまった翌日、アガントス伯爵家はその場で馬車を解体し引き上げる手配をして使用人を現地に向かわせた。お世辞にも幅員があるとは言えない道の片側を塞いでしまっていたからであるが、失態の処置は早ければ早いほどいい。それも貴族の嗜みである。


「馬車、綺麗に片付いてますね」
「本当ね。でも…見て。蓋が腐った場所は何カ所もあるわ」
「うわぁ、これじゃまた馬車を落としてしまいかねませんね」


屋敷や商店街付近は石畳で舗装をされているが、この辺りは土が剝き出しで馬車の通る箇所はわだちになって雨が降ればぬかるみ、乾けばボコボコになって車輪が取られて大きく揺れる。


「警護団も大変なんですねぇ」
「そうね。王都を外周から守ってくれているのにね」
「うーん…平民ばかりだからでしょうか。ちょっと金持ちは第5騎士団に入るそうですよ。偉そうに肩で風を切る第5騎士団より仕事をするのは警護団の方が的確だとも聞きますけど」


第5騎士団は王都の中心部にある鍛錬場を使用する事も出来るが、警護団は許されていない。聞くところによれば警護団の腕前は第2騎士団とさほど変わらず、実戦となれば第1騎士団を上回るのではないかとも言われている。

窃盗団が王都にある貴族の屋敷を襲う事もあるが極稀。だが大金狙いの窃盗団よりも面倒なのが周辺に出る野盗。野盗と対峙する事も多い警護団は一番体を張っているし、死傷者も多く入れ替わりが激しい。


お礼の品を色々と考えたが、実用的なものの方が使ってくれるだろうと、吸水性の良い綿の布を揃えた。侍女もメイドも総出で肩回りと胸廻りにかなり余裕を持たせたシャツを幾つも縫製し、救護用に包帯なども巻くだけのものではなく三角の形をして骨折などで腕を吊るようなものも揃えた。

原資はと言えば使い道がなかったレオンから贈られた品を換金した金である。
流石に16年分の衣類の寄付となれば教会も品物を売りさばけないと小分けにして日数を開けて欲しいと言われ、宝飾品に至っては大量に中古として世に出てしまえば中古品の相場が変動してしまうとこちらも一括での買取は断られてしまったのだ。

買い取ってもらえる分を買い取ってもらい、半分を教会に現金として寄付。残りはそれも社会奉仕だと説いてくれた神父の言葉の通り、警護団とあの側溝の補修工事に当てる事にしたのだった。



朝から調理長に頼んでパンも大量に焼いてもらい、アガントス伯爵家の厨房は大騒ぎだった。今も馬車の中は焼き立てのパンが沢山入った籠の中の温かさで窓を開けねば汗を掻いてしまうほど。

最初に焼き上がったパンには余熱が取れるのを待って切れ込みを入れて野菜やハムを挟んだ。毎年アガントス伯爵家の領地や庭で収穫できる果実を使ったジャムも馬車の上に設置した荷台に積み込んだ。


忙しい時は隊舎となっている古びた家屋に誰もいないそうだが、今日は威勢の良い鍛錬の声が遠くからでも聞き取れる。喜んでくれるといいなと思いながらサシャリィの乗った馬車は門をくぐった。
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